北海道一周、自転車で走ったよ!?
2010年夏、苫小牧をスタートしました。さて、結末はいかに? 紀行エッセイです。
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2010年8月8日(日) ヤッホー。思わぬ再会 (霧多布岬―釧路 105km)
朝、起きてドアを開ける。うー、さみー。体に当たる空気がひんやり冷たいのである。
いくら早朝とはいえ、もう八月でしょ。なんなんだ、この寒さは。内地じゃありえない。まー、見方によっちゃあ、ようやく道東らしくなってきたとも言えなくもないが。
空を見れば一面灰色。雨降ったら嫌だなあと思いつつ準備して出発。
走ってすぐに気がついた。霧が出てきたのである。うーん、いよいよ霧多布の本領発揮といったところでしょうか。どちらかといえば、昨日は霧多布というより霧少布でしたからね。しかし、曇り空に霧ですか。なんだかパッとしない天気ですな。
途中、琵琶瀬展望台いうところに寄る。駐車場脇に立っている説明板を読むと、なんでもここから雄大な景色が見えるとのこと。おお、そうですか。そりゃ是非見ないと。じーっと目を凝らす。
何も見えませんな。ものすごい霧で視界ゼロなのである。雄大な景色どころか、ちょっと先の道路まで見えない。あーあ、ツイてない。
そんなわたしの落胆を載せて自転車は走る。ついでに坂も上っちゃたりもする。がんばれ、おれ。すると、そんながんばりを神様が見てくれていたのか、徐々に霧が晴れてきた。しかも時折、青空も顔を覗かせるというおまけつき。
なんだここ、いいじゃん。霧がなくなってようやく気がついた。ここ、メチャクチャ景色がいいのである。道はゆるやかなアップダウンのあるワインディングロード。そこそこ海から高いところにあるため、遠くまで海岸線が見渡すことができる。言うなれば、ちょっとした高原を走っている感じ。
いやー、高揚感、煽られますねー。うおーっし。気合入ってきましたよー。
しばらく走り、哀愁漂う名前の涙岩というところに寄る。ここ涙岩は、羅臼で出会った徒歩青年が是非にとすすめてくれた場所。そこまで言うなら、なんとしても行かねば。
自転車を駐車場に停め、草むらの中へ突入。遊歩道を五分ほど行くと、おそらくこれだろうと思われる岩が見えてきた。
おお!なかなかすごいやんけ。断崖が斜め一直線で海面へと走り霧が岩肌に薄くかかっていて、なにやら幻想的なのだ。
うーん、こりゃいいわ。時間を経つのも忘れてしばしの間うっとり。
でも五分ももたず。いやね、虫がすごいのですよ。あちこちから湧いてきて次々にわたしの足を攻撃してくる。もー、痒くてたまらん。というわけで、小走りで駐車場に戻る羽目に。
急いで自転車を走らせ、虫たちを振り切る。これで一安心。と思いきや、そうはうまくいかないのが人生なんです。
というのも、すぐに上り坂にさしかかったのだ。
え?それがどうしたの?そう思ったそこのあなた。さては自転車に乗ったことないな。あるいは重い荷物を積んで坂を上ったことないでしょ。荷物を積んで坂を上るとね、これが悲しいくらいスピード上がらないのですよ。するとどうなるか?そう、虫たちに追いつかれちゃうわけですね、これが。
かいー。かいーよー。思わず両手で虫を叩きたい衝動に駆られる。でも、さすがにそれは無理。手を離したら転倒すること間違いないのです。
あーあ。我慢なのですね、ここは。結局上り坂が終わるまでかわいくない虫たちとランデブーすることになりました。

厚岸湖にかかる厚岸大橋を渡ると、とたんに空が曇ってきた。今日の目的地である釧路方面に目をやる。あちゃー。こっちも思いっきり曇っているやないかーい。しかも色のトーンが暗いときたもんだ。雨、降らなきゃいいけど。
ところでここまで四十キロほど走ってきているのだが、どうにも足が重くなってきた。連日のアップダウンを走ってきた影響だろうか。しばらくするとあくびまで出てくるように。よっぽど疲れが溜まっているのかも。
途中、うまい具合に公園があったので、そこで少し仮眠をすることに。ベンチの上にマットを敷いて横になり目を瞑る。何分経ったろうかと思い、ケータイを見る。すると十時を少し過ぎていた。ということは寝ていたのは三十分くらいか。まだ眠気は残っていたが、とりあえず自転車に乗り、走り始める。
しばらくゆるやかな下り坂を行く。すると今度は上り坂が続くようになった。
あーあ、マジかよ。嫌な予感したんだよなー。だって地図を見ると道が山の方へ入っていっているんだもん。どうせアップダウンなんだろうなあと思ったら案の定、そうだったという。
うわー、だめだな、こりゃ。なんか体が鉛のように重い。スピードがまったく上がらない。
いやー、ほんと嫌になってきた。もう、自転車に乗りたくねぇーよー。
肉体的にはもちろんだが精神的にもきている。しかも、なんかよくわからんけど、すげー寂しいし。
誰かと一緒に走っていれば、話をしたりして寂しさを紛らわすこともできるのだろう。でも前を見ようが後ろを見ようが、もちろん横を見てもそんなことをできそうな人は誰もいない。ということは、つまりこの寂しさを自分一人で処理していくしかないんですよね。
くーっ。つれー。なにこの辛さ。なんでこんな寂しい思いをしなきゃならんの。今まで北海道を走ってきてここまで寂しい思いをしたのは今日がはじめてかも。しまいには寂しさを通り越して心が締め付けられるように苦しくなってきた。
もうダメ。限界。釧路までいったい後どのくらいだろう。自転車を停めて地図を見る。その距離およそ二十五キロ。とりあえずさっさと釧路までいってゆっくり休みたい。今一番したいことといえば、ただそれだけだ。
しかし、そんなわたしの思いをよそに、「そんなこと、おれにはまったく関係ないけどね」と言わんばかりに坂は続いていく。行けども行けども坂。上れども上れども坂。
うーん、ダメ。ちょっと休憩。自分でも心がすさんでいくのがよくわかる。完全に気持ちがついていっていない。
はるか後ろに自分の気持ちを置き去りにしながら強引に体を引き上げる。体にムチ打って坂を上る。はーっ。しんどい。またもや休憩。というよりここから動きたくない。しかし、そうもいかないので再び自転車を漕ぎ始める。もうまともな思考回路は残っていない。あるのは早く楽になりたい、その思いだけ。辛いね。苦しいね。自転車で旅するってこんなに大変なことだったんだね。今日ようやくそれがわかった。
エッホ、エッホ。とうとう掛け声をかけないと上れないところまできた。辛さと寂しさを身にまとい、歯をくいしばって坂を上る。すると、一台の車がわたしの横を通り過ぎていった。「ヤッホー」という声を残して。
え?ヤッホーって?
今までも車の中から声をかけてくれる人はいた。しかし、「ヤッホー」というフレンドリーな声のかけ方はこれがはじめて。いったいどんな人が言ってくれたんだろう。声のした方に目をやる。そこには車から身を乗り出して手を振っている人がいた。おや、どこかで見たようなお顔。しかしサングラスをかけているため誰なのか思い出せない。車もなんか見たことあるようなないような。ナンバープレートを見ると神戸ナンバー。ん?こうべ?こうべといったらコウベだよね。というより神戸か?そう思った瞬間、顔、車、神戸ナンバー。この三つが一本の線でつながった。
わかった!一昨日、根室に向かう途中に休憩した駐車場で話したあのご夫婦だよ!メロン切っていたあの奥さんだよ!ほら、わたしの地元に毎年スキーに来るという。
うわー、マジかよ、マジかよ!まさかこんなところでまたお会いするとは!だって、そうでしょう。向こうは車なので、とっくの昔に遠いところへ行っていると思うのが普通じゃないですか。おお、なんたる偶然!
それにしても、こんなところで知っている人に出会うとは夢にも思っていなかった。願えば叶うもんなんですね。思えば通じるもんなんですね。こんなことって本当にあるんですね。
いやー、嬉しい。さっきまでの陰鬱な思いもいつの間にかどこかへ消え去っていた。とたんに体が軽くなった。キツイ、嫌だと思って上っていた坂も今ではむしろ心地いいくらいだ。自分でも力が漲ってくるのもよくわる。
上ります、上れますよ、こんな坂。心が躍る、いや違う、踊るだ。まさにそんな感じ。それにしても人間って、たったこれだけのことで元気が出るもんなんですね。改めてよくわかった。
そんなことが、わずか一瞬のうちに頭を駆け巡る。はっと我に返り、慌てて意識を車に戻す。しかし、車ははるか先へ。うわー。せっかく会えたのにー。
このまま会えなくなるのももったいない。先へ行ってどこか路肩にでも停まってくれると嬉しいなあ。そう思いながらペダルを漕ぐ。すると道は下り坂。一気にスピードが上がっていく。
しばらく下っていくと、道の脇で手を振っている男性がいた。そうなんですね、待っていてくれていたんですね、これが。
それを見た瞬間、これまで味わったことのないような嬉しさがこみ上げてきた。もー、その時のわたしの喜びようといったら。みなさん、想像できます?わたしの心の中では阿波踊り。いや、リオのカーニバルくらいの大騒ぎ。わたし、腰振って踊っちゃってます。派手な羽飾りつけて踊っちゃってます。メチャクチャ笑顔です。
まさに踊るかのように自転車を飛び降り、旦那さんの元に駆け寄る。いやー、お久しぶりです。まさかまたお会いできるとは。
話をしていくと面白いことが分かった。なんでもわたしを見かける少し前、ちょうど自転車で旅している二人組の方を見たそうです。そこでご夫婦で、「そういえば、あの自転車で旅していた人はどうしているかな」「二人なら話し相手がいて寂しくないだろうけど、一人で寂しくないのかね」なんてわたしのことを思い出されたそうです。そんな時、なにやら見覚えのある自転車が前を走っていたと。はじめは自信がなかったそうなのですが、被っている帽子を見て確信したそうです。そう、わたしだって。
うわー、なにこれ。面白すぎでしょ。いや、出来すぎでしょ。
しかも旦那さんいわく、わたしの背中にかなーり哀愁が漂っていたそうです。
うわ。やっぱり分かっちゃいました?というかびっくり。やっぱりそんなことって分かるんですね。驚くと同時に思わず笑ってしまった。いやー、漂っているどころか、べっとり張り付いていたと思いますよ、いやマジで。
そういえば奥さんは?と思ったその時、後部座席のドアが開き、奥さんが現れた。
おお、お久しぶりです!奥さんはニッコリ笑って、「よかったらこれどうぞ」と手に持っていたカップを渡してくれた。見ると中にはアイスカフェオレが。
うわー、マジ?めちゃくちゃ嬉しいんですけど。これ、今回の旅で一番嬉しい出来事かもしれない。涙ちょちょ切れそうです。
そういえば、メロン食べたーいと思ったこともありましたね、いや、もういいです、そんなこと。この瞬間で忘れちゃいます。
それから奥さんも交えて三人でお話。なんでもあれから別れた後、根室に行きそこで二泊して、今日はこれから帯広に向かうそうです。ちなみに旦那さんだけが仕事の関係で十日に自宅に戻るそうです。
え?ということは、後は奥さん一人なんですか?マジですか?女性なのに一人で車を運転して旅を続けるんですか?
いやー、すごい、すごいですねー。あなたさまはストロングウーマンなんですね。
そんな楽しい時間も過ぎ去り、いよいよ別れの時が。ううっ。ちょっと悲しいけど、こればっかりはしょうがないよね。出会いがあれば別れもある。これは必然なのです。
別れ際、奥さんからお手製のおにぎりをもらう。
ええ!いいんですか!おにぎりなんかもらって。いやー、お米なんて久しく食べていないのですごく嬉しいです。嬉しさのあまり、もしかして泣いちゃうかも。
お二人と固く握手してお別れ。いろいろどうもありがとうございましたー。お元気でー。車が見えなくなるまで手を振り続けた。
はーっ。ちょっと気が抜けた。また会えるかなあ・・・・・・。そうだよ。二度あるということは三度あるというじゃないか。もしかして三回目?あると思います!
お二人を見送った後、手の平に残ったおにぎりをいただくことに。
温かい。まるでお二人の優しさが伝わってくるようだ。袋の中からおにぎりを取り出し、なにか大切なものを食べるようにそっと大事に一口頬ぼってみる。
う、う、うまい。じわーっとお米の甘さが口に広がってくる。コンビニなんかで売っているおにぎりと違って人のぬくもりが感じられる。奥さん、ありがとう。
それにしても、なんかやけに塩味が効いてないかい、これ。と思ったら、いつの間にかおにぎりの上に涙がこぼれ落ちていた。そう、しょっぱかったのはわたしの涙のせいだったのです――なんてハートフル小説じゃあるまいし。さすがにそこまで出来すぎではないのです。でも、おいしかったのはホント。
自分には珍しく半分食べたところでおにぎりを袋へ戻す。なにかこのまま全部食べてしまうのが惜しかったのです。これを全部食べてしまうとお二人との思い出がなくなってしまいそうで少し怖かったのです。
再び自転車に乗り、走り出す。その後、下りに下ってあっという間に釧路へ。
ん?もう釧路?なんだか少し早い気もするけど。でも、標識を見るとしっかり「釧路町」って書いてあるしなあ。
あれ?そういえば釧路って町だっけ?たしか市だったと思うんだけど。違ったっけ?なんかおかしいなあ。おかしいよ。でも、さっき見た標識にはしっかり「釧路町」って書いてあったしなあ。うーん、もしかしてわたしが勘違いしているだけなのかも。しかし、どういうことなんだろうこれは・・・・・・。
そっか、わかった。「釧路市」と書くところを間違えて「釧路町」と書いちゃったんだよ。きっとそうに違いない(ところが、これが違うんですね。後で知ったのだが、釧路町と釧路市、両方実在するのです。しかもお隣同士。それにしても、なんでこんな紛らわしいことをするのかは謎ですな)。

釧路市街に入ると、車線が増え、道沿いには大型店舗もちらほら見えてきた。おお、都会ですな、釧路は。
まずは今日の寝場所とお風呂の確認をせねば。これをやっておかないとほんと落ち着かないのです。
ちなみに釧路にはネットカフェがあるらしいので、今日はそこに泊まろうと思います。札幌以来のネットカフェです。それにしても前もってお店の名前と場所を調べておいたのだが、行ってみるとこれが見当たらない。おかしい。なんで?違う名前のネットカフェならあるんだけど。うーん、でも他にこの近くにはネットカフェはないし。とりあえず、そのネットカフェの中へ入って訊いてみることに。
謎、解けました。なんでも最近になって名前を変えたそうです。もー、早く言ってよ、それ。迷っちゃったじゃないかい。ついでにナイトパックの開始時間も訊いてみる。すると、夜の十一時からと言うではないか。ウッソー!マジで?これ、遅すぎでしょ。こんなに遅いのは珍しい。というかはじめてかも。だいたいナイトパックといったら遅くとも十時までには始まる。早いとこだと七時からやっていますよ。どうなっているんだ、ここ。
まー、でも、そう決まっているんだから仕方ない。普通料金で入れなくもないが、やはりここはお金を節約したいところ。仕方ない、こうなったら夜の十一時まで時間をやり過ごすか。
次はお風呂の確認。ツーリングマップルを見ると、ここから少し離れた場所に「ふみぞの湯」というものがある。早速行ってみることに。
わーお。着いてびっくり。行くまでは小さな銭湯をイメージしていたのだが、実際は大型浴場施設という言葉がぴったりな建物だった。しかも外観も綺麗で、建ってまだそんなに経っていない感じ。中に入る。おおー。けっこう広々として綺麗。ほのかに清潔感が漂っています。ついでに料金を確認。銭湯扱いなのでしょうか、四百二十円でした。おお、こちらもグー。しかも、ちゃんと休憩所らしき場所もあるし。いいじゃん、いいじゃん、ここ。
知床峠で別れたきりになっていたアメリカさんからメールが入る。実はさっき、彼にメールを送っておいたのです。アメリカさんのメールによると、今、「sobetsu」にいるそうです。
は?「sobetsu」?どこだそれ?知らんぞ。わたしが通ってきたところにはそんな街なかったような気がするんだけど。うーん、どこなんだろう。全然わからん。
ここは、北海道素人のわたしよりも詳しいだろう。そう思い、受付に行って訊いてみることに。そこには若い女性と年配の女性がいた。「どちらにしようかな」と指を交互に動かして決める間もなく、反射的に若い方に訊いていた。うーん、これが人間、いや男の性なんでしょうね。ところが彼女、「わたし、昨年福島から来たばっかりなんですよー」と眉をハの字にして答えるではないか。えー、そうなんですか。てっきり生粋の北海道生まれの北海道育ちだと思っていたんですけど。うーん、そうなると隣のおばさんに訊くしかないか。
さっきは選ばなくてすいませんでした、と心の中で謝りながらおばさんに訊く。ところが、こちらもなにやら難しい数学の問題を前にした学生のように眉間にたくさんの波線を浮かべてウンウン唸っている。え?なに?「sobetsu」って有名な場所じゃないんだ?てっきりわたし、そこそこの観光地だと思っていたんですけど。
結局、おばさんは、「わたし、こんな難しい問題、解けないわ」といった感じで厨房の方に駆けていった。
わたしにはどうすることもできないので、厨房の様子を見守ることに。
しばらくすると、奥から白い制服を着た三人組が現れ、なにやら頭を突き合わせ考え込み始めた。
あらら、大袈裟な。なにもそこまでしなくてもいいでしょう。訊いておいて言うのもなんですが。
「やっぱりいいです」という言葉が喉から出かかる。でも、せっかく一生懸命考えているのに途中で断るのも悪いなあと思い、必至にその言葉を飲み込む。
そんな彼らをよそにわたしは若い方のスタッフと楽しくおしゃべり。ほどなくして訊きにいっていたおばさんが戻ってきた。
「『sobetsu』は洞爺湖の近くだそうです」
えっ?洞爺湖の近く?洞爺湖だったらわたし通りましたよ。というか、洞爺湖の目の前で泊まったんですけど。しかも初日。
わー、申し訳ない。まさか、そんなとこだったとわ。「灯台下暗し」とはこのことか。お騒がせしてすいませんでした。
「そこ、初日に泊まったよ」ということをアメリカさんに返信。でも、日本語じゃ分からんから、これを英語にトランスフォートしなきゃならんわけですな。
英語でどう言うんだ?うーん……「アイ・スティド・アット・トウヤコ・ニア・ソウベツチョウ・ファースト・デイ」かい?とりあえずそれで送信。
しばらくするとメールが返ってきた。読んでみると、どうやらちゃんと通じたみたい。
正直、最初は「英語でメールを打つなんてメンドクセーよ」なんて思っていたのですが、やってみるとこれがけっこう楽しい。ただあまりにもわたしの英語力とボキャブラリが乏しいので思ったように表現できない。これがすごく歯がゆかった。

午後三時半、近くに図書館があるらしいので行ってみることに。新聞や雑誌、本を読んだりして時間を過ごす。しかし、五時前になるとなぜか慌ただしく人が外へ出始めた。
え?なんで?と思ったら、今日は日曜日なんですね。そう、五時閉館。相変わらず曜日の感覚がまったくないわたし。ううっ、いいとこだったのにー。悔しいから最後の一人まで粘っておいた。
さて、この後どうする?さすがにお風呂にはまだ早いし。そうだ。せっかく釧路に来たんだし、ちょっと街中を走ってみますか。といってもわたしの場合、ただ国道を走るだけですが。
自転車に乗り、街中を流していると、ポスフールという大型ショッピングセンターが現れた。
でけー。クリーム色した巨大な宇宙船が不時着した、そんな感じ。そういえば、北海道に来てはじめて見たなあ、このポスフールっていうの。根室でも見たし、もしかしたら北海道ブランドなのかも。
入ってみますか、時間もあることだし。自転車を駐輪場に停め、中に入る。でかっ。やはり、でかい。これ、東京ドーム何個分なんでしょうか。しかもあちこちに入り口があり、これが見事にどれも同じ感じ。うー、戻ってくるとき迷いそう。
ジャスコがあったので買出しをすることに。半額シールが貼ってあったカツ丼とキムチを買い、通路にあったベンチに座って食べる。うー、ごはんがうまいぜ。昼間、おにぎりを食べたせいか、お米が恋しくなったようです。
その後、すぐ近くにあったドコモショップへ。そう、ケータイの充電をしに行くのです。しかし、中に入って驚いた。このお店、わたしが今までに利用したドコモショップとは違い、妙に高級感が漂っているのです。あまり綺麗な格好をしているとはいえないわたしにはとても場違いな場所。「ちょっと散歩行ってくるわ」と普段着で外出したら、間違えて銀座の高級ブランドショップに入ってしまった、そんな感じなのだ。
うーん、こんなに高級感出されるとかえって落ち着かないんですけど。もっと気軽に入りたいのですよ。

午後七時、充電もそこそこに昼間チェックした「ふみぞの湯」へ向かう。
わーお。驚いた。わたしの予想をはるかに越えた入浴客がいたのです。脱衣所にも浴場にも。人、人、人の波。なんなんでしょう、この人の数。
あっ、そっか。そういえば今日は日曜日。しかも世間はお盆休みに入っているんですよね。そっか、そっか。そういうことね。
いつものように三十分も経たずにお風呂から上がる。やはりわたしの場合、半額でいいのではないだろうか。まあ、いいけどね。その分、休憩所でたっぷり休んでやるー。
座敷に上がり、畳の上にゆっくり腰を下ろす。ふーっ。いい湯だったぜ。極楽極楽。かいた汗を取り戻すかのようにペットボトルに入った水を飲む。机の上には食事のメニューが置いてあり、斜め向かいには四人の親子連れが楽しそうに食事をしていた。
ちょっと、ちょっと。そんなところで休んでいいの?だってそこは食事をするための場所でしょ。食事を注文しない人はいちゃいけないんじゃないの?
いい質問です。
そう、わたしもそう思いました。なので、あらかじめスタッフの方に訊いておいたのです。すると、食事を注文しなくてもそこで休憩してもいいとのこと。しかし、ほとんどの人はそのことを知らないのか(だいたい、そんなことをわざわざ訊くのがわたししかいないと思う)、座敷にいる人はみんな食事をしている。していないのはわたしだけ。ちょっと気が引けるなあ・・・・・・。
ふーん、でもいいもんね。わたしはちゃんと確認にしているんだしー。堂々と休みますよ。ついでにちょっと横になって眠ったりして。あはは。さすがにこれはちょっと調子に乗りすぎですか。
十時になったところで、目の前にあるコインランドリーへ。そう、ここはお風呂とコインランドリーがすぐ近くにあるというナイスな場所なのです。
ところが、わたしが使いたかった七キロ用の洗濯機がすでに使われていた。ガーン。周りを見ると、けっこうな数の洗濯機、乾燥機が回っている。みなさん、夜でもけっこう利用されているんですね。
十五分ほど待って洗濯開始。ついでに被っていた帽子も洗濯機の中へ。ちなみにこの帽子、近所のし○むらで買った九百八十円のおしゃれなパナマ帽。アイボリー色が小粋な雰囲気を醸し出しています。
洗濯物を取り出し次は乾燥、と思ったその時。ああっ、ショック!なんと帽子が思いっきり破れているではないか。ええ?穴ってこんなに簡単に開くもんなの?うーん、やっぱりし○むらの商品、安いだけあって品質はよくないのか。そういえば、以前買った靴下も早々と穴開いたしなぁ。
さすがにここまで大きい穴だと使い物にならない。あえなくゴミ箱へ直行。
結局、乾燥が終わったのは夜の十一時過ぎ。外へ出ると雨が降っていた。ツイてない。さっきまでは降っていなかったのにー。
急いで自転車に荷物を載せ、紐で縛る。この作業がけっこうメンドクサイ。しかも、どうせすぐにまたネットカフェで降ろさなきゃならんのでしょ。ライト、フロントバック、空気入れ、メーター、自転車についているいろいろなものを全部外さないといけない。そう、盗難に遭わないための作業なのです。
あー、メンドクサイ。はっきりいってこれなら野宿の方が全然マシ。野宿なら荷物を降ろし、マットを敷き、寝袋を広げれば完了。時間にして五分もかからない。
でも、これがネットカフェなら受付しなきゃならん。さらにそれがはじめてのところなら入会手続きもしなきゃならん。
あー、メンドクサイ。ブツブツ言いながらネットカフェへ。まー、文句言うくらいなら泊まらなきゃいいんですけどね。なんだかいつにもまして今日は愚痴が多い。うーん、よほど疲れが溜まっているのか。
両手に荷物を抱え部屋の中へ。わーお。こりゃいいわ。予想していたより部屋が広かったのである。これなら伸び伸びと横になることができる。まさかこんなに広いとは思っていなかった。いやー、ツイてる。
ところが、置いている雑誌がしょぼすぎだった。わたしの読みたい雑誌が全然置いていないのだ。なんて思っていたら、「ワールド・サッカー・グラフィック」を発見。おお!ラッキー!そうなんです、わたし、サッカーが好きなのです。それもどちらかといえば、海外の方に関心があります。あー、よかった。せっかくネットカフェに泊まるんだから自分の好きな雑誌くらい読みたいもんですよ。やや興奮したおももちで中をめくってみる。うん?なんかおかしい。いや、掲載されている記事がやけに古く感じるのですが。慌てて表紙を見る。うわっ、なんだこりゃ。そこには「2008年」の文字が。しかもはっきりとくっきりと。
は?どういうこと?今年はたしか2010年ですよね・・・・・・。おーい。なんでこんな昔のがあるんだ?というか平然と棚に置いてあるのが不思議。店員は誰も気づかないのか?こんなネットカフェ、はじめて見た。おい、客を舐めてんのか。
肩を落とし、雑誌を元の場所に戻す。食器の返却口の前を通りかかると、飲み終わったコップや吸殻の溜まった灰皿で溢れかえっていた。すこぶる不快。店員は片付けようとしないのか。
まー、でもきっとあれだ。これは店員が少なくて手が回らないとか、あるいはお盆休みで客が多くて忙しいとか、きっとそういった理由なんだろう。好きでこんな状態にしているわけではない。ネットカフェで働いたことのあるわたしはそう思った。
かくしてフロントの前を通りかかると、店員は壁にもたれながらおしゃべりタイムの真っ最中であった。
あはは。どうやらこのネットカフェ、やる気ナッシングなようです。
まー、いいけど。いくらサボろうが、店の食べ物を勝手に食おうが、漫画を盗んでブックオフに売り飛ばそうが、痛くも痒くもない。こっちの知ったこっちゃない。だいたいわたしが損するわけじゃないし。別にわたしがここのオーナーじゃないんでね。ただ、お金を払って利用している側としては綺麗に片付けて欲しいところですが。って、聞く耳持つわけないか。

午前〇時。いつもならとっくの昔に眠っている時間。というか、四時間後には起きているんですけどね。でも今日くらいはいいか。とりあえずネットカフェに来たからにはネットをやらないと話にならない。いや、別にやらなくてもいいんですが。エロ動画を見たりして欲求解消。長旅もたまには息抜きが必要なのです。
さすがに二時を回ったころになると焦りだす。そろそろ寝ないといけないと思い、横になる。疲れていたのかあっという間に意識が遠のいていった。。
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2010年8月7日(土) そんなに食べたきゃ家で食べればいいじゃん (根室―納沙布岬―根室―霧多布岬 143km)
夜中、尿意をもよおし目が覚める。辺りを見渡すと真っ暗。誰もいない。うわー。わたしが寝る時にはあんなにたくさんの人がいたのにー。広々とした公園にポツンと一人。これってかなりコワイ。しかも今日は午後から雨でしょ。何一ついいことが思い浮かばない。あーあ、気が滅入る。こういう時は寝るしかない。いわゆる現実逃避ってヤツですね。
午前四時過ぎ、再び目が覚める。いつもより少し遅いお目覚め。あー、気が乗らない。だって、朝一番に納沙布岬へのアップダウンでしょ。起きる気しないのですよ。
とはいっても、いつまでもここにいるわけにもいかないので準備して出発。
走り出してすぐに思った。全然涼しくないのである。いや、むしろ暑いくらい。道路の電光気温表示板を見ると、二十五度を表示していた。
おい、ウソだろ。「根室は夏でも二十二、三度。いっても二十五度ですよ」たしか昨日行ったドコモショップのスタッフは、そう言っていたはずだが。
チョット、チョット。話が違うじゃないの。まだ早朝なのに、もうその二十五度いっちゃってますぜ、だんな。どうなっているんだ、北海道。どうなっているんだ、根室。今年はほんと異常気象。ひしひしと地球の温暖化を感じる根室の朝なのであった。
まずは納沙布岬へ。納沙布岬はみなさんご存知のよう、北海道で一番東にある場所。最北端の宗谷岬と同様、北海道に来たらとにかく行かなければならないことになっている。
それにしても空は意外にも晴れ。あれ?おかしい。たしか昨日の予報では午前中は曇りで午後から雨が降るはずなのだが。本当にこれで雨降るのかしらん。
ところで景色の方であるが、これが実に素晴らしい。道の両脇に広がる草地がまるで緑の絨毯のよう。海岸線もダイナミックで実に見応えがある。まったく期待していなかっただけに嬉しさ倍増。
一方、道は聞いていたように見事なアップダウン。しかし、これが思ったよりキツくないのである。きっと、この青空と景色の素晴らしさで疲れを感じないのだろう。いやー、実に気持ちいいだべさ。
やや追い風だったこともあって、予想より早い一時間半で納沙布岬に到着。
着いてまず目に入ったのが、「平和の塔」という北海道にしては珍しくヒネリもなにもない白亜の塔。しかし、名前は平凡だが、その姿はなかなか。天空に向かって気持ちよさそうにすくっと立っているのだ。中に入れるのかな?と思い入り口に向かう。すると当然のようにまだ開いてなかった。残念。どうやら九時からのようです。
次に、納沙布岬と書かれてある看板を探す。やはり、それを見ないと来たという実感が湧かない。人にも自慢ができない。
辺りをウロウロ見渡していると、一人の男性がオートバイを写真に収めていた。ん?おかしい。こんなところでオートバイを撮っているのは不自然。もしや看板はそこか?と思い行ってみると、やはりそうでした。
うわー。なんだこりゃ。たったこれだけ?そこには、「本土最東端納沙布岬」と書いてある木の柱が一本立っているだけだった。
うーん、とくに感慨ナッシング。来なくてもよかったかも。まー、いいいんだけどね。こういうのは行ったという記念ですから。
ボーっと柱を眺めていると、すぐそばで女性ライダーが写真を撮っているのが目に入ってきた。
「よかったら柱をバックに写真撮りましょうか?」親切心で声をかけてみる。下心も同じくらいありますが。
写真を撮り終わり、少しおしゃべり。なんでもオートバイで周っていて一番困るのは泊まる場所だそうです。
うーん、やはりそうですか。男性みたいにテント張ってそこらへんで野宿、なんてまずあり得ないでしょうし。ライダーハウスでも女性専用の部屋があればいいんでしょうけどね。なかなかそういったところは少ないみたいですし。そう考えると女性はほんと大変。
ちなみに昨日は「女性だから」と、花咲ガニを買ったお店の事務所で泊まらせてもらったそうです。
おお、そうなんだ。いいですね、なんか旅って感じがして。こういう時ってやっぱり女性って得。
そういえばわたし、そんなことないよなあ。お店でも人の家でもいいから一度泊まってみたいもんです。こうなったら女装でもしてみようかしらん。
納沙布岬を後にし、再び根室の街へと向かう。行きとは逆に今度は向かい風。くーっ。ペダルが重いぜ。
行きよりも少し時間がかかり、一時間四十分で根室市街に到着。
セイコーマートの前で地図を見ていると、車に乗ったおばさんに声をかけられた。おお、車内から声をかけられるなんてはじめてのパターン。これ、ちょっと嬉しいかも。
「暑いでしょ。根室がこんなに暑いなんて珍しいのよ」
やっぱりそうなんだ。なんでも昨日は三十度を越えたそうです。三十度と言えば、三十度である。根室ではめったにないが、夏の内地では当たり前のように記録する気温である。「おれは本当に北海道にいるのか?」そう思ったことを、おそらくわたしは一生忘れないだろう(後で知るのだが、昨日は根室市の観測史上最高気温を記録したそう。どおりで暑いわけですな)。
それにしても、わたしなんか三十度という気温はしょっちゅう経験しているからまだいいけど、こんな暑さに慣れてない根室の人はさぞかし大変でしょうね。くれぐれもお体には気をつけてください。
かくして、わたしにとって根室は暑い街として認識されるのであった。あっ、坂の街でも。

予想外の好天なので、どんどん先へ進むことに。ここからは霧多布岬へ向かう。その距離、およそ七十キロ。ところがこの七十キロ、なんとコンビニもスーパーもまったくないというとてつもなく恐ろしい道を通っていくのである。
そりゃまずい。ということでまずは腹ごしらえ。セイコーマートでわたし定番のカップ焼きそばを食べる。まだ朝の八時ですが。それからっと、飲み物もいつもより多目に買い込みましょうか。
霧多布岬へは、自転車で走るのにはめちゃくちゃ気持ちよさそうな名前の北太平洋シーサイドラインを通って行く。はじめはなんのへんてつもない普通の道だったが、海岸沿いに出て景色が一変した。
わーお。こりゃ、すごい!そこには「これぞ北海道!」という雄大な海岸線が続いていたのだ。しかも、道が断崖の上を通っているため遠くまで海岸線が見渡せる。打ちつける波が実に荒々しい。いやー、豪快な景色。内地では絶対見られないだろうなあ。いたく感動したわたし、しばらく自転車を停めてじっとその景色を見ていた。
充分景色を堪能したので先へと自転車を走らせる。しばらく行くと、おかしいことに気がつく。なんかどんどん岬のある方へと向かっているんですけど。気のせい?じゃないよね。まさかもう霧多布岬?なわけないか。たしかまだ五十キロ以上あるはずだし。と思いつつもそのまま行く。でも、道はわたしの不安を乗っけて更に岬の方へ。おかしい。おかしい。やっぱりおかしい。一気に不安。ちょっと冷や汗も。どうみてもおかしいよなあ、これ。とりあえず一旦、来た道を戻ることに。おかげで十パーセント以上はあろうかという坂を上る羽目に。あーあ、無駄に体力消耗。
少し戻ると、まるでわたしを待ち構えたかのように駐在所が現れた。おお!グッドなタイミング。早速、自転車を停めて中に入る。
「すいませーん」わたしが声をかけると中からクマと見間違うような大柄なお巡りさんが現れた。
「あのー、霧多布岬の方へ行きたいんですけど」
「霧多布岬ね。えーと、そうしたらね、このまま二キロほど戻ってですね……」
あはは。やっぱり間違えてみたいです。
「ちなみに今日はどこまで行くの?」このお巡りさん、わたしに興味を持ったのか言葉を繋いできた。
「えーと、一応霧多布岬まで行く予定です」
「えっ?けっこう遠いよ。アップダウンもあるし。大丈夫かね」
「多分、行ける距離だと思いますけど」
ここで話が終了。と思いきや、このお巡りさん、「もしかしてわたしのこと好きなの?」と思うくらい更にいろいろなことを訊いてくる。
「どこから来たの?」「どういうルートを通ってきたの?」「自転車、パンクしないの?」「ゴールはどこなの?」
しまいには、頼んでもいないのにこの近くで射殺されたというクマの写真まで見せてくれた。
ありがたい。実にありがたい。死んだクマの写真なんて始めて見ましたよ。それはそれでいいのですが、実はお巡りさん、わたしは早く先を行きたいのですよ。なので、そろそろ解放してもらえませんかね?それに、そもそも遠いって言ったのはあなたじゃないですか。ならば余計に早く行かないと。
ん?待てよ。もしかして、これってドサクサに紛れての職務質問ってやつじゃないか?
いや、それはきっと早とちりだ。こんな田舎のお巡りさんがそんな高度なテクニックを使うとは思えない。わかった。きっとヒマなんでしょう。だって周りに家なんてあまりないし。日がな一日のんびり過ごしちゃっているんじゃないの。それに言っちゃあ悪いけど、こんなところで事件なんて起こりそうもないし。まあ、これが推理小説だったらこんなド田舎が殺人事件の舞台になったりするのだけれど(われながら失礼なことを言っていると思う、すいません)。
まー正直、わたしも急いでなければゆっくりお話をしていたいんですけどね。でもね、こんな何もないところ、とっとと早く過ぎたいんですよ(重ね重ね失礼)。
お巡りさんに別れを告げ、ふたたび北太平洋シーサイドラインをひた走る。途中、道は山の中に入ったり海岸に出たりと実に忙しい。正直、木に囲まれた山の中の道はちっとも面白くない。しかし、海沿いはその逆。山の中の汚名を返上するかのように実に素晴らしい景色をわたしに見せてくれる。いやー、ただ走っているだけなのに気持ちいい。ありがたい。こんな景色を見せてくれた神様に思わず頬ずりしたくなる。
アップダウンがなければね。
そう、海沿いということはつまりアップダウンがあるのです。しかも、このアップダウン、そんじゃそこらのやわなアップダウンとは訳が違う。非常に勾配がきついのである。
まー、下りはいいのですよ。最高時速は五十キロ近くにもなるほどスピードが出てとても気持ちいいし。ところがこれが上りになると一変。スピードはあっという間に一桁台に急降下。その差、およそ四十キロ。これがもう笑っちゃうくらいの落差なのです。
正直言えば、はじめはよかったです。上りと下りでこんなにスピード違うんだね、面白いね、なんて楽しむ余裕があった。現に楽しかったしね。ところが、急な坂を下るとまたすぐ急な上り坂。そしてまた急な下り坂。それが続くと、「あー、わかった。どうせ次はまた急な上りなんでしょ」と思っていると、案の定、期待を裏切らない展開。急な上り坂が「そんなの当然でしょ」といった顔で現れる。「もー、また、こいつかよ」さすがに三回続いたところで嫌になった。「もう、ええっちゅうねん、このパターン。いい加減飽きたわ」
そうは言っても、まだ許してくれないんですね、この坂たちは。必死に上りきったと思ったら、また下り坂。先を見るとまた上り坂。さすがにこれを見た時はちょっと発狂しそうになりましたよ。
なるほどね、こうやって精神力と体力がじわじわと奪われていくわけですね。しかもメチャクチャ暑いし。そういえば、午後から雨という予報はどこへいったのでしょう?思いっきり晴れていますが。天気予報、完全に外れましたね。

午後二時過ぎ、霧多布湿原センターに到着。さあってと、今日もなにかいい話聞けるかな。
と、その前にまずは二階に上がってみる。なんでも壁一面の展望ガラスを通して霧多布湿原を見渡すことができるそうなのだ。
おお、さすがに広い。緑の草原みたいなものが果てしなく続いている。しばし雄大な景色に見とれる。
ところで、さっきから固定双眼鏡を覗いている女の子がやけに興奮しているんですけど。お嬢ちゃん、何かいいものでも見えるのかい?
「鶴ですよ、鶴。タンチョウ鶴が二羽いるんですよ」すぐそばにいたお父さんらしき人が教えてくれた。
ええ!マジですか。鶴ですか。鶴っていったら、あの鶴ですよね。あまり鳥には興味がないわたしでも、鶴は別。だって鶴ですよ。都会のゴミ置き場に群がっているカラスなんかとわけが違う。生きているうちに一度見られるかどうか分からない鶴。おー、そんな鶴がまさか本当に見られるとは。是非見たい。というわけで、娘さんが見終わってからわたしも見させてもらうことに。
がぶりつきになって双眼鏡を覗く。しかし前後左右、これでもかと双眼鏡を振り回すがどこにも見当たらない。おい、マジかよ。人を期待させておいて見ることができないなんて、そりゃないぜよ。おーい、鶴ちゃーん、わたしの鶴ちゃーんよー。どこよ。どこなのよー。
すいません、ちょっと興奮してしまいました。
どこをどう見ても見つからないので、お父さんに「あそこですよ」と場所を教えてもらい、ようやく目にすることができた。
おお!すげぇー。マジ鶴だよ。生鶴だよ。つがいの鶴なのか、仲良さそうにダンスなんか踊っちゃっている。うわー。こりゃすげ。胸の高鳴り抑えられません。いやー、すげぇわ、これは。
お父さんに鶴を教えてもらったお礼に納沙布岬をオススメする。ここはなかなかの景色なんですよ。晴れの日は珍しいそうなんで是非行ってみてくださいね。
興奮冷めやらぬまま一階へと降りていく。早速スタッフの女性に霧多布湿原に関していろいろ訊いてみた。さて聞き終わっての感想は?
えーと。どうやらわたし、湿原にはあまり興味がないみたいです。せっかくいろいろ説明してもらったのですが、ほとんど印象に残っておりません。
わずかばかり頭の中に残ったものといえば、「湿原の定義」、それと「ここ霧多布湿原は日本で三番目に大きい湿原(おそらく一番目は釧路湿原だろう、でも二番目がわからん)」、あとは「霧多布湿原がある浜中町では、とれる牛乳のほとんどがハーゲンダッツに使われている」、それくらい。あっ、そうそう。説明してくれた女性スタッフがなかなか可愛かったことも印象に残りましたよ。
これから、本日の最終目的地である霧多布岬へと向かう。橋を渡り、しばらく行くといきなり急な上り坂が現れた。ぎょえー。十パーセントくらいあるんじゃないの、これ。ちょっとビビるが、これを乗り越えないと岬には行けない。足に力を入れ、必死にペダルを漕ぐ。おのれー。このくらいで負けてたまるかー。一瞬足がつりそうになり焦る。が、無事に上ることができた。ふーっ。なんとか気合で乗り切ったぜ。
上に上がると、道は拍子抜けするくらい急に平坦になった。いきなり視界が広がる。遠くには海が見える。どうやらここ岬一帯は高台になっているようだ。「おお!まるでテーブルマウンテンみたいや!」さっき下から見た時のことを思い出す。
くねくねした道を走っていくと白い灯台が見えてきた。鎖状になった柵のところで自転車を停め、辺りをウロウロ。せっかくだから岬の先端まで降りてみようと思い、階段をせっせと下る。でも半分ほどで後悔。遠い上に急階段なのだ。
これまでわたしが行ったほとんどの灯台はすぐ後ろが崖、その先は進めないところが多かった。ところがここは下まで道がずーっと続いている。なんだかフェイントかけられた気分。ところで、どうする。まだ先行く?
行きましょう。せっかくここまで来たんだし。てくてく下り、ようやく岬の先端に到着。そこでは柵の上から下を覗いている人がいた。ここで後ろから驚かしたら面白いだろうなあ。なんてよからぬことを考える。いや、でもここは我慢。さすがにそんなことしちゃいかんだろう。間違って「下へ真っ逆さまに」なんてことになったらシャレにならんし。ぐっとこらえる。が、ダメ。悪魔の囁きが耳元でうるさく響いてくる。限界。意志の弱いわたし、どうも悪い衝動には勝てないらしい。自分でも知らぬ間に「わっ!」と後ろから声をかけていた。
あはは。冗談ですよ。そこまで人は悪くないのです。
しっかし、すごいぞ、この景色。目の前にはネイビブルーの海が果てしなく広がっている。一面に見えるたくさんの小さな白波がまるで魚のうろこのようだ。マジすっげぇー。骨折って来た甲斐があった。

時刻は午後五時前。少し早いがお風呂に入ることに。今日のお風呂はなんとも楽しげな名前の「霧多布温泉ゆうゆ」。そう、「ゆうゆ」といえば岩井由紀子。えーと、知らない人はいいです。
それはともかく、ここのお風呂、メチャクチャ気に入ったぞ。なんといっても休憩所が広いのだ。
お風呂に何を求めるかは人それぞれ違うと思う。たとえば温泉好きの人なら、効能とか泉質とか。でもわたしの場合、そんなことはどうでもいい。まったくこだわらないと言ってもいいくらい。水を沸かしただけのお湯だろうが、地下から湧き出る温泉だろうか、まったくの無関心。要はさっぱりできればいいわけ。極端な話、シャワーでも全然構わない。むしろ、安く済むのならそっちの方がいいくらい。
そもそもわたし、お風呂なんか三十分も入っていないんだもん。マジメな話、「わたしだけ半額でもいいんじゃない?」お金を払うたびにそう思う。
それじゃあ、わたしがお風呂に求めているものは何かって?
いい質問です。
ズバリわたしにとって一番重要なのは、ゆっくりくつろげる休憩所があるかどうか。
寝る時は、寝袋一つなのでどこかリラックスできないんですよぉ。そう、一日の中で心の底からリラックスできる時間がないんですよね。そんなわけで、だいたいお風呂に入る前に訊きますね、休憩所があるのかどうか。それで、もしあるとしたらどのくらの広さなのか。広い座敷でもあれば最高。まあ、ないと言われても結局そこを利用するんですが。要は前もって知っておきたいんですよ。
ところでここの休憩所、今までの中で一番か二番かというくらいにいい。上湧別のところもよかったが、それと双璧をなすくらい。なんていったって広い。その上、なんと番茶と水が飲み放題。こりゃ飲まなきゃ損でしょ。ここぞとばかりに番茶を飲みまくる。
溜まっていた日記をつける。ふと前方のテーブルに目をやると、思わず目が点になった。かなり年配のおじさん三人組が、めんつゆを湯飲み茶碗に注ぎ、袋入りのそばをそこに入れてズルズルとやり出したのだ。
うわー、なんだこりゃ。いくらなんでもやりすぎでしょ。自分の湯飲み茶碗を使ってやるのには文句もないが、無料で貸し出しされているものでやるにはあまりにも見苦し過ぎる。年を取ると恥も外聞もなくなるのか。
それにしても、わざわざこんなところで食べなくてもいいだろうに。そんなに食べたきゃ家で食べればいいじゃん。さすがのわたしでもそこまではマネできません。いや、ちっともマネしたくはないという話です。ほんと見ているこっちが恥ずかしいわ。
あーあ、いやだ、いやだ。あんな年の取り方はしたくないもんです。

日記も書き終わり、七時半になったところで外に出る。昼間とは打って変わって空気がひんやり。辺りはすっかり暗くなっていた。
さて、今日の寝床はどこにしましょうか。と言いつつ、実は明るいうちに三つ、目星をつけておいた。
まず一つ目は、岬近くの展望所の東屋。近くにはトイレもある。周りはだだっ広い原っぱで、すぐ後ろが断崖絶壁。人なんて絶対に来そうにない絶好の寝場所である。と思ったが、あまりの寂しさに逆に眠れそうにない。感覚的には人里離れた山の中という感じなのだ。心細いので、あえなく却下。
二つ目は、温泉の目の前にある廃屋の軒下。お風呂も近いし、「ここにしよう」と最初は思ったが、すぐに無理だとわかった。だって、ちょっと自転車から離れただけでたくさんのカラスがわたしの荷物をつついているんですもん。寝ている時にカラスに襲われたらかなわん。カラスのエサになりたくないので、ここも却下。
結果、消去法で残ったのがバス待合所。無難すぎて面白くないという意見もあるでしょうが、許してやってください。やっぱりわたしだってゆっくり寝たいんですよ。
急な坂を下り、バス待合所へ向かう。盗まれないようにと、一応自転車を中に入れる。ベンチが狭かったので、床にマットを敷いてその上に寝袋を広げて就寝。ケータイを見ると、夜の八時を少し回るという非常にリーズナブルな時間であった。
2010年8月6日(金) 「ニ・ホ・ロ」とはどんな意味があるんでしょーか (標津―根室 109km)
さすがにバス待合所はよく眠れる。いつもより早い午前三時半に目が覚めた。昨日はあれから発泡酒を飲み、そのまますぐに眠ってしまった。
ぐっすり眠れたおかげで、そのまま寝袋の中でウダウダすることなく、しゃっきりすぐに起きる。順調に出発の準備を重ね、午前四時半に出発。今までの最早記録更新。
普通に考えれば、こんな時間に自転車に乗っているというのは異常だよなあ。でも、これが北海道ならまったくそんな気がしないから不思議。いや、北海道というよりも旅先でこういうことをやるのにまったく違和感がない。そう考えると、むしろそういった非日常感をやるために旅に出ているのかもしれない。それができていることが殊更嬉しく感じる。
爽やかな朝の冷気を感じながらペダルを漕ぐ。陽が早く昇る北海道とはいえ、さすがにこの時間ではまだすっきり明るいというわけにはいかない。それでも地平線が徐々にオレンジ色から水色に変わっていくため、「今日は快晴だ」というくらいはわかる。その消えつつあるオレンジ色が自分の網膜に焼き付く。朝日ってこんなに綺麗だったんだ、こんなに清々しいものだった。そんな当たり前のことを今さらのように感じる。
なんだか感傷的な出だしである。ま、たまにはいいよね。
途中、オシッコのためパーキングエリアにあるトイレに立ち寄る。その隣には北方領土に関する資料館、「北方の館」という建物が建っていた。おお、そういえばわたしは北方領土問題にも関心があったなあ。早速、中に入ってみる。
なーんてね。まだ朝の五時半。やっているわけないのです。
トイレで用を済ましていると、掃除のおばさんがやってきた。こんな朝早くからお掃除?すごいなあと思ってちょっと話しかけてみる。
「おばさん、こんな早くから掃除ですか?大変ですね」
「朝から利用する人がいるので、いつも早目に来てやっているのよ」ちょっと、恥ずかしがり屋さんなのか、わたしの方に顔を向けずに答えた。
あはは。それ、わたしのことですか。朝からお仕事、ご苦労様です。
しばしおばさんとおしゃべり。いつの間にか話題は北方領土に関することへ。なんでも北方領土返還運動は根室が一番盛んらしいとのこと。へー、そうなんだ。よし、根室に行ったら市役所にでも行って話を訊いてみるか。

ここからしばらくは北海道特有のゆるやかな下り坂が続く。しかし、向かい風なので漕がないとちっとも前に進まない。
厚床まで残り十キロのところにパーキングエリアがあった。ようやくそこで朝食休憩を摂ることに。そう、ここまで休めるような場所がなかったのです。
まずはトイレに。するとその行く途中、一台のワンボックスカーが停まっているのが目に入った。こんな朝っぱらからいるということは、おそらく昨晩ここに泊まったのだろう。それにしてもこんな人気のないところで泊まっているなんて珍しい。だいたい車中泊する人は道の駅に泊まる人が多いからだ。もしかしたら旅慣れた人なのかもしれない。そんなことを考えながら、車の横を歩いていく。チラッと横目で見ると、一人のご婦人がテーブルの上でメロンを切っていた。
そういえばここ最近、というより北海道に来てからまったく果物を食べていない。そろそろ果物を食べたいところですが。
話しかけてみますか、メロン目当てに。
「あらー、ちょうどよかった。今、メロン切っていたところだったのよ。よかったら、お一つどうぞ」もしやそんなことを言ってもらえるかもしれない。
というわけで、下心満載の笑みで声をかけてみる。
「こんにちは、神戸から来ているんですか?」そう、その車は神戸ナンバーだったのです。
話をしてみるとこのご婦人、旦那さんと二人で来ているそうです。そういえば向こうの水場に中年の男性がいる。おそらく彼がこの人の旦那さんなんだろう。案の定、奥さんがその男性を呼んだ。やはりそうだ。
旦那さんを交えて三人でおしゃべり。なんでもこのご夫婦、毎年夏になると北海道に来ているそうです。おお、北海道フリークなんですね。
お二人によると、今年の北海道、例年になく暑いそうです。いつもならこの時期、窓を閉めて寝ないと寒いらしいんだけど、今年は逆に窓を開けないと暑くて寝れないんですって。
さすがですねー。毎年北海道に来ているだけのことはありますね。これって、北海道初上陸のわたしにはまったくわからないこと。もう、てっきり毎年このくらいの暑さなのかと思っていましたよ。どうやら今年は日本全体で暑いようですね。
しばらくそのまま話を続けていくと、驚愕の事実が発覚。なんとこの奥さん、毎年冬になるとわたしが住んでいる地元のスキー場に来ているそうなんです。
ウッソー。マジですか。こんな偶然、本当にあるんですね。だって、ちょっと考えてみてくださいよ、みなさん。日本全国にどれだけスキー場があると思っているのよ。少なくとも百は越えているはず。その中からわたしの地元のスキー場に来る確率といったら、おそらく一パーセント以下でしょう。しかも、わたしが住んでいるところって、神戸から随分離れているし。それにそれに、そこのスキー場、ちっとも有名じゃないんですよ。というかほとんど地元の人しか行かないようなスキー場なんです。そう、まったくその奥さんが来る要素、ないのです。
そんなところに毎年行っているという人に会う。しかもこの北海道で。あり得ないでしょ、これ。すっごい偶然。あまりにもすご過ぎて笑っちゃいましたよ。なんでもそこのスキー場に知り合いが働いていて、それで毎年行っているんですって。
へー、そうなんだー。そうなんですかー。それにしても確実に、この奥さんの方がわたしよりもそこに行ってますな。だってわたし、スキーやんないですもん。しかも、少し離れた別のスキー場にも行ったことがあるという。あはは。わたし、そこで滑ったことすらないという。そうですね奥さん、どうかわたしの代わりに思う存分滑ってあげてください。
さて、そろそろ行きますか。お二人と挨拶を交わし、別れる。
「あっ、そういえばメロン」
結局、くれませんでしたな。
お二人と話をしたため、思いのほかたくさん休憩してしまった。できれば今日は納沙布岬まで行きたいのにー。
遅れを取り戻すかのように、少し焦り気味に自転車にまたがる。パーキングエリアを離れ、再び国道に出る。少し走ると、反対側の路肩を一人の青年が歩いてくるのが目に入った。背中にはザックを担いでいる。もしや、日本一周?だってこんな何もないところを歩いているなんてどう考えたっておかしいもん。歩いているのなら、きっとそうに違いない。
話しかけようかどうか迷う。
だって、さっきのパーキングエリアから一キロも走ってないんだもん。それなのにまたここで止まるのかよ。しかも、今日は納沙布岬まで行きたいのにー。
まあー、いっか。ここでやり過ごしたらなんか後悔しそうな気がするし。
というわけで声をかけてみる。「もしかして日本一周しているんですか?」
「はい」
キター!やっぱりそうだ!いやー、嬉しい。
実は、ここまで走ってくる間にも歩いている人を何人か見かけてきた。ほとんどが背中に大きなザックを背負っていたが、中には乳母車みたいなものを押している人もいた。正直、歩いて旅している人ってすごいというか、なんでそれをできるのだろうと不思議に思っていた。たしかに自転車も人力であるが、自転車は走るだけなら百キロ進むこともそう難しいことではない。でも、歩きの場合はそうはいかない。せいぜい一日四十キロがいいとこだろう。しかも、その距離を歩いたからといってうまい具合に寝るのに適した場所やお風呂が見つかるとは限らない。いや、きっと見つからないことの方が多いだろう。それなのに、なぜ歩いて旅しているのか?なにかそれがずっと気にかかっていた。
話してみるとこの青年、元々は歌手志望で、中途半端な自分を変えたくて日本一周に出たそうです。
うーん、ありがちな理由ですね。いや、別にそれを蔑視しているわけではない。むしろ、共感を覚える。というのも、わたしも「自分を変えたい」というのが、今回北海道を一周しようと思った理由の一つだったからだ。
ところで、この彼、一日四、五十キロは歩いているそうです。
すげー。いや、それはすごい。実は、わたしも一度だけ四十キロ歩いたことがありますが、後半は足の裏が痛くて痛くてまともに歩けやしなかった。しかもこの青年は一日だけじゃなく毎日それをやっているわけでしょ。いやー、すごい。すご過ぎます。
さらに話を訊いていく。実は最初、走って日本を周るつもりだったそうです。でも、荷物が多すぎて途中で断念したそうです。彼はちょっと後ろめたそうに、そう話していた。
いや、なにも卑下することはない。歩いてやるだけでも立派なことです。
その後、彼がやっているというブログの写真の被写体になる。いやー、照れますな。でも、本当は嬉しかったりして。実は、こう見えてもけっこう出たがりなのです。みんな、見てる?また人のブログに載っちゃったよー。

青年と別れ、しばらく行くと厚床の駅が見えてきた。寄ってみることに。いつものごとく、これといって用事はないのですが。
中に入ってみる。駅員らしき人はいなかった。するっていうと、ここは無人駅なのか。外にはトイレ。待合室もある。寝れますね、ここ。泊まれますね、ここ。
泊まっちゃう?
なーんてできるわけないじゃないですか。まだ十時ですよ。
それにしても暑い。暑いよー。暑いんだよー。それ、もーう一回。暑いんです、わたし。というか、目の前に陽炎が見えるんですけど。これって気のせい?じゃないよね。あぢー。死ぬー。これ、三十度くらいあるんじゃないの?いや、マジで。なんか道東は涼しいって聞いていたんですけど。ありゃ、ウソかい。おれは騙されたのかい。
そんな思いを抱きつつもわたしは走る、このクソ暑い中を。
途中、根室の道の駅に寄る。中に入ってみるとすぐ目の前が湖。わーお。こりゃ、すごい。ここに道の駅作った人に座布団一枚。
さらにここで、グッドでワンダフルな情報ゲット。なんでもこの先に北方領土の館というものがあるというのだ。おお、これぞわたしが求めていたもの。きっとそこへ行けば北方領土に関することがいろいろ聞けるんでしょうね。いやー、嬉しい。ちょっとテンション上がる。
ただ、どうでもいいことだけど気になることが。それは、その北方領土の館の名前。
え?なんて名前?聞きたい?聞きたい?みなさん、聞きたい?
「えーい!早せんかい!」なんていわれる前に言っちゃいますけどね。その名前は「ニ・ホ・ロ」と言うんです。「ニ・ホ・ロ」。
思わず絶句。なんてダサダサな名前なのか。最初この名前を目にした時、椅子からずり落ちそうになりましたよ。というか、そもそもなんでこんな名前にしたのか意味がわかんない。だって「ニ・ホ・ロ」ですよ、「ニ・ホ・ロ」。
ところが、これには深くてかつ非常に分かりやすい由来があったのだ。
さて、ここで久しぶりにクイズコーナー!
「ニ・ホ・ロ」とはどんな意味があるんでしょーか。分かった人は天才。座布団十枚はあげちゃうね。
といっても、おそらく分からないと思うのでいきなりヒント。「ニ・ホ・ロ」はそれぞれなにかの頭文字をとっています。
これでけっこう分かった人もいるんじゃないかな。
え?分かんない?もう、あんたも馬鹿ね。
まあ、こんなところでもったいぶっても仕方ない。というより、いちいち引っ張るのも面倒くさい。というわけで、早々とここで正解を申し上げちゃいます。さあ、みなさん、耳をかっぽじってよーく聞いてちょーだい。
「ニ」は日本の「ニ」。「ホ」は北海道の「ホ」。「ロ」は、そう、みなさん、もうお分かりですね。「ロシア」の「ロ」です!
つまり、日本、北海道、ロシアの頭文字をそれぞれとってつけた名前なんですね。
しっかし、なんて安直な名前なんだ。今までわたし、数々の北海道のネーミングを褒めてきましたが、さすがにこれにはダメ出ししちゃいます。付けた人、センスなさすぎでしょう。もう、付けた人の座布団持っていっちゃいます。ある意味、死刑です。
道の駅からしばらく走り、問題の「ニ・ホ・ロ」に到着。いや、存在は問題じゃないわけで。問題なのは、その名前ですね。
建物の横に自転車を停め、早速中へ。
ガラーン。うわ。誰もいねーじゃん。無料だから、それにちょっとした観光施設だから、たくさんの人で賑わっているかと思っていたのに。観光客らしき人誰もいず。もしかしてここ、本当は来ちゃいけないところなのか。それとも要人限定で一般の人は立ち入り禁止だとか。本当はどうなのよ、どうなのよー。誰か答えてくれー。
なんてことを一人心の中で叫びつつ一旦、外へ。
とりあえず自転車のそばに立って、一人作戦会議&食事タイム。菓子パンをかじりながら首を捻っていると、スタッフらしき男性が建物の中から出てきて、わたしに話しかけてきた。
え?なに。もしかしてウェルカムなの?入っていいの?なーんだ、そうだったんだあ。もー、早く言ってくださいよ。わたし、北方領土に関心があるのですけど説明とかしてもらえるんですかね?すると、一人の女性スタッフを紹介してもらった。どうやらこの人がわたしにいろいろ説明してくれるみたいです。
それにしてもこの方、顔の造作はよいのですが、全体的にふくよかというか、ふっくらとしているというか、かっぷくがいいというか、まあ、早い話、太っているんですね。
あーあ、とうとう言っちゃった。ごめんなさい、悪気はないのです。ただ分かりやすく言いたかっただけなのですよ。もう少し痩せれば美人の類になるのにと余計なお世話なことを考えつつお願いすることに。
いやー、それにしても彼女がいろいろ説明してくれたおかげで、今まで抱いていた疑問が氷解した。
元々、北方四島(国後島・択捉島・色丹島・歯舞群島)にはアイヌの人々が住んでいたそう。
これにはちょっとびっくり。ロシアと日本でやりあっているから、てっきりどちらかが先に住んでいたのと思っていたのだ。
一八八五年二月七日(ちなみに現在、二月七日は北方領土の日に制定されている)、日露通商条約が結ばれ、樺太がロシア領、千島列島が日本に帰属することが両国の間で正式に認められた。しかし、図々しいソ連(現ロシア)の野郎(そう呼んじゃいます)は第二次世界大戦時に日本の敗戦が決まると、そのドサクサに紛れ北方四島を乗っ取っちゃうわけですね。
そもそも、秘密裡に行われたヤルタ会談で千島列島はソ連に帰属することが決まっていたのである。もちろん日本の承諾なんてありゃしない。だが、ここがポイント。よく考えてみると、日露通商条約の時に北方四島を含む千島列島は日本の固有の領土として認められているわけだ。にもかかわらず、なして第二次世界大戦時に奪ったわけでもない北方四島をソ連に占領されなきゃあかんのだ。よー、よー、ソ連さんよー、あんたこれは前に日本の領土と認めたやんか。たとえて言うならば、元々の日本領土である北海道をソ連に上げるようなもんでしょ、これは。解せません。いやー、解せません。
これまで幾度となく日本とロシアの首脳の間でたくさんの会談がなされてきた、とパネルには書かれてある。しかし、現状を見る限りでは一向に問題解決が進展している気配がない。
返還運動をしている人には大変申し訳ないが、北方領土が日本に返されることはないと思う。だって、もうそこではロシア人が長い間生活しているわけでしょ。わたしがロシア人なら嫌だもん、日本に返すなんて。それにこんだけ長い間、両国首脳が会談していて表立った変化が見られないなら、やっぱり無理だと思う。
ところでわたしに説明してくれたこの女性、学芸員でもなんでもなく、単なる受付や事務をしている人なんだそうです。それなのにわたしの細かい質問(というより、ほとんどツッコミ)にも負けず、実に真摯に答えてくれた。まー、正直、かなり怪しい答えで、学芸員を呼ぶ場面もありましたが。
その後、彼女とは北方領土とはまったく関係ない話で盛り上がる(いつもこのパターン)。たとえば、お互い原宿で働いていたことがあったりとか。そんな話をつらつらと。
そんなこんなで話していると、先ほどの男性スタッフがやってきた。
「実は、彼女、昼食まだとってないんですよ」
あっ、そうなんですか。知らなかったとはいえ、それは申し訳なかった。
時計を見ると、すでに午後二時を回っていた。するっていうと、二時間も話をしていたのか。ちょっと長居しすぎましたかね。いやでも、あなた様のおかげで大変勉強になりましたよ。どうもありがとうございました。
ここでも予想外に時間を取ってしまった。というわけで、今日の納沙布岬行きはナシに。
まー、距離自体は往復五十キロということでそれほどでもないのだが、なんでもアップダウンがけっこうあるらしいのです。どうも明日から天気が崩れるみたいなので今日中に行っておきたかったのですが。
それにしてもさっきからずっと思っているのだけど、なんですか、このアップダウンは。すごすぎでしょ。根室に行ったことのある人なら分かると思うが、道がまるで大蛇の背のようにうねっているのである。ジェットコースターのように急激に下ったと思ったら、今度はシャカシャカと懸命に漕がないと上れないような坂。そして頂点に達したと思ったら、また急な下り坂。これが連続して現れるのである。
ひょえー。なんだい、こりゃ。なんかのアトラクションですか。わたし、そんなの乗った覚えないんですけど。しかもこれが幹線道路だけではなく、街中にある小さな道でも同様なのである。前後左右、これはなにかの嫌がらせか?と思うくらいうねりまくっているのである。わたしもそれほどたくさんの街を走ったわけではないが、ここ根室は間違いなく今までで一番走りづらい街です。

さて、そろそろ本日の寝床を探しましょうか。市役所でもらった地図を見るとこの近くには公園が三つある。ということは、この中から自分の気に入ったところを選べばいいわけだ。三つもあれば一つくらいは自分のお眼鏡にかなうところはあるはず。まー、楽勝でしょう、と思い行ってみる。が、全敗。なんと三つの公園すべてに東屋がないのだ。なに、これ。わたしへの嫌がらせ?おーい、根室市は東屋を認めていないのか。おれを寝かせてはくれないのか。うーん、困った。どうしよう。雨が降らなければ東屋がなくても問題ないのだが、残念ながら今晩は怪しい雲行きなのである。
仕方ない、ここは市役所に行って訊くしかないな。というわけで急な坂を上ってふたたび市役所へ。いかにもわたし可哀相でしょ、といった感じで職員に泣きついてみる。
「すいませーん、いろいろ公園を回ったんですけど、どこにも東屋がないんですよー。どこかこの近くに東屋のついた公園はないですかねぇ」
そんなわたしを見て心を動かされたのか、職員総出で頭をつき合わせて考えてくれた。
「ここからちょっと行った先に運動公園があります。たしかそこなら屋根のついたベンチがあるはずです」
マジですか?こりゃ、ありがたい。よっしゃー。そこ行きましょ、そこ。逸る気持ちを抑えながら自転車を飛ばす。坂を下った先にその公園はあった。早速東屋を探す。えーと、東屋、東屋はと。あった、あった。ここだ。
ガックシ。マジかよ、これ。
いや、あるにはあったのだが、正直言って微妙なのである。屋根は小さいし、ベンチにいたってはベンチというのも憚れるくらい狭い。これ、寝るにはかなりキツイだろ。まあでも、東屋といったらもうここしかないし。それに正直、他を探す気力はもはや残っていない。
仕方ない、ここにするか。後は雨が降らないことを祈ろう。多分大丈夫。だと思います。もし降ったら、来る途中に見つけた潰れたガソリンスタンドに避難すればいい。なんとかなるでしょう。
しっかし、根室は涼しいところと聞いていたがこの暑さ。しかもちょっと移動するだけでえらい坂を上り下りしなきゃいけないという坂地獄。もう、精神的にも肉体的にもヘロヘロです。
そんなわけで、ちょっと休憩がてら図書館へ行くことに。パソコンありますか?と訊くが、「ありません」とのお答え。あーあ、がっかり。しょうがない、スポーツ新聞でも読むか。新聞を手に取り、椅子に座る。一ページずつ丁寧に目を通していく。
わーお。なんだい、こりゃ。なんとエッチな記事が載っていたのです。おいおい、マジかよ。図書館でこれはいいのか。許されているのか。だってここ、公共の場所でしょ。未成年だって来るんでしょ。いいんですか、こんなの置いておいて。うーん、わたしには理解できません。それとも根室はエロを推奨しているのか。いやはや謎過ぎます。

時刻は午後五時過ぎ。これからお風呂入って、洗濯して、ドコモショップでケータイの充電、最低それだけはしておかないとならない。そう、けっこう忙しかったりするのです。
案の定、洗濯が終わる頃にはとっぷり日が暮れていた。暗くなる前には寝袋に入っていたいわたしとしてはずいぶん遅い時間。あちゃー、こんな暗い中、走りたくないよー。急いで運動公園に戻る。ベンチの上に寝袋を広げ、その上で発泡酒を飲み始める。すぐ目の前をジョギングやらウォーキングをしている人たちが続々と通り過ぎていく。さすが運動公園ということだけあって、どうやらここは絶好の運動コースのようです。そんな中で寝ようとしているわたし、明らかに浮いております。違和感アリアリです。時折、人の視線も感じます。でも、そんなこと気にしてられないのです。だって、ここしか寝るところないんだもん。しまいには、ウォーキングしている人をつまみにして飲む始末。おお、われながらふてぶてしい。ちょっと自分を褒めてあげたい気も。
それにしても、わたしもえらく図太くなったもんだ。以前なら考えられなかったこと。北海道で野宿をするようになって確実に変わったな、わたし。
あーあ、それにしても明日はどうしようかな。いやね、天気予報によると午後から雨らしいのですよ。テレビ見ても、新聞見ても、ヤフー見ても、どれも午後から雨、雨、雨。ここまで見事に揃っているなら、こりゃ確実でしょ。ということは、明日も根室泊で決まりですか。まったく気乗りはしませんが。
ちなみに明日の予定はというと、とりあえず午前中は納沙布岬へ行く。雨が降る午後は未定。
さて、午後から何しようかね?図書館で読書か?あっ、溜まっている日記も書かないと。で、泊まる所は?さすがに雨降ったらここじゃ無理。こんな小さな屋根なら濡れること必至なのです。そうだ!市役所の軒下はどうだろう!?明日は土曜日でどうせ休みだろうし。うん、そうしよう。しかし、いずれにしろ明日は雨の中を移動しなきゃならんのか。しかも、この坂の多い根室を。あーあ、考えただけでユーウツ。なんかだんだん落ち込んできた。えーい、もういい。考えたって仕方ない。暗くなるだけだ。とっとと寝よ。
2010年8月5日(木) 北海道三大がっかり (弟子屈―標津―野付半島―標津 111km)
午前四時二十五分起床。昨晩は足が痒くて一回、目が覚めただけ。後はぐっすり眠れた。さすがコテージ(だから、わたしの思い込みだって)、なかなかの寝心地である。そこらへんの公園とはわけが違う。
さっさと準備して午前五時半過ぎに出発。弟子屈の町に入る時は、随分坂を下った。ということは、今日はその逆で上り坂。えらいキツイんだろうなあと思っていたら、案外そうでもなかった。どうやら体力のある朝なら大丈夫なようです。
三時間ほど走り、中標津に到着。お腹が空いたので、セイコーマートでカップ焼きそばを食べることに。店内に入り、カップ麺コーナーに行く。おお!なんと百八円で七百四十五キロカロリーの焼きそばを発見。カロリーが同じくらいなのにわたしがいつも食べているのより八十円も安い。わーお。こりゃ、もう買うしかないでしょ。しかも同じマルチャン商品だし。わたし、自慢じゃありませんけど週に五回はマルチャンの焼きそば食べてます。これだけ食べているんだから、表彰状の一つも来てもおかしくないと思うのですが。どうですか、マルチャンの関係者。これを見ていたら、是非ご検討を。
さて、味の方はというと・・・・・・。うーん、どうなんでしょう。食べ慣れてないせいか、ちょっとイマイチかも。次からはいつものに戻そうと思います。
焼きそばを食べ終わり、図書館へ向かう。さっき警察署でもらった地図を見たら、ここから案外近かったのです。しかし着いてみてびっくり。開館時間は十時から。ガーン!てっきり九時半からだと思っていたのにー。ちなみに現在の時刻は九時二十分。ということは、あと四十分も待たなきゃいかんのか。ま、しゃーないけどね。それにしても十時開館の図書館って初めてかも。仕方ない、日記でもつけて待つか。相変わらず溜まっているのです。
この図書館は、ホールや市の出張所が入っている文化施設の一画にある。ちょうどホールの前にロビーがあったので、そこのソファに座って日記を書くことに。それにしてもこのソファ、古びてはいるが大きくてフカフカ。しかも色がゴールド。なんだかゴージャス感が漂っているソファである。はっきり言って、わたしみたいな旅行者が座るにはちょっと気が引ける。「ゴメンなさいね」と思いつつ腰を沈めるが、やはり落ち着かない。結局、あまりリラックスできないまま日記を書くことに。
ようやく十時。図書館へ。インターネットが使えることを確認し、ネットコーナーへ直行。まずは音楽を聴く。いやー、やっぱりT.S. Monkの「Candid For Love」はいいね!この流れるような曲の展開、煌びやかな音世界、何度聴いてもテンション上がります。これ、秘かにわたしのテーマソングにしております。
続いて、金丸くんのブログを読む。うーん、さすがですな。
金丸くんはただ日本を周っているだけじゃないんだよね。ただ自転車に乗っているだけじゃないんだよね。食に関することをテーマにいろいろな体験をしている。
それにひきかえわたしは・・・・・・。うーん、中味・・・・・・ないよなあ。というか、旅とは言えないね、これは。ただ自転車で走っているだけもんなあ。
まー、でも、これでいいっちゃいいんだけどね。だって、元々の目的が自転車で北海道を一周することなんだから。でも、そうは思うのだが、自分の中に違和感があるのもまた事実。
はーっ。ため息、出るよねぇ。
金丸くんに出会ってから、自分の中でどんどん疑問が沸いてきている。本当にこれでいいのだろうか。本当にこんな風に走っていていいのだろうか。もしかして自分は重大な間違いを犯しているんじゃないだろうか。
でも、そうは思ってみても、じゃあ、自分はいったい何をすればいいわけ?どんな風に走ればいいわけ?金丸くんみたいに何か好きなことがあれば別だけど、自分の場合は・・・・・うーん、まったく思い浮かばない。
正直、なにか焦ってきている。金丸くんに限らず他の旅行者だってわたしが単に走っているだけの間にどんどん実のある経験をしているはず。なのに自分は・・・・・・時間を無駄にしてるよなあ。まあ、焦っても仕方ないんだけどね。
とりあえず野付半島のネイチャーセンターに行って話でも訊こうか。そうやって自分の興味を持ったことをやっていくしかないのではないだろうか。とりあえずそういう結論に至った。

図書館を出ると、朝とは打って変わっての青空。ギラギラした太陽が、わたしになんの断りもなく降り注いでくる。今日も暑い一日になりそうだ。
さて、これから野付半島に向かおうと思います。なんでもそこには立ち枯れしたトドマツやナラの木がたくさんあり、珍しい景観を作っているそうなのです。
しばらく走ると、道路に電光気温表示板が立っていた。暑いなー、と思い見てみると二十七度。うわっ。これ、やっぱり暑いよね、北海道にしてはさ。でも、東京って三十七度くらいあるんでしょ。みなさん、一体どうやって過ごしているんでしょうか。死人とか出てないんでしょうか。
そこからさらに走ると、野付半島に出た。突如、潮の香りとともに風が吹いてくる。うーん、ひんやりして実に気持ちいい。いや、むしろちょっと寒いかも。
周りを見渡せば、左手には海、その向こうには国後島。相変わらず大きいのね、国後島。今度は右手に視線をずらす。こちらにも海。その向こうには、わたしが今まで走ってきた北海道本土が横たわっている。あー、でっかいね、北海道。
こんな景色、なかなかお目にかかれないだろうなあ。ほんとおれって、いい経験してるよなあ。いいんですかね、こんないい思いしちゃって。軽く罪悪感を覚えるわたし。こう見えても根は小心者なのです。
途中、展望所があったので寄ってみる。
「この先行っても、見るものなーんもないよ。景色も普通だし。ただ枯れた木があるだけだよ」一人のおばさんが、行くだけ損だよ、といった顔で、ボーっと地図を眺めていたわたしに声をかけてきた。
ええっ。そうなんですか。マジですか。というかわたし、これから行くんですけど。
あーあ、聞くんじゃなかった。
と思う一方、やはりという思いもあった。というのは、先日羅臼で出会った徒歩青年、彼も野付半島について話していた時、声のトーンが下がっていたのである。
うーん、どうしようかねえ。せっかく行ってたいしたことなかったら馬鹿みたいだしなあ。でも、ここまで来たんだし、引き返すのもなあ。それに、ひょっとしたら案外いいところなのかもしれないし。
まあ、いっか。たいしたことないんだったら、それはそれでしょうがない。でも、それも行ってみなければ分からない。行かない後悔よりは、行っての後悔だ。よし、たいしたことないことを経験にしに行こう。
いつになく決意を固めたわたし。というか、そうでも思わないと一歩も先に進めないのですよ。
なんとか自分を奮い立たせ、自転車を走らせると、「行かない方がいいよ」といった感じで向かい風がわたしに当たってくる。あらら。やっぱり行かない方がいいわけ?
向かい風に苦戦しながら、ようやく「野付半島ネイチャーセンター」らしき建物が見えてきた。それにしても、なんかやけに人が多いんですけど。どうしたの、これ?だってここ、言っちゃあ悪いけど、ガイドブックにもちっちゃくしか取り上げられていない、言ってみればマイナーな観光地だよ。なのになんでこんなにたくさんの観光客がいるの?しかも大型バスも何台も停まっているし。
近づいてみて謎が解けた。高校生と思しき集団がわんさかいたのです。なるほど、そういうわけですか。これ、きっと野外学習の一環かなんかなんでしょうね。
うーん、それにしても嫌な時に当たっちゃったなぁ。だって高校生でしょ。どうせ、「かったるいよー。マジやる気ないんだけど」なんて言って歩き回るに決まっています。自分の高校時代を振り返ればそんなの手に取るようにわかります。そんなのと一緒にいたら、落ち着いて周れやしない。というわけで、彼らとはしっかり距離をとっておこうと思います。

ネイチャーセンターの中に入る。一階はわたしにはどうでもいい売店。チラッと目をやっただけで二階へ。上がってみると、そこには野付半島の自然や動植物に関するものが展示してあった。
部屋の中に射し込んでくる陽光や山吹色したウッド調の壁が、ほのぼのとした雰囲気を醸し出して、なかなかいい感じ。いやー、和みますなあ。
でも、ここって、どちらかといえば小さい子供向きじゃない?それによく考えれば、わたし、動植物にあんまり興味ないし。ここ、わたしのような人間が来る場所じゃないんじゃないの?そんな疑問を抱きつつとりあえず周ってみることに。
まずは、大小様々な鹿の角が展示してあるコーナーへ。角のそばに「手にとってみてください」という文字があったので、早速一番大きいものを手にとってみる。
うわ!おもっ。実際持ってみると、これ、中に鉛でも入っているんじゃないの?と思うくらいズッシリとした重量感なのである。片手でラクラク持てると思っていたわたし、危うく落っことしそうになりましたよ。
あれやこれやと触っていると、小さい女の子がわたしの横に来てなにか思いつめたようにじっと鹿の角を見ていた。触れてみたいけど、触れるのが怖い、そんな感じだった。
「これ、重いよ。ちょっと持ってごらん」わたしが女の子に声をかけると、彼女はわたしの声に押されるように一番重い角を手に持った。その瞬間、予想通りガクンと腕を下に落としていた。
あはは。でしょ。思ったより重いでしょ。わたしも驚いたんですよ。
ところでみなさん、鹿と牛の角の違いってわかります?
そもそも二つの角には決定的な違いがある。鹿の角は皮膚の一部が変化してできたものなのだが、牛の角は骨の一部が変化してできたもの。そのため、鹿の角は毎年生え変わるのだが、牛の角は生えたら一生そのままなんだそうです。
へー。そうだったんですか。これも知りませんでした。それにしても自分が知らないことを知るって気持ちいいもんですね。なんだか自分の頭に一つ知識が蓄積されていく感じがよいです。ちょっと自分がパワーアップした感じがします。
他にもいろいろ面白いことがあったが、中でも一番面白かったのが、鹿は角がない時には臆病になり、角が生えると逆に攻撃的になるということ。あはは。これ、人間と同じじゃん。たとえていうなら、刃物を持つと急に強気になるとダメなチンピラとか。あるいは核兵器を持って無理難題を通そうとする北朝鮮とか。さしずめそんなところか。
横に移動すると、ラムサール条約についての説明パネルがあった。
ん?ラムサール条約?聞いたことはあるが詳しくは知らない。
ラムサール条約は、日本では「特に水鳥の生育地として国際的に重要な湿地に関する条約」とされている。ちなみにこの条約が作成された場所がイランのラムサールという町。というわけで、日本では通称ラムサール条約と呼ばれている。
とまあ、見事なくらいパネルの丸読み。
ちなみに日本では三十七箇所が認定されているそうです。へー、意外と多いんですね。こういうところに来なきゃ、一生知ることもなかったかもしれない。そう思うとなんか得した気分。
続いて鳥の写真を何枚か見て終了。これにて二階の展示物は一通り見たことに。
さて、どうしよう。もうすることないんですけど。手持ちぶさたになり周りを見渡す。するとカウンターの横に一冊のノートが置いてあるのが目に入ってきた。いわゆる観光客用の感想ノートらしい。なんの気なしに手にとって中を見てみる。
「来てよかったです!」「今日は雲っていたので、今度は晴れた時に来たいです」「二十年振りに来ましたが、枯れ木が少なくなっていたので、がっかりしました」様々な感想がそこには書かれてあった。更にページをめくる。
ギャハハハ。なにこれ、面白すぎでしょ。
そこにはアンパンマンのキャラクターたちが何ページにもわたって、落書きされていたのである。アンパンマンはもちろん、食パンマン、ジャムおじさん、メロンパンナちゃん、ドキンちゃん、もちろん宿敵バイキンマンも。まさにオールスターキャスト勢揃い。
それにしても、人が真剣に読んでいたらいきなりアンパンマンかよ。しかも、これがまた下手くそなんだなあ。幼稚園児くらいの子供が描いたのだろうか。
まさかこんなところにアンパンマンの絵が出てくるとは予想もしていなかった。だって野付半島とアンパンマン、どうみても関係ないでしょ。それを考えていたらまたしても笑いがこみ上げてきた。
「これ、面白いですね!」あまりにもおかしかったわたし、いつの間にか、横にいた女性スタッフに話しかけていた。
すると、それをきっかけに(というのも情けない話だが)どんどん話が広がっていき、いろいろな話を聞くことができた。
そもそも野付半島は周りの海流によって運ばれた砂によってできた半島なのだが、最近では海面の上昇や近隣の漁港が設置した消波ブロックの影響で海流の方向が変わってしまい、年平均一・五センチで地盤沈下が進んでいるそうなのです。
しかも、ここ周辺は世界三大漁業(出たー!ここでも世界三大ナントカ)の一つと言われるほど漁獲量が多い場所、このまま地盤沈下が進めば、植生だけではなく漁獲量にも影響を与え、非常に深刻な問題になるそうです。
へー、そうなんですねー。今までそんなこと考えたこともみなかった。ちょっとした環境の変化で様々なところに問題が出てくるんですね。なにかとても深い話が聞けた、そんな気がした。
ここでちょっと余談。このスタッフ、北海道出身ではなく埼玉県出身だそうです。それだけならなんてこともないのだけれど、なんと以前わたしが住んでいたのと同じ市の出身だそうです。
わーお。さすがにこれには驚いた。しかも住んでいた時期が少しだぶっていましたよ。もしかして、どこかで会ってたかもね。しばし、地元ネタで盛り上がる。これ、今日一番の盛り上がり。
それにしても、スタッフの方に出身地を訊いてしまうわたし。アンパンマンを描く子どもと大差ないじゃん。
するっていうと、なにかい、わたしは幼稚園児レベルってことかい。とくに反論はありませんが。

せっかくここまで来たので、トドワラの枯れ木を見に行くことに。たいしたことないらしいですけど。
人が一人やっと通れる遊歩道を二十分ほど歩いていくと、水辺に白い枯れた木が見えてきた。
うわー。ほんとたいしたことない。というか、枯れ木自体の数が少ないのです。たくさんあってこその奇観なのに、少なかったら単なる枯れ木以外のなにものでもないのです。あーあ、来るんじゃなかったかも。
ネイチャーセンターに戻り、半ば抗議まがいに女性スタッフに言う。
「ガイドブックの写真と違って、全然少なかったですよ」
それを聞いた女性スタッフは眉をハの字にして答えた。
「そうなんですよね。わたしたちも現在の写真を送っているんですが、なかなかそれを採用してもらってないみたいなのです。そういえば、以前来られた観光客の方もやはり枯れ木の少なさに、『まったくもう。北海道三大がっかりの一つだよ』とおっしゃっていましたね」
その気持ち、よーくわかります。だって、わたしもがっかりしましたもん。
というか、出たー!またまた三大ナントカ。誰か名づけたか、「北海道三大がっかり」。そんなのはじめて聞きましたよ。
ところで、残りの二つはなんなんでしょう?どうでもいいこととはいえ、すごーく気になります。知っている方いらっしゃいましたら是非ご一報を。
そういえば、トドワラを見た帰り、会う人会う人に「トドワラどうでした?」「見る価値あります?」と訊かれましたっけ。どうやら北海道三大がっかり、しっかり浸透しているようです。

ネイチャーセンターを後にし、来た道をUターン。標津の街へと向かう。
今日の寝床は、羅臼で出会った徒歩青年が教えてくれた森林公園。と思ったのだが、走っている途中にバス待合所を見つけたのでそこに変更。中に入ってみたらそこそこキレイ。
近くにあるお風呂に入り、バス待合所への道を戻る。いやー、それにしても涼しい。いや、涼しいというより、寒いぜよ、これは。本当に内地では猛暑日なのか。ここにいる感じではまったく信じられないだけど。あまりに寒いので、「よかったらその暑さ、こっちにも分けてくれないか」、半分本気でそう思った。
2010年8月4日(水) 霧のない摩周湖 (弟子屈 67km)
午前四時、目が覚める。頭に真っ先に浮かんだのはあのおじさんのことだった。昨夜、おじさんが座っていた方に目をやる。おや、いない。ということは、本当に夜中に出ていったのか。あれはジョークじゃなかったんですね。夜の道を嬉々として走るおじさんの姿が頭に浮かぶ。なんかゾッとした。朝から気分悪し。
それにしても起きたくないなあ。だって、今日は朝一で激坂を上らなきゃならんのでしょ。嫌だなあ。
あーあ、本当は来る予定じゃなかったんだよ。それがわたしのほんの出来心でキツイ思いをしなきゃならないなんて。ほんと、わたしって馬鹿、馬鹿。
北海道に来て初めて寝袋から出たくなかったかも。まあ、そうはいってもこのままずっと寝袋に入っているわけにもいかない。結局は起きるしかないんですけどね。
しゃーない、起きますか。空を見ると、曇り。肝心の霧の方はというと・・・・・・どうやらここは大丈夫なようですね。摩周湖付近はどうだかわからんけど。
いつもより遅く起きたにも関わらず、なぜかいつも通り五時に出発。あんまり気乗りはしないけど行きますかね。案の定、ペダルを漕ぐ足取りは重い。だって激坂(以下省略)。
道道五十二号線、別名、屈斜路摩周湖畔線に入ると、いきなりだらだらした上り坂が始まった。またこれですか。北海道特有の上り坂。ま、いい加減慣れてはきましたけど。
無理しても仕方ない。どうせ途中で自転車を降りて押すんでしょ。というわけで、キツくなったらすぐに自転車を停めて休憩する。慌てない、慌てない。一休み、一休み。
霧の方はというと、うっすらと出てはいるが、視界を遮るほどでもない。
このぶんならおそらく摩周湖は見ることができるだろう。でも、別の言い方をすれば、それはキツイ坂を上ることでもある。
嬉しいような嬉しくないような。
途中、休み休み行くが、案外キツくないことに気づく。さすがに足をつかないで上るのは無理だが、かといって自転車を降りて押すほどでもない。そうこうしているうちに思ったより早く、そして楽に摩周湖の第一展望台に到着した。なんか呆気ない。それにちょっと物足りない気も。というか、わたしがビビリすぎなんですよね、きっと。
自転車を駐車場に置き、展望台に向かう。階段を上りきったところで摩周湖がその姿を現した。
わーお!すげぇー!いや、すごいわ、これ。
湖とそれを取り囲む山々の見事な景観が目の前にあったのだ。まるで額縁に入っている一枚の絵を見ているかのよう。
しばらく吸い寄せられるようにその景色を見ていた。いやー、まさかこんなにいいとは思ってもみなかった。正直、期待していなかった。だって、本当は来る予定じゃなかったんですよ。なんだかすごい得した気がした。
展望台にいたライダーの方と少しおしゃべり。その後別れたが、ふたたびトイレの前でバッタリ会ったのでまたお話をする。少し経つと、一人のおじさんが会話に混ざってきた。なんでもこのおじさん、二月から車で日本各地を周っているとのこと。
え!二月?二月っていったら、もう半年も経っているじゃないの。自転車ならまだしも、車で半年も周っているなんて相当いろいろなところを周っているはず、と思い訊いてみると、やはり日本全国津々浦々周っているそう。
そのまま話を続けていくと、無料で温泉が入れるという例の雑誌『ほっ』の話題になった。なんでもおじさんによると、北海道だけじゃなく東北や九州でもそういった雑誌が出ているとのこと。そうそう、忘れていた。『ほっ』を探さないと。いや、実はウトロでその存在を知ってからいろいろな所に行ってはコンビニで訊いているんだけど、これがことごとく置いてないという。正直言って、半分諦めかけているんですけどね。まあでも、もうちょっと頑張って探してみますか。
二人に別れを告げ、今度は第三展望台へ行く。ん?そういえば第二展望台は?深く考える間もなくすぐに第三展望台に到着。結局第二展望台はどこにあるのだろう。地図を見てもそれらしき場所はどこにも見当たらない。うーん、どういうことなんでしょうね。まあ、別にいいんですけど。
細い階段を上り第三展望台へ。先ほどまでとはいかないが、こちらもなかなかの眺めでした。

第三展望台を後にし、麓まで一気に下る。下り坂はヘアピンカーブの連続。少し怖かったが、スリルがあってけっこう面白く楽しめた。いやー、気持ちのいいダウンヒルでした。ごちそうさまです。
ここからは十キロと離れていない屈斜路湖へ向かう。途中、硫黄山に寄る。自転車を駐車場に置き、山の方に向かって歩く。うーん、さすが名前が硫黄山というだけのことはある。そこらかしこから硫黄の臭いがプンプンしてきます。立ち入り禁止区域の前まで行く。岩が見事な蛍光イエローに光っていて驚いた。なるほど、硫黄ってこんなに鮮やかな色だったんですね。はじめて知りました。
軒を連ねるお土産屋やホテルの前を通り過ぎ、屈斜路湖畔にさしかかる。途中、砂湯というところに立ち寄る。なんでもここの湖畔の砂を掘ると温泉が湧き出てくるらしい。早速、近くにいたおじさんにその話をしてみると、「ここを掘ればお湯が出てくるよ」親切にもお湯が湧き出てくる場所を教えてもらった。
早速教えてもらった場所を掘ってみる。おー、本当だ。熱い。それもけっこうな熱さ。でも、ほんと不思議だよなあ。ここは熱いのに、湖の水は冷たい。こっちは熱い。でも、こっちは冷たい。交互にやれば疲労回復にはいいだろうなあ、なんてどうでもいいことを考えてしまった。
再び屈斜路湖畔を走る。うー、つまらん。湖は時折、木々の間から顔を覗かせるだけでちっともその全容をわたしに見せてくれないのだ。
きっと見晴らしのいい高台まで上がれば見えるんでしょうね。でもね、今のわたしにはそんなところまで上がる気力はないのです。というわけで戻ります、わたし。
国道二百四十三号線を弟子屈の中心街に向けて走る。途中、車の中から「がんばってくださーい!」と声が飛んできた。見ると窓から小学生らしき男の子がこちらに向かって手を振っていた。
いやー、嬉しい。応援してくれて嬉しいですな。わたしもそれに応えるように大きく手を振る。しばらくして、わたしの中にある思いが湧き上がってきた。
もしかしたら応援する方もけっこう楽しいのではないだろうか。大きい声を出すのも気持ちいいだろうし。それに自転車で走っている旅行者を応援したというのが、彼のひと夏のいい思い出になるのかもしれない。
「こんなわたしを応援してくれるなんて申し訳ないなあ」今まではそう思っていた。でも、そう考えたら、「なんだ、そんなに恐縮することなんてないじゃん」そう思った。
というわけで、これからは堂々と応援されようと思います。

午前十一時、弟子屈の街中に到着。コンビニに入り、立ち読みしながら考える。さて、これからどうしよう。まだ昼前だしなあ。先に進む?でもなあ、これからあの坂を上るのもなあ。実は、弟子屈の街を出るにはそこそこの坂を上っていかないといけないのである。今日は朝一で摩周湖へ向かう坂を上っただけに、これからまた坂を上るのも正直腰が引ける。
まあ、それよりもなによりも午後から図書館でゆっくりしたいなあと思っているんですよ。って、完全に金丸くんのマネなんですけどね。さて、どうしようかね。しばし思案。
ま、いっか。焦って先行くこともないでしょ。図書館へ行きますか。
と、その前に、途中、本屋があったので寄ることに。そう、『ほっ』がないかなあと思ってね。正直、あまり期待はしていないけど。
「すいません、『ほっ』という雑誌あります?」レジの前にいた店主に、絶対ないだろうという確信を持って訊いてみた。訊いておいてなんですが。
「本屋だから、そりゃあるよ」店主は眼鏡をずり上げながら答えた。
「ウソ!マジで!」
「ウソもマジもないよ。あるものはあるよ」
「ええ!だってどこのコンビニにもなかったんですよ」
「そりゃ、コンビニだからないんだろう。雑誌なんだから本屋に来ればいいんだよ、本屋に」
まー、言われてみればそうなんですが。それにしてもなんだか少しご立腹なのは気のせいか。
「大体ね、コンビニは本なんか売らなくて、弁当だけ売ってりゃいいんだよ、おとなしく」顔に怒りを滲ませながら話す店主。「な、そうだろう?」
いや、言いたいことはわかるんですけど、なにもそんなにわたしに熱く語られても。わたし、単なる通りすがりの旅人なんですから。
とりあえず『ほっ』を手に取り、これから無料で入れる温泉があるかどうか見てみる。あちゃー。全然ないやんけ。しかもそこには今までわたしが入ってきた温泉がけっこう載っていた。うわー、ショック。あーあ、もっと早く知っていればだいぶお金が節約できたのにー。と思っても、後の祭り。すいません、やっぱいいです。手に持った『ほっ』をそっと元の場所に戻し、立ち去るわたしなのであった。
本屋を後にし、図書館に到着。インターネットで金丸くんのブログを最初から読む。その後、日記をつける。まだ一昨日の分も終わってないのです。一生懸命書いて、ようやく昨日の半分くらいまで書く。
さて、飽きた。雑誌コーナーへ。『BE-PAL』と『ダ・ヴィンチ』をペラペラめくる。

午後四時前、図書館を出る。お腹が空いたのでセブンイレブンでカップ焼きそばを食べることに。たまにはいつもと違うものにしようかと思ったが、結局いつもと同じものに。あまり冒険をしないんですよね、わたしっていうヤツは。
会計を済ませ、お湯を入れようと思ったらポットがない。あれ?なんで?なんでないの?店員の方に訊くと、なんとポットはカウンターの中にあるそう。つまりここは、お客が自分で入れるのではなく、店員に頼んで入れてもらうんですね。うーん、今まで数限りなくコンビニを利用してきたが、そんなシステム初めてです。
あっという間に食べ終わり、ケータイの充電をしにドコモショップへ行く。あそこはなかなか落ち着くんですよねー。今日も緑茶出ないかなー。半ば確信犯的に行ってみようと思います。
「すいません、ケータイの充電させてもらえませんか?」いつものように低姿勢でお願いする。ケータイを充電器に差し込んで、昨日と同じ場所に座って日記をつけ始める。
さてと、後は飲み物を出てくるのを待つだけ。五分経過。十分経過。そして三十分が経った。でも出てこない。
え?なんで?なんで出てこないの?
「出て来い、出て来い」今度は心の中で念じ始める。
しかし出てくる気配はない。さすがに二日連続は無理か。そう思っていたら、「これ、よかったらどうぞ」優しげな声が天から降ってきた。見上げると、缶を持った女性スタッフが目の前に立っていた。
キター!キター!出てきたー!ちなみに今日はウーロン茶。もちろんキンキンに冷えています。
「いやー、昨日も貰ったし、いいですよ。さすがに二日連続はまずいですよ」柄にもなく一応遠慮。わかっていると思いますが、貰う気マンマンです。
「いや、どうぞ、どうぞ」しきりに勧めてくるので、「そこまで言われたら仕方ないなあ」といった態で受け取る。缶のプルタブを引き、ウーロン茶を一気に口の中に流し込む。いやー、うまい、うまい。冷たいウーロン茶が喉に染み渡る。
「お客様に飲み物をサービス」。もしかしたらこれは店の方針なのかもしれない。しかし仮にそうだとしても、その心遣いがとても嬉しい。その優しさが胸に染み入る。
「実は北海道を一周しているんですよ」わたしがそう言うと、興味を持ってくれたのか、話が弾んだ。なんだかスタッフの皆さんとちょっと距離が縮んだ気がした。
一応、飲み物目当てで来ていると思われても嫌なので(思いっきり目当てですが)、明日はここを出発するのでもう来ないですから、と言い訳めいたことを言ったりする。
親しくなった記念に写メを撮って帰ろうとしたら、一人のスタッフが接客中だったので、閉店間際にまた来て撮ることに。できれば全員の写真を撮りたいのです。変なところで律儀なんですよね、わたし。
一旦、お風呂に入り、閉店時間の午後七時ちょっと前にドコモショップに戻る。まだお客さんがいたが、しばらくしたら帰っていった。
「すいませんね、お待たせしました!」にこやかな笑顔で言われてしまう。
あはは。いえいえ、こっちが勝手に撮りたがっているだけですから。というわけで、スタッフ三人揃ってパチリ。これ、彼女たちにとってもいい思い出になったのでしょうか。だったらいいんですけど。
「明日出発するんですか?」別れ際、スタッフの一人に訊かれる。
はい、明日五時には出ると思います。
「ええ!五時ですか!」大きな声で驚かれた。
あはは。そりゃ驚くかもね。普通の人の感覚からしたら、ちょっとおかしいもんね。
それにしても二日間、話した時間にすればほんのわずかだが、たったそんな短い間でも、知り合った人と別れるのはやはり辛いもの。それも親切にしてくれたならなおさら。
「なんならもう一泊しようかなあ」
そんなことがちょっと頭をよぎった。
公園に戻る途中、高床式の建物を見つける。中に入ってみると、壁にたくさんの鳥の絵が貼ってあった。どうやらここは野鳥の観察小屋らしい。床は少し鳥のフンで汚れていたが、そこを避けてマットを敷けば、充分寝れそう。よし!今日はここに泊まっちゃおう!
いやー、それにしてもまさかただでコテージ(単なるわたしの思い込み)に泊まれるとは思わなかった。今晩は高級リゾート気分(これもわたしの思い込み)を味わうと思います。
2010年8月3日(火) 変なおじさん (羅臼―開陽台―弟子屈 137km)
朝、寝ていると寝袋をゆすっている人がいた。だれだろう?もしかして、わたしのことを知っている人?でも、こんな所で知り合いなんていないしなあ。あっ、石立おじさんがいたか。でも、あのおじさんはわざわざわたしを起こすとは思えないしなあ。
ちょっと気味悪いなあ、と思いつつそっと目を開け体を起こす。わっ!驚いた。なんとそこにいたのは人ではなく、一羽のカラス!そう人がゆすっていたと思ったのはわたしの勘違い。カラスが寝袋の上に止まっていたのです。北海道に来て二十日近く経つが、寝袋にカラスが止まっていたのはこれが初めて。もしかして死んでいると思われていたのかも。
それにしてもカラスなんて縁起わりぃなあ。美人の女性なら大歓迎なのですが。
寝袋を畳み、道の駅の前にある地図を見に行く。今日は海岸線を外れ開陽台に行く予定。なんでもここは三百六十度水平線が見える素晴らしい場所、北海道に来る前に地元の自転車屋のご主人にそう教えてもらった。それを聞いたら、是非行かねば。
ところで意外と開陽台から摩周湖や屈斜路湖が近いことに気がつく。これ、そんなに距離ないよね?よし、ついでに行ってみる?せっかくだから行ってみるか?実は昨日までは開陽台に行ったらまたすぐ海岸線に戻ってこようと思っていたのです。
よっしゃー、予定変更。ついでに湖も周ったれ!
それにしてもわれながらけっこうな寄り道だよなあ。だって、わたしの目的は北海道一周すること。直接それには関係ないのになんでわざわざ寄るんだろう。一体全体どういう心境の変化なんだろう。
まー、なんかもう終わりが見えてきたんだよね。だいたい、後十日もあれば一周も終わるんじゃない?なんかここまできたらキリのいいところで三千キロは走っておきたい、とか。今帰っても内地は暑いだろうし、とか。そんなに先を急いでも仕方ないし、とか。寄り道するための理由ならいくらでも出てくる。
・・・・・・いや、はっきり言います。実はまだ北海道にいたいんですよ。ようやくここにきて、わたしも旅に慣れてきたのか、旅の良さがわかってきたのか。それはわからんけど、なんかもうちょっと北海道で旅を続けたい、そんな気持ちになったのです。
トイレの洗面台で顔を洗っていると、石立おじさんが現れた。外に出てしばらく話をする。
「ここの川には鮭が上ってくる」
「いっぱい鮭を貰った」
「秋には紅葉を見に来る」
さすが二十回以上も北海道に足を運んでいるだけあって、おじさんの話は尽きることはない。
でもね、一言言いたいことが。
おじさん、話長すぎ。
決して悪い人じゃない。それは間違いないところなんだんだけど、話し出したら終わりが見えないというのが欠点といえば欠点。
わたしが、もうそろそろ行こうかな、と言いかけると、「あそこの漁港はな・・・・・」と次の話が始まる。まったく、もー。

さすがに話を聞いてばかりいるのも嫌になってきたので、おじさんに、摩周湖に行くんだけど近くに野宿できそうな場所とお風呂がないか訊いてみた。すると、「道の駅の裏の公園は泊まるにはいいぞ」「そのすぐ近くに三百円で入れるお風呂があるぞ」というナイスな情報をゲット。
おお、これぞ生きた情報。そこらへんのガイドブックになんて太刀打ちできないでしょう。
ほんと、おじさんを荷台にのっけて一緒に走りたいくらい。で、わかんないことがあったら、訊く。「おじさん、ここらへんにいい寝床ない?」なーんてね。
さて、そろそろ行きますか。石立おじさんに別れを告げ走り出す。おそらくもう一生会うこともないだろう。そう思うと、ちょっと寂しさが募る。
国道三百五十五線を走り出してすぐに霧が現れた。うーん、また出ましたか。しばらく走ると、今度は羅臼峠が見えてきた。峠というからどれほどのものか、ちょっとビビッていたが、意外と大丈夫。ただの坂でした。

午前八時半、標津に到着。開陽台に行くため、ここから右折して国道二百四十四号線に入る。とその前に、飲み物と食料を補給しなくてはならないので、このまま真っ直ぐ四キロ先にあるセイコーマートに行く。そこで食事を済ませ、来た道を引き返す。
おお。目の前に荷物を積んだ一台の自転車を発見。早速スピードを上げ追いつき話しかけてみることに。乗っていたのは東京から来たという大学生。昨日、中標津空港に到着して、今日は羅臼に向かうそう。ちなみに昨晩は一泊五千円の民宿に泊まったそうです。
うん?五千円?五千円ってなに?というか、どのくらいの値段なのかまったくピンとこない。実は、わたし、ここのところずーっと千円以上の買い物なんてしたことないのです。今やわたしの頭の中には三桁の数字までしか存在しない。四桁の数字なんてまったく実感できないんですわ。
大学生と別れ、一路、開陽台へ。ツーリングマップルの通り、まっすぐな道がどこまでも続いている。
自転車で走っている人の中には、進んでいる感覚がないので、こういった道は嫌いという者もいる。でも、わたしはけっこう好きかも(平坦という条件つきですが)。走りに集中できるし、なにせ内地ではこんな道、走りたくても走れないからね。ここぞとばかり飛ばすことに。いやー、実に気持ちいい。
だったのもはじめだけ。途中からえらいアップダウンが始まったのだ。マジかよ、マジかよ、と言いながらがんばる。でも、さすがに開陽台のすぐ手前のあの坂、あれはないでしょー。なんなんですか、あれは。勾配十パーセントをはるかに越える坂がわたしの前に立ちはだかっていたのだ。
とんでもナッシング。こりゃ無理。押すしかないでしょ、と思い自転車を降りて押すことに。ハァ、ハァ、息を切らせ、ようやく開陽台の駐車場に到着。すると目の前には見覚えのある自転車が。おお!そこにいたのは、なんと斜里とウトロで会った大学生。これで三回目のご対面。しばし話をする。またどこかで会うかもね、と言って別れ、展望台へ向かう。階段を登り、屋上へ。
わーお。こりゃ、すごい。見渡す限りの地平線。後ろを見てもずーっと続いている。いやー、こんな景色はじめて見たわ。
しかし、残念ながら空は快晴とまではいかないので、地平線はくっきりとは見えない。でも、いい。それでもいい。これだけの地平線、見ることができただけで充分だ。うーん、やっぱり素晴らしい。来て見てよか
った開陽台。
ここからは摩周湖へ向けて走る。途中、標識に「弟子屈」という地名が。これ、初めて目にしますが、いったいなんて読むんでしょうか。うーん、「でしくつ」しか思いつかない・・・。
ジャーン。正解は「てしかが」でした。
って、わかるわけないっちゅうねん。一発で読めた人、天才でしょう。

午後二時半、その弟子屈入り。役場へ行って摩周湖の周辺道路の状況を訊くことに。道は平坦なのか、坂はあるのか。あるとしたらどの程度のものなのか。前もって知っておけば心構えができるでしょ。だって、いきなり行ってめちゃくちゃキツイ坂でも待っていたら、ショックでかいじゃないですかー。で、どんな感じなんでしょう?
「いやー、はっきり言ってキツイよ」
ええ!そうなの!マジなの?えー、そんな・・・・・・。
いやはや、大変なことになってしまった。ほんの軽い気持ちで寄っただけなのに。昨日の段階では来る予定じゃなかったのに。
来るんじゃなかったかも。止めときゃよかったかも。後悔の念が湧き起こる。
なんでも職員の方の話によると、摩周湖へ行く道は二通りあるという。直接摩周湖へ向かう道と、一旦国道三百九十一号線に出てそこから摩周湖へ向かう道。で、どちらかといえば、前者のほうが坂はキツくないという。まー、あくまでもどちらかといえばなので、どっちにしろキツイことには変わりはないのですが。
うーん、どうしよう。しばし頭を抱える。そんなわたしの姿を見ながら職員の方が言った。
「でも、霧が出たら行っても湖は見えないよ。今日も霧が出ていたので、もしかしたら明日も出るかもしれませんね」
ん?霧?出たら見えない?なんだそりゃ?
あっ、そうか。霧が出れば、摩周湖は見えない。そういうわけなのね。ということは摩周湖に行かなくても済むんだ。キツイキツイ坂を上らなくても済むんだ。「霧の摩周湖」という歌があるくらいだから、霧なんてしょっちゅう出るのだろう。わーい、わーい、明日霧出ないかなあ。そうすれば、「いやー、摩周湖の麓まで行ったんだけどさあ、霧が出てて湖まで行かなかったんだよね。だってどうせ行っても見えないだろうしさ。でへへ」なんて言い訳が立つしさ、自分に対しても、人に対しても。
・・・・・・何を考えてるんだ、わたしは。
せっかくここまで来たというのに霧が出て欲しいと思うなんて。馬鹿か、わたしは。
とはいえ、やっぱりキツイ坂を上りたくないのが本音。摩周湖見たいよりも、苦しい思いをしたくないんだもん、というのが正直なところ。
あーあ、テンション下がったなあ。話を聞くまでは、さっさと今日のうちに行っちゃおう、なんてことも考えていたんだけど。なんかすっかり走る気をなくしてしまった。
あー、もういいや、今日はヤメヤメ。明日朝一番に行こう。
時計を見ると、まだ午後三時。特別することもないので、後はゆっくりすることに。
役場のすぐ目の前に図書館があったので中に入ってみる。スポーツ新聞を発見。ちょっと見てみますか。わーお。さすがは北海道。たいした話題でもないのに日ハムが一面。デイリーの阪神みたいなものか。ついでにパソコンが使えたので、ネットもやってみる。
その後、近くにある道の駅へ。ここ、ちっとも大きくないが、観光案内所の女性がとても気さく。わたしがボーッと立っていたら、「どうしました?何かお探しですか?」と矢継ぎ早に訊いてくる。そこで石立おじさんに教えてもらった公園とお風呂の場所を訊く。すると両方ともすぐ近くにあるとのこと。
早速、教えてもらった公園に行ってみる。おお!すげーぇ。いいじゃん、ここ。なんとそこには大きな東屋が立っていたのだ。ここなら雨の心配はまったくない。しかも外にはベンチが一、二、三、四・・・・・なんと九個もあるではないか。もうどこでも寝ていけ状態。東屋の中に入る。すると、そこにはテーブルとベンチが三組ずつ、デーンと並んでいた。きっとここは大勢で食事を摂るための場所なんだろう。といっても、わたしにとっては寝る場所なんですが。
いやー、素晴らしい。しかも、しかも、ここから自転車で五分のところには、お風呂、コインランドリー、スーパーと生活に必要なものがすべて揃っている。いやー、マジ嬉しい。というか、石立おじさん、ありがとう。あなたは神でした。
しかし一方では、こんなことで喜ぶなんてわたしもずいぶん安上がりな人間になったもんだなあ、という思いも沸き起こってきた。
まー、いっか。それはそれで。せっかくいい気分なのだ。深く考えるのはよそう。
荷物を東屋に置いて、ドコモショップへケータイの充電をしに行く。さっき道路脇にお店があったのが目に入ったのです。
待っている間、日記をつけていると、「暑いでしょ」と女性スタッフの方が缶入りの緑茶をわたしの前に差し出した。しかも冷蔵庫に入れてあったのかキンキンに冷えている。
わーお。なんたる歓待振り。今度は女神が舞い降りてきましたよ。めちゃくちゃ感激。めちゃくちゃ感動。旅に出るとことさら人の気遣いに心動かされてしまうのです。
ドコモショップを後にし、お風呂に入りにいくことに。ここはペンションが経営しているお風呂。今日はそこに入らせてもらいます。

お風呂から上がり、コインランドリーで洗濯し終わると時刻はすでに夜の七時。すっかり日が暮れていた。
急いで公園に戻ると、東屋に一人のおじさんが座っていた。しかもけっこうな音量のラジオと一緒に。
あー、なにすんの。わたしの東屋なのに。なんであなたがここにいるの、せっかく今日はいい気分で寝るつもりだったのに。
と、思ったが、まあ、いいや。いい話し相手になるかもしれんし。そう思い直し近寄る。が、なんか変。よく見ると、おじさんの自転車はママチャリ。しかもテーブルの上にはなぜかたくさんの五百ミリリットルのペットボトルが山積みになっていた。しかも全部空。
ちょっと、ちょっと。これ、意味不明すぎるでしょ。どうみたって普通の旅行者じゃない。もしかしてホームレス?とも思ったが、見た感じ、そうでもなさそう。
うーん、なんなんでしょう、この人は。それにしても参ったなあ、こんな人と今日一緒に泊まるのかよ。さっきまで高かったテンションが一気に下がった。
といっても、わたしが先に見つけた東屋なんだ。こんなことで怯んじゃいけない。よし、こうなったら先制パンチ。ちょっと気合を入れておじさんに話しかける。
「おじさん、今日、ここに泊まるの?」
「いや、夜の一時に出る」
「え!一時!なんでそんな夜中に出発するの?」
「だって夜の方が走りやすいだろ。道の真ん中も走れるし」
なるほどね。そっかぁ。おじさん、いいこと思いついたね。
って、おい、夜でも道の真ん中走っちゃいかんだろ。やっぱり、このおじさん、なんか変。いや、ものすごく変。
話している限り、決して悪い人じゃないと思う。いや、思いたい。うーん、でもなんか自分の世界に入っていて、会話していてもなんかまともじゃない感じが。やっぱりちょっと普通じゃないよね。というか、なんか気味悪い。なんか怖い。こんな人と同じ屋根の下で一夜をともにするなんて怖すぎでしょ。
しゃーない、外のベンチで寝るか。何かあったらでは遅すぎるもんね。って、その何かってなんなんだろう。いや、想像するのも怖いのです。
荷物一式持って、移動開始。そんなわたしに気に留めることもなく、おじさんはラジオを聴きながらビールを飲んでいる。普通、こういう時なんか声かけるよなあ。やっぱ変だわ、このおじさん。
ベンチに寝袋を敷いて横になる。公園には灯りがないため辺りは真っ暗。仕方ないので自転車のライトをつけて、発泡酒を飲む。が、手元を誤り、倒してしまった。寝袋の上をジュワーと音を立てて発泡酒が流れ出ていく。あわわ、あわわ。うー、ショックでかー。だってこの寝袋、今さっき洗ったばっかりなんですよ。もー、なにやってんだ、わたしは。
いい、いい、もういい。忘れてとっと寝よ。残った発泡酒をぐいっと飲み干し、寝袋を体にかけじっと目を瞑る。明日は霧、どうだろう。なんてことを考えていたらいつの間にか意識が遠のいていった。




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