北海道一周、自転車で走ったよ!?
2010年夏、苫小牧をスタートしました。さて、結末はいかに? 紀行エッセイです。
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2010年8月12日(木) へ?無料宿泊所?なにそれ? (新ひだか 19km)
朝、四時半に目が覚める。そっと目を開け、辺りを見渡してみると、昨日あれほど降っていた雨は嘘のように上がっていた。
今度はやや視線を上げてみる。雲がいくつかぽっかりと浮かんではいるが、空は明るい。しかもところどころ、青空も見える。昨日の寝る時点では、今日が晴れるなんてまったく予想できなかった。当然、今日一日ここで停滞だろうと思っていた。でも、この分なら行けるんじゃないか。空を眺めていたら途端に思った。よし、行こう。行ってやろう。気づいたら寝袋を跳ね上げ、自転車に駆け寄っていた。
いや、待て待て。早まるな。もしかしたらこれは晴れと見せかけておいて後から雨が降るというワナかもしれない。これまでこの北海道のワナに何度引っかかってきたことか。そうだ。容易に気を許してはならないのだ。まずは今日の天気予報を知るのが先なのだ。
開館時間の六時を待って道の駅の中へ。ロビーにあるテレビで天気予報を見るためである。早速、テレビの電源を入れ、チャンネルを回す。どの局もトップニュースで天気情報を扱っていた。しばらく画面を眺める。天気予報によると、昨日降った大雨は日本列島に近づいている台風の影響とのこと。続いて、北海道の今日の予報が画面に流れる。愕然とした。なんと、ほぼ全域で雨なのである。しかも、ゴールである苫小牧は土砂降りの雨という、まったくわたしには喜ばしくない予報。というか、今日一日、日本列島は大荒れの天気だそうです。
あぶね、あぶね。危うく騙されるところだったぜ。やはりさっきの晴れ間はワナだったのだ。まったく油断も隙もありゃしない。
それにしても残念。今日中にゴールしようと思っていたのに。
まー、でも、しゃーないですな。さすがにここまではっきりとした予報なら信じるしかない。おとなしく諦めるしかない。
さて、これからどうしよう。今日一日動かないと決めたので、何かすることを探さないといけないのです。
ボーっと辺りを見渡す。すると、道の駅の案内所兼事務所らしきところにおばさんがいるのが目に入った。ちょうどいいや。このおばさんにちょっと話し相手になってもらおう。
「ちょっと、ちょっと聞いて下さいよ。昨日の夜、台風みたいな大雨でめちゃくちゃ大変だったんですよ。温泉の横に東屋があるじゃないですか。あそこで寝ていたら雨が吹き込んできてもう死ぬかと思いましたよ」
「あらー、そうだったの。それだったらこの近くに無料の宿泊所があるのよ。もー、そこに泊まればよかったのにー」
おばさんはなんでもっと早く言ってくれなかったの?という顔でわたしを見つめてきた。
へ?無料宿泊所?なにそれ?そんなところあるの?
先ほど見た天気予報によれば、今日も昨日と同様の風雨になるらしい。ということは、また昨晩の二の舞になる可能性は大。もし本当におばさんが言うようなところがあるなら、そこを利用しない手はない。早速、そのことをJさんと大学院生さんに話すため東屋に戻る。三人で相談した結果、とりあえずそこへ行ってみて気に入ればそのままそこに泊まる、そうでなければまた戻ってくる、そういう結論になった。

道の駅から五キロほど走ると、おそらくこれだろうと思われる建物が見えてきた。
わーお。なかなかいいじゃん。近づいてみると、それはウッド調のプレハブ小屋。興奮を隠し切れず、引き戸になっている扉を開け中に入る。
おお!いいじゃん、いいじゃん。中は思いのほか綺麗。左手には十人は横になれそうなカーペット、奥には簡単な料理ならできそうな水場。小屋の外にはトイレも。
いい!ここ、いい!思わず三人のテンションが上がる。ここにしよう、ここに決定!だれかれとなく叫ぶ三人。歓声を上げる三人。
いやー、よかった、よかった。なんといっても一番なのは、雨風の心配をしなくて済むということ。やっぱり死なないということがなによりなのです。
近くのセイコーマートで買い出しと食事を済ます。戻ってくると、わたしたちを待っていたかのように雨が降り出した。
あちゃー、予報的中。これで今日一日、停滞確定ですね。
おのおの思い思いにくつろぐ。わたしは寝袋を広げ、その中でごろんと横になった。
さっき食事をしたせいか途端に瞼が重くなる。我慢をする理由がないので目を閉じる。雨が窓ガラスを叩いている。眠りますか。どうせ今日一日することはないのだ。
どのくらい眠っただろうか。目を開け、ケータイを見る。液晶表示されている時刻を確認。十一時半過ぎだった。
「あっ、自転車のライトを忘れた」
突然、思い出した。自転車に目をやると、やはりハンドル部分のあるべき場所にライトはなかった。
うーん、どこで失くしたんだろう。わたしの脳細胞が高速回転で動く。と思った瞬間、すぐに止まる。あっ、そっか。たしか昨日の夜、懐中電灯代わりにするために外したんだ。
うわー、やっちまったよー。失くしちまったよー。
どうしよう。と思うまでもなく、再び頭の中で計算が始まる。ライトの値段はおよそ三千円。戻るとなるとまた五キロの道のりを走らなければならない。しかも外は雨。果たしてそこまでして戻る価値はあるのか。三千円の価値はあるのか。さらに計算する速度が上がる。頭の中でなにか小さな黒い粒がものすごいスピードで交差する。散々動いたあげく、ほどなくしてそれは止まった。言葉にすると長いが、時間にすればあっという間の出来事。そして出て答えは。
「価値アリ」
そうですか。それじゃあ、戻りますか。
幸いなことに雨は小降りになっている。中に入れてあった自転車を外に出し、さっき走ってきた道を戻る。来る時は短く感じたが、戻るとなると長く感じられた。
十五分ほどで道の駅に到着。最初に泊まった東屋、雨風に追い出されて移動した温泉施設の軒下、次々と探してみるが、どこにも見当たらない。最後のあがきとばかりに温泉のフロントで訊いてみたが、「そういった届け物はありませんね」というつれない答えが返ってきた。
あーあ、三千円。もったいないことしたなあ、三千円。これって言うならば千円札を三枚落としたようなもんでしょ。そんな情景を思い浮かべたら余計落ちこんできた。
仕方ない、戻りますか。まったくの無駄足だったなあ、と落胆しながら自転車に乗り、走り出す。その時、何か固いものが足に当たっているのに気がついた。
あっ、そうだ!思い出した!失くしちゃいけないと思って、寝る時、ポッケトに入れておいたんだ!
いやー、すいません。すっかり忘れておりました。
それにしても、あれだけ自転車を漕いでいるのに気づかないとは。まったくあわてんぼうなわたしなのである。

無料宿泊所に戻る。しばらくすると突然、雨が激しく降りだした。とはいえ、ここならいくら降っても無問題。建物の中なら雨の心配はまったくないのだ。
窓から外を見る。いっこうに雨が止む気配はない。やはり停滞して正解だったよう。
その後、三人でおしゃべりしたり、寝たり、地図を見たりして時間をやり過ごす。相変わらず雨風がすごい。というか、ここは単なるプレハブなので、外の音がダイレクトに中へ伝わってくる。車やバイクが走り去っていく音、ゴォーンと波が打ちつける音。とくにこの波の音、台風が近づいてくることを如実に知らせてくれる。
午後九時過ぎ消灯。明日はゴールの苫小牧。わたしの北海道一周もいよいよ終わりを迎える。ゴールの瞬間を思い描きながらそっと目を瞑る。果たしてその時、わたしの心の中にどんな感情が起こってくるのだろうか。達成感?満足感?いや、もしかして何も感じないのかも。そんなことを思い巡らせているうちにすぐそばで鳴り響いていたはずの波の音が次第に遠のいていくのを感じた。そっか。わたしはもうすぐ眠りにつくのか。そして次に目を覚ました時には、いよいよゴールの苫小牧に向けて走るんだな。それが眠る前、わたしが最後に考えていたことだった。
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2010年8月11日(水) このままじゃ確実に死ぬ (広尾―襟裳岬―新ひだか 114km)
朝、目を覚ますと、昨日に引き続き外は一面の霧だった。しかも見上げれば、どんよりとした曇り空。
あーあ、今日は襟裳岬に行く予定なのにー。これじゃあ岬からの景色は望めそうにもにない。自分のツイてなさに肩が落ちる。
しばらくすると、テントの中から大学院生さんが起き出してきた。見ると、彼も落胆の表情を浮かべている。しかも、わたしよりもその表情は色濃い。実は、わたしよりも彼の方が楽しみにしていたのです。
準備して、午前六時すぎに出発。買い出しのため、すぐ近くのセイコーマートに寄ると、一人の自転車旅行者がいた。
あっ、昨日セイコーマートで見かけた人だ。実は、昨日、浦幌の道の駅の近くのセイコーマートでも彼を見かけていたのです。その時は声をかけなかったが、さすがに二回も会うっていうことは何かの縁。声をかける。やはりそうでした。しかも話をしていくと、つい最近まで金丸くんと同じ民宿で働いていたことが判明。
わーお。びっくり。斜里で出会った金丸くんは、わたしと同じ日にウトロに着き、そのままとある民宿で急遽働くことになったのです。そこでこの方も働いていたという。
いやー、驚いた。こんな偶然ってあるんですね。彼はJさんといって、わたしたちと同じ襟裳岬へ向けて走るそう。
というわけで、なんとなく一緒に走る感じになる。しかし、あっという間にバラける。やっぱりみなさん、それぞれのペースがあるんですよね。
はじめは快調に走っていたわたしであるが、次第に足が上がらなくなってきた。気がついたら、前方にいたはずの二人の姿はとうに見えなくなっている。
いやー、ダメ。なんか体が重いし、眠い。そりゃ、そうだ。昨日はなんだかんだで結局、百五十キロ以上は走ったんだから。でも、大学院生さんも同じくらいの距離を走っているわけだしなあ。その差は何?多分、年の差というヤツなんでしょうね。
気力を振り絞って走る。とはいっても相変わらず体は重い。やっぱりだめ。眠い。港近くのわずかばかりにあった草の上にマットを敷き横になる。しかし、いくら経っても回復せず。このまま寝ていても埒が明かないので、気合を入れて走り出す。
霧の中をひた走る。なんでもここは、絶景が見えるという黄金道路という道だそう。ちなみに、黄金を敷き詰めるくらいの費用がかかったというのが名前の由来(←ガイドブックの受け売りです)。
しかしこの霧、である。当然見事な景色なんか望めるわけもない。
もういい、いいよ。景色なんてどうでもいい。贅沢なんて言わない。せめて雨さえ降らなければそれでいい。そう割り切ることにした。
でも、降ってきちゃうんですね、雨が。しばらくすると、灰色の空からパラパラと雨が落ちてきたのだ。
おいおい、マジかよ。最悪じゃん。景色が見えない上に雨まで降ってくるなんて。一体全体、おれはなんのために走っているんだ?とたんに気が滅入る。
途中、道の脇にあった展望所に寄る。ちょっと休憩。景色を眺めている人がいたので、今日の天気を訊いてみることに。
「今日はずーっと雨ですよ」
ガーン。やはりそうですか。ということは、今日一日雨の中を走らなきゃいけないってことですよね。そうだと思っていたが、はっきり言われるとやはりショック。
でも走る気しねー。早くも戦意喪失。まだ二十キロも走っていないのに。今日の予定は百キロ先の新ひだかの道の駅まで。っていうことはなに?後八十キロ以上走らないといけないわけ?この雨の中を。
うわー。無理でしょ、それ。というか、もう今日はここで切り上げたいくらい。といっても、わたしの性格上、そんなことはできないんですが。
相変わらず雨は降り続いている。雨宿りできるような場所を探すがどこにもない。ということは、問答無用にこの雨の中を走らなきゃならんわけですな。
仕方ないので走る。そうね、たとえゆっくりでも走っていれば先には進む。とりあえず頑張って走りましょ。なんとか自分を奮い立たせペダルを漕ぐ。しかし、そんななんとか積み上げたわたしの気持ちを打ち砕くように雨が強くなってきた。おまけに風までも。
うわー、マジかよ。稚内の悪夢が一瞬、頭をよぎる。いや、走っていても考えるのはそのことばかり。雨風が強くなるにつれ、頭にこびりついて離れなくなってきた。そうこうしているうちに次第に雨は横殴りに。
あちゃー。とうとうきちゃったかよ。なんとなくそうなるような気はしていたのですが。
雨雲にも強弱があるのか、時折地面を叩きつけるような雨が入れかわり立ちかわりわたしの上を通過していく。おいおい、これってなにかの修行?なんでこんな思いをしなきゃならんの。もうー、嫌。嫌なのです。といってもこの状況が変わるわけじゃない。というか、感情を出せば出すほどかえって精神が疲労していく気が。
そうだ。ここは一旦、感情を殺そう。これが雨だと思うから、辛いんだ。これは単なる水。言うなればシャワーみたいなもん。シャワーなら気持ちいいはず。なんとかそう、自分の頭に刷り込ませる。すると、それが功を奏したのか雨もあまり気にならなくなってきた。おお、作戦成功か、と思ったその瞬間、またもや重量感たっぷりの雨が上から落ちてきた。
いやー、いくらなんでもこんなシャワー、あり得ないでしょ。やっぱ、こりゃ雨。とたんに現実に引き戻されるわたしなのであった。

自分をなだめ、すかし、やっとの思いで襟裳岬に到着したらしい。らしいというのは、霧で周りがまったく見えないから。でも、かろうじて目の前の開けたところに車が停まっているのがわかったので、きっとここは襟裳岬に通じる駐車場だと踏んだのだ。案の定、前に進んでいくと、お土産物屋らしき建物が見えてきた。
雨で体が冷えてしまったのか、オシッコに行きたくなる。外にあったトイレへ向かうと、壁に大学院生さんの自転車が立てかけてあった。
おお、ここにいたんですね。いやー、よかった、よかった。実は、おいてけぼりを食らったんじゃないかと、ちょっと不安になっていたんですよ。
早速、お土産物屋に入って大学院生さんを捜索。おお、いました。いました。いやー、大変な目に遭っちゃったねー。しばらく二人で休憩。大学院生は冷えた体を暖めるためか、ホットの缶コーヒーを飲み始めた。って、今八月だよね。ありえねー、八月にホットを飲むなんて。これってまず内地じゃお目にかかれない光景。変なところで北海道にいることを実感してしまった。
少し落ち着きを取り戻し、二人で襟裳岬の突端の方に行ってみることに。せっかくここまで来たんだから、いくら霧がひどいといっても行かないわけにはいかない。
トイレの脇にある小さなトンネルを抜けると、風をテーマにした「風の館」という施設に出た。その前には無機質のガラス張りの部屋がある。
ん?なんだ、これ?そばにあったパネルを読む。なんでも人工的に風を作り出し、強風体験ができるという風の体験室というものらしい。ふーん、そんなのがあるんだね。あれ?そういえば大学院生さんは?ふと前を見ると、ガラス部屋にズンズン大学院生さんが入っていっている。
あれ?いいんでしょうか?「風の館入場券を持っていないと入れません」と入り口の横の書いてあるんですけど。しかし、大学院生さんは大量の風を浴びながら「これで濡れた服を乾かせますよ」と無邪気にはしゃいでいる。どうやら入り口の注意書きにまったく気づいていない様子。
「おいおい、だめだよ、そんなとこ勝手に入っちゃ」
なんて無粋なことは言いませんでした。だって、すごく楽しそうなんだもん。わたしも見なかったことにして中へ。
うわー、おもしれー。猛烈な風がわたし目掛けて当たってくるため、前に体重をかけても全然倒れない。ひゃー、おもしろいなあ。なんだか童心にかえったよう。結局、そこで十分くらい遊んでしまった。いやー、おかげでだいぶ乾きましたよ。
入館受付の横のらせん階段を上り、屋上に出る。ちょうどそこが展望台になっていた。海側へ歩いていくと、「襟裳岬」と書かれた木看板が立っているのが目に入ってきた。おお、おそらくここからすごい景色が見えるんでしょうね。期待に胸を膨らませ、前に進む。
何も見えませんでした。辺り一面、霧で真っ白なのだ。
あーあ、やっぱり。一応、崖下も覗きこむが、こちらも感心してしまうくらい何も見えない。
あちゃー。もういいです。全然悔しくないです。ここまで霧が出ていると諦めがつくというものです。
すぐ横に岬の突端へ続く小道が出ていたが、こんな霧の中で行ってもなにも見えないだろうと思い行かず。そのまま駐車場へと戻ってきた。
お土産物屋の中に入り、「景色、全然見えなかったよ」とおばちゃんに言うと、「秋は晴れて見えるけど、夏はほとんど毎日霧で見えないわね」決まりきった文句を言うかのように平然と、しかしできるだけわたしを落胆させないかのようにおばちゃんは言った。
ホッ。よかった。それならいいや。だって、「ここ数日は晴れていて景色を見られたんだよ。残念だったね、今日だけ霧が出ていて」なんて言われたらショックじゃないじゃないですか。わたしだけ見れないと思ったら落ち込むじゃないですか。でも、見られなくて当然なんですよね。
いいよ、いいよ、だったらいいよ。こうなったら後しばらくは霧でいいよ。他の人も見られなくていいよ。と、ケツの穴の小さいことを思うわたしなのであった。

よくは見えなかったけど、とりあえず襟裳岬に行ったということでよしとする。さて、今日は寄るところはもうない。これからは宿泊予定地の道の駅まで走るのみ。
それにしても全然前が見えない。霧がものすごーく濃いのである。今まで数々の北海道の霧を体験してきたわたしであるが、もしかしたら今日はナンバーワンかも。だってどこをどう走っているのかまったくわからないんだもん。これってかなり怖い。下り坂だともっと怖い。いつもならウキウキ気分で坂を下っていくのだが、今日ばかりはダメ。まったく先が見えないのでスピードが出せないのである。「いきなりカーブ!」だったら事故にもなりかねない。あーあ、せっかく上ってきたのに下りでスピード出せないなんて。なんだかすごく損した気分。
襟裳岬を後にし、最初に目にしたセイコーマートで昼食休憩。すると、先を行っていたはずのJさんが店の中から出てきた。どうやら追いついたみたいです。
結果、またまたなんとなく三人一緒に走ることに。今日の目的地まで残り五十キロ。
相変わらず体がだるい。途中、またしても眠くなる。国道沿いのバス待合所で仮眠。今のところ、Jさんが先頭、その次に大学院生さん、そして大幅に遅れてわたし。
いや、いいんです。もうのんびり行きますわ。用もないのにコンビニに立ち寄る。あーあ、ほんと走るのが嫌になってきた。
午後四時過ぎ、浦河に到着。ドコモショップがあったので休憩がてら充電。目の前には図書館があった。ナイスです。早速、中に入り、パソコンを借りて明日以降の天気をチェック。明日は生憎の雨模様だが、明後日の金曜日、その次の土曜日はお日様マークが出ている。よし、こうなったら明日中に苫小牧にゴールして、その後すかさず富良野まで輪行し、晴れの金、土曜日に美瑛、旭川を周ってやろう。そう思ったら急に元気が出てきた。おそらく気分転換ができたというのもあるのだろう。これならもっと先の新冠の道の駅まで行けるかも。いや、行ってやるぞ。なーんて行くわけないんですが。

浦河から三十分ほど走り、ようやく今日の宿泊場所である新ひだかの道の駅に到着。いやー、お二人ともお待たせしました。見ると、Jさんはすでに夕食の準備にとりかかっている。おー、早いですね。一方、大学院生さんはどこにも見えず。はて、トイレにでも行ったのだろうか。
それにしても、ここの道の駅は素晴らしい。温泉にコインシャワー(五分で百円)、さらにコインランドリーまである。唯一欠点を挙げるとすれば、周りにコンビニやスーパーがまったくないということ。ここに泊まろうと思っているお方には、途中で買い出ししてくることをおすすめいたします。
まずは、濡れた体をスッキリさせるため道の駅内にあるコインシャワー場へ。
脱衣所で服を脱ぎ、シャワー代金百円を投入すると、シャワー下にある赤色の電光表示板が「5:00」を表示した。続いて、そばにある緑色のボタンを押す。すると、お湯が出始め、それと同時に電光表示板が「4:59」「4:58」と、残り時間を刻み始めた。
わーお。さすがにカラスの行水を自認しているわたしであるが、刻々と目の前で変わっていく時間が突きつけられるとこれは焦る。
お湯で体を軽く洗い流しながら、それと同時にタオルにボディーソープを三滴垂らすやいなや、左手でシャワーをフックにかけつつ、右手でタオルを持ち、頭を一気にゴシゴシ洗い、続いて首、腕、胸、背中、腰、尻、太腿、ふくらはぎ、おっと忘れていた、少し上に戻って大事な部分を洗い、再び下へいき、足首、足の裏を洗い、体についたボディーソープを洗い流しつつ、一緒にタオルも綺麗に洗う。
はーっ。死ぬかと思った。いやね、急いで洗わなきゃいけないと思ってどうやら息止めちゃっていたみたいなのです。
あっ、そうだ。残り時間は?表示板を見る。そこには「1:04」と表示されていた。
ホッ。どうやら間に合ったようです。いやー、それにしてもなかなかスリリングなシャワータイムでありました。
その後、洗濯を済まし、三人で少しお話をしてから、大きな東屋のベンチで揃ってご就寝。外は適度に涼しく、わたし自身とても眠かったこともあり、すぐに深い眠りに落ちていった。

夜中、突然、目が覚める。なにやらポツポツと冷たいものが顔に当たっていたのだ。どうやら風も吹いているよう。
暗闇の中、そっと目を開ける。寝ぼけまなこのせいか、周りの状況がまったく把握できない。じっと息を止めて、もう一度辺りを見渡す。
「うわー、なんだよ、これ!」
目を疑った。なんと強烈な雨風が大きな塊となって東屋の中へ吹き込んでいたのだ。
おいおい、マジかよ。気づくと、Jさんも大学院生さんも目を覚まし、上半身だけ起こし、目をパチクリさせている。しかし、そんな中でも容赦なく雨風がわれわれの体にぶつかってくる。いや、雨風とかじゃない、もう暴風雨のレベル。シャレにならんくらいヤバイ。
「このままじゃ確実に死ぬ」
真っ先にわたしの頭に浮かんだのはその言葉。しかもその文字、恐怖を表すかのようにギザギザな形をしていた。
とりあえず隣の建物に逃げ込もう。ようやく状況を把握した三人は、暴雨風の中、急いで隣の温泉施設の軒下に向かって走り出した。が、風が強すぎて思うように前に進むことが出来ない。ちょっと気を抜けば風に体を持っていかれる。
「うわー、マジかよ!なんだよ、これ」
台風下で猛烈な風を受けてよろけるリポーター。たまにこういった姿をテレビで見かけることがある。
「これもテレビの演出の一つ。さすがにそこまでひどくないだろう。きっと多少は自分で体を傾けているに違いない」
今の今までそう思っていた。
でも、違っていた。
え?なぜかって?だってわたしが今、そのリポーターと同じ状況下にいるんですもん。
あれは演出でもなんでもない。マジな台風の威力を、恐怖を表した渾身のリポートなのだ。
って、そんなことを言っている場合ではない。この状況を早くどうにかしないと。
歩を進めようと必死に足を前に出す。が、無情にも足は宙に浮いたままで、一向に地面に着いてくれようとしない。案の定よろける。それでもなんとか踏ん張り持ちこたえる。まったく前に進まない。全身の力を振り絞り頑張る。すると、一瞬風の勢いが弱まった。
「今しかない!」猛然とダッシュ。
無事、なんとか軒下に逃げ込むことができた。
「いやー、危うく死ぬとこだった。これでなんとか助かったぜ」
なんてことにはならなかった。というのも、この軒下にも雨が吹き込んできていたのだ。
「どうしよう・・・・・・」
唖然、呆然。三人ともただただ立ち尽くすのみ。後の言葉が出てこない。ケータイで時刻を確認すると、夜中の〇時を少し過ぎたところ。夜明けまでは後四時間以上はある。その四時間を雨に濡れながら立ったまま過ごすのか。考えただけで頭がクラクラしてきた。
まったくツイてない。とは思わなかった。いや、そう思う余裕さえなかったのだ。
遠く街灯に映し出された大粒の雨が、轟音とともにまるでカーテンのようにゆらめいている。
しばらくすると、幸運なことに風が弱まり始め、雨も小降りになってきた。おかけで軒下に雨が入ってくることはなくなった。
「今度こそ助かった」
ようやく安堵の表情を浮かべる三人。スロープに寝袋を広げてなんとか寝場所を確保。三人はすぐさまおのおのの寝袋に潜り込み、そのまま泥のように眠った。
2010年8月10日(火) 大学院生さんとランデブー (釧路―広尾 158km)
朝、目を覚ますと、外は一面の霧だった。目の前の釧路川には、昨日は泊まっていなかった漁船がズラリと停泊している。
うわー、驚いた。いつのまにこんなに泊まったんだ?中を見ると、ガタイのいい海の男たちが四方八方唾を飛ばしながら威勢よく話をしていた。いやー、朝から元気のいいこって。これから漁にでも行くのでしょうか。
それにしても、昨日はあまりよく眠れなかった。というのも、どうも人が行き来していたようで歩く音や話し声が聞こえてうるさかったのです。夜なら人も来ないだろうと思っていたが、さすが観光スポット、読みが甘かったようです。
準備を終え、いつもより遅い五時半に出発。「まったく朝から霧かよ」と思っていたら、いつの間にか霧雨に。
あちゃー。いよいよ雨かよ。ここ一週間、雨らしい雨が降っていなかった。そろそろ降るのか?と思っていたら、今日降ってきた。
途中、白糠の道の駅で休憩。相変わらず雨は降り続いている。それにしても今走っているこの国道三十八号線、交通量が多いにも関わらず路肩が狭いというまったく北海道らしからぬ道。しかも雨でしょ。走りにくいったらありゃしない。下り坂はいつもより慎重にハンドルを操作する。
しばらく走ると、セイコーマートの軒下に一台のロードバイクが停まっているのが目に入る。こんな雨の中を走っているなんて変わっているなあ。横目で見ながらそのまま通り過ぎる。
と思ったが、なんか気になる。十メートルほど行ったところでUターン。自転車のそばには一人の大柄の青年が立っていた。見ると、わたしが持っているツーリングマップルを熟読している。っていうことはなに?彼も旅人?
早速、話しかけてみる。やはりそうでした。話をしていくと、なんでも彼は内地の人ではなく北海道在住の大学院生。しかも、北海道一周に挑戦しているそう。
ええ!マジかい。一緒じゃん。しかも、わたしと同じく時計周りで走っているそうです。おお、そうですか!こりゃ、いいわ。そんなわけで一緒に走ることに。というか、わたしが勝手についていっただけなんですけど。なんか誰かと一緒に走りたくなったんですよ。
しばらく走ると、降っていた雨もだんだん弱まり、浦幌の道の駅に着く頃にはすっかり上がっていた。すぐ近くのセイコーマートで昼食を済まし、ふたたび走り出す。十勝川を渡りひたすら進む。ところで今日の目的地は釧路から百五十キロほど離れた広尾という町にした。わたしとしては、その手前にある忠類の道の駅までにしたかったのだが、大学院生さんができるだけ先に進みたいということでそこに決めたのである。
頑張って走り、午後三時半、広尾に到着。久しぶりに長距離を走ったが、それほど長くは感じなかった。どうやら人と一緒に走るとあまり長く感じないみたいです。
その後、老人福祉センター内にあるお風呂に入り(なんと三百円!最安値更新!)、鉄道記念公園内にある旧駅舎の軒下で泊まることに。大学院生さんとお酒を飲みながら少しお話をし、午後九時過ぎに就寝。よほど疲れていたのか、全身が寝袋の中に溶けていく感覚があった。こんな眠りは久しぶりだった。夢も見ないだろうという確信があった。
2010年8月9日(月) 炉端焼きでも食べませんか (釧路 60km)
目が覚め、右腕を天井に向けて体を伸ばす。ケータイを見ると、四時を少し過ぎたところだった。ということは、約二時間か、寝たのは。ふわぁー、さすがにこんだけじゃあ眠いわ。
さあてっと、起きてルートの検討でもしようかな。
実はですね、一周しただけでは物足りないのではないか、そんな気がしてきたのです。ゴールした後も他の場所も走ってみたい、そんな気持ちが高まってきているのです。正直なところまだ北海道から離れたくないんですよね。
どこ行へこうか…。ネットの地図でゴール地点である苫小牧の近辺を眺める。しばらくすると、すぐ近くに支笏湖があるのに気がついた。
おお、支笏湖・・・いいんじゃない。だって洞爺湖行ったでしょ。摩周湖も行ったし、屈斜路湖も行ったし。湖シリーズということで、支笏湖行くっていうのも悪くない考え。
後は、内陸もちょっと走ってみたいなあ。ということで思いついたのが、富良野。富良野って綺麗な花々が咲いていてなんかいいイメージがある。しかもたくさんの丘があって、走りがいがあると思うだけど。どうだろう。そんなことをつらつらと考え、ネットでよさげなルートを調べたり、距離を測ったりしてみる。だいたいの目処がついたところで、金丸くんのブログの続きを読む。
やはりいいですね、彼は。わたしと違って遊んでいる感じがある。なんか余裕があるんですよね。でも、それでいてちゃんと食の勉強もしているし。うーん、刺激受けますわ。
その後、YoutubeでまたもT.S.MONKの「Candid For Love」を聴く。やっぱ、これ最高だわ。何度聴いてもノレる。テンション上がる。こんだけ飽きないのも珍しいんじゃない?あと、同じT.S.MONKで「Too Much Too Soon」もいいね。

午前八時、ネットカフェを出る。八時ということは、いつもならすでに三時間は走っている。三時間なら今頃四十キロは走っているはず。
あーあ。なんだかこの三時間、無駄に過ごした気が。だって、ほんとだったら四十キロは先に進んでいるわけでしょ。寝ていてなんか損したんじゃないか。もったいないことしたんじゃないか。
まー、ちょっとくらい走らなくてもたいした問題じゃないんですけどね。どうやらまだわたし、先を急ぐ癖が抜けていないようです。
ところで今日の予定は釧路湿原を見に行くこと。それ以外は何も決まっていない。でも、さすがにそれだけでは寂しい。
他によさそうなところはないの?というわけで、おすすめの観光スポットを訊くため、市役所へ行くことに。
少し走り、市役所に到着。エレベーターに乗り、観光課へゴー。
「すいませーん、ちょっとお伺いしたのですが」すると、奥から若い職員が出て来て、いろいろな観光スポットを勧めてくれた。
・・・・・・うーん、でもなあ・・・・・。いやね、勧められたのはどこのガイドブックにでも載っていそうなありきたりな場所だったのです。正直、いまいち食指が動かない。なんかこう行きたい!と思うような場所がないのです。
まあでも、これはあらかじめ予想できたこと。だって、そもそも人に訊く時点でそんなに行きたいところがないって言ってるようなもんでしょ。
とはいえ、一生に一度あるかないかの釧路。せっかくだから、「釧路に来た!」という気分を味わいたいもんです。
さんざん悩んだあげく、すぐそばの「和商市場」と「フィッシャーマンズワーフ」へ行くことに。遠かったら絶対に行かない場所である。まあ、これもなにかの縁。行けばそれなりになにかいいことあるかもしれない。あまり期待はしてないけど。
まずは、市役所の目と鼻の先にある「和商市場」へ向かう。
ちなみにここでは、市場で切り売りされているイクラやシャケやタラコ、マグロなどを買い、それらをごはんにのせて食べるという非常にコンビニエントな「勝手丼」というものが有名だそう。名前の由来は、お客が自分の都合に合わせて(勝手に)海の幸を選べるところから来ているのだろう。とはいっても、わたしにはまったく関係ない。なぜなら適度な量を選ぶと二千円近くかかると聞いたからだ。
ありえねー。一食にそんなにお金かけるなんてわたしにはあり得ない。二千円なら、わたしの場合三日分の食費。それを一回で遣ってしまうとは。まったくもって考えられません。
まー、どうでもいいけどね。どうせわたしには関係ないし。とりあえず雰囲気だけでも味わおうか。自転車を入り口の脇に停め、「和商市場」の中へ。
おお、さすが釧路の観光市場。たくさんのお店が並んでいます。通路をぶらぶら歩いていると、かっぽう着をつけたおばさんが、まるで昔からわたしのことを知っているかのように馴れ馴れしく声をかけてきた。
「勝手丼食べないの?せっかく釧路に来たんだから食べなよ」
「いやー、いいです。わたし、あんまり食べ物に関心がないんですよ。北海道周っていてもその土地の名物を食べてこなかったし。だから今日も食べませんよ」
なんてことは言わなかった。いや、言えなかった。実は気が変わってしまったのです。
だってぇ、「勝手丼美味しかったよ!」なんて、さっき入り口で会ったバイカーの方が満面の笑みをたたえて言うんだもん。それを聞いたら、氷のように固かったわたしの意志が「あー、そうですか。そんなに美味しかったら食べてもいんじゃねえ。ほんじゃおれは溶けちゃうから」と言ってあっという間にわたしの心の中からいなくなったのです。
情けなー。われながら驚くほどの気の変わりようである。
気づいたらわたし、丼の中にご飯をぶっこみ、その上にシャケやイクラやタラコにイカなどを綺麗に飾りつけていた。
あはは。さっきまで「食べないよ」と言っていたわたしの言葉、どこへ行っちゃったんでしょう。ちなみに千六百円ナリ。なるべく安く仕上げておきました。でも、正直言って物足りない。うーん、ちょっとケチり過ぎたか。いや、ダメだ。これ以上乗っけると軽く二千円はオーバーしてしまう。ここは心を鬼にして我慢。それに大事なのは量より質。そう、味なのである。よーし、こんだけお金をかけたんだからさぞかし美味しいんだろう。さて、どんだけうまいのか。期待に胸を膨らませて一口食べてみた。
「うん!うまい!やっぱ有名なだけはあるよね。やっぱり食べて正解でしょ、これ」
なんて食べる前は思っていたんですけどね。
でも、実際は・・・・・・言いたくない。普通なのである。
あー、ショック。味が普通な上にお腹も大して膨れない。なに、これ。せっかく千六百円も出したのに満足できないなんて。それだけ出せば、すき屋の牛丼、六杯は食えるぞ。
なんてことを計算したら余計落ち込んできた。あーあ、するんじゃなかった。
次に向かったのは、釧路川のたもとにある「フィッシャーマンズワーフ」。まず目に入ってきたのは、もうちょっと愛想よくしたら?と思ってしまう味も素っ気もない五階建のビル。ちなみにその中には、レストランや市場、雑貨屋、洋服屋などが入っている。と、さっき見たガイドブックに書いてあった。
それにしてもまったく興味がそそられませんな。別にとりたて大きいわけでもないし。正直、こんなところ、釧路じゃなくてもどこにでもある。しかもガイドブックの写真だと綺麗に見えるが、実際見るとえらく汚い。
来るんじゃなかったかも。早くも後悔。でも、いちおう釧路の観光スポットらしいのですが。え?どこが?失礼ながらそう思ってしまう。なんでこんなところに来たのだろう。自分でもよくわからなくなってきた。
でも、まだ全部見たわけじゃないし。ひょっとしたら、もう少し行けばなんかあるかもしれない。そうね、あまり期待せずもう少し周ってみますか。
反対側に行くと、川の前に出た。そこにはベンチがあった。しかも屋根もついている。なんだここ、泊まれるじゃん。
ベンチを見ると、反射的に泊まれるかどうか考えてしまう。しかもまだ朝だというのに。おいおい、早いっちゅうねん。すかさず自分にツッコミを入れる。
でも、と少し思い直す。いやね、真面目な話、これってもう理屈うんぬんじゃないと思うんです。なんというか旅人の本能みたいなものというか。ちょっと大袈裟かもしれないが、安心して寝れるかどうかということは生死に関わることだと思うんですよ。
よし、今日はここに泊まってみよう。突然、思いついた。といっても思いっきり観光地ですが。
まあでも、大丈夫なんじゃない。観光地といっても人は多いのは昼間だけ。夜になればきっと少なくなるだろう。
なんかありきたりな場所に泊まっても面白くなくなってきたんですよね。ちょっとここらへんで今までの安全安心第一のパターンを崩してみたくなったというか。なにか無性に刺激が欲しくなっているんですよ。

いよいよ釧路湿原へ。
とその前に、さっき中途半端に食べたせいかなんだか余計お腹が減ってきた。というわけで、一時間も経たないうちにわたし定番の「でっかいやきそば弁当」をセイコーマートで買って食べる。
うーっ。うめー。やっぱりわたしはこっちだね。慣れ親しんだ味がお口にグッドなのです。
今度こそ釧路湿原へ。ところで釧路湿原には、釧路市湿原展望台をはじめとするいくつかの展望台があるそう。せっかく来たんだから全部の展望台を周ってやろう、いや、釧路湿原を一周してやろう、最初はそう意気込んでいた。でも、観光課で聞いて挫折。
「けっこう広いし、途中はアップダウンもありますよ。一日で周るのは大変かもしれませんね」
えーっ、そうなんですか。うーん・・・・・・だったらやめておこうかな。そんな一周したところであまり意味があるとは思えないし。しょせん自己満足でしょ。それに湿原を見るのも一箇所で十分。たくさん見たからといって大した違いはない。
とたんに、いろいろな言い訳を考え始める。われながら軟弱。
結局、いくつかある展望台の中でも一番のグッド・ヴューという細岡展望台に行くことにした。
それにしても体も瞼も両方重い。思わずあくびが出る。当たり前。だって二時間しか眠ってないんだもん。
重い体を引きずり体にムチ打ち、なんとか細岡展望台に到着。
わーお!こりゃ、すごい!なんじゃあ、こりゃ(ⓒ松田優作)。
目の前に広がる景色にしばし呆然。はーっ。感嘆。ここ、日本じゃないみたい。まるでアフリカの草原みたい。すげー。なんか見ているだけで、心が広がっていくような気持ちにさせられる。心が落ち着いてくる。
観光客を対比させて見ると、さらにその広大さを実感。
自然とはかようなまでに偉大なものなのか。すごいんだね、自然って。改めて実感した。

帰りは意外と早く、釧路の街中に戻ってきた時には午後一時だった。
さて、これからどうするか。といっても、今日はもう動く気しないので釧路でのんびり過ごすつもり。
右側に百円ショップが目に入る。お、ちょうどよかった。買いたいものがいろいろあったのです。早速、中へ。デカイなあ、ここ。いや、デカイという言葉じゃきかない。「巨大な」と言った方がピッタリくる。あまりにも大きすぎて、それはまるで巨大迷路を想起させる。下手したら大人のわたしでも迷子になるかも。こんだけ広いと鬼ごっこできるかも。なんてことを考えながらズンズン突き進む。
それにしても、こんだけたくさんの商品があると見ているだけでも楽しいですね。自分でもテンションが上がっていくのがよくわかります。
まずは帽子を探すことに。昨日捨てちゃったので、新しいのを買うのです。
しかし案の定、どこにあるのかまったくわからない。というより、これでわかれという方が無理でしょう。
ちょうどそこへ、「どうぞ分からないことがあれば、なんでも訊いてください」といった感じで店員が歩いてきたので、「じゃあ、訊きましょ」ということで帽子が置いてある場所を訊く。
店員の「ここを真っ直ぐ行って、そこの柱で左に曲がり、そのまま真っ直ぐ行った柱の手前のところにあります」とまさにその通りの場所に帽子コーナーはあった。
着いてすぐに目を引いたのが、ミッキー、ミニー、スティッチと三種類あったディズニーのキャラクターキャップ。それぞれ順番に黒、赤、ミントグリーン。どれもハデハデ。
ちなみにこの帽子、百円ではなく三百円。百円ショップと謳っていても、いろいろな値段のものが置いてあるんですよね。といっても、安いのには変わりはない。
さて、どれにしようか。悩むところ。スティッチが好きなのでそれにしよう、と思ったが、色が微妙。だって、ミントグリーンですよ。さすがにこれを被るには勇気いるよなぁ。うーん、色だけなら、黒か赤。わたし、自分が中途半端な性格のためか、黒、赤、あとは白、こういったはっきりとした色を好む傾向があります。服を買う時には、九十パーセント以上の確率でこの三色から選びます。
うーん、どうしよう。まあ、ここはやっぱり黒のミッキーか。わたし、男だしね。
いや、待て待て。早まるな。ちょっと無難すぎるだろうこれは。北海道を一周しようとしている人間がこんな無難なものを選んでいいんだろうか。そんな肝っ玉が小さくていいんだろうか。いや、別にいいんですが。
うーん・・・・・・うーん・・・・・・うーん・・・・・・。もう一つ、うーん。唸りに唸ってようやく結論が出た。
ここは赤のミニーでいきましょう。当たり前すぎじゃつまらないしね。「男がミニー」、ここがポイントです。
続いて歯ブラシとT字カミソリを手に取り、会計を済ませ、百円ショップを出る。その後、スポーツデポやゼビオスポーツに寄る。昨日に引き続き、ポスフールに行って日記を書く。それからドコモショップへケータイの充電をしに行く。
われながら実に読みやすい行動パターンである。
ところで、今日の釧路も内地と間違うような暑さ。さすがに夕方になると気温も下がってやや涼しくはなってきているが、それでも西日が当たると暑い。本当にここは北海道か。まったく北海道に来たという感じがしませんな。

午後五時、昨日入ったお風呂とは別のお風呂へ行く。ここ、銭湯なのだが、昨日泊まったネットカフェの近くにある。昨日もここに入ればよかったんだよと思うが、休憩所が狭かった。なので昨日はあれでよかったんだと思い直す。
お風呂から上がり、キャリアに荷物をくくりつけていると、一人のおじさんが声をかけてきた。おじさんといっても、七十手前のどちらかといえばおじいさんと言った方がいい男性ですが。
話をしてみるとこの方、毎日自転車に乗っていてロングライドもなされるとのこと。摩周湖も行きましたよ、とわたしが言うと、
「おお、わたしも若い頃、行ったよ。でも、まだあの頃は道が完全に舗装されていなくて砂利道を上って行ったもんじゃよ」
遠い目をしながら言葉を返してくれた。
ええーっ。ほんとですか。あんな坂が砂利道!おじさんはそんなところを上ったんですか。そりゃすげー。いやー、すごいなあ。舗装されていても大変だったのに。それを砂利道の中、あの坂を上ったんですね。すごーい。
それにしても、おじさんの若い頃っていったらきっとずいぶん昔なんでしょう。まさに人に歴史あり。いや、摩周湖に歴史ありといったところか。
「ところで今日はどこに泊まるんだい?」心なしかやや力を込めておじさんが訊いてきた。
「実は、『フィッシャーマンズワーフ』に泊まろうかと思って。人がたくさんいるかもしれないけど、チャレンジしようかなあって」どうだ、参っただろう、とやや自慢気な顔をして答える。
「なるほど、そうですか。それじゃあ気をつけて下さい」
「ありがとうございまーす」
おじさんは何度も何度もわたしの方を振り返り、名残惜しそうな顔をして去っていった。
・・・・・・うわー、やっちまったかも。
いやね、もしかしておじさんはわたしを家に泊めようとしたのではないか。そして、わたしのこれまでの旅の話を聞こうとしたのではないか。そう思ったのですよ。
「ダンボール箱に入れられ、道端にそっと捨てられた子犬」
そんな風にわたしのことを見ていたあのおじさんの目。きっとわたしのことを家に泊めたかったのだ。
「いやー、どうしようかなあ。ちょっと泊まるところがなくて困っているんですよ」
どうしておれは、その言葉が言えなかったのだろうか。
「チャレンジしてみようと思います」
なぜ、そんなカッコつけて言っちゃったんだろうか。
まったく馬鹿か、おれは。おかげで家に泊めてもらえるチャンスを逃したじゃないか。
くそーっ。今度からは見栄を張らず、カッコをつけず、もっと謙虚になろうと思います。
それにしても逃がした魚は大きい。いや、この場合、逃がしたおじさんは大きいと言うべきか。

すっかり暗くなった釧路の街を「フィッシャーマンズワーフ」を目指してひた走る。
ほどなくして到着。観光スポットとはいえさすがに夜、人もいないでしょう。
そんなことありませんでした。人、いましたです。それもわんさかと。というのも、仮設テントの下で炉端焼きのお店が営業されていたのです。お客の数、ざっと見ても五十人はくだらない。しかもみなさん、お酒も手伝ってか実に賑やか。いや、わたしにすればうるさい以外のなにものでもないのですが。
それにしても、さっきから炉端焼きのいいにおいが漂ってくる。炉端焼き食いてー。心の中で思わず叫ぶ。
誰かご馳走してくれる人はいないのか。そんな図々しいことを考えていると、年配のご夫婦が辺りをキョロキョロ見渡しているのが目に入ってきた。おそらくトイレを探しているのだろう。声をかけてみると、やはりそうでした。すぐにトイレの場所を教えてあげる。しばらくして戻ってきたご夫婦が、「自転車でご旅行ですか。大変ですね。もしよかったら一緒に炉端焼きでも食べませんか。ご馳走しますよ」とにこやかな笑顔を携えて言ってきた。
ウッソ!マジ?いいんですか。わたし、遠慮という言葉を知りませんよ。たらふく食べちゃいますよ。ついでにお酒も飲んじゃいますよ。
いやー、これはありがたい、ありがたいです。それではすいません、遠慮なくお言葉に甘えさせて頂きます。
なんてことがあったらいいな。そんな妄想を膨らませながら、そっと眠りにつくわたしなのであった。
え?驚いた?世の中、そんなに美味しい話、なかなか落ちていないって。ちなみにトイレの場所を教えてあげたまでがホント。後はわたしの願望でした。




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