北海道一周、自転車で走ったよ!?
2010年夏、苫小牧をスタートしました。さて、結末はいかに? 紀行エッセイです。
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2010年8月2日(月) いざ、知床峠越え(ウトロー知床峠―羅臼―相泊―羅臼 88km)
午前四時起床。もう、なにもしなくてもこの時間に起きられるようになった。
ところで、昨日、寝ながら考えていた。やっぱり、わたしは金丸くんみたいな旅はできない。
正直、金丸くんや少年の話を聞いていると羨ましく思うこともある。でも、今のわたしにはいきなりそれはできない。もしかしたら、そのうちやるかもしれないが、少なくとも今は無理。とりあえず、基本、今までのわたしのやり方でやっていこうと思う。なによりそれを貫くことで見えてくるものもあるかもしれないし。
空を見上げてみる。すると、そこには昨日とは打って変わっての青空があった。
正直、天気のことはどうでもよくなってきている。だって、天気のことは自分ではコントロールできない。コントロールできないことに気を揉んでも仕方がない。
今回の旅は、晴れの日はものすごく少ない。曇りや雨の日がほとんどだ。でも、もしかしたらそれでいいのかもしれない。曇りや雨だったから見えてくる、分かるものがあるのかもしれない。ずっと晴れだったら気づかなかったことがあったのかもしれない。今は、それが何かは分からないけど。
おお、今日はのっけから哲学的な話をしている。
さて、準備もできたし、五時に出発。いつもならね。でも、今日はカムイワッカに行くんだもん。のんびりしていても大丈夫なんだもん。というのも知床自然センターからのバスの始発が八時四十分。七時にここを出ても十分間に合うのだ。
時間を持て余したということもあって、少年の様子を見に行くことに。少年はすでに起きていた。おっ、早いじゃん。
しばらく少年と話していると、世界遺産センターの軒下でテントを張っていた自転車ツーリストが声をかけてきた。話を聞くと彼も日本一周しているとのこと。そういえば、昨日、少年が、「自転車で日本一周している人(しかも二人)と行動を共にした」と言っていたなあ。金丸くんといい、けっこう日本一周している人っているんですね。もう、日本一周と聞いても驚かないかも。
とはいえ、驚いたこともいくつかあった。まずは彼の荷物の量。これがリアキャリアにサイドバック二つとスポーツバックを載せているだけ。なんと北海道一周のわたしより、少し多いだけなのだ。
疑うわけではないが、訊かずにはいられなかった。本当にこれだけ?
「はい」
本当だった。目は真剣そのものだった。
うっそー、マジ?うーん、荷物だけ見れば、誰も彼が日本一周していると思わないだろう。昨日の金丸くんは荷物テンコ盛り、この青年は「荷物、少なっ!」状態。同じ日本一周でもいろいろなんですね。
もう一つ驚いたのが、彼が乗っている自転車。なんとロードバイクだったのだ。
たいてい日本一周している人は、マウンテンバイクか、ツーリング車、ランドナー。そういったわりと頑丈な自転車を使うのが常識。しかし、彼はおおよそ適しているとは思えないロードバイク。こんな人、初めて見た。しかもタイヤの太さが二十五C。おいおい、マジかよ。わたし、札幌の自転車屋で二十八Cでも細いと言われたんですけど。本当に大丈夫なのか。これでパンクはしないのか。当事者でもないのにこっちが心配してしまう。
洗濯をしに近くのコインランドリーへ。今度いつできるのかわからないので、できる時にやっておくのが最近のモットーになりつつあります。
洗濯、乾燥が終わり七時十五分に道の駅を出発。少年とはここでお別れ。彼はわたしより一足先に知床峠へ向かうのだ。少年に手を振るわたし。じゃあなー。

午前八時前、知床自然センターに到着。バスの出発までまだ時間はあるが、その前にしておきたいことが。
実はこれから、昨日、オシンコシンの滝で会った写真屋さんのおすすめで、プレベの滝を見に行くのです。
ところが、行って帰ってくるだけで四十分もかかるそう。それだけでバスの発車時間ギリギリ。今日ここに来てはじめてわかった。って、おい。
次のバスで行くことも考えたが、そうするとしばらく待たなければならない。しかしそれは待つことが嫌いなわたしには酷な話。それよりなにより、昨日から朝一のバスで行くと決めていたのだ。今さら変更なんてしたくない。まったく融通がきかないわたしなのである。
というわけで、朝ののんびりムードはどこへやら。いきなり小走りする羽目に。森へ入って行く。鬱蒼とした森だ。とっくに日は昇っているのに中は薄暗い。当然ながら、こんな朝早くに人はいない。さっき見た「熊注意!」の看板が頭によぎる。ビビるよなあ。こんなところで襲われたら誰も助けてくれそうにない。一人寂しく死んでいくのかよ。悲しい。熊が出ませんように、と緊張しながら森を駆け抜ける。
突然、視界が開けた。目の前には黄色い花が散りばめられた草原が広がっていた。さらに先に進む。わーお。右手にパックリと口を開けた断崖絶壁が目に飛び込んできた。空では、何十羽もの海鳥たちが四方八方、滑空を繰り返している。実に気持ちよさそう。見ているこっちも気持ちがいい。
海に目をやると、一隻の観光船がゆっくりと進んでいた。試しに手を振ってみる。気づいたでしょうか。あそこで手を振っていたのはわたしです。
ケータイを見ると八時十分。そろそろ戻らなければ。急ぎ気味に走っていくと、なぜか目の前にはロープ状の鎖が現れた。あれ?おかしい。さっきわたしが来た時にはなかったはず。なんでこんなところにあるんだ?・・・・・・もしかして……。
そうなんです、道間違えたんです。もー、マジかい。ただでさえ時間がないというのにー。でも、すぐに安堵した。というのも、その向こうには観光バスが通っていたのである。ここらへんでバスが通れる道といえば、今朝、わたしが自転車で通ってきた道路だけ。ということは、そこに出ればとりあえずセンターには戻ってこれるはず。
ところで、ふと思う。ここで突然、少年が自転車を漕ぎながら出てきたら笑えるよなあ。舞台の袖から出てくるみたいに。
まあでも、少年がいつ出発するか聞いてないし、そんな偶然あるわけないか。出てきたら笑えるけどね。なんてことを考えながら鎖をまたぐ。数歩歩いて国道に出た。
少年が坂を上ってきた。「おまえ、そこで待っていただろう」と思うくらい絶妙なタイミングで。
いた。笑いの神はいた。
あまりの出来すぎに腹を抱えて笑ってしまった。
ついでに、上り坂なら勝てるかなと思い、少年と競争。が、あっさり置いていかれる。さすがにこれは馬鹿にしすぎたか。ちょっと反省。
センターに戻り、バスの切符を買う。往復で千百八十円ナリ。センターを出て、バス停に向かう途中、なんと石立おじさんとバッタリ。わーお。まさかこんなところで会うとは。今日は羅臼の道の駅までと言っていたので、もっとゆっくりしているのかと思っていましたよー。なかなか切れそうで切れない縁。またどこかで会えそうな気がします。
停留所でバスを待つ。ほどなくして定刻通りにバスがやってきた。乗り込むと、中は満杯。圧倒的に親子連れが多い。平日とはいえ世間は夏休みなんですね。
バスが発車すると、たちまち眠気が。この揺れ具合が実に気持ちいい。わたしを眠りの世界へ誘ってくれる。しかも、なんだかんだいって四時起きだし。
子供たちの歓声が上がる。どうやら景色のいいところを通っているらしい。ううっ、見たいわたしも。でも眠気が…。
四十分ほどかかって到着。意外と遠いんですね、カムイワッカって。
バスから降りると沢が見えてきた。おお、もしかしてこれですか。続々と沢に向かう観光客たち。とりあえず、四、五人ほど先に行かせてわたしもその後に続く。いやね、登り方の要領が分からないので、他の人のマネをして登ろうという作戦なのですよ。滑って転んだら恥ずかしいしね。ふむふむ、なるほど。ああやって登ればいいわけか。
上から流れ落ちてくる水の中へ足を入れてみる。ひゃー。気持ちいい。大人気なく声を上げてしまった。前の人が通ったルートを凝視しながら、滑らないように足を運んでいく。かなりへっぴり腰になっていたと思います。もしかしたら笑われていたかも。
それにしても、これがけっこう面白い。なんか沢遊びというか、水遊びというか。まるで童心に返ったよう。近年、沢登りが流行っているらしいが、こんなに面白いものだとは思ってもみなかった。機会があったら本格的にやってみようと思います。といっても、明日になれば忘れているんですが。
順調に岩を乗り越え滝を登っていく。さあって、いよいよエンジンがかかってきたぞ。そう思ったその時、目の前に一本のロープと札が。
え?もしかしてここまで?見ると先行していた観光客が岩に腰を降ろしたり、立ち止まったりしている。どうやらそうみたいです。うーん、残念。はっきり言って物足りない。
それにしてもなんで?なんでここから上に行けないの?
すぐそばに見張りをしている林野庁の職員がいたので訊いてみた。
「上に岩があり、それが落ちてくる危険性があるので、ここからは上には行けないんです」
へー、そうなのか。たしかに岩が落ちきたら危ないもんな。
「それでは岩がなくなれば上にいけるのですか?」
「ま、そうですね。でも、世界遺産に認定されてからは人間が勝手に動かすことはできないんですよ。なので、自然に落ちてくるのを待つしかないんです」
ふーん、世界遺産もいろいろ面倒くさいんですね。果たして世界遺産になってよかったのだろうか。判断に苦しむところである。
「ちなみに台風の時は立ち入り禁止になるのですか?」
「いや、ならないです。台風の時も見張りに立ちますよ」
「そんな時でも観光客ってくるんですかねえ?」
「いや、誰も来ませんでした」
あはは。そりゃそうでしょ。立つ意味、あったんでしょうか。まあ、仕事だから仕方ないのか。
その後、マイカー規制について熱く語る。といっても一方的にわたしが話ししていただけですが。
もういいです。戻ります。十分堪能しました。というより、虫刺されや日焼けしたところが滲みて痛いのです。なんでも湧き出てくるお湯が酸性なんですって。
下へ降りていく途中、窪地で戯れている水着姿の親子がいた。うわっ。とてもじゃないがそんなことできません。見ているだけでヒリヒリしてくる。
滞在時間わずか三十分。果たして千百八十円の価値はあったのでしょうか。

知床自然センターに戻り、自転車にまたがる。時刻は午前十一時十五分。
さて、いよいよこれから本日のメインイベントである知床峠越えを迎える。ちょっと不安もあるが、どちらかというと楽しみの方が大きい。
ところで、「知床峠を越える」と言うと、みなさん口を揃えて「大変だぞー」「キツイぞー」と言う。なんなんでしょう、これ。更にダメ押しに、駐車場の係員に「キツイよー。かなり大変だから頑張ってね」と言われてしまった。うそっ?そんなにキツイの?マジで?さすがにそこまで言われたらビビるじゃないの。
センターを後にすると、早くも上りが始まった。当然一番軽いギアにシフトダウン。勾配は五パーセントといったところか。じわじわと疲労が。うーん、頂上までこの感じだとさすがにキツイかも。
それにしても、普段よりライダーの手振りが多いのは気のせいか。しかも、いつにもまして気持ちがこもっているような気も。中にはわざわざ振り返って声をかけてくれる人までいる。
ううっ。っていうことはやっぱりキツイのか。いつも以上の激励がかえってわたしの恐怖心を煽ってくるんですけど。
なんてことを思っていたら、「がんばれよー」という野太い声が前から飛んできた。見ると、髭もじゃの男性が車から身を乗り出し手を振っていた。
ありがとうございます。嬉しいです。とっても嬉しいです。嬉しいのは嬉しいのですが、きれいな女性に言われた方がもっと嬉しいです。ぜいたく言ってすいません。
足に疲労を残さないためには早目に休んだ方がいいと判断。道路脇に車一台停まれそうなスペースがあったのでそこに自転車を停めて一息つくことに。
サイコンを見る。センターからわずか一キロしか進んでいなかった。がっかり。もっと上っているかと思っていたのです。
まあでも、峠の頂上まで十一キロだから、後、これを十回繰り返せば到達できるわけだ。そう思ったら、元気が出てきた。ちょっとだけですが。
再び自転車にまたがる。軽快にペダルを漕いでいく。しばらくしてあることに気づく。いやね、思ったよりキツくないのです。途中、何箇所かキツイなあと思うところはあったが、決して自転車から降りるほどではない。これなら一気に峠を越えられるんじゃないか。そんなことさえ思う。さらに上る。でも、やっぱりキツくない。むしろ、普段地元で上っている坂の方がよっぽどキツイ。こりゃ、どうしたことか。今までの脅しはなんだったのか。
楽に上れていることで、周りの景色を楽しむ余裕が出てきた。空は快晴。すぐ目の前には羅臼岳。青空をバックにこの羅臼岳を見ながら上っていく。これがなにかとてもこの世のとは思えないシュールな感じ。実に気持ちいい。この景色、多分一生忘れないだろうなあ。そう思った。
午後〇時半、無事、峠の頂上に到着。
え?これだけ?思ったよりあっけなかった。なんか物足りない気も。というかみなさん、脅かしすぎでしょ。
到着した旨を伝えるため、少年にメールを打っていると、キーッという自転車のブレーキ音がした。顔を上げると、そこにはなんとアメリカさんが!
わーお!もう一度わーお!ダメ押しでわーお!いやー、びっくり。もう会えないかもと思っていただけに嬉しい。
なんでもアメリカさん、今朝、標津から海岸線を上がってきて羅臼に出て、そこから知床峠にやってきたそう。そうそう、途中、少年にも会ったそうです。
これからの予定は?と訊くと「峠ヲ下ッテ、ウトロニ出テ、海岸線ヲ走ッテ斜里マデ行ッテ、ソコカラ中ニ入ッテ屈斜路湖、摩周湖方面ニ向カイマスネ」とのこと。その後、「知床峠」と書いてある木看板の前で写真を撮って別れた。またどこかで会えそうな気がします。
さて、これから下り。楽しむぞー。
ひゃー、気持ちいい。ところどころ勾配のキツイところはあったが、全体的にはゆるやかな下り坂。下るには丁度いい感じ。あっという間に麓に到着。
あっ、そうだ。「熊の湯」に入るのを忘れた。というか、完全に見落としてまった。
まっ、いいか。どうしても入りたかったわけじゃないし。

セイコーマートでカップ焼きそばを食べながらこれからのルートを検討。うーん、どうしよう。いやね、知床岬方面の行き止まりである相泊まで行こうかどうか悩んでるんですよ。まっ、行っても何もないんですがね。と、わかっていてもなんか行きたい。まっ、行きますか。せっかくここまで来たんだし。
しばらく走り、ヒカルゴケで有名なマッカウス洞窟に寄る。
うーん、見えるには見えたけど、はっきりいってショボイ。苔の上に蛍光塗料を一滴ポチャッと垂らした、そんな感じなのである。というわけで、行こうかどうか迷っている方、行かないでいいと思います。
入口のところでライダーの方に会う。今日はどちらまで?と訊くと、「釧路までです」という答えが返ってきた。
ええ!釧路!わたしでも三日はかかりそうなのに。一日で行けるんですか。どんだけ速いんだよ。と思ったら、彼はオートバイなんですよね。あはは。いつの間にか自転車基準で考える癖がついちゃったみたい。
十二キロほど走る。なんだか寄っていかないと損かと思い、「ルサフィールドハウス」というところに立ち寄る。なにをやっているところなのかよくは知りません。多分、自然関係の展示物があるんでしょう。
さて、建物の中へ。と思ったら、隣の空き地に、テントを前にしてたくさんの荷物を広げている人がいた。真っ黒に日焼けしている二十代と思しき男性。
ちょっと興味を持ったので、話しかけてみることに。もしもし、何やっている方ですか?
「北海道を歩いているんですよ。フェリーで苫小牧に来て、そこからここまで来ました。ちょうどこれから出発して知床岬の方へ向かうところなんです」
ぎょえー。マジですか?いるんですね、こんな人。へっ?でも、知床岬って行けるの?相泊で行き止まりじゃないの?
「舗装は相泊で終わりですけど、そこからは歩いて行けるんですよ」
へー。そうなんだ。それは知らなかった。でも、歩いて行けるのならわたしも行ってみたいな。だって、せっかく来たんだし。やっぱり突端まで行きたいじゃないの。
「でも、断崖や岩をよじ登ったり、場所によってはザイルを使わないくてはいけないところもあるらしいですよ」
ええ!そうなの。いやいや、そんなのムリムリ。絶対無理。
しかも、そこは熊も出るらしい。それも頻繁に。熊除けスプレーは必携だそうです。それを聞いてさらに腰が引ける。
どうぞ、どうぞ。行きたい人だけで行ってください。わたしは柱の陰からひっそりと応援しておりますので。
まだまだ話をしていたかったが、あまり時間がないので彼に別れを告げ、「ルサフィールド」の中へ。まず目に飛び込んできたのが熊への注意を促す掲示物だった。
「知床岬へ行く人は必ず熊除けスプレーとフードシェルターを持つこと」
「本当に今行かなければならないのか、今一度考えてみてください」
なんだか見てはいけないものを見てしまった気が。いや、わたしが行くわけじゃないんですけどね。それでも、この文章はかなり強烈。読んでいるだけで背筋が寒くなってきた。
とりあえずこれは見なかったことして先へ進む。知床の自然を紹介しているコーナーがあった。ふむふむ。なるほど。なんでも知床は世界でも有数の熊の生息地で、人口密度ならぬ熊密度がとても高いらしい。後でスタッフの方に訊くと、わたしが今通ってきた道からでも熊を見かけることがあるとのこと。
続いて二階に上がる。窓の傍に双眼鏡が置いてあった。運がよければ、ここからクジラやシャチが見られるそう。ここ羅臼は日本でも指折りのホエールウォッチングポイントなんだそうです。ふーん、そうなんだあ。それは知りませんでしたな。
それにしても客いねぇー。中に入って二十分ほど経つが、誰一人やってくる気配がないのである。今いるのもわたし一人だけ。それをスタッフのお姉さんに言うと、苦笑いされた。
「ここは観光バスは停まらないんですよ。来るのはマイカーの観光客だけ。だから、いつも人は少ないですね」
でしょうな。ガイドブックに大きく取り上げられているわけでもなく、特別「これだ!」というものがあるわけでもない。その上、観光バスのルートに入っていなければ来る人は少ないだろう。
ちなみに、スタッフのお姉さんは淡路島の出身だそうです。まったく関係ない話ですが。
それにしても、ここにいると妙に落ち着く。人がいないというのもあるだろうが、なにか居心地がいいのです。ちょっとしたカフェみたいな雰囲気なのです。思わず「コーヒー一つ」と注文しそうになります。
泊まりてぇー。一泊五百円で泊まらせていただけないでしょうか。わたし、綺麗に使います。どうせ寝るだけですから。
スタッフのお姉さんがわたしの質問に逐一答えてくれたこともあって(他にお客はいないからマンツーマンなのです)、思いもかけず面白かった。ひょっとしたらここ、穴場かも。
相泊までは残り九キロ。三十分ほど自転車を走らせて到着。
えーと、ここですか。なんだかなあ。というのが正直な感想なのですが。
だってここ、単に舗装が終わっているだけでしょ。この先工事中と言われてもちっとも疑わない場所なのである。まあ、行き止まりっていうのも言われなきゃわからんよね。
この近くに相泊温泉という無料で入れる温泉があるらしいので、そこへ行くことに。来た道を戻る。
えーと、地図によるとたしかこの辺りなのだが・・・。そばにおじさんがいたので場所を訊く。
「ほら、あれだよ」
おじさんが差した指の先を目で辿る。そこには青いビニールシートで覆われた小屋みたいな建物があった。目の前がすぐ海。
え?あれですか。なんだか手作り感一杯ですけど。
不安を抱えながら浜へ下りていく。ビニールシートの中を覗くと、木枠された湯船があった。その中では地元らしき人が三人浸かっていた。すぐそばには青空脱衣所もある。しかしその周りには囲いもなにもない。
え?マジ?こんなところで着替えるの?と思ったが、そこしかないので諦めて服を脱ぎ始める。正直恥ずかしいなあ。
周りを気にしながらスッポンポンに。桶に入れたお湯で体を流し、湯船に足をつけてみる。
あつっ!あぢいー!あぢぃよー!これ、熱すぎでしょ!熱くて死にそう。
って、騒いでいるのはわたしだけ?あれ?みなさん、熱くないの?平気なの?よくまあ、入ってられますね。もしかして北海道の人は我慢強いんでしょうか。まあ、わたしが我慢弱いという話もありますが。
せっかくだから頑張って入る。でも、やっぱりダメ。すぐに湯船から出てしまった。

再び羅臼へ入り、今夜の寝場所を探す。まずは役場に向かう。さっきの徒歩青年が役場の軒下を勧めてくれたので、そこを借りようと思ったのです。が、行ってみてガックシ。職員がまだいたのです。さすがにこの状況で寝袋を広げる勇気はわたしにはない。というか、確実に注意されるでしょ。こりゃ無理。他を探すことに。でも、なかなか適当な場所が見つからない。
「そうだ。小学校!」突然、思いついた。しかし、行ってみたが、ここもだめ。先ほどの役場と同様、人が残っていたのだ。うーん、参った。どうしよう。
しばらく走ると、道路の地図標識に「展望台」の文字が見えた。おお、見晴らしもよさそうだし、のんびりできそうだ。いいじゃない。と思い、自転車を進めるが、えらい上り坂。しかも展望台ははるか頭上。
あーあ、どうしよう。せっかくお風呂に入ったので、これ以上汗はかきたくない。しかも、後どれだけ上ればいいのかわからんし。さらにさらに、行ったところで快適な場所という保障はどこにもない。というわけで却下。
はーっ、どうしよう・・・・・・。しゃあない、道の駅へ行くか。あまり気乗りはしないけど。いや、羅臼の道の駅は小さくて泊まれそうな感じではない、そんな情報を得ていたのです。とはいえ、背に腹はかえられない。行ってみたら案外泊まれそうな場所があるかも。
なんてことはありませんでした。道の駅はこじんまりとした作り。とてもじゃないけど寝れる感じではなかった。うーん、どうしようか。不安で胸をいっぱいにしながら、とりあえず駐車場の方へ行く。
「おお!おじさん!」
なんとそこにはあの石立おじさんがいたのです。今朝、会ったばかりだというのにまた会うとは。何たる偶然。そういえば今日は羅臼の道の駅で泊まると言っていたもんなあ。それにしてもほんと切れそうで切れない縁ですね。いやー、でも嬉しい。だって、泊まるところがなくて心細かったんですよ。そんな時にたとえおじさんでも(失礼)知り合いと出会えれば嬉しいもんですよ。
とまあ、わたし一人テンション高く話していたんですが、おじさんの方はいたって冷静。どうやら嬉しいのはわたしだけみたい。あはは。
おじさんと話をしているうちにふと思いついた。そうだ、道の駅の隣に信用組合があったなあ。あそこの軒下なんてどうだろう。すぐさま行ってみると、幸いにも寝れそうなスペースがあった。よし、今日はここに泊まろう。
早速、荷物を降ろす。が、なにやら人の気配が。よく見れば、駐車場にはまだ車が停まっていた。マズイ!と思い、慌てて降ろした荷物を元に戻し、その場を離れる。
あぶねえ、あぶねえ。せっかくの宿泊場所、泊まれなくなったらシャレになんねえ。
とりあえず、人がいなくなるまで時間を潰すことに。三十分ほど辺りを走り、戻ってくる。誰もいなことを確認して、寝床作り。でも、今さら気づく。いや、目の前が車の往来が激しい国道なんですよ。本当に眠れるのか、とちょっと思ったが、不思議なことにほとんど気にならず、目を閉じたらあっという間に眠りの中へ落ちていった。
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2010年8月1日(日) はじめての停滞 (ウトロ 3km)
午前四時起床。くそーっ。あんまり眠れなかったー。虫の襲撃がすごかったのです。
あーあ、さすがに二日連続の虫刺されはキツイ。その上、昨日の疲れが取れていないのか、やけに体がだるい。
ひげを剃ろうと電気シェーバーを取り出す。しかし、なぜか充電切れを起こしていた。あれ?おかしい?昨日ちゃんと充電したはずなのだが。バックに入れている間に勝手に作動していたのだろうか。
まぁ、剃れないものは仕方ない。一日くらい剃らなくても大丈夫でしょう。なにもかしこまった場所にいくわけでもないし。きれいな女性に会うなら別ですが。
今日はカムイワッカへ行く予定。
ところが、五時過ぎ雨が降ってきた。
あーあ、予報的中。どうしましょ。といっても、こんな雨の中では行きたくない。
仕方ない、ちょっと様子を見るか。というか、なんか疲れて動きたくない。
しばらくして雨が上がる。よし、と思ったが、またすぐに降りだしそうな空模様。
うーん、さすがにカムイワッカへ行くのは危険かも。途中で降ってきたら嫌だしなあ。
というわけで、再び様子を見ることに。その間、すぐ近くにある巨岩で有名なオロンコ岩へ行く。なんでもここはちょっとした観光スポットで、二百段ほど続く急な階段を上れば岩の上に行けるらしい。
階段を登る。うわー、キツイ、キツイ。普通の状態ならたいしたことないんだろうが、あいにく昨日の坂で脚が筋肉痛なのです。一段上がるごとに、太腿がワーワー悲鳴を上げてくる。いやいや、そんなに叫ばなくてもわたしが一番わかってるつーの。ほんと誰かにこの筋肉痛を分けてあげたいくらい。というか、全部持っていって欲しい。結局、最後は膝に手をついて上る羽目に。情けなー。でも、登った甲斐があって見渡す景色はまずまずでした。
下へ降りると、またしても雨が降ってきた。やはり様子を見て正解。
当面することもないので、道の駅のベンチに腰かけて日記をつける。しばらくすると、一人のおじさんが声をかけてきた。そのまま二人でおしゃべり。北海道では、これを持っていけば無料で温泉に入れる『ほっ』という雑誌があるらしい。一冊、五百八十円だそうです。
今までの経験上、北海道の温泉の平均料金は五百円くらい。となると、一回、少なくとも二回入れば元が取れる計算。それが三回、四回も入れば確実にお金が節約できる。こりゃいいこと聞いた。ちなみにこの雑誌、コンビニでよく売っているそうです。よし、後で探しに行くことにしよう。
外を見ると、さっきまで降っていた雨が上がっていた。ほんと落ち着きのない天気。
それにしても眠い。あまりに眠気が差してくるため近くの公園へ移動し、ベンチにマットを敷いて寝ることに。しばらくすると、パラパラと雨が落ちてきた。おいおい、マジかよ。まあ、いいや、どうせ小雨、すぐに上がるだろう。そう思い、無視して寝ていたが、やっぱりダメ。次第に雨粒が大きくなってきた。急いでマットをたたみ、道の駅へ退散。どうやら今日は降ったり止んだりの天気になりそう。
結論。カムイワッカ行きは止め。どうせこんな天気で行っても楽しめないだろうし。今日は一日ここにいます。北海道初の停滞なのです。

さて、これからどうやって過ごそうか。今まで走ることしかしていなかったわたし。先に進むことしか考えていなかったわたし。どうしていいのかわからない。時間の使い方がわからない。
はーっ。どうしよう。なんだか焦る。いつもならとっくに走っている時間なのに。ちなみに現在の時刻は八時過ぎ。この時間ならすでに五十キロは走っているだろう。
いいんですかね、こんなにのんびり休んじゃって。まー、といってもどうしようもないんですけどね。カムイワッカには行かないわけだし。
そうなると、何かやることを探さないといけない。まー、いけないってこともないですが。でも、今一番やりたいことといえば、カムイワッカに行くこと。それ以外はないのです。
うーん、こうなるとわたしという人間は実に危うい。今まで北海道一周することしか頭になかった。それしか目指してこなかった。それなのに、突然それが取り上げられると途端におろおろしてしまう。パニくってしまう。これなら走っている方がよっぽど楽。何もしていないと、なんだか自分は損しているんじゃないか、時間を無駄にしてしまっているのではないか、そう思ってしまう。おそらくそんなことはないんですけどね。
ただ単に結果を出す、目標に向かう、そんなことだけが大事じゃない。北海道を一周するという目標だけがすべてではない。きっと大事なことは他にもあるはず。そんな気はするのだが、じゃあ、具体的に何が大事か。そう訊かれれば、それに答える自信がない。なんとなくは分かっているのだろうが、それが明確な形になって見えてこない。
はーっ。またしても迷路に迷いこんでしまった。
うーん、「自分にとって本当は何が大切なのか」、そのあたりを今一度深く考えてみる必要がありますね、わたしの場合。
さーてと、どうしましょうかね。結局、これといった答えがでないまま虚しく時間だけが過ぎていく。まあ、こういったことって、すぐに答えがでるわけじゃないしね。やっぱりある程度熟成する時間が必要だと思うのです。
しばらくボーっとしてみる。外は依然として雨が降り続いている。
・・・・・・そうだ。早目にお風呂に行って休憩所でくつろぐというのはどうだろう。そこで本を読んだり、日記を書いたり、飽きたらゴロゴロすればいい。おお、考えただけでリラックスできそう。でも、何時から開いているのかわからない。よし、後で訊きに行こう。
その後、おじさんに教えてもらった『ほっ』を探しにコンビニへ行く。が、どこにも置いてない。残念。別のところに行ったら探してみよう。

午前八時半、開館時間になったので道の駅や世界遺産センターをぶらつく。一通り見終わり、また元のベンチに戻ってきた。
さて、なにするか。相変わらずまったく思いつかないわたしなのである。
そういえば、自転車のブレーキーシューってまだ大丈夫かなあ、今までまったく気にしていなかったけど。早速、前後のブレーキシューを確認。
うわっ。びっくり。後ろがかなり減っているのだ。北海道に来る直前、新品に換えてきたのにもうここまで減っているのか。まったくの予想外。しかも減り方がアンバラス。つまり「片効き」の状態。一応、均等になる調整の仕方があるのだが、詳しくは知らない。片効きだからといってもさほど問題はないので覚えてこなかったのである。かといってこのまま走ると、片方だけが極端に減っちゃうわけですよね。それはちょっとマズイか。
そうだ。左右を入れ替えるっていうのはどうだろう。そうしておけばそのうち減り方も均等になるはず。うん、われながらいいアイディア。
というわけで、入れ替えることに。そうなんです。このくらいはできるのです。ついでタイヤの減りも見てみることに。
わーお。一目見て減っていることが丸分かり。とくに後ろタイヤが。ということは、かなり走ったのか。サイコンを見る。なんと北海道に来てから二千キロオーバー。うわー、こりゃ北海道にいる間に三千キロはいくかも。
それにしても自転車をイジっていると声をかけてくる人が多い。
ところが、最初に声かけてきたおじさん、わたしが作業に熱中していたためまともに相手をすることができなかった。うーん、悪いことをしたかなあ。ちゃんと話を聞いてあげればよかったとちょっと後悔。
しばらくすると、別のおじさんが声をかけてきた。さっきのことがあったので、今度はちゃんと相手をすることに。
外見で目を引いたのが白いモジャモジャ頭。俳優の石立鉄男(すでにお亡くなりになっております。合掌)にクリソツです。なんでもこの石立おじさん(勝手に命名)、毎年夏になると、自宅のある京都から北海道に来ているそう。年齢を訊くと、もうすぐ八十に手が届くとのこと。見えねー。いや、実に若々しいのです。七十といっても充分通用する。
ところで驚いたのが、その走行距離。なんと昨日は斜里からウトロに移動しただけという。
みじかっ。斜里からウトロなんて四十キロしかないよ。っていうか、おじさん、車なんでしょ。なんでたったの四十キロしか移動してないの。自転車のわたしより動いてないってどういうわけ。しかも明日は羅臼までの予定だそうです。おいおい、羅臼っていったら三十キロもないじゃん。いいの?そんなに短くていいの?
「いいんだよ、涼みに来ているんだからそんなに動かなくても。もう北海道はいろんなところ周っちゃったから、特に行きたいところなんてないの」さも当然でしょ、の顔で言われた。
なるほどね。そう言われてみればそうかもね。まあ、ガソリン代もかからないし。いいかもね。
次に話しかけてきたのは、日焼けした肌が印象的な小柄な男性。なんでもヨットで日本一周しているという。わーお。ヨットで日本一周ですか。こりゃまたスケールがでかいですね。ちなみに年齢は六十歳。しかし、こちらもそうは見えないほど若々しい。うーん、旅は人を若くする作用があるのか。
それにしても、この人、実にいろいろなことをやっている。アジアを中心にしたバックパッカー、国内外での山登り、自転車の旅、沖縄の離島巡り。これだけやっているせいか、実にいろいろなことに詳しい。まったく話についていけないわたし。なので、ここで書けることナシ。すいません、よく覚えてないんですよ。
まだまだ訪問者はやって来る。次に声をかけてきたのは、東京の八王子から来たという定年過ぎたばかりのおじさん。おお、八王子ですか。わたしも昔住んでいたことがありますよ。というわけで、少し八王子話で盛り上がる。この方もわたしと同じく北海道を一周しているそうなのだが、ホテルや旅館泊まりなので、どうしてわたしとこんなに違うの?と思うくらい実に荷物が少ない。おまけにロードバイクなので一日に進む距離が長い。これはちょっと羨ましいかも。
最後は斜里の道の駅で会った大学生。再びのご登場です。
えーと、この方は金丸くんとは別の人。金丸くんと話していたら道の駅で会ったのです。ところで彼からカムイワッカの情報を頂いた。なんでもサンダルで登ることは禁止。その場合は靴下でないとダメらしい。おお、そうですか。サンダル履きのわたし、明日は忘れずに靴下持参で行きましょう。
そんなこんなで時刻は午後三時。なんの前触れもなく、いきなり雨脚が強くなってきた。これで本当に明日晴れるんかい。けっこう降ってますよー。
そんな中、稚内で一緒だった少年からメールが入った。なんとこちらに向かっているとのこと。しかもアメリカさんも一緒らしい。おお!マジかい!
それにしてもいったいあれからどこで合流したのか。まあ、それよりなにより久しぶりに二人の顔が見られそうだ。
ここでまた、しばし物思いに耽る。昨日会った金丸くんの話を聞いてから、自分の中で走るというモチベーションが下がってきている。それは間違いない。
自問自答。そんなに早く走ってどうすんの?そんなに急いでどうすんの?そんなにキツキツにスケジュールを組んでどうすんの?中身の方が大事じゃないの?内なる声が聞こえてくる。

うー、ブルブル。さみー。昼は蒸し暑くてしかたなかったのに。ほんと、なんちゅう天気じゃ。
少年たちはまだか、と思い待っていると、午後五時半、ようやく少年が姿を現した。よっ、久しぶり!嬉しさのあまり、わたしたちはお互い駆け寄ってハシっと抱き合った。
なんて、さすがにそこまではしないが、嬉しかったのはホント。あれ?そういえばアメリカさんの姿が見えないけど。どうした?
少年によると、宗谷岬でアメリカさんと会い、さっきまでずっと一緒に行動していたという。で、斜里でお互いそれぞれ買い物があったのでそれを済ませ、後で落ち合うことにしたのだが、なぜかアメリカさんが来ない。仕方なく少年だけ先に来た、とのこと。
うーん、アメリカさん、どうしたのだろう。ちょっと心配。というわけで、少年が彼に電話。そこで、ようやく状況がわかった。
なんとアメリカさん、海岸線を走らず、どんどん山の方へ向かい、ついには根北峠まで越えて、なんとオホーツク海側の野付半島まで行ってしまったという。
感嘆&爆笑!
まず普通の人なら峠にさしかかった時点でおかしいと気づくはず(というか、その前に走っていて海が見えない、そこでまずおかしいと思うのでは)。でも、なまじ脚力があるもんだから(彼はトライアスリート)先へ進んでしまった、概ねそんなところだろう。それにしても一気に反対側まで行ってしまうとは、なんと大胆なショートカット。さすがはアメリカ人、体を張ったギャグに脱帽です。
そのまま少年と話を続ける。しばらくすると、石立おじさんがやって来て、「これで風呂でも入れや」と、唐突に、わたしたちの前に千円札を差し出した。
え?なんで?なんでくれるの?もしかしてお小遣いってこと?それにしてもおじさん、そんなキャラだっけ?いや、さっきは自分のことばかり話していたので、てっきり他人のことはおかまいなしの人だと思っていたのです。
少年はしきりに遠慮していた。まあ、そうでしょうね、普通は。でも、基本的にわたしはこういった申し出は断らないことにしている。だって、こういうのは気持ちでしょ。断るっていうのは、その人の気持ちを無にするのと同じ。そんな失礼なこと、わたしにはできません。なんていって、お金、欲しいし。
早速、その千円札を持って道の駅の前にあるホテルへ。ここのお風呂は八百円と高いが、さすがにこの雨の中、昨日のお風呂まで走る気はしないのです。
ロビーに入って後ろを振り返ると、きれいな夕焼け雲が広がっていた。それを見た従業員が言った。「明日は晴れますよ」
そっか、晴れか。よし、明日こそはカムイワッカへ行こう。それにしてもきれいだなあ。雲がピンク色に染まっていく様はまことに絵になる。
お風呂から上がり道の駅へ戻ると、すでに少年は眠りについていた。二日連続ウトロの道の駅で宿泊。ベンチに寝袋を敷き、その上に横になる。しばらくして、どこからともなく涼しい風が吹いてきた。
2010年7月31日(土) 金丸くん登場 (網走―ウトロ 117km)
午前四時。最近はほとんどこの時間に目が覚める。体内時計が反応しているのか。
寝袋から顔を出す。外を見ると思いっきりの霧だった。あちゃー。久々のご対面。
今日は知床の玄関口ウトロまで。八十キロちょいなので余裕のペース。
でも、今日は週末の土曜日なんだよね。人が多くいないかちょっと心配。いや、あんまり多いとゆっくり観光できないのではないかと思ってね。
それにしてもなぜか土曜日は観光地に当たる。先週は札幌だし、その前は函館、で今日は知床でしょ。これは単なる偶然だろうか。それとも何か意味があるのだろうか。とすると来週は釧路かも。
昨日洗えなかった寝袋を洗うために駅前のコインランドリーへ。洗濯している間、日記を書いたり、朝食を済ますことに。
今日は朝から豪勢にすき家の牛丼でいく。まあ、たまにはいいでしょう。ここは奮発して大盛り。といきたいところだか、そこは節約して並盛りで我慢。会計を済ませようとすると、二百五十円になります、と言われた。
あれ?たしか、並盛りって二百八十円じゃなかったっけ?店員に訊く。なんでも今の期間だけ二百五十円だそうです。おお、ラッキーじゃん。なんだか得した気分。
コインランドリーに戻ると、ちょうど乾燥が終わったところだった。でも、よく乾いておらず。え?なんで?仕方ないのでもう十分追加する。が、それが終わっても、まだよく乾いていない。おいおい、なんでだよー。合計三十分もかけて乾かないって。前は二十分でも充分乾いたんだよ。この乾燥機、性能が悪いのか。
仕方ないのでまた乾燥スタート。十分経過してようやく終了。と思いきや、まだ湿っぽい。あーん、マジかよ。
もういいや、これで。これ以上、お金も時間もかけたくないのでよしとする。・
思ったより乾燥に時間がかかったため、いつもより大幅に遅れ、六時四十分に出発。
さて、遅れを取り戻すべく気合を入れて走りますか。しかし、濃い霧のため前がまったく見えず。自転車でもちょっと怖いくらいだから、スピードの出る車ならなおさらだろう。運転している人は怖くないのだろうか。それとも慣れっこになって気にならないのか。
途中、たくさんの野生の花が咲いているという小清水原生花園の横を通ったらしい。らしいというのは、霧でまったく見えなかったからである。今度は損した気分。

国道を逸れて斜里の道の駅と向かう。最近はできるだけ道の駅へ寄るようにしている。せっかく来たんだから寄っておこうという考え。しかも、ここの道の駅ではインターネットができるらしい。これは寄らない手はないでしょう。久しぶりに文明の利器に触れたいと思います。
それにしても斜里は真っ直ぐな道が多い。前を見ても、ひたすら直線道路。あまりにも長いし、路肩も広いし、全然車も通らないので、試しに顔を下を向けて走ってみることに。
ひゃー、面白い。全速力で漕いでも全然無問題。こんなの内地じゃありえません。
そうこうしているうちに道の駅に到着。着いてすぐに、明らかに旅仕様の自転車を発見。すぐそばに持ち主らしき青年がいたので話を訊いてみることに。
わーお。驚いた。なんとこの青年、日本一周しているそうなのです。しかもこの日本一周、普通の日本一周とはわけが違う。だいたい自転車で日本一周といったら、ぐるっと海岸線を周って、はい、終わり、となるのだが、この青年は海岸線だけでなく、気になる場所があったら、聞いたことのないような町や村でも、山の中でもどんどん行くそうです。この先はどうなっているんだろうという好奇心のおもむくままに。
うーん、すごい。というか、わたしにはとても考えられない。わたしが行くところといえば、ガイドブックに載っているようなところばかり。正直、彼みたいにそんな何もないようなところへ行ってどうするんだろうと思ってしまう。時間の無駄だとさえ思ってしまう。
彼は日本一周を終えると、イタリアへ料理留学するそうです。それまでに日本のいたるところを周って、食に関するところをいろいろ見てみたい、と言う。なるほどね、この青年は料理人なんですね。
普通、こういう旅ってなるべく荷物を軽くしようとするのだが、彼の場合、たくさんの調味料を持ち歩き、余った食材も運んでいる(後で彼のブログを読んで納得したのが、これらは彼にとって余計なものでもなんでもなく必要なもの。驚いたのはオーブンや、蜂の巣箱まで持っていこうとしたこと。さすがにそれは重いので諦めたそうですが)。なんだかわたしにはそれがすごく面白く感じられた。
それにしても、彼の話を聞いたり、ブログを読んでいると、これが実に楽しそう。毎日、美味しそうな料理を作ったり(料理人なのでお手のもの)、途中で知り合った人と遊んだり、図書館でDVDを見たり。そうかと思えば、農家やレストランで食の勉強をしたり。彼の場合、自転車で旅をしているというより、日本一周という形を借りて自分のやりたいことをやり、見たいことを見、行きたいところに行っている、そんな感じがする。
おそらく走っている距離はわたしの方が多いだろう。でも、中身に関して言えば、その充実度には雲泥の差がある。はるかに彼の方が濃い。
わたしにとってこの出会いは、自分の旅についてとても考えさせられることとなった。後から思えば、ある意味ターニングポイントになったと言えるかもしれない。
別れ際、名刺をもらった。そこには「金丸ともひろ」と書かれてあった。気になった方、是非ネットで検索してみてください。日本一周のブログやってます。

斜里の道の駅を後にし、いよいよ知床に向かう。まずはオシンコシンの滝へ。正直、さほど期待はしていない。滝といったって、今までわたしが北海道で見た滝よりもちょっとすごいだけだろうと。
わたくし間違っておりました。すごくいいのです。素晴らしくいいのです。ふつう滝といったら、こう、まっすぐ垂直に近い形で水が落ちていくものだが、これは違う。なんと斜めに落ちていくのである。どっひゃー。こんな滝見たことない。しかも、この時間になると空も晴れわたり、山の緑、滝の白、そして空の青、それが力強いコントラストを描いている。それがなにか一層わたしに素晴らしいものと感じさせてくれた。ただただ感動するばかり。いやー、高揚感煽られるわ。
あまりにもテンションが上がっていたせいか、気づいたらそばにいた観光客相手の写真屋さんに話しかけていた。その方としばし談笑。別れ際、自転車で知床五湖まで行けるかどうか訊いてみた。
「大丈夫です。駐車場があるからそこまでだったら自転車でも行けますよ」明日は天気がよくないらしいので、今日行った方がいいかもしれませんね、と言う。
よっしゃー。こうなった今日、知床五湖に行ったろうか。時間もまだあるし、距離もそんなにないし。
おりゃー、わたしは自転車に飛び乗り走りだした。
「ありがとうございまーす!」
大きな声で写真屋さんにお礼を言い、自転車のスピードを上げた。
しかし、ここからが大変だった。
ウトロの道の駅を過ぎ、視線を上げると、えらい高い場所に車が走っているのが目に入ってきた。ここから見るとそれはまるでループ橋のよう。
うっそーん。マジで?マジであんなところを上るの?とたんにさっきまでの気合が消えていく。まあ、でも上らなきゃ行けないわけでしょ。だったら行くしかないでしょ。覚悟を決めて上り始める。思ったよりきつくはない。が、しばらくすると、脚に疲労が溜まってくるのを感じ始める。しかも、またこういう時に限って天気がいいんだよねぇ(泣)。
汗がポタポタ落ちてくる。。ハァ、ハァ。息が切れる。もう少しか?と思い、最後の力を振り絞りなんとか上り切る。そこから少し行き、知床自然センターに到着。
できれば天気のいい今日中に、知床五湖と滝壺に温泉が湧いているというカムイワッカ湯の滝を回りたい。
それってできますかね?職員に訊くと、どちらもシャトルバスで行けるが、今から両方周るとなると滞在時間がわずかしかとれないとのこと。
どっひゃーん。うそでしょ。せっかく必死こいて一生懸命上ってきたのに。それはひどすぎますよ。
うーん、どうしましょ。両方回るのがダメなら、どっちか一つに絞るしかないってことか。それとも、今日は諦めて明日両方回るか。でも、明日は天気が悪いらしいしなあ。
・・・・・・まあ、カムイワッカは単なる滝でしょ。それなら天気がよくなくてもあんまり関係ないんじゃないか。それに比べて知床五湖は周りの景色によっても見る印象もだいぶ変わってくるだろう。
やっぱり天気のいい今日、知床五湖に行きたい。というわけで、カムイワッカは明日に回し、今日は知床五湖一本に絞ることにした。
ちなみに知床五湖までどのくらいありますか?
「ここからだと約九キロです。・・・え?自転車?自転車で行くならアップダウンがあるのでかなりキツイですよ」
いやいや、キツイっていっても、わたしだってそれなりに北海道走ってきてるんですよ。そこそこのアップダウンじゃあ驚かないですよ。まあ、大丈夫でしょ。
大丈夫じゃありませんでした。
いや、それでもはじめはよかった。ずーっと急な下りで(しかし、帰りはこれを上ってくるのかと思うと憂鬱だったが。こんなに急じゃなくていいのですよ)。でも、途中目にしたバス停辺りから雲行きが怪しくなり始めた。ついにアップダウンが始まったのだ。
職員の言葉に嘘偽りはなかった。これがキツイのなんのって。急な上りが終わって下ったら、また急な上り。で、それを下るとまた急な上り。以下、その繰り返し。中には十パーセント以上の勾配のところもあったりして。これってほとんど拷問。相変わらず太陽は容赦なく照り付けてくる。もー、暑くて仕方ない。しっ、死ぬー。
あー、大後悔。大失敗。おとなしく冷房の効いたバスでくりゃよかったよ。もう、お金ケチって自転車でくるもんだから。自分の愚かさを呪いましたよ。しかし、あそこの職員も職員だよなあ。絶対無理だから行かない方がいいって、なんで止めてくれなかったんだろう。まったく気が利かないったらありゃしない。とうとう職員に八つ当たりまでする始末。
なんとか頑張って漕いでいくが、徐々に太腿に疲労を感じ始める。ついにはまともに足が上がらなくなってきた。結局、知床五湖まで後、残り三百メートルのところで力尽きた。悔しいですが、自転車を降りて押すことに。もうだめ。限界でした。
着いてみると、すでに夕方であるにも関わらず、駐車場にはたくさんのマイカーと観光バスが並んでいた。自転車は・・・どうやらわたしだけのようです。そうだよなあ、あんなところを走ろうなんてよっぽどの物好きしかいないでしょ。
さて、あまりゆっくりしている暇もないのでとっとと回りますかね。とりあえず、みなさんが行く後ろへついていく。途中、ガイドさんが引率している団体がいたので、ぴったりマーク。どさくさに紛れて説明を聞こうという腹積もりなのです。が、ガイドさんに「先に行ってください」と言われてしまう。え?なんで?なんでわかったの?
チェッ。おれ一人くらいいいじゃねえか。ケチくさい。
知床五湖はその名の通り、五つの湖がある。しかし、現在は熊が出るということで一湖と二湖しか見れない。まあ、いずれにしろ五湖も周る時間がないので、どっちでもいいんですけど。
一湖と二湖、それぞれの見晴らし所に行く。どちらもよかったが、とくに二湖がよかった。木々の間から湖が見え、しかも湖面には後ろに広がる山々が映っている。それが息を呑むほどの素晴らしい景色だったのだ。
あれ?そういえばこの景色、どこかで見たことあるなあ。・・・・・・そうだ、思い出した。ヨセミテだ!
十年前に、アメリカの大自然を見たくて中西部の国立公園を回ったことがある。その時行ったヨセミテ。そこで見た景色と似ていたのだ。ちなみにヨセミテは、アメリカ人に一番人気のある国立公園。うん、たしかによかったなあ。もう一回行ってみたいなあ。果たしてわが人生で再び訪れることはあるのだろうか。
それにしても、こんな景色、晴れの時じゃないと見れないでしょ。やっぱり今日来て大正解。
駐車場に戻ると、今度は湖とは逆の方向に人が流れ出ていた。立ち止まってじっと見てみる。すると、その先には高架木道が走り、そこを多くの人が歩いていた。
あちゃー。まだ見るところがあったのか。でも、時間が気になる。が、後で、「あそこよかったよねー」と言われるのが悔しいので行くことに。みなさんは車でしょうが、わたしは自転車なのです。
いやー、でも、無理して行ってみるものです。晴れた空をバックに知床連山やオホーツク海が一望。これが実に雄大な眺めなのです。しかも、木道は曲がりくねっているため、いろんな角度からそれらを楽しむことができる。これぞ大自然!もう素晴らしいの一言。個人的には五湖よりいいかも。充分堪能いたしました。
時刻はまもなく午後五時。すでに日が傾きはじめている。さすがに焦る。帰りはさっき下ってきた坂を上らなきゃいけないのだ。
いったいどのくらいで戻れるのか、皆目見当がつかない。ちなみに来るときは四十分ほどかかった。
とりあえず一生懸命走るしかない。ちんたら走っても時間が過ぎるだけだ。幸い、自転車に乗っていなかったため体力は回復している。案の定、アップダウンはすんなりクリア。あとは知床自然センターまでの上り。もう、キツくなったら素直に降りて押します。行きに降りちゃっているので、一回降りようが百回降りようが変わらないでしょ。その開き直りが功を奏したのか、帰りはわずか二十五分で戻ってきた。

再びウトロの街中へ。さて今日はどこに泊まろうか。とりあえず、来る時寄った道の駅へ行ってみますかね。
しばらく走り、道の駅に到着。うーん、今日はここでいいかなあ。ベンチの上に長い庇もあることだし。これなら雨が降っても濡れる心配はない。
飲み物が切れたので、スーパーを探しに行く。コンビニならすぐ目の前にあるのだが、そこじゃ買いたくない。定価で買うなんて馬鹿らしい。
ちょうどうまい具合に駐在所があったので、そこで訊くと、肝心のスーパーはすぐ近くにあった。
用が済んだので、さあ、行こうか、と思ったら、なぜかお巡りさんは話を続けてくる。よっぽど話好きなのか。いや、単に暇なのかも。
「そこのセブンイレブン、北海道で一番売り上げがあるんですよ」
へー、そうなんだあ。札幌が一番だと思ってた。
「そうそう、セイコーマートは他のコンビニよりも安いよ。ジュースも安いんじゃないかな」
へー、そうなんですか。そういえばセイコーマートで飲み物を買ったことなかったなあ。コンビニということで勝手に高いと思い込んでいたのである。それなら一度見てみることにしよう。
ちなみにセイコーマートというのは北海道産のコンビニ。いや、正確に言うと、コンビニとスーパーを足して二で割ったようなお店。走っているとしょっちゅう見かけます。
「ここは熊がよく出るんですよ。以前、道路に出てきた熊と観光バスがぶつかってバスが横転したことがあるんですよ」
え?まじ?熊ってすごいんだな。そんな力あるんだぁ。
「そうそう、安いお風呂なら、あの坂上った所に夕陽の家っていうところがあるから」
あっ、そうなんですか。じゃあ、これから行ってみます。
「泊まるのなら、あそこにバスの駐車場があるからそこがいいんじゃないかな。トイレも近くにあるし」
いや、泊まるとこならもう決めてあるので大丈夫ですよ。
お巡りさんなのか、ガイドさんなのか。途中からよく分からなくなってきた。というか、ここは駐在所兼観光案内所なのか?まあ、いろいろな話が聞けて面白かったからいいんですけど。
お巡りさんから教えてもらったお風呂へ行く。しかし、営業時間が午後八時まで。うわっ、あと一時間もないじゃん。せっかく休憩所でゆっくりしようと思っていたのにー。というわけで、いつもよりさらに輪をかけてのカラスの行水。閉まるまで日記をつけたりしてくつろがせて頂いた。あっ、あとケータイの充電も。
道の駅に戻りさっさと寝ることに。が、またしても虫が刺してくるため、なかなか寝付けない。ほんと勘弁してくれよ。とりあえず明日はカムイワッカに行く予定。でも、雨らしいしなあ。どうしましょ。
2010年7月30日(金) 網走刑務所の近くに泊まる (湧別―網走 114km)
いつも通り午前四時起床。雨に濡れないようにと中に入れておいた自転車を外に出す。
わー、きったねー。さすがに昨日はずっと雨の中を走っていたせいで、自転車の至るところに泥がはねている。うーん、なんか気分よくないね、このまま走るのも。
天気はどうかな、と空を見上げてみる。雲は出ているが、ところどころ青空が顔を覗かせていた。
えーと、こんなに晴れたのは四日振り、ですか。
はぁーっと大きく息を吸い込む。うーん、空気がおいしい。気持ちがいい。さあって、気分がよくなったところで自転車をきれいにしますか。
と思ったら泥を落とすための水がない。
あっ、そっか、そっか、あった。というか、そこしかないでしょ、トイレの洗面台の水。と、思いついたまではよかったが、今度はその水を運ぶための入れ物がない。そこらへんにバケツやコップ、落ちているわけないよね。仕方ない、両手をコップ代わりにして水を運びますか。あちゃー。半分以上こぼれたやないかい。十回以上往復してようやくきれいになった。
今日は最低でも網走まで行きたいところ。百キロはないので、普通に走れば行ける距離。
走り出してしばらくすると、サロマ湖が見えてきた。朝日にキラキラ輝く湖面。実に美しい。何か神々しさを感じさせてくれる。ところで、このサロマ湖、全国で第三位の面積を誇るそう。
へー、そうなんですか。それは知りませんでしたな。一位、二位は知っていたが(もちろん、琵琶湖、霞ヶ浦)、三位が北海道にあったとは。ちょっと意外。
途中、サロマ湖のビュー・ポイントであるピラオロ展望台に寄る。が、はっきり言ってたいしたことがなかった。というか、湖が大きすぎて目に入るのが水ばっかりなんですよ。景色として楽しむのにはもっと小さい湖の方がいいんでしょうね。
この近くにはもう一つ展望台があるらしい。しかもそこはここより見晴らしがいいそう。よし、行こうか。と思ったが、五キロも山の中へ走らなければならないと知ってやめた。
だってぇ、坂上るの嫌だしー。それにせっかくの晴れ。なんか今はもっと先を走りたい気分なんだもん。
それにしても久しぶりの青空。走っていて実に気持ちがいい。繰り返し現れるアップダウンも苦にならない。とはいえ、思いっきり太陽が出ると、やっぱり暑い。喉が渇く。うーん、夏ですな。
湖周の公園線に差し掛かる。いやー、ここ、いいです。湖がよく見えます。気持ちのいい道です。よし、ここは走りを堪能しよう。そう思い、自転車を漕ぐことに専念。
が、あまりに専念しすぎたせいか、途中寄ろうと思っていた「サロマ湖ワッカネイチャーセンター」へ入る道を見落としてしまった。
あっちゃー。どうしましょ。まー、いっか。戻るのも面倒くさいしね。
そのまましばらく行く。すると、自転車に乗った小学生らしき男の子がわたしの前を行くのが目に入ってきた。よく見ると野球のユニフォームを着ている。これから野球の練習にでも行くのだろうか。
それにしても、この少年、後ろから走ってくるわたしのことが気になるのか、さかんに後ろを振り返る。いつの間にかわたしが少年を煽っている形に。いや、そんなつもりはまったくないのですが。
でも、ちょっと面白い。本当に煽ってみようかと思い、試しにスピードを上げてみた。すると、少年の振り返る回数が徐々に増えてきた。オラオラ、ウリウリ。あはは。けっこう楽しいですな。

サロマ湖を過ぎ、旧常呂町に入る。常呂といえば、なにはなくともカーリング。本橋マリリン、いないのでしょうか。探してみましたがいませんでしたな。
ところで、ちびちび飲んでいた飲み物がとうとう切れました。
うへっ。こんな暑いのに飲み物がないなんて、熱中症がちょっと心配。こりゃ、まずいと思い、スーパーを探す。サッポロやツルヤ、どこかにないの?
しばらく走ると、一軒のスーパーが目に飛び込んできた。ほっ。助かった。が、近くに寄ってみるとまだ開店前なのか、店内の照明は落ちたまま。自転車を降り、近寄る。自動ドアを見ると、「九時開店」の文字が。ちなみに現在の時刻は八時四十分。
うわっ、マジですかー。
はーっ。あと二十分かぁ。今はこの二十分が死ぬほど長い。
待てねー。喉渇いたよー。なんか飲みたいよー。心の中で駄々をこねる。
といっても状況は変わるわけでもない。うーん、どうしよう。でも、二十分も待てねぇしなあ。
なんてことを考えていると、暗い店内から一人の店員が出てきて、窓を拭き始めた。なんだか片桐はいりを十歳ほど若くした感じの女性。
「まだ開店しないですよね?飲み物買いたいなあなんて思ったりして」わたしの笑顔の引き出しの中にあるとびっきりの愛想笑いを出して訊いてみた。
すると、それが功を奏したのかわからないが、「あー、飲み物ですか。だったらいいですよ」なんとドアを開けて店の中に入れてくれた。
うわっ、マジ?よっしゃー。心の中でガッツポーズ。言ってはみるものである。
それにしてもなんて優しい人。片桐はいりなんて失礼なことを言ってすいません。あなたは天使です。あっ、でも、そうすると片桐はいりに失礼になるか。あー、つまり、どっちもゴメンナサイ。
レジで会計を済ませながら、片桐はいり、いや間違えた、天使さんに話しかけてみる。
「どうもありがとうございました。おかげで助かりました。それにしても最近ずっと雨が降って、自転車で走っていても大変なんですよ」
「でも、今日は逆に天気がいいからさあ、喉が渇くかもしれませんねぇ」
ズッコケた。バリバリの北海道訛りだったのである。うーん、でも文字じゃ伝わらんか、このイントネーションは。
それはともかく、なるほど。そうかもね。もう、こんな思いはしたくない。ついでにもう一本買っておくか。と思ったが、荷物になるのでやめておいた。

「オホーツク自転車道」の標識が現れる。おお、もしかして北海道で初めての自転車道じゃない?よーし、久しぶりに車を気にしなくて気持ちよく走れるぞ。
と、思ったのも最初だけ。はっきり言って、ここの自転車道イマイチ。道は狭いし、路面状況もお世辞にもよいとは言えない。
国道の方が走りやすいかも、と思い、すぐに国道に戻る。実際走ってみると、国道の方が走りやすかった。あはは。意外とそんなもんです。
国道を逸れて、能取岬へ通じる道へ。その途中、一匹の動物が道路の真ん中で顔だけこちらに向けて立っていた。
ん?なんだ?しばしじっと目を凝らす。
もしや・・・・・・もしや、キタキツネ?・・・そうだ、そうだよ!やっぱりキタキツネだ!うわー、マジで。
いやー、驚いた。まさか本物のキタキツネを見れるとは。じんわり感動。涙がちょちょ切れそう。嬉しさのあまり泣いちゃうかも。
「こんにちは。よろしくね」
キタキツネに向かって手を振る。しかし、キタキツネちゃん、そんなわたしの気持ちもおかまいなしにさっさと林の中に去っていった。
おーい!待ってくれよー。後ろから声で追いかけるも彼(彼女か?)には届かず。
あーあ。行っちゃった。残念。もうちょっと見ていたかったのにー。
しばらく走っていると、前からキャンピングカーがやってきた。なにやらライトでパッシング。もしかして、これ、わたしに挨拶してるわけ?わーお。こんなの初めて。嬉しさのあまり、ドライバーに向かって大きく手を振る。すると、なぜか大笑いしながら手を振り返してくれた。あれ?いったい何がウケたのでしょう?
しばらく行くと今度はオートバイがやってきた。こちらもわたしに向かって手を振ってくれる。お返しにとばかり、これ以上ないというくらい大きく手を振ってみる。すると、こちらもなぜか大笑い。え?何がツボなんでしょう?
でも、楽しいー。なんかすげぇ、楽しいー。人を笑わせるのってこんなに楽しいものだったのか。なんだかクセになりそう。
ようやく能取岬に到着。と思いきや、なぜか砂利道の細い道が続いていく。どうしたんでしょう?行けども行けども岬らしいところに出ませんけど・・・・・。あはは。どうやら道、間違えたようです。
来た道を引き返し、今度こそ能取岬に到着。
だだ広い原っぱにたくさんの牛や馬が放牧されている。おお!すげー!こんなにたくさんの生牛、生馬はじめて見たぜ、というくらい実に圧巻の眺め。
試しにどのくらいいるのか数えてみた。一、二、三、四、・・・・・なんとまあ、百頭以上いるではないかーい。
それにしても面白い。わたしの目の前にいる牛、おまえ、いつまで食べているんかい、と思うくらい黙々と草を食べているのである。ほんと飽きないでよく食べれるよなあ。と言いつつ、それを見ているわたしもちっとも飽きないんだから人のこと、いや牛のことは言えないのである。
更に面白かったのが、近くに落ちている牛のウ○コのすぐそばでも平気で草を食んでいたこと。これ、人間にたとえれば、トイレでウ○コをした後、流さないでご飯を食べるようなもんでしょ。さすが動物、人間と違って実に逞しい。妙なところで感心。
岬の先端へ向かう。細く長い小道をてくてく歩き断崖の手前に到着。上から身を乗り出してはるか下に広がる海を覗く。
うわー、すげー汚れているじゃん。なんだよ、これ。なんかこう、もっときれいな海を想像していたのだが。と思いつつ、しばらくマジマジ見ていると、自分の間違いに気がついた。いや、汚れているなあと思って見ていたのは、実は海の底。つまり、海の底が見えるほど、ここの海は透き通っているのですよ。どっひゃーん、そうだったのか。それにしても、ここまで海底が見えるとは。よっぽど透明度が高いんですね。

午後一時半、網走入り。まずすることといえば、自転車屋を探すこと。いや、実は札幌で修理してもらったシフトグリップ、あれがまた壊れてしまったのですよ。それと、ここ数日の雨で、チェーンが油切れおこしてギコギコうるさいのです。ついでに油も借りようかなあと思ってね。
早速、市役所で教えてもらった自転車屋へ。すいませーん、油貸してくださーい。
すると、なんだい、といった顔で店主が奥から出てきた。
「油切れかい。まー、いいけど」と言うわりにはあまり貸したくないご様子。どうやらわたくし、歓迎されてないみたいです。
店主から油の入った小さな容器を受け取る。少しずつペダルを回しながら、油をチェーンに垂らしていく。おおー、いい感じ。ペダルをくるくる回転させると、実になめらかーな具合にヘーンシン。続いてシフトグリップの調子を診てもらう。
「あー、こりゃ、ラバー部分とプラスティック部分を接着させないとダメだね」
うーん、そうなんですか。というか、そうすれば直るってことなんですかね?
「・・・・・・多分。ま、ウチはこういうのはやったことないけどね」こんな修理やりたくねぇな、という顔で実に気だるさそうに言う。
ムカーッ。なんかその言葉を聞いたら、その様子を見たら、腹が立ってきた。ここで直すのが馬鹿馬鹿しくなってきた。だって、こっちはお客なんだよ。お金を出すんだよ。なのに、なんでこんなやりたくなさそうなところに頼まなきゃいかんのよ。「はい、喜んでやらさせていただきます!」と言ってやるのが、店側の流儀なんじゃないの?
あーあ、アホくさ。あまりにもアホくさくなったので、ここの近くに他に自転車屋はないですか、と訊いてやった。すると、このすぐ近くにもう一軒あるという。オッケー、オッケー。そこ行こ、そこ。
教えてもらった別の自転車屋へ。早速、シフトグリップの故障を診てもらう。
すると、「あー、これはグリップごと交換しなきゃだめだねえ」という答えが返ってきた。
あれ?さっきの自転車屋と言ってること違うんですけど。どっちが本当なの?
うーん、本当に交換しなきゃいかんのかどうなのか。不安。しかも、グリップ代が五千円、それにプラスして技術料がかかるという。
たけー。たけーよ。あーあ、そんなにかかるんならやめておくか。それに店主を見ると「やりたくないよ」と顔に書いてあるし。というよりなにより、また途中で故障したら、旅先じゃあ文句も言えないじゃん。まさかまた直してもらうためにわざわざ網走まで戻ってくるわけにもいかないし。
とまあ、なぜ、わたしがそこまで考えるのか。
札幌で完璧に直ったと思っていたというのに、結局は直っていなかった。それがちょっとトラウマになっているのです。
たくさんのところを直してもらい、いろいろなことを教わった。しかもとても安い料金で。その店主の器の大きさにいたくわたしは感動した。あれはいったいなんだったんだろうか。返してくれよ、感動。
まあ、いいや。決定。この自転車は今から八段変速と相成りました。北海道走り終わるまでこれでいこうと思います。まー、今までもこれで走っていたので、問題はないでしょう。

さて、現在、午後二時過ぎ。うーん、なにか先を急ぎたいところ・・・・・。でも、やっぱり網走といったら刑務所だよね。さすがにそこをスルーすると後悔しそうな気が。
まー、行くか。せっかく網走に来て刑務所に行かなかったら、なんかもったいない気もするし。
というわけで、まずは本物の網走刑務所へ行くことに。おお、驚いた。いやー、刑務所というから、さぞかし人里離れた寂しい場所にあるのかと思っていたのだが、実際は、車がビュンビュン飛ばしている国道のすぐ近くにあった。更に驚いたのは、すぐそばには団地があり、人々がごく普通に日常生活を営んでいることだった。
おいおい、大丈夫なのか。極悪犯が脱走して住民を襲わないのか?人質にとって身代金を要求しないのか?
人事ながらものすごーく心配。
以下は後でわかったことである。なんでも網走刑務所は昔はともかく、現在はそれほど重い罪の受刑者は服役していないそう。もちろん近年、脱走事件も起こっていない。
あはは。どうやらわたし、テレビや映画の見過ぎのようです。
次に訪れたのは、昔の網走刑務所を再現した「博物館網走監獄」。
入場券を買うため列に加わる。しばらくそのまま並んでいると、わたしの前にいた若い女性が振り返り、「これ、持っていますか?」と一枚の紙を出してきた。見ると、それは団体割引券。女性の前にはおばあちゃんと弟らしき人も一緒。
はい?なんですか、それ?もちろん、そんなもの持っているわけありません。だって一人で来ているわけだし。
わたしが訝しげにしていると、その女性は、「よかったら、一緒にチケット買いませんか?」と申し出てきた。
え?ウソ?いいの?マジで?これ、使うと割引になるんでしょ。もちろん買います。買いますよ。異論、あるわけないじゃないですか。
結局、四人で入るということにして、団体割引にしてもらった。おかげで千五十円(高い。本当にそんなが価値あるのか)のところが九百四十円になった。でもなぜ誘ってくれたのかは謎。
お嬢さんに深く礼を言い、門をくぐる。正直、刑務所のネタだけで、そんなに見るべきものないだろうと思っていた。どうせ、子供だましなんだろうと。
そんなことありませんでした。意外と見るもの、ありましたです。現在の裁判、昔の囚人の入浴や食事の様子、網走刑務所の歴史、などなど。
中でもわたしが一番関心を持ったのが、北海道道路建設の成り立ち。服役していた囚人たちが工事に駆り出され、その工事の途中、極寒の地で多くの人たちが亡くなっていったという。
そうだったのか。知らなかった。そんな尊い命の犠牲の上で道路ができたのですね。わたしたちが走れるのもそういった人たちのおかげなのですね。そう思うと、とても申し訳ないというか、ありがたいという思いが募ってくる。罪を犯したとしても、わたしたちと同じ人間であることには変わりない。感謝。
いやー、案外よかった。ここはたっぷり二時間はいましょう。

思いのほか博物館がよかったので、すっかりお風呂に入る時間が遅くなってしまった。ちょっと急ぎましょ。
今日のお風呂は、「網走観光ホテル」のお風呂。さっき電話で訊いたところ、日帰り入浴もOKということで決めたのである。
キツイ坂を上って到着。早速、フロントでお風呂に入りにきたことを告げ、お金を払う。
しかーし、その時、目を疑うような出来事が。なんと、応対した従業員、お釣りのお金をわたしの手に落とすように渡したのである。いや、正確じゃないな。わたしの手の上にお金を落とした、しかも意図的に。そっちの表現が正しい。その上、一切、わたしの目を見ようともせず。
おいおい、マジかよ。驚いた。今どき、そんなホテルが存在しているってことに。というか、ホテルって他の接客業に比べて、お客に対するマナーがしっかりしているんじゃないの。今までそういう認識でいたのですが。これって間違ってます?わたし、接客業に従事したことがあるので、ことのほかこういうことにはうるさいのです。
あーあ、なにこの人。今どきコンビニでも(コンビニで働いているみなさん、ゴメンナサイ。他意はないのです)ちゃんとお金を渡すよ。というか、それが普通でしょ。それが礼儀でしょ。仮にわたしがあっちの筋の人だったとしたら、刃物の一つでもカウンターの上に突き刺してまっせ。「おまえら、何さらしてんじゃ!」って。まあ、実際、そんなことはできないんですけどね。でも、そんな妄想でもしてなきゃ我慢できなかったのです。
しかし、ここのホテルに対する不満はこれでは終わらず。教えられた浴場に行き、露天風呂に入ると、なんと柵には無数の蜘蛛の巣、しかもお湯には虫の死骸まで浮かんでいたのだ。おいおい、なにこれ?お客を不快にさせるという新しいサービスですか?
まったくよー、やる気あんのかよー。みなさん、ここには泊まらない方がいいです。お風呂には入らない方がいいです。
ん?何?もしかして言い過ぎか?いや、これくらい言ってもいいでしょう。というか、こんなところが繁盛しちゃいかんなわ。そういう話なのです。
しかし、そんなとこでも、一つだけよかったことがあった。脱衣所のすぐ横にコインランドリーがあったのである。しかも駅前のより百円安いという。
おお、ラッキー。これでお風呂に入っている間、洗濯を済ますことができる。時間が節約できる。が、喜んだのもつかの間、なぜか乾燥機、かけてもちっとも乾かないのです。一時間もかけているのに湿っぽいって。これ、どういうわけ?以前利用した乾燥機は三十分でも熱々だったのに。なんなんでしょう。性能の違いなんでしょうか。
ランドリーを回している間、日記を書く。ついでにコンセントの差込口があったので、ケータイの充電も。駅前のドコモショップでしようと思っていたのだが、こちらも手間が省けた。
しばらく日記を書いていると、やたらガタイのいい男たちがぞろぞろと入って来た。中には外国人もいる。見るとみなさん、身長百八十センチ以上。でけぇー。頭なんか天井に届きそうだもんなあ。上半身を見ると、こちらもすごい。今にもはちきれんばかりの筋肉がカチンカチンに固く盛り上がっていて、これが見事な逆三角形を描いている。しかも太腿なんか「なに、ボンレスハムぶら下げてるの」と思うくらいぶっとい。
なんなんでしょう、この人たち。大学の体育会系の合宿なのか。それにしても、これだけ揃うと、威圧感がハンパない。さっきまで大威張りで日記を書いていたわたしも、心なしか縮こまったよう。どうやら本能的に恐怖を感じたみたいです。
お風呂から上がってきたおじさんに、あの人たちなんなんですかね?と訊くと、「サントリーのラグビー部らしいよ」と教えてくれた。
おお。そりゃ、すごい。どおりでがっしりしているわけですな。
今日の寝床は、網走刑務所(本物の方)の横を流れている川岸の東屋にしてみた。いやー、刑務所を見ながら泊まるっているのもなかなかできない経験。
しかし、虫刺されがひどくてなかなか寝付けず。こういうことがあるから、テント欲しいんだよね。おかげで結局、「ジブリ作品はなぜ人気があるのか?」というラジオ番組を最後まで聞くことになった。といってもそんなこと、わたしにはわかりません。だってわたし、ジブリ映画ってほとんど見たことないんですから。
2010年7月29日(木) なんでこんな雨の中を走っているんだ? (浜頓別―湧別 156km)
朝方、目が覚める。気になる雨を見るため外に出てみると、ポツポツとだが雨は降っていた。
あーあ、やっぱり雨か。いきなりユーウツ。それにしても、昨日はほんと死ぬかと思ったぜ。久しぶりに身の危険を感じてしまった。
しかし、である。そんな悲惨な目に遭ったというのに、なんと今日から四日連続の雨模様の天気だそうです。昨日、少年がメールで教えてくれた。
は?四日?四日もこんなところにいるの。あり得ないでしょ、そんなこと。
昨日も一昨日も雨。それなのに、これからもずーっと雨。もしかして「おれの後から雨ついてきてないか?」そう思うくらい雨に祟られている。
あーあ、困った、困った。どうしましょ。この雨の中を行くしかないのか?嫌だなあ。かといって四日もこんなところにいたくないし。それにいちいち雨で停滞していたら、ちっとも前に進まない。さらに四日も待っていても晴れるという保障はどこにもないわけだし。
どうしましょ・・・・・・えーい、行ったれ。ここでじっとしていても仕方がない。きっと四日も降らないだろう、予報は外れるだろう、というまったく根拠のない推測を携えて、結局、出発することにした。
走り出してすぐに雨が強くなり始める。時折、弱まったり、強まったりするが、基本的にはずっと降り続いている。さらに、わたしにどんな恨みがあるが知らないが、これが向かい風ときたもんだ。雨がわたしに向かってバチバチと当たってくる。
あーあ、なんてこったい、まったく。出てきたのは間違いだったのか。早くも後悔。

午前十時、雄武の町に到着。ちなみにここ、「おうむ」と読みます。さぞかし一時は大変だったことでしょう。
ところで、今のわたしもけっこう大変な状況にいるのですが。
ま、それはどうでもいいか。この町の人には関係ないし。
しばらく走っていると、一段と雨脚が強くなってきた。まともに目も開けてられない状態。
道路工事をしているおじさんが、「なんでこんな雨の中を走っているんだ?」という顔でわたしを見てくる。
あははは。なんでなんでしょうね。わたしにもよくわかりません。
こんな雨ごときに負けてたまるか、という意地なのか。といっても、何に対する意地なのかわかりませんが。
くそーっ。なんか開き直ってきた。こうなったらどんだけ降ろうが走ってやろうじゃないの。どこからともなく怒りがフツフツと湧いてきた。といっても、何に対する怒りがわかりませんが。
まったくもって意味不明なわたしである。
途中、外国人のバイカーさんとすれ違う。すれ違いざま、サムアップポーズを受ける。こちらも負けじとサムアップ。そういえば、その後、外国人の自転車ツーリストも見かけたが、日本人は一切ナシ。
なんだよー、お前たち。外国人に負けてるやないかい。この軟弱な日本人どもめ。こんな雨の中を走るのはおれしかいないのか。お前ら、雨の中でも走らなくてもいいのか。まあ、いいんですが。
ここまでの印象はまったくナシ。というか辛すぎて憶えてない。あるのは、ただひたすら雨の中を走った、その印象だけだ。
午後三時、紋別に到着。今日はここに泊まろう。そう思ったが、そうするとお風呂の関係で明日は二百キロ近くも走らなきゃあかん。さすがにそりゃ無理。というわけで、再びペダルに足をかける。
途中、一旦上がっていた雨が降り出してきた。あーあ。どうやら今日は、最初から最後まで雨に降られっぱなしのようだ。

午後五時、温泉がついている湧別の道の駅に到着。今日はここの温泉に入って、どこか近くに泊まろうと思います。なみに雨はまだ降っている。あーあ。うっとうしったらありゃしない。
自転車を濡れない場所に置き、中に入る。わーお。いいじゃん、ここ。広いし、きれい。とすると、建ってからまだ間もないのか。浴場へ行くと、こちらもなかなかきれい。すこぶる満足。
お風呂から上がり休憩所へ。おお、ここも広い。いいじゃん、いいじゃん。目の前には広々とした畳敷きの休憩所。何畳くらいあるのかわかりませんが、とにかく広い。
荷物を置いて、長机の横に腰をおろす。ザックの中からスナック菓子を取り出し頬張る。ふと机の上を見ると、そこには食事のメニューが。
あれ?ここで持ち込みの物を食べていいの?不安になり周りを見渡す。すると、お菓子を食べたり、ペットボトルに口をつけている人たちがいた。ほっ。どうやらいいみたいです。
くつろぎながらテレビを見る。
どっひゃーん。一気に目が釘付けになった。なんと今日は北海道全域で大雨だそうです。しかも、これまでわたしが通ってきた島牧、寿都、せたな、増毛が土砂災害などに遭って通行止めになっている。
わーお。えらいことになってるやないか。さすがにただ通ってきただけとはいえ、知っている地名を聞くとちょっと人事ではない感じ。
しばらくそのまま見ていると、「今までここにずーっと住んできたけど、こんなの初めてだわ」とかなりご高齢の女性が半べそをかきながらインタビューに答えていた。なんだか北海道史上屈指の大雨みたいです。
そんな中を走ってきたわたし、果たしてなにかの記念になったのか。
というより、そんなことを思ってしまうわたしは不謹慎なのか。
一人、考えに耽るわたしなのであった。
さて、今日の寝床はどうしましょう。最初は、道の駅の敷地内にある軒下に泊まろうと思ったのだが、先ほどのニュースによると、明日の未明から明け方にかけて大雨が降るとのこと。
うわー、そりゃ、あかん、あかん。寝袋一つで雨に降られた日には、悲惨な目に遭うのは火を見るより明らか。何か建物の中に避難しないと、こりゃ大変なことになるぞい。
となると、やっぱりあそこしかないか・・・・・。いや、実は来る途中、バス待合所を見つけたのです。しかも、トイレも併設されているというこの上なく素晴らしい所なのです。
でも、ただ一つ難点が。そこ、ここから四キロも戻らなきゃあかん場所にあるのよ。しかも、そこまでこの雨の中を走らなきゃいかんという、ちょっとした二重苦。まあ、かといって、寝ていて大雨に吹きさらされたら、それこそ目も当てられないわけで。つまりわたしに選択の余地はないわけですな。
戻りますか。
お風呂に入ったので、なるべく汗をかかないように力をセーブして走る。かといって、あまりゆっくり走っていると雨に濡れてしまう。難しいんだなー、この加減が。
そんなことをしているうちに、無事、今日の寝床であるバス待合所に到着。中に入る。わーお。それにしても広い。これ、ちょっとしたワンルームマンションでしょ。わたし、ここに住めます。もしくはちょっとした宿泊施設か。わたし、三百円までなら出してもいいです。
辺りはすでに真っ暗。誰も来る気配はない。ベンチの上に寝袋を敷き、潜り込む。ラジオを聴いていると、疲れていたのかあっという間に意識がなくなった。
2010年7月28日(水) こりゃ、シャレにならんぞ (稚内―宗谷岬―浜頓別 111km)
いつもと同じく午前四時に起床。眠っているみなさんを起こさぬように静かに出発の準備。すやすや眠っている少年に心の中で挨拶をする。そう、わたしは先を急いでいるのです。たくさん走っておきたいのです。なんでかはよくわからんけど。
外へ出ると、灰色か茶色かどっちか決めろと言いたくなるような、なにやら恐ろしげな稚内の空だった。いやーな予感。
しばらく走ると、案の定というべきかやはりというべきか、道路の電光掲示板に「宗谷北部雷注意報発令中」の文字が冷徹に表示されていた。
なに?朝から雷ですか?昨日は暴風雨、今日は雷。まったくいい度胸していますね。稚内はわたしに恨みでもあるのか。
まずは日本最北端の地・宗谷岬へ向かう。別になにがあるわけでもないだろうが、稚内に来たら誰もが行くことになっている。
一時間半ほど走ると宗谷岬、というよりテレビでよく見た三角形の「日本最北端の碑」が見えてきた。
「おお。いよいよわたしも日本最北端まで来たのか。なにか感慨深いものがあるねー」
なんていうことは思わなかった。
だってふつうの広場ですよ、ここ。日本最北端という名誉がなかったら、単なるふつうの岬でしょ。というより、ただ最北端というだけで、ことのほか重要視されているのが気に入らない。威張っているのが気に入らない。いや、別に威張っていないか。それはともかく、宗谷岬のせいで他の名もなき岬が軽く扱われているのではないか。虐いたげられているのではないか。わたしにはそっちの方が気になる。そう、わたしは心優しき旅人なのだ。マイノリティーの味方なのだ。
なんだかややこしい話になってきました。
とりあえず日本最北端の碑の前で写真を撮ることに。いくらカッコイイこと言っていても、その実はミーハーなんですね。
セルフタイマーをセットし、自転車と一緒にカメラにおさまる。
なんていうのは冗談。わたし、カメラ持ってきてないんですよ。会う人には心のシャッターを切ってるんです、と洒落たことを言っています。早い話、撮るのが面倒くさいだけなんですけどね。
一応、オホーツクの海を眺めてみる。なんでも、晴れた日にはここからサハリンが見えるらしい。
見事なくらいなにも見えませんな。目に入るのは灰色の空と灰色の海。どこにでもありそうな風景。さらに特別感減。
どうやらここはわたしがいるべき場所じゃないみたい。ほかに人はいないし。そりゃそうだ。まだ朝の六時半だもん。
というわけで、宗谷岬を後に。ここからはひたすら北海道を南下いたします。ということはつまり、今まで追い風だったのが向かい風に変わるというとても非情な現実に向かわなければならないわけですな。
おもー。分かりやすすぎるくらい一気にペダルが重くなった。しかも眠気まで襲ってきたもんだ。きっと六時間しか眠っていないのが原因だろう。昨晩は少年と本の話で少し盛り上がったのです。
途中、道の駅があったので、そこで少し寝ることに。ベンチの上にマットを敷き横になる。三十分ほど眠ったが、あまりスッキリせず。あーあ。
再び走り出す。しばらく行くと、大きな看板が目に入った。なんだろう、と思い、自転車を停めて見る。看板にはたくさんの牧場が地図入りで紹介されてあった。
合点がいった。いや、さっきからずっと同じような牧草地が続いていたんですよね。なるほど、あれは牧場だったわけですな。それにしても遥か山の麓までずっと続いている。前を見ても後ろを見てもずっと。まったく北海道の大きさを実感せずにはいられない。
というのは表向き。実はあまりにも同じ景色が続いていて、ちょっと飽きてたんですよ。
国道二百三十八号線を逸れ、エサヌカ線という道路に入る。なんでもここからは長い直線道路が続くらしい。入ってすぐに民家があり、本当にそんな道路があるのか、とちょっと不安になったが、心配なかった。しばらく行くと、真っ直ぐな道路が広々とした牧草地をスパッと切り裂いていた。
ひょえー。ほんと果てしなく真っ直ぐやな。漕いでも漕いでも、まったく進んだ気がしない。しかもまったくといっていいほど車が通らない。距離だけみれば昨日通った日本海オロロンラインよりも短いが、人気の無さならこちらの方が上かも。
途中、反対側車線から一台のワンボックスカーが走ってきた。ようやく現れた車にちょっとホッとする。チラッと車内を見ると、女性二人がわたしに向かって手を振っていた。
よっぽどがんばっているように見えたのでしょうか。
それにしても、うれしー。実は車に乗っている方から手を振られたのはこれがはじめて。なのですごく嬉しい。嬉しいのは嬉しいのですが、ちょっと恥ずかしい気も。
エサヌカ線が終わり、再び国道二百三十八号線に戻る。すると、今度は横から声が飛んできた。
「がんばってー」
見ると、真っ黒に日焼けした小学生と思しき女の子が、わたしに向かって大きく手を振っていた。
本日二回目の、うれしー。
それにしても可愛いですな、女の子は。汚れがないというか、純真無垢というか。あくまでも個人的な意見ですが、子供が、とくに女の子が可愛いのは小学生くらいまでではないかと思っている。それ以上になると、どうもマセて生意気になるんじゃないかと。
小学生の女の子相手なら、学校の先生をやってもいいかな。聞き分けのいい子限定ですけど。無邪気で可愛いらしい小学生に囲まれてお仕事。おお!ワンダフル!さぞかし楽しいんでしょうね。どこが先生募集しているところないですかー。わたし、安月給でも働きます。
果たして十年後、彼女はわたしのことを憶えているのだろうか。夏の北海道を自転車で走っていたわたしのことを。なんていって、明日になったら忘れてたりして。

午前十一時半、浜頓別に到着。なかなかいいペース。この調子なら枝幸まで行けるかな。
コンビニで昼食を済ませ、再び走り出す。すると、ポツポツと雨が降り出してきた。最初はたいしたことないだろうとたかをくくっていたのだが、予想に反して段々雨が強くなってきた。おい、マジかよ。
このまま走れないこともなかったが、昨日のこともあったので高台にある公園に避難。ちょうどうまい具合に東屋があったのです。
しばらく雨宿りしていると、一人のおじさんが車から降りてわたしの元にやってきた。しばし、おじさんとおしゃべり。なんでもおじさんはこの近くに釣りにやってきたのだが、生憎の天気なので諦めてこれから家に帰るそうです。
ふーん、そうですか。おじさんはこの雨の中、一人、わたしを残して帰るんですね。いいんですかね、そのまま帰っちゃって。まー、いいんですけど。
おじさんの後姿を恨めしく見送りながら、一人、東屋の下でたたずむ。雨は相変わらず降り続いていたが、空はいくぶん明るさを増してきた。こりゃ、もう少しすれば雨も上がるかな、と思っていたら、今度は黒い雲が辺りを覆い始め、みるみるうちに雨脚が強くなってきた。あっちゃー。こりゃ、ちょっと移動するのは無理か。もしかして、今日はここで野宿かも。そんなことが頭に浮かぶ。
万が一に備えて宿泊体勢を頭の中でイメージ。まずはテーブルの上にマットを敷く。次にその上に寝袋を広げてみる。足はテーブルからはみ出しそうだが、とりあえず寝れないことはない。まあ、いいや。いざとなったらここで泊まることにしよう。
そんなことをしているうちに、さらに雨脚が強くなってきた。そしてあっという間に滝のような雨に。目の前は一面雨のカーテン。見事に遮られて、周り何も見えず。
おいおい、マジかいな。こりゃ、シャレにならんぞ。まさか本当に今日はここで野宿か?
そうこうするうちに今度は山の方でピカッと光った。同時にドカーンという音も。うわっ!雷じゃん!それもすぐ側。地面、揺れてましたよ。
あちゃー。豪雨に雷。いよいよシャレにならんぞ、これは。わたし、完全にビビッています。あまりの怖さにちょっとオシッコちびりそうだったので、トイレに行く。しかし、東屋から一歩外に出ただけで一瞬にしてずぶ濡れになった。
うわっ、なんだよ、これ。わたし、泣きそうです。用を足して、急いで東屋と戻ると、状況は更に大変なことに。わたしが寝ようと画策していたテーブルが雨でぐしょぐしょに濡れていたのである。そう、雨が猛烈な勢いで東屋の中に吹き込んでいたのだ。そして、今わたしは一身にその雨風を受けちゃっている。こうしている間にも、どんどん雨が吹き込んでくる。相変わらず雷も。どうしましょ、どうしましょ。おろおろするわたし。
おーい、助けてくれー。誰かいないかー。
当然、いるわけないのですが。というわけでジ・エンド。
うわー。ここで寝るなんて無理。というかこのままいたら死ぬかも。一瞬、「死」の文字が頭をよぎる。いや、冗談じゃなくマジで。後から思えば、きっと本能でそう思ったんでしょうね、理屈うんぬんじゃなくて。
これ以上ここにいたら危険と感じたわたしは、雨脚が弱まったのを見計らって(といっても、まだ地面に打ちつけるような雨だったが、それでも幾分まし)、来た道を引き返すことに。実は、来る途中にバス待合所があったのだ。北海道のバス待合所は、寒い冬と多い雪のためちょっとした小屋のようになっている。そう、そこに避難しようという考え。そこまでの距離、およそ三キロ。うりゃー。雨の中を必死に走る。ずぶ濡れになりながらもようやく到着。
すぐにドアを開けて中に入る。お世辞にもキレイとは言えないが、今はそんなことは言ってられない。ちゃんとした屋根、壁がついているだけでありがたい。これならいくら雨が降ろうが大丈夫。とりあえず濡れた衣服を着替え、ベンチの上にマットを敷き、寝袋を広げその中にくるまる。寒くはなかったがなにかに包まれたかったのだ。
ケータイを見ると午後四時。さすがにまだ寝るのには早いので日記を書くことに。すると一時間ほどで眠気が。ウトウトしているうちに意識がなくなっていった。気づいたら時刻は午後七時を回っていた。ということは、二時間ほど眠っていたのか。しばらく目を瞑ってボーっとしていたが、またもやウトウト。そしてまた眠りの底へ。よっぽど疲れていたのか、いや、きっと安心したせいだろう。その日はそれから一度も目を覚ますことなく眠っていた。
2010年7月27日(火) 誰が行こうなんて言いだしたのは (天塩―稚内 90km)
夜中、トイレに行くために起きる。立て付けの悪い引き戸のドアを開けると、ドーンと猛烈な風がぶつかってきた。うわっ。あぶね、あぶね。あまりの風の強さによろけてしまう。しかも風だけじゃなく雨も降っているときたもんだ。
ひえー。とてもじゃないけど今日は走れないなあ。うーん、どうしよう……困った。といってもこの雨じゃどうしようもない。
あーあ、今日は一日停滞かよ。まあでも、しゃーないわね。
用を足してライダーハウスに戻り、再び寝袋にくるまる。とりあえず寝ましょ。だってそれしかすることないんだから。
夜が明けて午前六時。目が覚め、寝袋から這い出し、不安げに窓の外に目をやる。どうやら雨は降っていないよう。しかし、今にも泣き出さんばかりの雲が空を覆いつくしていた。外に出る。相変わらずの強風。それに生暖かい空気。そしてこの空。
なんかやけに台風が来る前に似ているんだけど、気のせいか?
でも、たしか北海道には梅雨と台風はないはず。いや、梅雨はあった。今年がそう。身を持って確認しました。
さて、この天候の中、行くべきか行かざるべきか。悩むところ。
・・・・・・まっ、行きますか。五分五分だったら、行くね。こんなところで一日中過ごしていたくないし。
みなさんも、行きましょう。そう言うわたしに同意したのかどうかわからないが、どうやらアメリカさんも、少年も、日本一周中のお嬢さんも出発するようです。よし、四人なら心強い。さあ、みなさん、頑張ろうではありませんか。
しかし、走り出してすぐにバラける。というか、それも致し方ない。だってこの統一性のないメンツ、バラエティに富み過ぎ。
冷静に見て、一番走力があるのはトライアスリートでもあるアメリカさん、次に年の功でわたし、続いて少年、最後は女性ということもあってお嬢さんか。みなさん、無理せず自分のペースで走りましょう。
いよいよこれからは家も信号もなにもない日本海オロロンラインに入っていく。ちなみにトップを行くのはわたし。アメリカさんはまだコンビニにいて、後から追っかけてくるそうです。
うーん、このまま走っていてもなんか面白くない。誰かを追っかける形の方が走りがいがある。というわけで、ハンディとばかりにトイレを備えた休憩施設の建物に寄ることに。そこのベンチに座って菓子パンをかじりながら日記を書いていると、アメリカさんが走ってくるのが見えた。手を振るわたし。それに気づいたらしくアメリカさんがこっちにやって来た。いや、別に呼んだわけじゃないんですが。
アメリカさんがわたしに向かって何か言っている。が、理解できない。「何しているの?」と言っているのだろうか。「アイ・アム・ライティング・ア・ダイアリー」とペンで字を書くジェスチャー付きで言ってみる。うなずくアメリカさん。どうやら通じたようです。
さて、そろそろ行きますかね。自転車にまたがり漕ぎ始める。しばらく走り、ふと思う。なにもないところと聞いていたから、どんだけ寂しいところかと思っていたが、意外とそういう感情は湧いてこないのだ。
たしかに家も信号も何もない。だだっ広い中をわずか一本の道路が通っているだけ。しかし、思っていたよりトラック、乗用車、けっこう多くの車が走っているのである。おそらく稚内へ通勤したりしている車なのだろう。
アメリカによくあるような荒涼とした大地を一人ポツンと走る、そんなところを想像していただけにやや拍子抜け。
ただ、走りに関して言えば実に楽しめた。昨日と同様追い風。しかも、信号のない直線道路。ペダルを漕げば勝手にスピードが出る。「誰か後ろから押していない?」そんな感じで実に楽。六十キロも及ぶこんなところ、内地にはないもんね。
ここを堪能しようと必死に漕ぐ。いやー、実に気持ちいいだべ。このスピード感がたまらない。
しばらく行く。右手に昨日見たような風力発電の風車が一直線に並んでいた。しかし昨日と違うのはその数。ざっと見ただけでも二十基以上はあるだろうか(後でツーリングマップルを見たら二十八基と書いてあった)。いやー、これが実に壮観&圧巻な眺め。まるで風車が天高くそびえたつ杉の木のようなのだ。なにか見ているだけで、心がすーっとしてくる。心が洗われてくる。実に清々しい。天気は悪いけど。

途中、先行していた少年とアメリカさんと合流。後からやって来たお嬢さんは休憩しているわたしたちを尻目にそのまま先へ行ってしまった。え?マジ?休んでいかないの?すげぇ、タフ。
三人で話をしていると、そこに一人のおじさんツーリストやってきた。四人でノシャップ岬を目指すことに。少年は少し嫌そうでしたが。
ところが、これが大変なことに。さっきまでパラついて雨がいよいよ本降りの様相を呈してきたのである。ひょえー。マジかいな。
あまりの雨の多さに上着を羽織ろうと、バックにムーンストーンのジャケットを探す。が、ない。ない。どこにもない。おーい、どこだよー。どこなのよー。返事してくれー。
返事、ありません。というかなぜないんだ?もしかして、どこかに忘れたか。
あー、ひょっとして……思い出した。きっとライダーハウスだ。昨日寒くてバックの中から取り出したのだが、肝心なことに入れた覚えがない。うわー。マジかよ。これから取りに戻ることも一瞬頭をよぎる。が、ここまでですでに四十キロほど走ってきている。しかも戻るとなるとこの雨の中を走らなあかん。うわー、さすがにそれはイヤッ。それは無理。というわけで、ゴメンナサイ。可哀相なジャケットはおきざりにされることになりました。合掌。
で、雨である。この頃になると、さらに雨脚が強くなってきた。目の前ではあまりの激しさに雨煙が立っている。道路は水溜りを通り越してまるで池のよう。視界はゼロ。体はずぶ濡れ。目も開けてられない悲惨な状況に。
バケツをひっくり返したような雨というが、まさにこのことか。しかも悪いことに風の勢いが増してきた。前から横から後ろから、いろんなところから雨が当たってくる。結果、四方八方からバケツのような水を浴びることに。あはは。なんだい、これ。何かの罰ゲームかい?しかもタイヤが蹴り上げた水しぶきがモロに顔にかかる。ぶわー。口に入った雨を吐き出す。チクショー。おれがいったいなにしたっていうんだよー。ひどい、ひどい。ひどすぎます。
とりあえずどこか雨宿りできる場所はないのか。周りを見るがなにもない。そっか、ここはなにもないところだった。先を走るしかない道はないのだ。もー、悪夢。夢なら覚めてくれー。だいたいよ、誰が行こうなんて言いだしたのは。わたしか?いやすまない。

なんとかノシャップ岬に到着。が。先を走っていたはずのアメリカさんとおじさんの姿が見えない。とりあえず岬の突端へ向かう。途中、トイレがあったのでそこに一時避難。
ひぃー。それにしてもいったいどうなっているんだ、この天気。これ、暴風雨を通り越して台風でしょ。北海道には梅雨だけじゃなく台風も来るのか。
もう一歩も先に進めない。しかし、このまま立ち去るのは悔しい。突端まで行かなきゃ、なんのためにこんな思いをしたのかわからん。意を決して外へ通じるドアを開ける。ブワーッ。ものすごい雨風が吹き込んできた。一瞬よろけるが、必死に体勢を立て直し、歩を進める。残り五メートル。なんとかノシャップ岬の看板の下に到着。看板を握って「やったぞー!」とガッツポーズ。するやいなや、一目散にトイレへ逃げ込んだ。
ほどなくして少年がやってきた。おお、思ったより早かったじゃん。
「もう必死になって漕ぎましたよ」
少年は海にでも浸かったんじゃないかと思うくらいずぶ濡れだった。水が頭から滴り落ちている。よく頑張った。エライ、エライ。君は成長するよ。
「ところで、おじさんとアメリカさんは?」
そうなんです。いないんです。ちょっと探してくるわ、と少年に言い残し、外へ出る。相変わらず尋常じゃない風雨。少し行くと、食堂の脇におじさんの自転車が停まっていた。中に入ると、おじさんだけじゃなく、なんともまあ、お嬢さんもいた。どうやら食事していたみたいです。
おじさんにアメリカさんの行方を訊くが、「わからない」とのこと。もー、いったいどこに行っちまったんだよ、アメリカさんは。
おじさんはこの先にあるユースホステルに泊まるそう。仕方ない、われわれは北防波堤ドームを目指すか。なんでもそこは夏になると多くの旅行者がテントを張って泊まる有名な場所らしいのです。今日はそれに倣って、そこに泊まろうと思っているのです。
そこまでの距離、わずか四キロ。しかし、今はその四キロがとてつもなく長い。雨が容赦なく体を打ちつける。がんばって走りたいところだが、ノシャップ岬に着いて気持ちの糸が切れたのか、いっこうに足に力が入らない。もういい、なんか走る気しない。頼む少年よ、先に行ってくれ。ここはおまえに任せた。わたしは後からゆっくり行きまするので。
目の前を雨が流れ落ちる中、走る。しばらく行くと、港の方に北防波堤ドームが見えてきた。その形はまるで巨大なトンネルを半分に切ったかのよう。それにしても、でかっ。想像していたよりはるかに大きい。近づくとその大きさがさらに実感させられる。
しかし中に入ると拍子抜け。どのくらいたくさんのテントがあるのだろうと思っていたのだが、なんとあるのは一張のみ。でも、それもそのはず。だって下のコンクリートが濡れているんだもん。よく見れば見事なくらい四十五度の角度で雨が吹き込んできている。しかも港に打ち寄せる波が風によって吹き上げられ、ドームの中まで運ばれてきている。
おそらく通常の雨なら、ここで泊まるのもアリなんでしょう。でも、今日のような暴風雨ではとんでもない。
ふわー。どうしよう、こりゃ参ったなあ。無理でしょう、ここに泊まるなんて。でも、ここしか泊まるところ考えていなかったし。いまさら他の場所なんて思いつかん。
そんな不安げなわたしをよそに少年はここに泊まってもよさそうな顔をしている。そりゃいいよ、おまえは。テントあるからね。少々の雨なら屁でもない。でも、寝袋のみのわたしのことを考えてみ。ちょっとの雨が吹きこんだだけでも濡れてしまう。想像しただけでもこわっ。いやいや、やっぱ無理、無理。とてもじゃないけど、無理。少年よ、悪いがここは諦めておくれ。
「稚内にネットカフェはありますか」
犬の散歩をしていた女性がいたので訊いてみた。でも、顔を見ただけでないことがわかった。だって、わたしが言い終わらないうちに見る見る顔が曇っていくんだもん。で、返ってきた答えはまさにその通り。まあ、なんとなくそんな気はしていたけど。稚内はネットカフェがあるような大きな街ではないんですね。
少年と相談した結果、今日もライダーハウスに泊まることに。正直、余計なお金は遣いたくないが、この雨だ、そうも言っていられない。わたしだってまだ死にたくない。

手持ちのお金が残り少ないので銀行へ。中に入り、ATMコーナーへ向かう。キャッシュカードを入れ、暗証番号を押す。が、押してもまったく反応しない。え?なんで?番号を間違えたかなと思い、頭の中にいつも押している四桁の数字を思い浮かべる。よし、これでいいはず。もう一回押す。今度は一つ一つ丁寧に。でも反応ナシ。心が泡立つ。もう一度やってみる。先ほどよりさらに丁寧に押す。でもダメ。え?なんで?
カーッ。一気に体が熱くなった。と思ったら、今度は急にスーッと血の気が引いてきた。
おいおい、マジかよ。財布には英世ちゃんが三枚しか入ってないんだぞ。このままお金がおろせないとなると、今日はメシ食ったり風呂入ったりできないかもしれない。いや、そんなことをしていたら肝心のライダーハウスに泊まれない可能性も……。
荒れ狂う暴風雨の中、軒下で一晩過ごすわたし。
ゾーッ。想像したくねー。というかなんでだ?番号は間違っていないはず。おかしい。なにかがおかしい。焦るな。とにかくここは冷静になれ。落ち着け。まずは落ち着くんだ。ふーっ。はーっ。息を大きく吸って、大きく吐く。そんなことをしているうちに被っていた帽子のつばから雨滴がポタポタ落ちてきた。
・・・・・・ん?もしや・・・・・・。もしかして指が濡れていて、センサーが感知しないのかも。
早速、指をこすって押してみる。すると、今度はちゃんと反応した。
うわー、よかった。ほっとした。これで一安心。マジで焦ったよー。
途中、自転車屋に寄る。なんでもサドルが少年のお尻に合わないらしく、調整してもらいたいとのこと。あはは、そうですか。まあ、いいや。ちょうど雨宿りもしたかったしね。
すると、なんとそこにはお嬢さんがいた。おお、久しぶりです。といっても、さっき会ったばかりですが。
どうもお嬢さんは自転車の点検をしてもらっているよう。なんでもこうやって定期的に自転車屋に寄っては診てもらっているそうです。さすがです。きっとこれくらいやらないと日本一周なんてできないんでしょうね。それにしてもなかなかの気の遣いよう。
「おいおい、誰かさんもこのくらいやれよ」なんてことを思わず言いたくなる。わかっているとは思いますが、わたしのことです。すいません、反省します。
少年のサドルの具合もよくなり、お嬢さんの点検も終わったのでいざ出発。
ところでお嬢さん、今日はどこに泊まるのだね?ちなみにわたしたちはこの近くのライダーハウスで泊まるんですけど。
「まだ時間も早いのでもう少し走ろうかなあって」
お嬢さんはニコニコした顔をこちらに向けてきた。
ええっ、マジで?あんな鬼のような雨を体験しておいて、まだそんなことをのたまうのですか、あなたさまは?
いやー、びっくりした。おったまげた。さすがダテに日本一周してないわ。マジで感服。それではくれぐれも気をつけて行ってください。わたしたちはダメ。そんな気力ナッシングです。

自転車屋のおじさんに教えてもらい、無事、目指すライダーハウスに到着。そこには、国の重要文化財に指定されているんじゃないかと思うくらいひなびた建物が鎮座していた。
というのは皮肉。早い話、平屋建てのボロ屋。これ、築何年でしょう?不明。というか考えたくない。
うわぁ、マジ?マジでここに泊まるのかよ。嫌だなあ。というか、こんなところにお金を払うことが馬鹿馬鹿しい。納得できない。そりゃねえ、雨が凌げるのはありがたいけどさあ。
じゃあ、野宿する?
そうね。そう言われたらおとしなくするよりありませんよね。すいません、泊まらせていただきます。
宿帳に名前と住所を書く。ほどなくしてオーナーがやってきた。宿代六百円を徴収し、宿についての説明や周辺情報を教えてもらう。ついでにここのライダーハウスの特製シールをもらう。ありがとうございます。といっても、全然欲しくはないのですが(案の定、すぐに紛失。あはは)。
中に入ってみると、びっくり。予想に反してきれいに片付いていたのである。しかも一番汚れていそうなトイレや台所もきれいにしてある。よっぽど気を遣って使っているのか。まったく外からは想像ができない。外観からしてモノが散乱していると思っていたのです。
なんだか臭ってきそうな畳に腰をおろす。奥の方を見ると、年齢不詳のおじさんが二人、置物のように転がっていた。身なりはあまりきれいとは言いがたい。それにしても二人、馴染み過ぎ。だって部屋の風景と一体化しているんだもん。なにやら長期滞在者の臭いが。
そういう人たちって変わっている人が多いと聞く。そりゃそうだ。旅に出てきているのに、ずっと同じところにいるのだ。まともな旅行者のすることとは思えない。
ちょっと怖いなあ。正直、声をかけづらいなあ。なんて思ってもさすがに挨拶くらいはしないと。意を決して挨拶。よろしくお願いしまーす。すると意外にも気さくに挨拶を返してくれた。しかもこちらの質問にも実に丁寧に答えてくれる。勘違いでした。案外いい人たちみたいです。
さて、まだ午後三時。うーん、これからどうしようかね。まっ、やることはたくさんあるんですけどね。洗濯とか、メシとか、風呂とか、日記とか。
とりあえずメシですかね。といっても、昼メシにも晩メシにも非常に中途半端な時間。少年と相談した結果、昼メシは抜きにして、晩メシを外で一緒に食べることにした。
それまでなにしましょうか。まあ、風呂ですか、ここは。雨で体濡れているし。少年に、行く?と訊くと「行く元気ないです」とのこと。いい、いい。君はいい。ゆっくり休んでなさい。というわけで一人でお風呂に行くことに。なんでも稚内港の近くに温泉があるとのこと。
自転車を港へ走らせる。外はさっきの豪雨がなんだったかと思うような小雨。というかほとんど上がっている。おいおい、もうちょっと待っていれば、あんな豪雨に遭わなくてすんだのかよ。自分のツイてなさに肩が落ちる。
十分ほど走り、稚内副港市場に到着。この二階に「港のゆ」という温泉がある。自転車を停め、中に入ると、ある一箇所に人だかりができていた。近づいてみると、どうやらラジオの公開放送らしい。ミュージシャンらしき男性がインタビューに答えていた。しかし、全然知らない顔。稚内のスターなのか?
二階に上がり、温泉へ向かう。それにしてもドキドキ。いやー、入浴料がいくらかなあと思って。えらい高ければ嫌だし。まあ、五百円以内ならOK。それ以上ならちょっと高い。ちなみに今までの最高は八百円というわたしにはあり得ない値段。さて、ここは……残念。七百円でした。あーあ。
フロントで料金を払い、浴場へと続く廊下を歩く。いたるところにロシア語の文字が。そっか。稚内とロシアはご近所さんなんですね。
脱衣所で服を脱いでいると、早速、ロシア人に出くわす。おお!でかっ。身長は百七十センチのわたしよりもはるかに高い推定百九十センチ。髪は金髪だがきっちり七三に分けているという外国人らしからぬ不思議な感じ。体は肉体労働者を思わせるかのような筋骨隆々。船舶関係の人なのか。ちなみに胸毛もしっかり金色でした。ということは、下の方も……やっぱり金色。というのはウソ。さすがにそこまで見る勇気はないのです。ホモと勘違いされても嫌だしね。
裸になり浴場へ。さすがに七百円は取りすぎだろうと思ったが、意外にもこれがよかった。広々として、きれい。しかも浴槽の数が多くて大きい。さらにダメ押しで露天風呂がついている。ここ、わたしが北海道で入った中で一、二を争う温泉かも。
許す。これで七百円なら許す。
引き戸を開け、露天風呂へ。わーお。稚内港が目の前に見えるのです。古びた倉庫群に錆が目立つ漁船。その上を飛んでいる海鳥の群れ、群れ、群れ。って、多すぎだろ、これ。ここまで多いと逆に気味が悪い。ヒッチ・コックの『鳥』を思い出してしまった。
しかし、そんなマイナスポイントを差し引いても、いいね、ここ。いかにも港町という感じがします。風情があります。ここには「港旅情」という演歌が似合いそう。
お風呂から上がり、休憩室へ。ゆったりとした大きな椅子に腰を下ろす。フカフカして実に気持ちいい。あまりの気持ちよさについウトウト。いかんいかん。少年と晩メシの約束があるのに。
そのまま戻るのもつまらないので、稚内フェリーターミナルに行く。いや、とくに用事はないのですが。
行ってびっくり。人が誰もいないのである。ロビーは実に閑散。さびしー。
なんでこんなに人がいないのか、と思っていると電光掲示板に「利尻島大雨洪水警報」の文字が。
あちゃー。どうやら、わたしはとんでもない時に来ちゃったみたいです。

ライダーハウスに戻るとビッグニュースが待っていた。なんと、少年がアメリカさんに会ったそうなのだ。ええ!ウソ!マジで?
少年によると、なにげなく窓から外を見ていたら、自転車に乗ったアメリカさんがいたというのである。おお、何たる偶然。それはそうとアメリカさん、ユーは今までどうしていたわけ?
後で聞いた話によると、ノシャップ岬に到着したアメリカさん、そのまますぐに北防波堤ドームに行ったのだが、雨で体が濡れたので近くの温泉に入ったそうです。
え?ということは、なに?われわれのことは置いて自分だけ気持ちよく入浴していたのですか?
おいおい、こっちはあれから探したんですぞ。まったくもー、アメリカ人は自由なんだから。
その後、お風呂から上がったアメリカさんは、きっとわたしたちがライダーハウスに泊まっているだろうと推測して(その読みは正しかったわけですな)、稚内にあるライダーハウスをあちこち探しているうちに少年と会ったそうです。
ちなみにアメリカさん、今夜は別のライダーハウスに泊まるそうです。
ふーん、そうなんですか。わたしたちと一緒に泊まらないのですね。
アメリカさんいわく、そこはここより料金は高いがきれいとのこと。
うん、正解。だったらそうした方がいい。わたしもお金に余裕があるのならそうしてますって。
夜、アメリカさんを加えた三人で夕食を食べるため稚内の街へ。
わたしとしてはお金がかかる外食は避けたいところだが、三人揃って食事をするのもおそらくこれが最後。なによりあの暴風雨を乗り越えてきたんだ、そのご褒美としてもバチは当たらないだろう。というわけで、この旅初の外食。
場所はツーリングマップルに載っていた「ボリューム亭」。いかにも量が多そうな旅行者向けの名前である。それにつられて選んだのは、そう、わたし。お店名物のハンバーグを美味しく頂きました。
その後、ライダーハウスに戻り、洗濯を済ます。それから少し少年と話をし、十時に就寝。それにしても今日はハードな一日だった。もう二度とこんな思いはゴメン。
2010年7月26日(月) 高校生に外国人に女性…そしてわたし (留萌―天塩 130km)
朝、目を覚ます。顔までかぶっていた寝袋をはごうとすると、なぜかべっとりと濡れていた。
うわぁ、よだれかー!と思い、おそるおそる触れてみる。すると粘り気がなく水っぽい。あれ?おかしいな。今度は思い切って手のひらをつけてみる。やはりさらっとしている。よく見ると、それはよだれではなく朝露だった。
なんだよ、もー。まったく朝から焦ったぜよ。
ううーっ、それにしても寒い。充分眠ったから目が覚めたというより、寒くて目が覚めた、そんな感じ。夏真っ盛りのはずなのに、さすが北海道、北にいくにつれ寒くなっていくのか。といっても、まだ最北端の宗谷岬までけっこうあるんですけど。ほんと、どんだけ寒くなるんだよ。まさか冬の寒さ、なんてことはないよね。初めてなので、見当がつかないのです。
寝袋の中から上半身を伸ばす。ベンチ横に置いてあるスポーツバックの中に腕を入れ、上下左右に動かす。
あれ?ねぇーな。さらにもっと奥に腕を伸ばしてみる。イテテ。勢いあまってベンチからずり落ちそうになった。
え?何やっているのかって?いや、バックの中からジャケットを取り出そうとしているのですよ。寒いんでね。
だったら、ちゃんと寝袋から出て探したら?
うん。いいこと言った。
でもね。外、寒いのよ。
みなさんにも経験ありません?小さい頃、冬の寒い朝、布団から出たくないばっかりに、その中で着替えを済ませてしまったこと。それでも着替えるのが難しいとわかった時にようやく布団の中から出て着替える。そんな横着な子供だったのわたしは。
それにしても、そんなわたしが自転車で北海道一周しようというのだから、我ながら難儀なことをしてるよなあ。
普通こういった旅をしている人は「ここ行きたい!」とか言って目をキラキラ輝かせながら旅に出かける、もしくはしていると思うのだが、わたしはちょっと違う。いや、ちょっとどころじゃないかも。
普段の口癖が「面倒くさい」「やったって何の意味があるの?」といったわたし。なるべく北海道を一周すること以外、余計なことはしたくないのです。たしかにここまでいろいろな観光地には行っている。でも、それはあくまでも一周線上にあった、もしくはその近くだけ。せっかく通ったんだから寄っておこうか。その程度のもの。一周線上を何十キロも外れてわざわざ行く、そういった思いは一切ないのである。あっ、でも一つだけあったか。そういえば、余市からキツイ思いして倶知安まで行ったなあ。でも、あれは例外。海外線を雨の中走りたくなかったから、ちょっと時間をやり過ごすために行っただけなのである。
えーっと、何の話だっけ?
そうそう、ジャッケトを探してたんだよね。
やっぱり、この体勢で探すのは無理があるか。
しゃーない。起きるか。
寝袋から這い出す。うー、寒っ。やっぱり寒いっす。
スポーツバックのジッパーを全開にして頭を入れる。おー、あったあった。一番下に。まさかこんなに早く使うとは思っていなかったので、一番下に入れておいたのです。
早速、ジャケットを羽織る。これ、ムーンストーンの冬用ジャケット。赤黒のツートンカラー。十年以上前にセールで一万四千八百円で買ったもの。この値段で防水透湿素材を使用しているという、今考えてもお買い得。
昨日は暑くなかったためほとんど目を覚ますことなく眠ることができた。あまりによく眠れたせいか正直、まだ寝ていた気分。
今、何時だろうと思い、ケータイを見る。すると液晶画面には「4:22」の文字が。
わーお。いつも四時起きなので、いわゆる寝坊というヤツ。もう起きなくては、とは思うのだが、たまにはゆっくり寝ていてもいいかな。ふたたび寝袋の中に入ってモゾモゾ。しかし、五分で飽きる。というより、遅く起きればそれだけ自転車に乗る時間が少なくなる。ということは、自ずと距離を稼げなくなる。ゆえに自分が困る。そのことに気づいたのです。とことん自分が損することが嫌なんですね、わたしという人間は。
いつものように、ひげを剃り、歯を磨いていると一人の男性がわたしの方に歩いてきた。
あっ、昨日見かけた外国人だ。うわ、どうしよう。話しかけられたら嫌だなあ。いや、まだ起きたばっかりで頭がボーっとしているんですよ。正直、今は人と話す気分じゃない。ましてや外国人でしょ。日本語が話せればいいけど、英語しか通じなかったら朝っぱらから頭使わなあかん。そんなの嫌。わたしだって、カタコトしかしゃべれないんですから。
「オハヨウゴザイマス」
あちゃー、ご丁寧に挨拶してきちゃったよー。どうしましょ。どうしましょ。心の中でおろおろ。
かといって、さすがにそれを無視するほど礼儀知らずじゃない。とはいえ、今はこれ以上関わりたくない。よってここは、いかにも「おれは、愛想の悪い、人とコミュニケーション取るのは嫌いなんだよー」という人間だと思ってもらえるようにする。というわけで、聞こえるか聞こえない声でボソボソと挨拶することに。そして、すかさず話しかけてこないように下を向く。多分、これで話しかけてこないはず。大丈夫なはず。
案の定というか幸いなことに、彼はそれ以上言葉を発することなくそのまま通り過ぎていった。
よっしゃー。作戦成功。ほっと胸を撫で下ろす。
と思ったら、なんと振り返ってこっちに向かってきた。おいおい、マジかよ。あわわあわわ。途端にパニック。
「ええい。こっちに来るんじゃない。こっちは英語ができないんだぞ。話しかけても相手できないんだぞ」必死に心の中で叫ぶ。
話しかけられないよう、「いやー、朝の海もなかなかなもんだね」てな感じで海を見ながら佇んでみる。向こうは外国人だし、さすがにここまですれば大丈夫でしょう。
大丈夫じゃありませんでした。「コレ、アナタノ自転車デスカ?」わたしの自転車を指差して、腕で自転車を漕ぐ真似をしてきたのである。
あらー、どう見てもあなた、おれに話しかけているよね?
あちゃー。とうとう恐れていたことが起こっちゃいましたか。さすがにここまで話しかけられれば、知らんぷりもできないよなあ。
・・・・・・ん?というかあなた、もしかして日本語OKなの?なに、日本語しゃべれるの?そうなんだ。なんだよー、まったく。それを早く言ってよ、それを。だったらいいよ。話しましょ。われながら恥ずかしくなるほどの変わり身の早さ。ある意味スゴイです。
細面の顔。茶色の髪に同じく茶色の無精髭のアメリカ人。話してみると、完璧に日本語を使えるわけではないが、おおよそ話は通じる。なんでも、今は広島のインターナショナルスクールで体育の教師をしているそうです。趣味はトライアスロン。
なるほど。インターナショナルスクールか。だから、こんな時期に北海道にいられるんですね。あそこは夏休みが長いもんなあ。ちなみに、今日はわたしと同様、海岸線を北上していくそうです。
しばらくそのまま話す。その後、出発の準備をするから、と言ってアメリカさんは立ち去っていった。「じゃ、また」という言葉を残して。
え?「じゃ、また」って……それ、どういうこと?もしかして準備が終わったらまた会おうということ?ということはなに、わたしと自転車で一緒に走ろうということなの?
困った。もしそうだとしたら困った。当然、一緒に走るとなると、相手のペースに合わせなきゃならん。いや、待てよ。トライアスロンやっているくらいだから、きっとむこうがわたしに合わせることになるだろう。そうなるとわたしの性格上、合わせてもらっているということをえらく気にするだろう。恐縮するだろう。うー、考えただけで気疲れが・・・・・。そう、わたしは人に合わせるのも、合わせられるのも、ものすごーく苦手な人間なのである。あーあ、もしそうなったらどうしよう。考えるだけで気が重くなってきた。
・・・・・・まあ、あれですな。アメリカさんには悪いが、何事もないような顔をしてスーッと前を通り過ぎていこう。そうすれば彼も声をかけるタイミングを逸する、もしくは、わたしの存在すら気づかないかもしれない。よし、そうしよう。っていうかそれしかないでしょう。
リアキャリアに荷物をくくりつけ、いざ出発。走り出してすぐに、テントの前に座っているアメリカさんの姿が見えてきた。なにやらタイヤにチューブを入れているよう。心臓が早鐘を打つ。こえー。さあ、どうなる?さすがに何も言わないので通り過ぎるのもあれなので、呼び止めるよなー、と念じながら一言「ハーイ」と声をかけて通過を試みた。すると拍子抜け。なんと彼も「ハーイ」と笑顔で応えてくれたではないか。へっ?ウソ?てっきり「一緒ニイキマショウ」とでも言われるかと思っていたのに。というか半ば覚悟していましたよ。
あはは。どうやら、これ、わたしの勘違いのよう。いやー、どうもわたし、必要以上に考える癖があってですね。いやはやお恥ずかしい。それにしても、走る前からからどっと疲れてしまった。

留萌は初めて聞く名前だったので、そんなに大きくないと思っていた。でも、街中を走っているとそれなりにたくさんのお店、ありましたね。
道はなぜか一旦、山の方へ向かい、また海岸に戻ってくるという意味不明な動き。なんなんでしょう、これ。
なんてことを思いながら走っていると、突如、右手に風力発電の風車が現れた。数えてみると四基。行儀よく並んですくっと立っている。わーお。すげーな、これ。ただ眺めているだけなのにテンションが上がってくる。もう、たまらんね、この非日常感。てっちゃん、大興奮。
道はフラットな直線コース。しかもフォローウィンド。漕ぐ足が軽い軽い。何もしなくてもスピードがぐんぐん上がっていく。時速は常時三十キロオーバー。いやー、実に気持ちいい。足を回さなくても勝手に進んでいく、そんな感じ。
午前七時半、苫前に入る。さてここで、「風W苫前」という面白い名前の道の駅を見つけた。なるほど。なかなか凝っているというか、実にヒネリを効かせている。
突然ですが、ここでクイズコーナー!
「風W」とはいったいなんて読むんでしょーか?
制限時間は三分。
さあ、わかりますか?
ヒント、副詞です。
どうでしょう。
え?わからない?
それじゃあ、ヒントその二、「W」は電気に関係のある読み方をします。
さあ、どうでしょうか。
はい、時間が迫ってきてますよー。急いでくださーい。
チッチッチッチッ・・・チーン!
はーい、終了!
答えは・・・・・・「ふわっと苫前」でした。どうでしたみなさん、わかりましたかー?
そんなクイズで遊んでいるうちにいつしか道の駅に到着。
わーお。いやー、驚いた。実に広々とした場所で、設備が充実しているのである。ホテルはあるわ、温泉はあるわ。道の駅の中には二十四時間使用できるトイレもある。外を見れば広いキャンプ場に寝袋を敷けそうな東屋まで。
泊まりてー。まだ朝の八時半だけど。
でもさすがにそれは早すぎ。わたしの今日の寝床はまだまだ先なのです。
しばらく走り、羽幌に入る。すると、ここにも道の駅の表示が。一応寄っておきますか。さっきのところから十キロも走っていませんけど。
道の駅を探す。しかし、なぜか見当たらない。表示された場所には、大きなホテルがでーんと一軒建っているだけ。
おかしい。どこにあるのだろうと思い、ホテルの中に入りフロントで訊いてみる。
「あっ、そこですよ」
目の前を指差された。
そこはフロントの前。そのちょっとしたスペースが道の駅になっていたのだ。なに、これ。わかりにくすぎ。
ところで、ここでも驚いた。なんと先ほどに引き続き、この道の駅にも入浴施設があるのだ。しかも、今日は二十六(ふろ)の日でいつもより安く三百円で入れるという。
入りてー。まだ朝の九時半だけど。
うーん、残念。わたしが入るお風呂でもそういうサービスがあればいいんですけど。
二十キロほど走り、初山別に入る。驚いた。またしてもここにも道の駅があるのだ。なにここ、なんでこんなに道の駅あんの?不思議。ここらへんは道の駅の宝庫なのか。
国道から脇道に入り、道の駅へと向かう。ここの道の駅も苫前の道の駅と同様設備が充実していた。温泉はあるわ、トイレはあるわ、東屋あるわ。もう言うことなし。これ、泊まれって言っているようなもんでしょう。いや、泊まらないんですが。
ここから見える景色がまた素晴らしかった。
道の駅の隣には広大な敷地をようしたキャンプ場があるのだが、そこがまるで緑の絨毯を敷き詰めたよう。
つづいて高台から遠くを眺めてみる。すると、海岸線がゆったりとした大きなカーブを描いていた。
おお、すごい。なんかこういう場所、アメリカやオースラリアにあるよね。そう、まるで日本じゃないみたいなのです。
しばらくそこから動けなかった。瞼に焼き付けるつもりで、じっと広がる景色を見つめていた。
気分が高揚したので、ちょっと散策してみることに。下に降りていくと、一人のおばさんが色のハゲた木造の階段を塗装していた。見ると目一杯脚立を伸ばしてその上に立っている。こりゃ、一歩間違えれば大怪我するぞ、と思うくらい実に危ない体勢。退屈しのぎにちょっと話しかけてみることに。
「なんかえらい大変そうですね」
「そうなのよ。男の人がやるような仕事をやらされているのよ。まったく嫌になっちゃうわ」
「落ちないように気をつけてくださいね」
「ありがとね。でも、大丈夫。若いから。あははは」
・・・・・・若い、ですか。それにしちゃあ、顔にたくさん皺があるんですけど。気のせい?あっ、きっとそこは触れちゃいけないんですよね。了解。ちゃんと空気読んでおきますので。
空には一面、灰色の雲が広がっていた。
初山別の道の駅を後にし、再び北上。アップダウンが出てきたが、追い風なのでいつもより楽。
坂を上っていると一台の自転車が目に飛び込んできた。見るとフロントキャリアに荷物をつけている。どうやら同業者のよう。それにしてもえらいゆっくり上っているなあ。
無言で追い抜くのは失礼なので、まずは挨拶。これ、旅の基本です。中にはなにも言わずに追い越していく輩もいますけど。
「こんちは」と声をかけると、間髪入れず「こんにちは!」と返ってきた。
おお。実に元気がいい。好印象。チラッと顔を見るとまだ若い。夏休みを利用して来ている大学生か。
「今日はどこまで行くの?」と訊くと、「できるだけ北の方まで!」というとってもアバウトな答えが返ってきた。
北の方って・・・・・おい、これじゃあ話、広がらないじゃん。
作戦変更。質問を変えてみることに。
「今日はどこから来たの?」
「苫前のキャンプ場です!」
あー、あれね。さっきわたしが寄ってきた道の駅のすぐ横にあるキャンプ場ね。ふーん、あそこに泊まったわけね。ということは、今日はまだそんなに走ってないわけだ。それにしても元気がいいなあ。よっぽど親の躾がいいのだろうか。
まあ、それはともかく。ところで君、ビーチサンダルっていうのはどうなんだろう・・・・・・。漕ぎにくくないのかい。そんなんで足とか怪我しないのかい。などと聞きたいことはたくさんあったが、先を急ぎたいので追い抜く。さようならー。
しばらく走ると、道は再び平坦な直線コースに。しかも相変わらずの追い風。ここぞとばかり必死にペダルを漕ぐ。
だってこんな長い直線&追い風という好条件、めったにないですよ。いや、もう二度と経験できないかも。そう思ったら堪能しなきゃ損でしょ。全身のエネルギーを足に集中させ、ペダルを踏み込む。
ひょえー。速い速い。チラッとサイコンを見ると時速は四十キロオーバー。すげー。
しかし、しばらくすると疲労感が。案の定、徐々にスピードが落ちてくる。ハァハァ。さすがに息切れ。ちょっと張り切りすぎたようです。

午後〇時半、天塩に到着。ちなみにここまで走った距離は百十キロ。途中寄り道したのにも関わらず、わずか七時間で走り切った。わたしにしては驚異的なスピード。いかに自転車という乗り物が風に影響されやすいか、それを身を持って体験することができた。ほんと、後半なんか飛ぶように走ってたもんなー。
さて、問題はここから。
時刻はまだお昼を過ぎたばっかり。当然、まだまだ走れる時間はたっぷりある。
しかし、ここからはお店はおろか人家もなにもない(当然野宿できそうな場所もないと思われる)、そう、かの有名な道道百六号線、別名日本海オロロンラインを走るのです。その距離およそ七十キロ。これから走るとなると最低でもその距離は走らないといけない。
七十キロかー。でもなぁ。さすがに七十キロはどうだろう。いくら追い風だったとはいえ、すでにここまで百十キロを走ってきている。当然、それ相応の体力を消耗してきているはず。そんな中、さらに七十キロも走るのはキツイのではないか。
それにもまして気になるのが時間。
たとえば、仮にここから時速十五キロペース(休憩込み)で走ったとする。そうすると五時間弱はかかる。ということは、着くのは午後五時半。でも、そこで終わりじゃない。今度はそこから寝る場所、お風呂を探さなければならない。おそらくまた何キロか移動しなきゃならんだろう。仮に一時間かかったとしても六時半か。それもすんなり見つかればいいけど、今までのわたしの経験上、そう簡単に見つかるとは思えない。うーん、正直微妙。
・・・・・・やめておきますか。
なにも無理して走ることもなかろう。日没になってウロウロするのも嫌だし。それに今日行かなくたって、別に稚内の街が逃げていくわけじゃない。
昨日の切り上げがたしか午後二時過ぎ。今日は十二時半か。なんだか日に日に自転車を降りる時間が早くなっている。
それにしても十二時半。これから何してりゃいいんだよー、おれは。もー、まったく。なんも思いつかん。
うーん、とりあえずわたしのすることといえば、やっぱり寝床とお風呂を探すことですかね。
なに?おまえはそれしかすることないのか?まだ昼だろ。昼。そんな寝るところとか、お風呂なんて後で探しても大丈夫だろう。どこか観光するとか、のんびり町を散策するとか、他にすることないのかよ、おまえには。
そうなんです。わたしもそう思うんです。
でもね、先ほども書いたように、わたしはできるだけ必要なこと以外したくないという実にものぐさな人間なのですよ。この場合の必要なことというのは、北海道一周すること。つまり、それに関係すること以外はできるだけしたくないのです。だって、すごい観光スポットでもあれば別だけど、そんなもの、ここにはなさそうだし。それなら明日に備えて体力を温存しておいた方がよっぽどいいでしょ。わたしは、そういう効率を求める人間なんです。
なんて書きながら思った。実に寂しいなあ、わたしの考え方って。うーん、いつからこういう考え方をするようになったのだろう。小さい頃はまだそういう考えではなかったように思いますが。
それにしても不思議なもんですね。そうは思っていても、足は勝手に温泉へと向かっているのだから。そう、今晩入るお風呂をチェックしておこうというのです。まだ昼なのにね。
実に悲しい。いや、人間の習慣というのはここまで根深いものなのか。そう感心すべきところなのかもしれない。
わたしが向かったのは「てしお温泉夕映」という温泉施設。外観は大きくとても綺麗。温泉とは思えない立派な建物である。
中に入って驚いた。いやー、実に広々としているのです。二階まで続く吹き抜けが実に気持ちいい。
フロントに行って料金を確認。五百円、だそうです。
あれ?普通の値段じゃん。えーと、たしか今日は「風呂の日」のはずですが。もしかして間違いってことは・・・・・・。
しばらく待ってみる。微動だにしないフロントレディ。
どうやらここは関係ないみたいです。
あーあ、残念。
ついでにここらへんに公園がないか訊いてみる。そう、今日の寝床になるところを探すのです。すると、天塩の街の簡略図をくれた。地図によると天塩川の川っぺりに公園があるらしい。
早速行ってみると、それはすぐ近くにあった。しかし、公園というよりむしろ遊歩道つきの細長い敷地といった感じ。肝心の東屋はというと・・・・・ありました、ありました。近くに行くと思ったより広い。これなら十分寝れそう。しかし、気がかりなのが天気。だって上空にはいまにも雨が降り出しそうな雲が立ち込めているんだもん。あーあ。
公園に泊まる時は必ずといっていいほど屋根のついている場所、つまり東屋に泊まることにしている。それはもちろん雨が降ってきた時、濡れないためである。しかし、それも風が吹けば何の意味もなくなる。壁がないので、思いっきり風雨にさらされることになるからである。
でも、振り返ってみると、北海道に来てからすでに十日ほど経つが、寝ていて一度も雨に降られたことがない。いや、一度だけあったか。余市で寝ていた朝方。でも、あれはパラパラとした小雨。雨のうちに入らない。後は、札幌に行った日。あの時はけっこう降っていたけどネットカフェに泊まったし。そう考えると、天気はパッとしないわりにはツイていると言えるのかもしれない。
まー、テントを持っていたら、そんな神経質になることもないんだけどね。そう、わたしは寝袋だけで泊まっているのである。
そもそも、なぜわたしがテントを持たずに寝袋だけで泊まろうと思ったのか。
正直、最初はわたしも寝袋だけで本当に大丈夫なのか、と思った。ところが、たまたま北海道に発つ二週間ほど前、偶然、地元のスーパーで自転車で日本一周している大学生に会ったのだが、その彼がテントを持たず、寝袋だけで寝ていると聞いたもんだから、なに?そうなのか?日本一周でも寝袋だけで大丈夫なのか。だったら北海道なんか楽勝でしょ。しかも今は夏だし。なんて思ったのがきっかけだった。
で、ここまで走ってみての結論。
「やっぱりテントはあった方がいい」
いや、雨に関してはあまり実感がないんだけど、予想外だったのが、虫の多さ。もう、こんなに刺されるとは思ってもいなかった。場所によってはコイツラ、なんでこんなにいるんだと思うくらいいるんだよね。まー、刺すのはまだいい(いや、よくはないんだけど)、刺すことによって痒くなるでしょ。そうすると眠れなくなるわけ。結果、次の日は寝不足のため、いい走りができなくなる。それが嫌なんですわ。一応、ファンが回る電気式の蚊取り線香を持ってきたんだけど、これが笑っちゃうくらい全然効果なし。あまりにも効き目がないので、途中で使うのを止めました。
まー、それもテントがあればいいんだけどね。中に虫が入ってこないわけだから。つまりテントを張ればそれが自動的に虫除けになるわけです。
だったらテントを買ったら?
もちろんそういう意見もあると思います。実際、ちょっと迷った。途中で買おうかなって。でも、たかが虫除けのために二万も三万円も出せないよなあ(実際、テントの値段を調べたわけではないが、ちゃんとしたヤツだと多分そのくらいかと)と思ってやめた。そんなお金もないしね。それに、場所によってはまったく虫がいないところもあるし(といっても、稀ですが)。まあ、現時点では我慢すればなんとかなるんじゃないかなと。で、どうしてもダメならまたその時考えればいいわけだし。とりあえずそういう結論に至りました。

時刻は午後二時。って、まだそんな時間かよ。することないんだけど。
仕方ない、一応、スーパーの場所でも確認しておくか。どうせ夕方になれば、食料を調達しなければならんのだから。
地図に載っていたため場所はすぐにわかった。自転車を駆る。案の定、あっという間に到着。こんなに早く着かなくてもいいのですが。
さて、やっと二時過ぎ。この頃になるとどうしていいのかわからず、なんだか精神的に疲れてきた。おいおい、これじゃあ走っていた方がよっぽど楽じゃんか。
地図を眺めていたら、道の駅があった。とりあえずそこへ行こうか。なにするってわけじゃないけど。
自転車を走らせる。またしてもすぐに到着。ううっ、天塩って小さい街なんですね。
道の駅の裏手に自転車を停め、入り口へ向かう。すると、壁に一台の旅仕様の自転車が立てかけてあった。おお、仲間かい。思わずテンションが上がる。
ん?でも、これってどこかで見たことあるなあ。えーと、どこで見たっけ・・・・・。
そうだ!そうだ!思い出した!これ、さっき追い抜いていった大学生の自転車だよ。間違いない。いやー、まさかここにいるとは。
うおっし。これは何が何でも探さないと。暇つぶしに話をしようという魂胆なのです。
早速、建物の中に入って捜索開始。が、辺りを見渡してもそれらしき人物は見当たらず。
ん?もしやトイレ?早速トイレへ。案の定、個室の一つに鍵がかかっていた。
ははん、ここにいるな。すぐにドアをノック。と思ったが、出している途中だったら申し訳ない。出てくるのを待つことに。
しばらくすると一人の若者がトイレから出てきた。おお、やっぱりさっきの大学生だ。しかし、彼はわたしには気がついていないよう。とりあえず声をかけてみる。
「こんちは。ねぇねぇ、さっき会ったよね?」
「え?そうですか?」
おいおい、さっき会ったじゃんかよ。あまりに素っ気無い言葉にちょっと憮然とする。もー、覚えてないのかよー。
と思ったが、そんなにあっさり言われるとこっちも自信がなくなってきた。会った。ような気がするのですが・・・・・。不安のせいか自然と視線が落ちる。あっ、やっぱりそうだ。
「だって、このサンダル履いてたもん。間違いないよ」しかし、そう言われてもまだ確信が持てないのか彼はキョトンとしている。「ほらー、さっき追い抜いていったじゃん」
「あー、はいはい、分かりましたよ」
おい、ようやく分かったのかよ。もー遅すぎ。
うーん、それにしてもおれってそんなに存在感ないのか?だとしたらちょっと落ち込むわ。
話してみて驚いた。なんと彼は大学生ではなく高校生だそうです。
うわっ、マジ?てっきり大学生だと思っていたよ。
それにしても高校生が自転車で北海道を周っているなんて、まるっきりわたしの頭の中にはなかった。
いやー、驚いた。驚いたねー。これ、北海道でUFO見るより驚いたかも。
すいません、ウソです。さすがにそれは言い過ぎました。
いや、でも驚いたのは間違いない。まさか高校生が一人で周っているとは。さらに話を聞くとまたもや驚いた。なんと彼、まだ二年生だそうです。
ぎょえー。すごいな、おまえ。さらにさらに話を聞いていくと、昨年も自転車で周ったそうです。
マジ?ウッソー!なに?ということはおれより先輩ってこと?
ちなみにこの少年、幼い頃から何度も家族で北海道に来ている自称北海道フリークだそうです。
いやー、そうでしたか。それは気づきませんで誠に申し訳ござらぬ。というか、お見それいたしました。困ったことがあったらなにとぞご指導ご鞭撻よろしゅうお願いいたします。
相手が北海道慣れしているとわかった途端、急に低姿勢になるわたし。うー、自己嫌悪。
しばらく少年とおしゃべり。すると、こちらに一台の自転車が向かってきた。よく見ると、後ろのキャリアに荷物をつけている。おお!ということは旅行者ですね。またまた同業者現る。颯爽と自転車を降りる彼、サングラスとヘルメットを外した顔を見て驚いた。なんと今朝話したあのアメリカさんだったのだ。
ぎょえー。驚きマンモス。向こうも、わたしのことがわかったらしく、驚きつつも笑っていた。あはは。こんなことってあるんですね。びっくり、くりびつ。
というわけで、一人増えて三人で話す。しばらくすると、今度は一人の女性ツーリストがわれわれの視界に入ってきた。
またまた旅行者か、と思いつつ、こちらの方ともお話をする。すると、やはり自転車で旅しているそう。が、単に北海道を周っているわけではなく、なんとまあ、日本一周しているそうなのです。
ぎょえー!もう一つぎょえー!さらにダメ押しでぎょえー!
すいません、うるさくて。いやだって、女性で日本一周ですよ。こりゃ驚くでしょ。
まあ、いてもおかしくないとは思っていたが、実際、目の前にするとかなり驚くね、これ。しかもこの彼女、見かけはごく普通の二十代(推定。さすがに初対面で歳までは訊けません)の女性。見た目だけではとてもそんなことをしているとは思えない。むしろ華奢で可愛らしい感じ。
いやー、驚いた。世の中って広いわ。
しばらく四人で話をする。次第に話題は今日の泊まる場所に移っていた。なんでもわたし以外の三人は近くのキャンプ場に泊まるらしい。ということで話がまとまっていた。いつのまにやら。
え?っていうことはなにかい?わたしだけのけもんかい?ちょっとひがむわたし。
しかし、ここで少年からグッドな情報が
なんでも、ここのキャンプ場にはライダーハウスが併設されているそうなのです。
へ?ライダーハウス?なんですか、それ?
というわけで、ここでちょっとご説明を。
ライダーハウスというのは、主に北海道にある安宿のこと。オートバイで旅行している人が多く利用していることからそう呼ばれている。料金は一泊百円台から千円台といろいろ(中にはなんと無料というほんまかいな?というものもあるらしい)。建物はプレハブや古い木造の家屋が中心で、場所によってはユースホステルのようなちゃんとした建物のようなところもある。なんてことを後で知った。
ふーん、そんなのがあるんだぁ。
じゃあ、わたしも一緒に行こうかなあ。さっきキャンプ場の傍を通ったら、泊まれそうな東屋(かなり汚かったが)があったし。いや、本当は三人と別れたくないのです。だっていきなり一人ぼっちというのも寂しいし。
キャンプ場に行き、ライダーハウスの値段を訊く。すると、なんと一泊二百円。わーお。安っ。それくらいならお金出してもいいかな。というわけで、わたし、ここに泊まります。
しかも、なぜかキャンプ場の利用料よりライダーハウスの方が安かった。というわけで他の三人も一緒にライダーハウスに泊まることに。
それにしても、高校生に外国人に女性…そしてわたし。意外にもこの中でわたしが一番まともに見えるという。世の中にはいろいろな人がいるんだね。もしかして自分で思っているほど、わたしって変じゃないのかも。

四人で温泉に行き、そのままライダーハウスの前で食事。すると、途中から留萌から来たという自転車旅行者が混ざってきた。二十代らしき二人組。なんだかアクの強い雰囲気がプンプン漂ってきます。あまりお近づきになりたくない感じ。
ところで、留萌といったら、今朝、わたしが出発したところじゃん。なんでも彼らはライダーハウスに泊まっていたそう。しかも、そこは無料。
うわっ、マジかよ。なんだよー。それを早く言ってくれよー。おれも泊まりたかったぜ。
でも、泊まらなくて正解。
そこはあまりの居心地の良さに長期滞在者がいることで有名なライダーハウス。毎日、気が合った同士、酒なんか飲んじゃって、しかも周りにカラオケボックスやパークゴルフ場など遊ぶ場所にはこと欠かない。つまり長居できる条件が整っているところなのである。
うーん、わたしなんかそこに泊まったら、走る気失くすかもなあ。案の定、彼らもあまりの居心地のよさに十日以上いたそうで、中には半年もいるツワモノもいるそうです。
半年、という言葉に目が点になる。というかそれ、泊まってるんじゃなくて、住んでるんじゃん。
この二人もそうだけど、そういった人たちはいったい何しに北海道に来ているのだろう。おたくら、走りに来たんじゃないの。
うー、わからん。なんだか彼らが異星人に見えてきた。それとも人種が違うのか。まったく理解に苦しむ。
まあ、そうやって遊んでいれば楽しいは楽しいんだろうけどね。でも、わたしなんかあまりの楽しさにそこから抜け出せないようで怖い。
いや、わたしは走りますよ。だって、北海道には走りに来ているんだから。
話が落ち着いたところで寝ることに。しかし、ライダーハウスといっても、簡単に言ってしまえばプレハブ小屋。でも、これで二百円なんだから安いわな。
外ではビュービュー、風が吹いている。雨、降らなきゃいいけどね。温泉の休憩所でテレビを見たら、明日の天気、あまりよくなかったのです。
あーあ、晴れねぇかなあ。こんなところで足止め食らってもすることないし。
まあ、考えても仕方ない。雨降らないことを願うしかない。寝袋に入り、じっと目を瞑る。明日走っている自分の姿を想像。疲れのせいかとろけるように意識が消えていった。
2010年7月25日(日) 海をお風呂代わりにして (札幌―留萌 140km)
朝、目を覚ます。カーゴパンツのポケットからケータイを取り出し、現在の時刻を確認。
わっ!四時二十分かよ。くーっ。四時には起きようと思っていたのにー。
ここ二日間でたいぶ体力も回復したと思うので、今日は早目に出発していっぱい走るつもりだったのです。
ところで、周りがやけに騒がしい・・・・・何事?音のする方へじっと耳を澄ませてみる。
カキーン・・・・・カキーン。
え?もしかしてこれ、金属バットの音?なに?こんな朝っぱらから野球?ウソだろ?だってまだ朝の四時半前だぜ。慌てて、音のする方を見てみると、やっぱりやってましたよ、野球。おお。相当な早起きを自認しているわたしでも、これにはびっくり。やりますな、北海道のみなさんも。
それにしても、昨日はあんな多くの人の中で寝るとは。これでわたしも少しは度胸がついたか?
さて、二日間いた札幌とも今日でお別れ。果たしてわが人生の中で、今後来ることはあるのでしょうか。
遅く起きたのを取り戻すかのように手際よく準備を済ませ、五時過ぎには出発。よし、今日はいっぱい走るぞいと。
走り出してすぐに広い道路に出た。まだ、早朝。しかも今日は日曜日ということもあって、ほとんど車は走っていない。
こりゃ、飛ばせるぜー、と思い、必死にペダルを漕ぐ。しかも飽きるくらいずっと続く直線。実に走っていて気持ちいい。初日に走った苫小牧を思い出す。
石狩を抜けると、海岸線に出た。ということは・・・・・そう、アップダウンの始まりです。誠に残念ではありますが。
しかし、このアップダウン、さほど細かく刻んでいないため、わりとゆったりとした気分で走れる。とはいえ、上りはキツイこと間違いない。途中、山の方に道が向うと、やっぱり急な坂。
相変わらず坂はキツイが、その一方、天候は素晴らしい。空は見事に晴れ渡っているし、日差しはそれほど強くない。おまけに吹いてくる風は涼しいときたもんだ。
いやー、なんか悪いねー、内地の方々。だって聞くところによると、そっちは連日、真夏日、猛暑日のオンパレードという話じゃない。それに比べて、こっちはいいですよ。涼しくて。なんか、ほんとゴメンナサイねー。
でもいいよね、わたしだって。こんないい思いしたって罰当たらないよね。だって、北海道に来てから十日間。一日中晴れていたのがわずか一日だけですよ、一日だけ(結局、この日も終日晴れて、二日目となりました。これを機にずっと晴れて欲しいもの)。
二日間まともに走らなかったせいか、ここまでは順調なペース。十二時過ぎる頃には百キロいっていた。
途中、雄冬岬に立ち寄る。しかし、なぜか岬らしいものは見当たらず。その代わり、白銀の滝という道路のすぐ脇にあるなかなか豪快な滝を見た。今まで北海道を走っていても、道のすぐそばに流れている滝をいくつか見かけた。もしかして、北海道ではこういった滝が多いのでしょうか。

午後二時過ぎ、今日の目的地である留萌に入る。ちょっと早いが、今日はこれで切り上げることに。次の大きな町まではけっこうあるし。今日はかなり走ったし。無理する必要ないでしょ。というわけで、後は寝る場所とお風呂を探せばOK。後半はトンネルの多い一日と相成りました。
しばらく自転車を走らせていると、驚いた。なんとまあ、もの凄い数の海水浴客が砂浜を埋め尽くしているのである。しかも今日は日曜日ということもあって砂浜はまさに芋洗い状態。
ここは北海道有数の海水浴場なのでしょうか。しかし、ここだけ見るとまったく北海道って感じがしない。北海道に海水浴、そんなイメージないもんなあ。
まだまだ寝るのには早いので、この近くにある観光スポットの黄金岬へ行く。
行ってびっくり。うわ。なんですかー、この人の多さは。先ほどの砂浜と負けず劣らずこちらもわんさか人がいるのです。見れば道の両側にはたくさんの車が停まっている。
へ?黄金岬ってそんなにメジャーなの?そんな疑問を抱きつつ近づいてよく見てみると、みなさん、青いバケツを片手に熱心に何かやっております。
何やってんだ?と思い、さらに近づいてみる。おお、なるほど。そういうわけか。そこは磯になっていて、岩場に隠れている小さな蟹を捕っていたのです。家族連れや友人、カップル、実に楽しそうに蟹を捕っています。なんか見ているだけでほのぼのとしますな。今まで走ることばっかりで、あまりのんびりしてこなかったわたし、しばらくその光景を眺めて心癒すのでありました。
あっ、そうだ。今日はここに泊まろう!突然、思いついた。でも、お風呂は?ええい、風呂なんていらん。海があるじゃないか。海に入ればかいた汗もすっきりするだろう。そう、海を風呂代わりに。おお、なんて素晴らしいアイディア!なんだか普段とは違うことをしようと思うだけでテンションが上がる。これぞ旅の醍醐味。
すばやく周りをチェック。見れば東屋もあるし、ベンチも一、二・・・・・・なんと七つもあるではないか。それに水場もある。少し離れているがトイレもある。こりゃ、いいや。あまりの好条件に思わずよだれが出そう。こりゃもう、泊まるしかない。いや、泊まれって言っているようなもんでしょう。
しかし、ここで問題が一つ。
どうやってこの人の多さの中で寝るか、ということである。今の時期、午後の六、七時でもまだ日が残っている。しかも、さっき見たガイドブックには、「ここは夕陽が綺麗に見える場所」、と書いてあった。ということは確実に夕陽を見るまで残っている人がいる。いるよな。果たして、そんな大勢人がいる中で、わたしは寝ることができるのだろうか?わたしにそんな勇気があるのだろうか?
うーん、でもこれは一つのチャレンジかも。自分が次へとステップアップ(なんのためのステップアップかよくわからんが)するためのチャレンジ。そう思った。というか、そう思うことにした。
よし、やってやろうじゃないかい。
おっと、昨日、大人数の中でで泊まったことで、いよいよわたしも自信をつけたか。
それにしても観光スポットで泊まろうなんて、大きく出たものです。知らんけんね、後で泣きべそかいても。
黄金岬と道路を挟んで向かいにある「海のふるさと館」へ行く。
そうなんです。完全に暇を持て余してるんです。
中に入る。一画には留萌市の資料館が併設されてあった。まあ、入ってみましょうかね。大して期待はしてないけど。
と思ったら、これが大当たり。思いのほか、ぐいぐい引き込まれるように見てしまった。
ここ留萌は海の荒いことで世界的にも有名な場所。しかも世界三大波濤の一つで(出たー!三大ナントカ。本当にそんなのあるんかいな?)、他には、イギリス、スコットランド北岸、それとインドのマドラス沿岸がそれに当たる。留萌は夏はべた凪というくらい風が吹かないが、それ以外の季節は風が荒れている。だそうです。
へー、そうなんですか。それは知りませんでした。
ということは、そんな世界的に有名な場所にわたしは来ているのですね。こりゃ、すごい!
と、普通は思うんでしょうね。
でもね、実感ナッシングなんですよ。だって今は夏。まったく風が吹いてないんだもん。
続いて海洋生物の剥製コーナーへ足を運ぶ。
どっひゃーん。トドでかすぎ。
驚いた。初めて知った。トドがこんなに大きいなんて。三メートルはあろうか。これ、クマなんかより大きいよね。もし戦ったらトドの方が勝っちゃうんじゃない。そう思うくらい迫力満点。
それに比べればアザラシなんて実に可愛いもの。トドとアザラシ、外見が似ているので同じくらいの大きさだと思っていました。
次に見たのは北海道の古い地図。ここには昔の地名も載っている。当然、留萌の昔の名前も。
あははは。マジ?いやね、留萌は、昔、「ルルモッペ」という名前だったんだって。
笑えるというか、語感が可愛らしいというか。なんか愛嬌のある名前ですよね。こうなったら、留萌という名前をやめて、ルルモッペに戻せばいいのに。なんだか名前だけで観光客を呼べそう。
いやー、ここはわたしの知的好奇心をくすぐってくれる場所だった。是非、近くに寄られた際には、黄金岬だけじゃなく、ここ、「海のふるさと館」もよろしゅうお願いいたします。
って、おれは留萌市の回し者か。

再び、黄金岬に戻る。行くとこ、ないんですよ。というか、あまり動きたくないし、みたいな。
とりあえず、これからのルートの確認でもしておきますか。
しばらく地図とにらめっこ。そうこうしているうちに、時刻は午後六時を回っていた。
さて、風呂でも入りますかね。
といっても、わたしの場合、海に浸かるだけですが。
しかーし。予想した通り、まだまだたくさんの人がいたのです。
さすがにこんな大勢の前で服を脱ぎだせば、「きゃー!なに、あの人、変質者よー」とも思われかねない。即刻警察に通報され即逮捕なんてことになりかねない。おいおい、勘弁してくれよ。なんで北海道くんだりまで来て犯罪者にならなあかんの。
結論。だめ。こんな人の多いところじゃだめなのです。
よって、人が少ないところ、人目につかないところを探す。しばし辺りを見渡す。
あった、あった。ありました。木造のちっちゃな船の陰。まったく人の目が届かないかというわけではないけど、さっきの場所よりは全然マシ。
早速、着替えを持ってそちらへ歩いていく。「さあってと、もう夕方だけど、これから海に入ろうかなあ」なんて感じで、シャツとカーゴパンツを脱ぎ始め、下着一枚になる。さすがに裸で入るのはちょっと無理そうなので素っ裸になるのはやめておきました。ちなみにわたしの下着、ボクサーパンツなのでおそらく遠目には下着とはわからない。はず。一応、「これは下着じゃないぞ。海パンだぞー」という無言のアピールをしつつ海の中へ。そっと足をつける。うわっ。冷てっ。日中は暑かったとはいえ、すでに夕方の六時。さすがに海水は冷たくなっておりました。頑張って首の下まで体を海につけ、すぐに出る。いや、とてもじゃないけど、寒くて入ってられないのですよ。ササッとタオルで身体を拭き、シャツを着、濡れた下着を新しいのに履き替え、カーゴパンツを履く。
OK。無事終了。いやー、実にスリリングな入浴でした。
来る途中に寄ったドッラグストアへ買い出しに行く。荷物をつけての移動は重いので、ベンチの上に置いていくことに。わたしが行きかけるとベンチの周りにヤンキー風の男、三人が集まってきた。
「おめえら、おれの荷物に手出しするんじゃねぇぞ」とサングラス越しににらみを効かせる。少し経ってから振り返ると、三人組は立ち去っていくところだった。効果、あったみたいです。
買い出しから戻ってくる途中、自転車に荷物をつけた外国人とすれ違う。へー、外国人なんて珍しい。それからしばらく走ると、今度は男女のカップルが自転車を停めて海を眺めていた。わたしはそこにあった一台のロードバイクに目を奪われた。おお!これ、もしかしてわたしが欲しい自転車じゃないかーい。そう、GIANTのTCR。ロードバイクのエントリーモデルで、やけにコストパフォーマンスが高いらしい。色も黒を基調とし、アクセントに赤を使った合格の色使い。
うおー、ちゃんと見たーい。急いで黄金岬に戻り、レジ袋をベンチに置き、すぐさまUターンしてカップルがいた場所に猛スピードで向かう。
が、時すでに遅し。彼らはすでにわたしの十メートルほど先を行っているところであった。
うわー、待ってくれー。必死にペダルを漕ぐ。汗をかきかき、なんとか追いついた。
「すいませーん」
わたしの声に気がついた男性が振り返る。その前方には自転車に乗った小学生らしき男の子と女の子がいた。どうやら、家族でサイクリングのよう。
「これ、GIANTのTCRですよね!十万円ちょっとするやつですよね?」
「そうですよ。知っているんですか?まだ買って二ヶ月しか乗ってないんですけどね」興奮気味に話すわたしを怪しむこともなく、お父さんはニッコリ微笑む。
「いやー、これ、欲しいんですよ。ちょっと見せてもらってもいいですか?」マジマジと自転車を見る。するとお父さん、「よかったら乗ってみますか?」というなんとも嬉しい申し出をしてくれるではあーりませんか。
「ええ!いいんですか!」
「いいですよ」
わーお。嬉しい。ドロップハンドル初体験です。こりゃテンション上がるなー。
お父さんから自転車を受け取り、ちょっと持ち上げてみる。おお!軽い。なんじゃ、こりゃ。わたしの自転車と比べても全然軽い。わたしが乗っているのは同じGIANTでもクロスバイク。さすがにロードバイク、段違いの軽さです。
そっと自転車を跨ぐ。イテテテ。あ、足が・・・・・足がつるー。いや、倒しちゃいけないと思い足を目一杯伸ばしたら足がつりそうになったのですよ。しかも乗り慣れていない自転車だし。
なんとか第一関門を突破し、サドルにお尻、ペダルに足を乗せ慎重に漕ぎ出す。あわわあわわ。びっくりした。いや、ハンドルがおぼつかないのです。ドロップハンドルってこんなに乗りにくいものなの?まったくハンドルが安定せず、あっちこっちフラフラする。しかもこれまで経験したことのないような前傾姿勢。同じ自転車とはいえ、まるで違う乗り物のよう。
必死にハンドルにしがみつき、なんとかペダルを回す。しかし、ヨタヨタ走行は変わらず。これ以上乗って、自転車を倒したらマズイと思い、あえなくここでリタイア。わずか一分のロードバイク体験でした。
うーん、乗る前はさっそうと走る姿を思い描いていたのですが、現実とはかように厳しいものなのか。想像と現実、こんなに違うものなんですね。
無事、自転車をご主人にお返しする。その後、しばし自転車話で盛り上がりお別れ。ご家族四人に手を振る。どうもありがとうございましたー!
それにしても、わざわざ人を止め、自転車を借りて乗ってしまうという。いつから、そんな度胸がついたんだ、わたしは。いや、きっと旅先だからできることんなんでしょうね。地元じゃ恥ずかしくてできませんよ。

さて、今日は夕陽を眺めながら寝ますかね。ついさっきまで、ここが夕陽の名所だとは知らなかったので、なんだか当たりくじでも引いたような気分。
が、残念。この頃になると、先ほどにはなかった雲が出てきて、ところどころ夕陽を隠してしまった。
あーあ。当たりくじと見せかけて、どうやらはずれくじだったみたい。まー、しゃーないですわ。
夕陽を見るために残っていた人も、三々五々、帰宅の途に。するとさっきまで賑わっていたのが嘘のように一気に静かになった。
さびしぃー。わたしの他に残っている人が一人だけ。ほんとみなさん、夕陽が目当てだったのですね。分かりやすすぎ。
寂しさを紛らわすため、ザックからラジオを取り出し聴く。でも、面白そうな番組がやっていなかった。仕方ないのでイヤホンを外して目を瞑ることに。辺りはすっかり真っ暗。暇なので頭の中でお気に入りの曲を鳴らしてみる。うーん、いい感じ。あまりの気持ちよさに三曲目を流したところからウトウトし始める。時折吹いてくる潮風が頬に心地よかった。
2010年7月24日(土) 札幌は恋の街 (札幌 14km)
眠い目をこすってケータイの液晶画面を見る。時刻は「3:20」を表示していた。
二時ちょっと過ぎまでは覚えている。だから、きっと眠ったのは二時半前だ。そうすると、一時間しか眠っていないのか。
はーっ。そのことを知ると、余計眠くなってきた。頭がボーっとしてきた。
ナイトパック終了まで後十分。さすがにその時間で準備して部屋を出るのはちょっと無理っぽい。というか、まだ眠いし……。
しゃーない。一旦退店し、再入店するか。というわけで、フロントに行って手続きを済ませる。部屋に戻る途中、窓があったので外に目をやる。
暗闇の中、雨が糸を引いて地面に落ちていた。
雨、ですか……。はーっ。まあ、予想はしていたのでとくに感想はありませんが。
いや、ウソです。本当は落ち込んでいます。すいません、強がっていました。
さて、雨ですよね……。今日一日何していましょうかね。雨の中を自転車で移動するのも嫌だし。とりあえず重い頭をスッキリするため、傍らに置いてあったタバコにそっと火をつける。それを口元に持っていき、大きく息を吐く。ぷはーっ。おいしい。まさに至福のひと時。
というのは冗談。わたし、タバコ吸わないんですよ。あはは。
とりあえず眠いので、もうちょっと寝ますわ。仰向けになり目を瞑ると、あっという間に睡魔が襲ってきた。
気づくと二時間ほど眠っていた。起きて、ボーっとした頭のままネットをする。なにげなくヤフーの天気予報のサイトを見てみる。
おお!ラッキー!なんと明日の予報が雨から晴れに変わっているではないか。ほっと一安心。これで無駄に札幌で時間を過ごさなくて済む。この勢いで今日も晴れないか。というのは、さすがに無理ですよね。
ジュースを取りにドリンクバーへ。ついでに窓から外を眺めてみる。雨、ザーザー降っています。あはは。どうしましょう。かといって、このままここにいても料金がどんどん加算されるだけだし。でも、この雨の中を出て行きたくないし。料金かかる。雨は嫌。料金かかる。雨は嫌。料金かかる。雨は…。
もう、どうすればいいんだよー。朝っぱらからネットカフェで頭を抱えるわたしなのであった。
しかし、そんなわたしの苦悩を神様が見ていてくれたのか、しばらくすると雨脚が弱まってきた。
この隙を逃すまいと急いで出発の準備をして、ネットカフェを出る。外に出てみると、案の定、雨は小降りになっていた。が、またいつなんどき本降りになるかもしれやしない。鉛色の空を見上げて、ふっと、ため息をつく。まあ、考えてもしょうがない。降ったらその時だ。

まずはコインランドリーへ。そう、もう着替えがないのです。今のところ、今日やることはそれだけ。問題はその後。さて、なにしましょうかね。
コインランドリーに行く途中、北海道警察本部の前を通りかかった。でかー。さすが北海道で一番大きな警察署。そのどっしりとした建物を見ていると何か守られていような気がしてくる。いやー、実に頼もしい。自転車を停め、入り口の前に近づいていく。両側に立っている警察官を目にし、やや緊張気味なわたし。どうみたって普通じゃないもんなー。というよりどちらかといえば不審者でしょ。入ろうとしたら、いきなり両腕をつかまれた。なんてことになったりして。
「すいませーん。この近くに図書館ないですかー?」
そう、近くに図書館があったら、そこで雨をやり過ごそうと思ったのです。すると、若い警察官が出てきて応対してくれた。
「うーん、この近くにはないですね。一番近いのだと地下鉄に乗っていく感じになりますが」
あはは。そうですか。だろうと思った。地図見ても近くになさそうだったし。じゃ、いいです。さすがにそこまでして行く気はしないので。
北海道警察本部を後にする。しばらく走ると、昨日観光案内所で教えてもらったコインランドリーに到着。洗濯をしている間に近くにあるジャスコへ買い出しに。そう、食料もないのです。
買い物を済ませ、コインランドリーに戻る。洗い終わった衣服を今度は乾燥機に入れる。十分待って終了。乾いた衣服を畳み終え、スポーツバックに入れる。とりあえず、今日するべきことはこれにて終了いたしました。
さて、これからどうしようか。うーん、晴れていれば、大通り公園に行って芝生の上に寝そべるんだけどなあ・・・。いや、待て。そうじゃない。雨降っているからここにいるんじゃないか。晴れていたら、とっくに走っているだろうという話。
まー、それはともかく。そう、わたしは自転車で走るために北海道へ来ているのです。実は、北海道に着いてから、どんな過ごし方、どんな走り方をすれば自分は満足できるか、そのことをずっと考えてきた。試行錯誤してきた。たとえば、とにかく距離を稼ぐために黙々と走ってみたり。いや、何もそんなに急ぐことはないだろうと思いゆっくり走ってみたり。また、走ってばかりじゃ仕方ないと思い、いろいろな観光地に寄ってみたり。
で、いろいろ試した結果、自分が一番満たされるのは、とにかく後先考えず一生懸命走ることじゃないのかって。そうじゃないと「北海道を走った」という気がしないのではないか、そう思うようになった。それからは、できるだけ一生懸命走るようにした。もちろん、それが長く続くわけがない。でも、疲れたらゆっくり走ればいい。そして体力が回復したらまた一生懸命走ればいい。
自転車で旅している人の中には、空いた時間に本を読んだり、音楽を聴いたりしている人もいるそうだ。でも、わたしを彼らと一緒にしてはいけない。わたしは地元でも毎日のように自転車に乗っていた(それしかすることなかったしね)。だから、自然と普通の人より走りこみの量(と言ってしまうところがもう普通じゃないのですが)が多いはず。それに、わたし自身、自転車で走ることを楽しんでいる。もし、わたしがのんびり本を読んだり、音楽を聴いたりしていたら、もう一人のわたしが、「そんなことをしている暇があるなら走れよ」、きっとそう言うだろう。
とりあえずの結論というか、今の心境はそんなとこです、えー、はい。でも果たして本当に自分にとってそれが一番いいことなのか、いまだしっくりきてないこともまた事実。そもそもこうやっていろいろ考えていること自体、すでに迷っているということなんですけどね。まー、また走っていけば、いろいろ考えも変わってくるでしょう。そうなったらその時で、考えればいいさ。というわけで、とりあえずこの話は終了。考えたってキリがないしね。
それにしてもこの雨、である。上がったかなあと思っていると、またポツポツと降ってくる。しばらくするとまた止んで、またしばらくすると降ってくる。ほんと嫌らしい雨である。
さて、これからどうしましょう。と言いつつ、まあ、やることはあるんですけどね。日記を書くという。そもそもわたしが北海道でやることといえば、第一は当然走ることなんですが、その次に日記を書くこと。とりあえずやるというか、やるべきことといえばその二つだけ。
そういえば、さっき行ったジャスコにベンチがあったなあ。そこで日記を書くというのはどうだろう?そしてしばらく書いて飽きたら、昨日行った自転車屋に行ってみよう。なんかまだまだあのおじさんといろいろ話してみたいし。
先ほどのジャスコに戻り、ベンチに座って日記を書き始める。しかし、十分で飽きる。まあ、いいよ、今日はとくにすることあるわけじゃないし。どうせまたそのうち書き始めるでしょ。時間はたっぷりあるのだから。
そうそう、時間があるならちょうどいい。前から書こうと思っていたことがあるんだけど、今日はここでそれを書いちゃいます。
それは北海道のゴミ箱についてである。
北海道に来て驚いたのが、ゴミ箱がなかなか見当たらないことである。公園はもちろんのこと、道の駅やスーパー(場所によってはあるところもあるのだが、それはごく稀)にもゴミ箱がまったくないのである。これは旅をしている人にとっては非常に重要な問題である。捨てるところがないからといっていつまでも持ち歩く(走る?)わけにもいかないし、まさか地域のゴミ収集所に捨てるわけもいかない(そもそもそこに住んでいるわけではないので、当然捨てる権利はない)。となると、一番捨てやすいところと言えば、そう、コンビニである。しかし、コンビニの中にはご丁寧にゴミ箱を店内に設置しているところもある。これには正直驚いた。おいおい、そこまでするのかよ。いくらなんでもやりすぎじゃないかぁ?無論、家庭内のゴミを持ち込みしにくくするための処置だとは思うのだが、まさかそこまでやっているとは思ってもみなかった。
そんなことは言っても、コンビニのゴミ箱が一番捨てやすいのは間違いない。ほとんどわたしは、コンビニで何かを買ったついでにゴミを捨てていた(まあ、買わなくても捨てていましたけど)。
結局、そうさせているのは、ゴミの有料化が一番の原因なんでしょうね。北海道では買い物をするとレジ袋をくれないところがけっこうある。というか、むしろ、それが当たり前になっている感がある。仮にくれたしても、レジ袋代がしっかり別にかかるとか(五円というところが多かった)、また、レジ袋を要らないと言うと、商品の値段からレジ袋代としていくらかお金を引いてくれるところもあった。そうかと思うと、買い物をすると普通にレジ袋をくれるところもある(もちろん、別途レジ袋代がかかるということはない)。きっと、各市町村で違うんでしょうね。
そういうこともあって、札幌に来て一番安心したのが、ゴミ箱がわりと設置されていることであった。大通り公園には一画ごとに必ずあるし、デパートや百貨店に行けば、ごく当たり前のように置いてある。そう考えると、ある意味札幌は北海道らしくない場所と言えるのかもしれない。
個人的には、いろいろなところにゴミ箱を置いて欲しいのですが、環境問題が取り沙汰されている昨今、なかなか難しいんでしょうね。と言うより、むしろこれからどんどん少なくなっていく傾向にあるのでしょう。
とまあ、なんだか真面目に語ってしまったわたし。まあ、要するに暇なんですね。
かれこれ二時間ほど日記を書いていますが、さすがにというか、いよいよというか、当然というか、つまりというか、早い話、飽きてきました。というか、眠いしー。結局、ネットカフェでの睡眠時間は合計三時間くらいじゃないか。正直、あんまり動きたくない。今日こそはさっさと寝よう。ネットカフェで。
ジャスコを出る。雨はすっかり上がっていた。雲を見ると薄い灰色。もう雨は降らなそうな感じではある。
大通り公園に向かう途中、昨日修理してもらった自転車屋に寄る。
ガーン!なんとまさかの定休日。自転車屋が日曜日に休むなんて、そんなのありですか。くーっ、もう少し、ご主人とお話したかったのにー。

さて、まだ午後二時。夜七時のナイトパック開始時間まであと五時間もある。はーっ。長いっす。
昨日、立ち寄った観光案内所に行くことに。いや、とくに用事はないのですが。まあー、なんかこの近くにおすすめの観光スポットでもあれば、そこに行こうかなあと。と言っても半径一キロ以内限定ですが。
こんにちはー。「はーい」あら?出てきたのは昨日とは違った女性。見ればとってもチャーミング。なんだか女優の宮崎あおいに似ていて、彼女をちょっとふっくらとした感じ。
早速、おすすめの場所を訊くが、そのうち少しずつ話は脱線。
彼女いわく、近年、札幌の雪まつりは日本人より外国人の観光客の方が多いそうです。え?そうなんですか。そいつは知らなかった。
彼女いわく、わたしが昨日驚いた大規模のビアガーデン。てっきり企業の宣伝や利益を優先してやっていると思っていたのですが、なんでも戦後まもなく始まったとても歴史のあるものだそうです。なるほど。言うなれば、札幌の伝統文化みたいなもんですか(いや、ちょっと違うか)。こいつも知らなかった。
さらに話は脱線。なんでも彼女、北海道の北見市出身だそうです。って、まったく観光とは関係ない話ですが。いつのまにか、そういう情報も仕入れているわたし。
それにしても、話、弾んでないか?なんて思うのはおれだけかい?いや、でも、明らかに観光案内の範疇を越えているし。わたしのどうでもいい話にも嫌な顔一つせず付き合ってくれているし。というか楽しそう?
もしかして彼女、おれに気があるのかも?とわれを省みず図々しい妄想を膨らませる。というか、わたしの方が気があるのか?いずれにしろ、少なくとも彼女はわたしに対して悪い感情は持っていない。はず。そこで、さも話の流れでなんとなくそうなっちゃたんだよー、という感じで、
「よかったら、メールのやりとりでもしませんか」と訊いてみた。そう、できるだけさりげなくね。すると、
「でも、今、仕事中なので」抑揚のない言葉が返ってきた。
ガーン!わずか五秒の恋物語でした。
今回の旅は、これで二戦二敗。というか、勝ったためしがないという。それでも帰り際、写メだは撮らせてくれました。ま、それくらいはさせてくれるか。
それにしても、なんなんですかねぇ。倶知安のマックスバリューの店員といい、惚れやすいんですかね、わたし。まー、それもあるとは思いますが、結局、寂しいんでしょうね。一人旅だとどうしても人恋しくなってしまうというか。
そうは言っても、二人ともわたしの心の鐘を鳴らしてくれたのは間違いない。だいたい、本当に好きと思える人に出会えるなんてそうあるもんじゃない。せっかくそういう人に出会えたんだからいかなきゃもったいないでしょう。というか、わたしの場合、考える前に、体が、口が勝手に動いていますけどね。でも、それが本当だと思うんです、好きになるっていうことは。
なんだかいつになく力を入れて語るわたし。よっぽどショックだったのかなんなのか。
さて、ちょっとバツが悪くなったわたしは、昨日、さらっと見ただけのさっぽろテレビ塔へ向かうことに。さすがにちょっといづらかったのです。
この頃から気温も上昇、上空にあった雲もいい感じにばらけ始めてきた。今日は土曜日ということもあって、ビアガーデンもたくさんのお客さんで絶好調。通りにはジャズの演奏が流れてきた。そういえば、今、サッポロジャズフェスティバルをやっているんだよね。いやー、ノッてきますねー。実にいいムード。
ケータイを見る。まだ四時前。はぁーっ。後三時間。
しかたないので、テレビ塔の展望台へ行くことに。たった眺めを見るだけで七百円をとられるのはちょっとしゃくですが。でも、悲しいかな、ほんとすることないんですよー。
あっ、そうだ。割引チケットがあったんだ。これを使えば、一割引、六百三十円で入れる。たった七十円だけど、安くなっているということが嬉しい。エレベーターに乗り上昇。ドアが開き、展望台に。
わーお。すげー。まっすぐ伸びている大通り公園が実に印象的。札幌といえば、この景色。よくテレビで見かけます。天気が悪かったら来ていなかったが、晴れているため雲はほとんどかかっていない。見事に三百六十度きっちり見渡せる。いやー、来て正解。気持ちいいだべさ。
さて、展望台を三周。でもまだ四時すぎ。うーん、参った。もうすることないっす。
いや、あった。今一度彼女に逢いたい。せめて最後に顔だけでも見たい。というわけで、急いで観光案内所へ。近づくにつれてなんだかドキドキしてきた。うわ、おれ、本気じゃん。無事到着。でも、なんとすでにシャッターが下りていた。ガーン。どうやら四時に閉まるようです。うっそーん。ああ、無情。ほんと、残念。だって、おそらく彼女とは一生会うことがないんですよ。それを思うと、なんだか寂しさがこみ上げてきた。まあ、でも人に求めちゃいけないんだよね。もっと強くなんないと。
そんなこともあってか、なんか落ち着かなくなってきている。気持ちがぐわんぐわんしている。なんかダメ。無性に走りたい気分。誰もいなかったら叫んでいたかも。
予定変更。札幌を脱出することに。もうなんかじっとしてられないのです。
とりあえず北へと自転車を走らせる。後先考えずペダルを漕ぎまくる。別に先を急いでいるわけじゃない。速く走りたいわけじゃない。ただただ、このむしゃくしゃした気持ちを晴らしたい。このやりきれない思いをぶつけたい。ただそれだけで走っている。

ひとしきり走って気が済んだのか、そろそろ寝床を探さないといけないことに気づく。地図を見ると、少し行ったところに公園が。それじゃあ、とりあえずそこへ行きましょうかね。
行ってみるとその公園は、団地に囲まれた場所にあった。土曜日ということもあって人が多い。とくに親子連れが目立つ。きっと、ここは彼らにとって憩いの場所なんでしょうね。そんな中、荷物を積んだ自転車で乗りこんでいくわたし。明らかに浮いております。
まだ六時前ですが、眠たいのでそろそろ寝たいところ。しかし、人がけっこういるのでちょっと寝袋を広げるのにははばかれる。でも、いっか。だって眠いんだもん。
結局、睡魔には勝てず、六時少し過ぎたところで寝袋にイン。まだちらほら人がいたが気にしない。イヤフォンを耳につけラジオを聴く。ちょうど野球のオールスターをやっていた。ウトウトして聴いていると、なんと楽天の山崎武志が二戦連続のホームラン。とたんに眠気が吹っ飛んだ。それにしても、年をとってもまだまだ元気。結局、この試合のMVPは取れなかったけど、二戦通じてなら間違いなく山崎でしょう。個人的に、わたしがあげたいくらい。って、あげようもないのですが。それじゃあ、気持ちだけでも。
気づいたらいつの間にか眠っていた。が、やけに騒々しくて目を覚ます。寝袋の中から薄く目を開けてじーっと周りを観察。地元らしき人たちがなにやら柵を作っている。そのうちの一人と目が合い、思わず頭を下げる。でも、わたしに気づいていないのか、その人は無表情。あはは。 どうやらわたしは視界に入ってないみたいです。しばらくすると、さらに人が集まってきた。わたしの寝ている横のベンチにも人が座る。って、わたしのこと気にならないわけ?公園の真ん中で寝袋にくるまっている人間、どうみたって怪しいでしょ。でも、微動だにせず。あはは。ここでもわたしの存在、ないようです。というか、わたしが気にしすぎなんでしょうね、きっと。人は思っているほど、他人のことなんか気にしちゃいない
そうこうしているうちに、みなさん、なにやらたくさんの小さい筒を地面に置き始めた。しばらくすると、突然大きな音が。ヒュー!ヒュー!ババン!ババン!ヒュー!ババン!
わかった。花火だ!
こんなところで花火を見られるなんて嬉しいなあ。なんて普通は思うんでしょうけど、今のわたしにとっては迷惑以外の何でもない。だって眠いんだもん。
まったくうるせぇなー、なんて言葉も思わず口から漏れる。でも、悪いのはわたし。こんな所で寝ているのがいけないんですよね。わかってますって。
花火の音を聞きながら、またしばらくウトウト。目を覚まし、ケータイを見ると午後十時過ぎ。すっかり目が覚めちゃったので、再びラジオに耳を傾けることに。やっていたのは地元のローカル番組。でも、これがけっこうくだらなくて笑えた。続いて福山雅治のオールナイトニッポンが始まる。あれ、オールナイトニッポンって平日じゃなかったっけ?と思いながら聴く。以前、福山雅治のオールナイトニッポンは面白い、とどこかで耳にしたことがあったが、果たして内容は……。
これが思いのほか面白かった。なるほど、たしかに面白い。福山も面白いのだが、一緒にやっている相手方の男性(名前失念)が面白い。というか、この二人の掛け合いが面白いんだなあ。思わず声を上げて笑ってしまった。もしかして腰、浮いていたかも。結局、最後まで聴いてしまった。いやー、笑った、笑った。久しぶりに満足感に浸りながら眠りにつく札幌の夜。空を見上げるとことのほか月が綺麗だった。




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