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北海道一周、自転車で走ったよ!?
2010年夏、苫小牧をスタートしました。さて、結末はいかに? 紀行エッセイです。
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2010年8月17日(火) え?札幌?今さら札幌?なんでまた行くの? (美瑛―富良野 56km)
午前四時起床。考えてみれば、三日ぶりにいつもの起床時間。うーん、なんかしっくりくる。どうやらわたしには早起きが合っているよう。
寝袋から這い出す。出発の準備をし終え、少年のテントに行く。しかし、物音一つしない。なんだ、まだ寝ているのか。ケータイを見る。時刻は六時過ぎ。わたしとしてはもう出発したいところではありますが。
少年を起こそうか。一瞬そう思ったが、熟睡中だったら悪いなあ、と思い直す。こう見えても意外と気ぃ遣いなんです。
テントの周りをウロウロする。軽くテントをつついてみる。気づいて起きてこないかなあ。でも反応なし。
「もう、早く起きろよ」そんな声をかけるほど図々しくも勇気もないので、代わりに「起きろ。起きろ」と心の中で念じる。でも反応なし。
ふたたびケータイを見る。時刻は六時半だった。
はーっ。もうだめ。ギブアップ。これ以上は待てない。
諦めて、少年を起こすことに。テントをこれ以上ないくらい揺らしてみる。わたし、気ぃ遣いと言いながら、やる時はやるのです。
「もう起きていますよ」テントの中からちょっと眠そうな声が聞こえてきた。
なーんだ、もう起きていたのかよ。
「何時に出発する?」当然、すぐに出発するだろうという答えを期待して訊いてみた。
「えーと、十時頃ですかねぇ」テントから顔を覗かせた少年は目をこすりながら答えた。
ええ!十時?だって、まだ六時半だぜ。十時っていったら後三時間以上もあるじゃんかよ。ねぇねぇ、いくらなんでも十時っていうのは遅すぎやしないかい。
しかし、そんなわたしの心の声なんか聞こえるわけもなく、少年はさらに言葉をつなげてくる。
「昨日はよく眠れなかったんですよー」
あー、そうなのか。そういうことなのか。
「早く出発しようぜ」喉元まで出かかったその言葉が、それを聞いた途端、喉の奥へと引っ込む。
しょうがないよなあ。そういうことなら。さすがに寝不足の人間に早く行こうとは言えない。わたしだってそこまでひどい人間じゃない。
まあでも、そうすると十時まで待たないといけないんだよね。うーん、困ったなあ。
わたしが待てばいいだけの話なのであるが、残念なことに、わたしは待つということが何よりも苦手な人間なのである。
はーっ。十時か・・・。一時間くらいならいいが、さすがに三時間以上待つとなると……。
結論。誠に残念ではありますが、少年とはここでお別れをすることに。
まー、いっか。どっちみち一緒にいられるのは今日一日だけだし。少年は引き続きこのまま北海道を走るが、わたしは一応、今日で終了なのです。
でも、寂しいよなあ。なんだかんだいってけっこう一緒にいたわけだし。
とはいえ、別れはいつか来るもの。それが早いか遅いかの違いだけ。そう自分に言い聞かせる。
正直、少年にはとてもお世話になった。というか、少年と一緒に過ごしたおかげで今回の旅は楽しくなった。これは間違いのないところ。
テントの中の少年と固く握手を交わす。「ほんと、ありがとなー」そう言い残して、自転車に跨り、漕ぎ始める。後ろは振り返らない。少年の顔を見てしまうと泣いてしまうと思ったからだ。前だけをじっと見てペダルを回す。キャンプ場を出る。とたんに眼の中が潤む。鼻水も出そうになる。胸も苦しい。はーっ。思わずため息。
「ありがとう」
ゆっくりと自転車を漕ぎながら、心の中に映った少年にもう一度深く礼を言った。

一人になった寂しさをかき消すかのように一心不乱に坂を上る。ふと顔を上げる。おお、すごい。そこには絵に描いたような青空が広がっていた。いやー、気持ちいいねー。おかげで沈んでいたテンションがやや持ち直す。続いて横に目をやる。わーお。すげー。なんと木々の間から幾筋もの光が矢のように放たれていたのだ。こりゃすごい。神々しいにもほどがあるぜ。心なしか回す足も軽くなったよう。
あっ、そうだ。一応、これからのルートを確認しておこう。自転車を道の脇に停め、地図で富良野へと抜けるルートを調べる。
うわ!マジかよー。なんとここからけっこうな上り坂が続くようなのだ。
おいおい、なんだよー。当分上りかよー。せっかくいい気分で上っていたのにー。さっきまで上がっていたテンションも一気に急降下。徐々にどんよりしたものが心の中に広がっていく。
なんか上る気しねー。とたんに不機嫌になるわたし。まるで子供である。
まあでも、仕方ない。しっかり現実を受け止めて、地道に上っていくしかないよね。これは人生と同じだ。などと大げさなことを考えたりする。
視線を落とし、一つ一つ確実にペダルを回していく。三キロほど上っただろうか、前方に目をやると、突如、道が切れていた。のではなく、そう見えただけ。どうもその先は道が下っている模様。
あれ?もう下り?おかしいよなあ。地図によればまだしばらくは上りが続くはず。でも、道は下っている。もしかして道、間違えたか?そんな不安が徐々に心の中に広がっていく。
あっ、そっか。わかった。きっと、少し下って、またすぐに上りになるのだろう。きっとそうだ。そう思い、下っていく。でも、坂は一向に上りになる気配はなく、むしろ急に。
おいおい、大丈夫か。間違っているんじゃないか。そうは思うが、同時に楽しい気持ちも湧き起こっていた。スピードが出ていて気持ちいいのだ。
うわー、なんかすげーおもしれー。道が間違っているかなんてどうでもよくなってきた。気がつけばタイヤがものすごい勢いで回っている。チラっとサイコンを見る。フンギャ。なんといつの間にか時速は五十キロオーバー。楽しい。というよりコワイかも。とも思うのだがこのスリルには勝てない。ここでコケたら間違いなく死ぬだろう。そうは思ってもブレーキはかけない。だって面白いんだもん。死んだらその時まで、と自分に言い聞かせる。自転車はさらに加速。ふたたびサイコンを見る。ぎょえー。なんと六十四キロを表示。おー、わが自転車人生で最高記録を更新。
道はほどなくして緩やかな下り坂に。少し走ると、いつしか三叉路になった。
おもむろに自転車を停める。ええっと、どっちに行けばいいのだ?そうなんです。道に迷っちゃったんです。
あー、困った。全然わからんわ。とりあえず地図を取り出して確認。しかし、上下左右どこをどう見ようとわからない。
うーん、どうしよう。頭を抱え込むわたし。すると、目の前から一人の年配の女性が歩いてきた。
おお、ラッキー。ツイてる。よし、この人に訊こう。早速、その女性を捕まえて富良野へ抜ける道を訊いてみる。ふむふむ。なるほど。右の道へ行けばいいわけだね。
あぶね、あぶね。訊いてよかったわ。実はわたし、違う道を行こうとしたのですよ。
女性にお礼を言い、教えてもらった道を行く。いくつか小さなアップダウンを過ぎると、道はゆるやかな下り坂に。そのまましばらく走ると、目の前が開け、小さな町並が見えてきた。

薄く朝もやがかかった街中を軽く流す。案内標識に上富良野駅と出ていたのでなんとなく寄ってみることに。
駅前に自転車を停め、トイレに行く。トイレから戻り、ガイドックを眺めていると、ふとあるところに目が留まった。なんでもこの近くにラベンダー発祥の地と言われている日の出公園というものがあるらしい。しかもそこではラベンダーの花が一面に広がっていて素晴らしい景色が見えるそうなのです。
ほー、そうなんですか。それは知りませんでした。それじゃあ寄ってみますか。富良野っていったらラベンダーだしね。
しばらく走り、日の出公園の麓に到着。駐車場に自転車を停め、小高い丘にある公園へ。どんだけすごいんだろうと期待に胸を膨らませて階段を駆け上がった。
わーお。見事にラベンダーは終わっていました。
「七月中旬が見頃」ガイドブックにはそう書いてあったが、一ヶ月くらいは大丈夫だろうと思って来てみた。でも、甘かった。ラベンダーのラの字もなかった。
まあ、いいけどね。どうせ花になんか興味がないし。公園のベンチに腰を下ろし、再びガイドブックに目をやると、ある箇所に目が留まった。なんでもここから少し行ったところに、これまたラベンダーで有名なファーム富田というものがあるらしいのだ。
行ってみますか。やっぱりできれば見たいというのが本音。すいません、さっき興味がないと言ったのは強がりです。
とはいえ、ここ同様、咲いていないかもしれない。いや、待て待て。もしかしたらなにかの間違いで咲いているなんてことも・・・・・・。
そんなことありませんでした。行ってみたら見事にここも全滅。咲いているはずの場所には気持ちのいいくらいの枯れ草が広がっていた。
仕方ないので他の花を見て慰めることに。まあね、綺麗っちゃ綺麗だけどね。でもね、やっぱりラベンダーが見たかったよ、わたしは。
ところで、ここで驚いたことがあった。やたらめったら中国人が多いのだ。歩いていても聞こえてくるのは中国語ばかり。ファーファーファーファー(そう聞こえる)。うるさいったらありゃしない。九対一くらいの割合で中国人が多いのでは。「ここは中国か?」そう錯覚してしまうほどなのだ。
函館山に続き、ここ富良野も中国人に侵略されているのか。個人的に恨みもなにもないが、さすがにこんだけ多いとちょっとゲンナリする(後で知るのだが、なんでも中国では北海道を舞台にした映画が大ヒットしたそう。それで中国人が大挙して押し寄せて来てるわけですな)。

ファーム富田を後にし、トコトコ走っていると、大学の自転車サークルと思しき集団とすれ違った。
今日走っていて一番驚いたのが、こういった集団を多く見かけたこと。
今までなら一日一組見かければいい方だった。しかし今日はまだ昼前だというのに、すでに五組ほど目にしている。それこそ信号待ちをしていると、あちらこちらから湧いてくるから驚いた。
うーん、富良野は自転車サークルの聖地かなんなのか。謎である。
なんてことを思っていると、またしてもそれらしき集団がわたしの前に現れた。ゆるやかなカーブに差し掛かったところですばやくチェック。男性三人女性二人の集団だ。自然と彼らの後方について走る形に。しばらく走っていると、ふとあることに気がつく。
なんかこの人たち、さっきも見たような気がするんだけど、気のせい・・・・・・?いや、違う。たしかに見た。間違いない。しかもこれで三回目だ。男性の方はまったく記憶にないが、女性の顔は網膜に焼きつくくらいはっきり覚えている。
話しかけようかどうか迷う。
いやね、一人で走っているなら問題ないのですが、集団だと、なんかこう内輪だけで世界が出来上がっていて、こっちが話しかけてもあまり話に乗ってこないのではないか。そんな気がするんですよ。
「こんにちは!」と声をかける。すると不審者を見るような顔で「は・・・?」という言葉が返ってきた。
なんてことにでもなったら、しばらくショックで立ち直れないだろうなあ。
でもなぁ・・・。一度や二度ならまだしも、三回も会うっていうことはこれもなにかの縁(そう思いたい)。それに向こうだって、わたしの顔を覚えているだろうし。このまま無言で追い越していくのもなにか失礼なことをしているようで気が引ける。
じゃあ、声をかけてみる?
いやでも、どうだろう・・・素っ気ない態度をされたらやはりショックだし・・・。
うーん、困った。話しかけてちゃんと言葉を返してくれればいいのだが、そうしてくれるという保証はどこにもない。かといって無言で通り過ぎるのはやはり悪い気がする。
なにか考えているだけで疲れてきた。うーん、どうすればいいのかわたしは・・・。
どうだっていいよ、そんなこと。
そう、どうでもいいのである。相手からしたらそんなこと、どうでもいいのである。だいたい人間なんて一番関心があるのは自分のこと。他人のことなんて大して気にしちゃいない。
それはよくわかっている。頭ではそうだとわかっている。言葉でもちゃんとこうやって言い表せることができる。しかし、そこまでわかっていても、わたしは普段からこんなどうでもいいことを深く考えてしまう。
まったくやっかいな自分、である。
えーい、もうどっちでもいいや。話しかけようが、黙って通り過ぎようが大差ない。それだったら話しかけてみよう。無視されたらその時はその時だ。
わたしは意を決し、一番後ろを走っていた青年に声をかけた。
「こんにちは。大学のサークルかなんかで来ているんですか?」
「はい、そうです!静岡の大学です!」
考え過ぎでした。実に礼儀正しい学生でした。
なにかこのまま話に付きあってくれそうな感じだったので、しばらく並走して話をすることに。
ところで部員ってどのくらいいるの?
「全部で五十人ほどですかね」
ウッソー!マジで?五十人も!驚いた。まさか今のこの時代、自転車でツーリングする若者がこんなに多いとは!
それにしてもだ、自転車っていつのまにそんなに人気が出ていたんだ?そう思ったが、すぐに思い直す。
というのも、近頃、都市部を中心に自転車ブームが起こっており、職場や学校に自転車で通う自転車ツーキニストなるものが大量増殖しているということを、以前テレビや雑誌で目にしたことがあったからだ。
なんだよねー。今、自転車って人気があるんだよねー。ちなみに現在は、九十年代に流行ったごついマウンテンバイクではなく、スピードの出るロードバイクが人気だそう。なんでもあのフォルムがカッコイイらしい。

このまま真っ直ぐ行くと言う彼らと別れ、ワインの製造工程などが見学できる「ワインハウス」へ向かう。
はじめは「ワインハウス」に寄るつもりはまったくなかった。そのまま富良野を走りきってしまう予定だった。しかし、ガイドブックの「ワイン試飲できます」との文字を見たら気が変わった。
試飲。そう、つまりタダ飲みである。
とくに酒好きでもなんでもないわたしであるが、タダと聞いたらこりゃなんとしても行かなきゃならん。タダを目の前にして通り過ぎるわけにはいかない。
来た道を少し戻る形で山側の道へと入る。十分ほど走ると、こげ茶色したレンガ造りの建物が見えてきた。おそらくこれが「ワインハウス」だろう。よし、もうすぐワインが飲めるぞ。心なしかハンドルを握る手にも力がこもる。ところが、そんなわたしを嘲笑うかのように、突如、急な上り坂が現れた。
うわっ、マジかよ。見上げると、「ワインハウス」まで残り五百メートルほど。
くそー、なんなんだこの坂は。なんで後もう少しなのにこんな急な坂を作ったのか。そう簡単にワインを飲ませないということなのか。意図がわからん。
とにかくこれを乗り越えないとワインは飲めない。がんばる。脚に力をこめてペダルを漕ぐ。が、ダメ。半分も上らないうちに力尽きた。
結局、自転車を降り、そのまま押して上ることに。ぜーぜー言いながらなんとか到着。
自転車を駐車場の脇に停め、「ワイン、ワイン」と呪文のように唱えながら建物に駆け寄る。「順路→」と書かれたプレートのとおりに地下へ降りていく。降りきったところで辺りを見渡す。が、試飲コーナーらしきものはどこにも見当たらない。
え?なんで?なんでないの?そう思いながら歩を進めるが、目につくのは、たくさんの古びた樽や瓶、細かい文字でびっしり書かれた説明パネルばかり。
なるほど、そういうことか。少し考えたら、合点がいった。おそらく試飲だけが独立してあるのではなく、見学コースの一環としてそれが組み込まれているのだろう。つまり、こうしたワインについての展示物やパネルを見ないと試飲ができない、きっとそういうシステムなのだ。
このままスルーしちゃおっかなあ。
とっさに思った。いや、でもなあ。そうすると周りの人はわたしのことをどう思うだろう。
「いやねー、あの人。まったく見ないでそのまま通り過ぎていくつもりよ。きっと試飲が目当てなんだわ」
そう思うのではなかろうか。
うーん、困る。それは困る。まさにそのとおりだけに、逆にそう思われたくない。でも、こんなところはさっさと通り過ぎたい。一刻も早くワインが飲みたい。だって、ワインを飲むために来たんだし。とはいえ、やはり変な目で見られたくはない。
うーん、どうすれば……。
またしてもどうでもいいことに引っかかるわたし。何もしていないのにどっと疲れが出る。まったくもー、またこのパターンかよ。われながらほんと嫌になる。
ま、いいや。とりあえず形だけでもパネルを読んだことにしておこう。そうすれば周りの人もわたしのことを見逃してくれるだろう。そう思い、すぐそばにあるパネルに目をやる。が、一行で挫折。まじめくさったことが書いてあって全然面白くないのである。
ふんっ。もういいや。どう思われようと構うもんか。結局、そのまま通り過ぎることにした。
とはいえ、正直気になる。周りはわたしのことをどう思っていたのだろう。やはり試飲目当ての人だと思ったのだろうか。
「順路→」に従い、一階を見学、続いて二階へと上がる。
あった。ワインがあった。試飲できるワイン樽がそこにはあった。しかも気前よく赤、白、ロゼの三つだ。
わーお。一気にテンションが上がる。おれはこれを待っていたんだぜ。すぐにワインを頂く。当然、三種類。おいちー。でも、どうおいしいのかなんて訊かないで。人に語れるほどワインは飲んだことがないのよ。
隣には、ぶどうジュースの試飲コーナーもあった。当然、こちらも頂く。
うわっ。うまっ。なんだよこれ。メチャクチャうまいじゃん。一口飲んだら、ぶどうが口の中ではじけた。味が濃いというか、中身がつまっているというか。まったく加工されている感じがしないのだ。横を見ると、「百パーセント絞りたて。防腐剤が一切入っておりません」と書いてあった。そうなのだ。こっちが本物、本当の味なのだ。
今までわたしは、ぶどうジュースといえばスーパーなどで売っているものしか飲んだことがなかった。自分の中ではその味がぶどうジュースという認識だった。でも、違った。今まで飲んできたのは全部ニセモノ。本物はこっち、これなのだ。
すいません、ちょっと興奮してしまいました。

「ワインハウス」を後にし、富良野駅へと向かう。富良野から札幌まで輪行しようという計画なのである。
え?札幌?今さら札幌?なんでまた?
そう思ったそこのあなた。あーあ、野暮なことを訊いちゃったね。
実はですね。ほら、はじめて札幌に行った時があったじゃない。その時、観光案内所のスタッフに宮崎あおいに似た人がいたっていうのを覚えている?そう、わたしがほのかに恋心を抱いた人。その人に自分の思いを告げに行こうかなあと思っているのですよ。
えー!っていうことはなに?告白?え?マジ?…・・・でも、大丈夫?
・・・・・・うーん、どうなんでしょう。うまくいくかどうかはわからないです。というか、結果は二の次というか。まあ、どうでもいいんですよね、ある意味。
ただ、自分の思いを言いたいだけなんですよ。正直、その後のことは考えていないです。
なーんて言っても、うまくいくことに越したことはない。でも、うまくいったらどうなるんだろう。そうしたらやっぱり遠距離恋愛になるのかなあ。でも、そんなことおれにできるのか。遠距離恋愛ってしたことないし。それに北海道はあまりにも遠い。そうなると、しばらくはメールのやりとりになるのか。それで三ヶ月に一回ぐらい会ったりしてね。
まだ結果も出てないうちにあれこれ考える。想像だけなら無限大。
ところで、問題なのは彼女に会えるかどうかということ。観光案内所が開いているのがおそらく午後四時まで。ちなみに今は、午前十一時を少し過ぎたところ。そうすると残り後五時間。さて間に合うのか?駅員に訊いてみる。
「すいません。札幌まで行きたいんですけど。次の電車は何時ですかね」
「えーと、ちょっと待ってください」駅員が時刻表に目を落とす。「十一時四十分になりますね」
おお、ツイてるじゃん。輪行にかかる時間も入れればちょうどいい時間だ。しかも札幌まで三時間ほどで行けるとのこと。とすると、遅くても三時前には着ける。ということはつまり・・・・・・そう、彼女に会える。
「会える」、そう思っただけで気分が高揚してきた。なんだか猛烈な追い風が吹いてきたのではないか、恋愛の神様に好かれているのではないか、そんな気がしてきた。もしかしてこのままトントン拍子でいっちゃう?いや、いっちゃうんじゃない?
逸る気持ちを抑え、電車に乗り込む。滝川、岩見沢で乗り換え、札幌に着いたのは午後二時四十四分だった。
よし、充分間に合う。ゆっくり話もできる。いやがおうがうえにも気持ちが高まる。
うおー、早く会いたいぜー。自転車を組み立てる手にも自然と熱がこもる。「はやく、はやく」と声が漏れる。
「おー、自転車かね」
突然、頭上から声が降ってきた。見上げると、一人のおっちゃんが関西弁で何か言っている。あー、もー、こんな急いでいる時にー。なんなんだよー。いや、暇な時なら全然いいんだけど、今はちょっと忙しいんですよ。
とはいっても、無下にするのも悪いので、一応相手をする。「バスで北海道を周っている」なんてことを言っていたが、詳しいことは覚えていない。だってこっちはそれどころじゃないんだもん。
無事組み立て終了。おっちゃんはまだ話をしていたそうだったが、そこまで相手をするほど人はよくない。おっちゃんを置いて、すぐ先の大通り公園へ向かう。「はやく、はやく」ふたたび声が漏れる。
目当ての観光案内所が見えてきた。とたんにドキドキ。心臓バクバク。いやー、緊張するなあ。
「好きなんです」
さすがにいきなりそんなことを言う勇気はないので、ちょっと斜めの方向から距離を置いて中を覗いてみる。
いた。人がいた。彼女がいた。しかし、横を向いているため顔がいまいちよく見えない。わかるのは髪形くらいだ。ちなみにストレート。
あれ?違った。彼女じゃなかった。
言うのを忘れていましたが、彼女はパーマをかけているのです。
そうだった。ほかにもスタッフがいるんだった。彼女に会える嬉しさのあまり、そのことをすっかり忘れていた。
あーあ。がっかり。
とはいっても、ここにじっとしていても仕方ない。もしかしたら奥にいるかもしれないし。
意を決して、中に入ることに。そこにいたのは、札幌初日に会った人。しかもいたのはその人一人だけ。どうやらあの人はいないよう。
「おひさしぶりでーす」なんて声をかけてみる。彼女もわたしのことを覚えていたらしく、「あっ、どうも」と言葉を返してきた。
早速、目当ての彼女がいつ出勤してくるか訊いてみる。
「あのー、小柄で、ゆるくパーマをかけた女性がいると思うんですけど。その人って今度いつ出てきますかね?」
一瞬、彼女の顔が強張ったような気がした。もしかして、わたしのことを不審者だと思ったのではないだろうか。そりゃ思うわな。
「スタッフは他にも何人かいるんですけど、いつ出勤してくるかわからないんです。明日もまだ決まっていないんですよ」彼女は少し申し訳なさそうな顔(おそらく演技)でわたしの質問に答えた。
ええ!そうなの?おいおい、マジかよ。
仮に明日出てくるとわかっていれば、このまま札幌に泊まって明日彼女に会うこともできる。明日じゃなくてもいつ出てくるのかさえわかればそれに合わせて札幌にまた来ることもできる。しかし、いつ出てくるかわからないんじゃ話にならない。いつ来るかわからない人を待つ。さすがにそこまではできない。
というか、そんなことってあるのか?なんかおかしくないかい。だって明日出るかどうかもまだ決まっていないなんてそんなことあり得ないだろう。普通、こういうのってシフトとしてあらかじめ組んであるもんじゃないの。
などと、ありとあらゆる疑念が湧いてきたが、さすがに口に出してまでは言えない。そう言われたら、こっちもそれ以上は訊けない。というより、わたしを見つめる彼女の顔がちょっとコワかったんです。早い話、ちょっとビビッちゃったんですね。
あーあ、終わった…。終わってしまった。
一気にテンションが下がった。力が抜けた。頭も心もからっぽになった。
まあでも、こればっかりはしょうがないね。だって言える相手がいないんだもん。
彼女に思いを伝えられなかったというのは心残りだが、こればっかりは仕方ない。きっと縁がなかったということなんでしょう。そう思って諦めることにした。
自転車に乗る元気がないので、押して歩く。自然と視線が下に落ちる。途中、首が痛くなったので頭を上げると、灰色の雲が薄く空にかかっていた。もしかしたら小雨ぐらい降るかもな。ふとそんなことを思う。吹いてくる風が心なしか冷たく感じられた。

サンクスでカップ焼きそばを買って、ヤケクソ気味に口の中へかきこむ。人ごみをかきわけ、札幌駅に戻ってきた時は午後四時半前だった。
ちなみに、この頃にはほとんど気分が回復していた。いつまでも考えていても仕方ない。自分が疲れるだけだ。そう割り切れるようになったのだ。
さて、これからどうするべ。なんて言いながら実はもう考えてあります。ほら、苫小牧で出会ったSさんっているじゃない。そう、飲みや食事をごちそうしてもらったあのSさん。そのSさんに北海道を離れる前に今一度会おうかなあと思っているのです。
またまた。そんなこと言っちゃって。また図々しくおごってもらおうなんて考えているじゃないの?
ありゃ。なんでわかったの?すいません、ちょっとは考えております。
早速、SさんにTEL。すると、「夜にバドミントンをやるので六時半前までには苫小牧に来て欲しい」とのこと。ちなみに札幌から苫小牧までは一時間ちょっとかかる。
構内に入り、苫小牧行きの電車を確認。十七時二分発というのがギリギリ間に合う電車だった。
うわっ。マジかい。後、三十分しかないじゃん。途端に焦りだしたわたしは、外に出て、すぐさま自転車をバラし始めた。
キャリアとフレームを留めてあるネジを外し、地面に置く。続いて、ブレーキワイヤーを外していると、わたしのすぐ脇を三、四歳くらいの女の子が物珍しそうな顔で通りすぎていった。よっぽど自転車がバラバラになっていくのが面白かったのかなんなのか。
おっと、そんなことを考えている場合ではない。急がないと。今度は、さっき外したネジをフレームにはめる。
と思ったらそのネジがない。
え?なんで?なんでないの?おいおい、マジかよ。こりゃ大変だ。キャリアがつけられないと荷物が運べなくなるじゃないか。まったく、なんてこったい。とたんに頭に血がのぼる。体が熱くなる。
おーい、ネジはどこだ、どこなのよー。
しかし、どこにも見当たらず。うわっ、マジかよ。なんでまた、こんな時間のないときに限ってなくなるんだよー。
とにかく落ち着け。冷静になるんだ。必死に自分に言い聞かせる。心を止めて頭を働かす。しばらくして、あることに気がついた。
たしか、あの女の子が通ったところにネジを置いたはず。もしや……さっきの女の子……そうだ。そうに違いない。きっと、あの子が蹴っ飛ばしたんだ!うーっ、再びなんてこったい。
すぐさま地面を這いつくばって探す。が、見当たらない。さらに視線を下げる。顔が地面にくっつきそう。ほとんど土下座状態。たくさんの人がわたしを見ながら通り過ぎていく。うわっ、メチャクチャ恥ずかしい。しかし、そんなことは言ってられない。今は死ぬほどネジが大事。
時間は刻々と過ぎていく。ぶれている精神を集中させる。さっきまでぼやけていた目の焦点が合わさる。じっと目を凝らし、地面をさらうように見る。少しずつ目玉を動かしていくと、ある一点で止まった。
あった。ネジがあった。女の子が通った先にそれはあった。
よっしゃー。嬉しさがこみ上げてくる。一気にホッとした。
いや、待て。安心するのは後だ。こうしている間にも無数の足がネジのそばを行き交っている。また誰かが蹴っ飛ばすとも限らない。
絶対逃すもんか。ネジ目がけて猛然とダッシュ。わたしの勢いに気圧されたのか、一瞬、周りの人が道を開けた。ような気がした。すぐさまネジを拾い上げ、フレームにはめる。ようやくこれで一安心。それにしても、予想外に時間をロスしてしまった。
すぐさま次の作業にとりかかる。前後のタイヤを外し、フレームと一緒に輪行袋に突っ込む。しかし、テキトーに入れたためかファスナーがきっちり閉まらない。無理矢理引っ張るがそれでも閉まらない。うわっ。どうしよう。えーい、もういい。そんなのどうでもいい。後でいい。そういえば時間は?すぐさまケータイを取り出し、目をやる。そこには「16:56」という液晶表示があった。
うわっ。後六分しかないじゃん。こりゃ焦る。「急げ、急げ」自分に声をかける。いつもとは違ったいびつな輪行袋を抱え、欽ちゃん走りで構内を移動。券売機の前で、苫小牧までの料金を確認。と思ったが、時間が惜しいのですぐさま初乗り運賃百六十円のボタンを押す。切符を手に持ち、急いで改札を通り抜ける。しかし、自転車が柵に引っかかって前に進めない。くーっ。三たびなんてこったい。気を鎮め、自転車を横に向けなんとか通過。前方には階段が見える。エスカレーターは?視線を横にずらす。しかしない。くそーっ。ツイてない。仕方がないので階段に向かう。急いでいるため、一段上がるたびに自転車が階段にぶつかる。うーっ、傷がつくー。息を切らし、階段を上がる。視線を上にやると、電車が見えた。よし、間に合うぞ。ふたたびダッシュ。ラストスパートをかけ、勢いよく電車に駆け込んだ。
ところで時間は?ケータイで時刻を確認すると、そこには「17:01」の液晶文字が。
うわっ、一分前じゃん。あぶねー。
とにもかくにも間に合った。ようやくこの時になってホッと一息つくことができた。
ドアの手摺りに輪行袋のストラップをくくりつける。その横にザックとバックを置く。息を整え、車内を見回す。スーツ姿のサラリーマンや制服姿の学生が多い。立っている人もちらほら。思ったより混んでいる。
壁にもたれかかり、今度は車窓に目をやる。電車のスピードが上がるにつれ、流れる景色の速度が上がっていく。空はいつの間にか明るさを取り戻していた。

一時間ほどして、苫小牧駅の一つ手前、沼ノ端駅に到着。ホームに降り、エレベーターで二階に上がると、改札の向こう側にSさんの姿が見えた。
おお、久しぶりです!えーと、二日ぶり、いや四日ぶりですか。なんだか会ったのがつい最近という感じがしますね。
車に乗り、Sさんのアパートへ。しばらくすると、Sさんのお仲間が迎えにきた。一緒に近くにある体育館へ向かう。
体育館に着くと、すでにラケットを手にした人が十人ほどいた。三つのコートに分かれて試合が始まる。わたしはコートの後ろに座って見学。
それにしてもみなさん、とってもお上手。バドミントンといったら子供がやるお遊び、そんなイメージがあったのが、これが始まってみたらとんでもなかった。もの凄いスピードでシャトルが飛び交っているのである。しかもつまらないイージーミスなど一つもない。目の前に繰り広げられているのは紛れもない真剣なバトルなのだ。
もしなんだったらわたしも混ぜてもらおうか。来る前はそんなことを考えていた。でもこれを見たら一瞬にして腰が引けた。とてもじゃないがわたしなんかお呼びじゃないのです。
途中から、小学生の女の子が加わってきた。これがまた上手いのなんのって。実に綺麗なフォームでパーン、パーンと相手コートに打ち返していく。わたしなんか十人束になっても敵いっこない。
しかし、Sさんに言わせれば、そんな彼女にもまだまだ欠点が目につくとのこと。わたしからすればめちゃくちゃ上手いと思うのだが、やはりレベルの高い人は見るところが違うんでしょうね。
二時間ほどで終了。みなさん、いい汗をかいたせいか、スッキリした顔をしていた。
それにしてもこの蒸し暑い中、よくやれますね。なんか尊敬しますわ。わたしなんか見ているだけなのに汗が噴き出してきましたよ。
でもそういえば、と少し思い直す。わたしだって連日暑い中、自転車で走ってきたんだ。周りから見れば、ちょっと普通じゃないだろう。まあ、好きなことなら一生懸命やれるということなんだろうね。
Sさんのアパートに戻る。シャワーを浴びさせてもらい上がると、ビールとおつまみが出てきた。
わーお。またしても飲みですか。すみませんね、気を遣ってもらって。でも、今日は外に行かないの?また、地上のパラダイスに行きたいなあ。なんて思ったりして。図々しくてすいません。
「この後、どうするの?北海道を発つの?」Sさんに訊かれた。
そうですねぇ、正直走りたいところは走ったしなあ。まあ、行きたいところはないわけでもないんですけどね。たとえば阿寒湖とか三国峠とか。でも、今さら行くのもメンドクサイし。というか、そこまで行く気力がもはや残ってないのです。どうやら一周したということで、満足しちゃったみたいです。
いよいよ北海道も潮時のよう。明日一日、苫小牧でゆっくりして、明後日帰ろうかと思います。
その後、少しディープな話をし、十二時消灯。今日もSさんのお宅に泊まらせていただいた。ありがたい。
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