北海道一周、自転車で走ったよ!?
2010年夏、苫小牧をスタートしました。さて、結末はいかに? 紀行エッセイです。
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2010年7月22日(木) ああ!愛しの羊蹄山 (余市―倶知安 109km)
朝、起きると、幸いなことに雨は降っていなかった。
うーん、でも微妙。空には明るいところもあれば暗いところもある。降るといえば降りそう。降らないといえば降らなそう。
今度はニセコの方を見る。山の方はそんなに暗くないし、雨も降ってなさそう。
まっ、とりあえず行ってみるか。ダメなら途中で引き返せばいいんだし。
昨日のように一生懸命ペダルを漕ぐ。が、すぐにバテる。諦めてゆっくり行くことにした。やはり荷物があると上りがキツイのです。
いくつか小さなアップダウンを過ぎ、稲穂峠にさしかかる。勾配はさほでもないが、距離は長そう。しかも向かい風ときたもんだ。
あーあ。ツイてない。上り坂だけでもキツイのに、向かい風って。いきなりのダブルパンチに肩が落ちる。がっくり。
左を見ると「稲穂峠三合目」という看板が。え?わざわざ何合目と書くということは、よっぽど長いのか?それを見て戦意喪失。さらにがっくり。
五合目、六合目となんとか持ちこたえて過ぎていく。というか、最初に何合目まであるか書いてくれる?頑張り具合がわかりませんよ。結局、九合目まで確認できました。はい、死にました。
長い上りが終わり、今度は下りが始まる。しかし、こちらも結構な長さ。というか、上りより長いのでは。初めは気持ちよく下っていたのだが、突然、あることに気がつく。
あれ?帰りはここを上ってくるんだよな。こんな長い坂を。いや、無理。とてもじゃないけど無理。下れば下るほど、その分、上ってこなきゃいけなくなる。
いやー、止めてー。もう下らないでー。
一人、山の中で叫ぶわたしなのであった。
ようやく長い下りが終わると、今度はアップダウンが始まった。ちなみに依然向かい風。もう、けっこう足にきています。二、三キロ走っては休み、また二、三キロ走っては休む。その繰り返し。
倶知安へと通じる最後の峠、倶知安峠を越えて、ようやく街中へ。もう疲労困憊。本気でわたしは思った。「もう今日は走るのやめよう」と。
といってもまだ八時半なんだけどね。でも、もう百キロくらい走った気分。
そういえば、昨日の余市の役場の人、そんなにキツくないとか言ってなかったか?もう、どこがですが。恨みますよー。
しばらく休憩すると、少し走る気力が出てきた。とりあえず役場に行って、ここら辺のおすすめのコースを訊いてみることに。やって来たのはいいけど、走るところはまだ決めてなかったのです。
早速、商工観光課へゴー。しかし、応対してくれたおじさん、わたしにあまり関わりたくないのか、それとも他の仕事で忙しいのか、案外、素っ気無い対応。どうもさっさと終わらせて、早く自分の仕事に取り掛かりたいという雰囲気。
「これも仕事のうちなんだから、もっとしっかりやろうぜ」そんな思いが沸々と沸いてくる。まあ、いつまでもそう思っていても仕方ないので、矢継ぎ早に訊いてさっさと終わらせることにする。
話を聞くと、やはりニセコパノラマラインはアップダウンがキツいからやめておいた方がいいとのこと。そういえば、余市の役場の人も同じことを言ってたっけ。
うーん、よっぽどなのか。そこまで言われたら怖いじゃないの。というわけで止め。そこまでして走りたいわけじゃないしね。なにもわざわざ苦しい思いをする必要もないでしょう。
それじゃあ、羊蹄山の周遊コースは平坦ですかね、と訊くと、
「パノラマラインに比べれば、全然平坦ですよ」さも、当然でしょと言わんばかりの顔で言われた。
なるほど、そうですか。そんじゃ、のんびり走って、そこでお茶を濁すことにするか。なんだかちょっと物足りない気もするが。まあでも、せっかく来たのだから、どっか走っておかないとね。
ついでに、今日上ってきた国道五号線より勾配の緩い道はないか、と訊く。もっと楽な道があったらそこを通って帰ろうと思ったのです。
「道道三百九十九号線もあるけど、そっちはもっとキツイし、中山峠はさらにキツイ。一番楽なのが国道五号線」簡潔極まりない言葉が無表情な顔とともに返ってきた。
ええ!ウッソー!マジ?あれで一番楽なの?どうなってんだ北海道?スゴすぎます。
それにしてもあんな下り坂を今度は上らなければいけないのか。想像するだけでどっと疲れが出てくる。あー、いやだ、いやだ。おら、あんな坂上りたくねぇだ。
ん?でも、ちょっと待てよ。そういえば、来る途中、駅があったなあ。ということは、もしかしたらこの近くにも駅があるのかも。そうなれば電車に自転車を乗せて運ぶ、いわゆる輪行して戻ることができる。というか、それしかないでしょ、今のわたしには。
役場のすぐそばにあった警察署に行って訊いてみると、やっぱりありました!
いやー、よかった、よかった。これでわたくし、どうにか無事に生きて帰れそうです。
輪行も一周線上でしたらありえませんでしたが、そうじゃないんでね。まあ、これくらいはいいでしょ。輪行を試すいい機会でもあるしね。

とりあえず国道五号線を行くことに。しばらくは平坦な道だったが、突如、行く手を遮るように坂が現れた。ちょうど手前にマックスバリューがあったので、そこで買い出しをするついでに、店員にこの先の道の状況を訊いてみる。
「ここからアップダウンってけっこうありますかね」
「いや、そうでもないですよ」
「でも、ほらすぐ目の前に坂があるじゃないですか」
「いや、あれぐらいなもんですよ。あとはあっても一つくらいで」
ホッ。よかった。今日はさんざん坂を上ってきたので、もうこれ以上、上りたくないのですよ。
走ること一時間。
店員のうそつき。たくさんありすぎて嫌になりましたよ。言っていること、いい加減すぎます。なんだか人間不信になりそう。
途中、ニセコの道の駅があったのでそこで休憩することに。
すると、そこには明らかに旅仕様の自転車が停まっていた。旅人捜索開始→発見→確保。矢継ぎ早に質問開始。
なんでも日本一周している大学生で、大阪スタートで四国、九州を周って、日本海沿いを北上して北海道に入ったそうです。
その後も一方的に訊きまくるわたし。多分、彼、最初だいぶ引いていたと思います。いやー、すいません、いろいろな意味でストレスが溜まっていたもんで。
彼と話していて、意見が一致したのが、自転車に乗らない人の話は当てにならないということ。
彼もついこの間、ある道を通るとき、どんな感じが訊いたそうです。すると「坂は一つくらいかな」という答えが返ってきたのだが、実際、行ってみると三つもあったそうです。その時、彼はこう思ったそうです。「一つと言われたら三つあると思え。二つと言われたら六つあると思え」って。まったくもって同感。その気持ち、よーくわかります。
彼は昨日に引き続き、今日もこの道の駅に泊まるそうです。なんだか疲れて走る気しないんですって。
え?そうなの?うーん、そんなこと聞いたら、わたしもここで泊まりたくなってきた。いや、本気に。でも、まだ昼の十二時。ここで切り上げて、じゃあ何するの?ということで結局走ることに。これ、いつものパターンです。
彼曰く、「平坦と言ってても多分アップダウンありますよ」
うーん、そうかなあ?しかし、走り出してすぐに予想的中。いきなり上り坂が。どこが平坦なんじゃ。あの役場のおやじ、殺したろうかー。
まあ、文句を言っていても先に進まないので一生懸命走る。平地でも上りでもあがくあがく。午前中で体力を使い切ったと思っていたのだが、思いのほか頑張りがきいてちょっと驚く。
もしかして、休んで体力が回復したのかも。いや、それもあるかもしれないが、きっと毎日走っているうちに自然と体力がついたんでしょうね。
頑張って走ったご褒美か、なんと喜茂別から京極までの道が二、三キロあろうかという長いダウンヒルだった。
ここ、すごいです。
いやー、爽快感極まりない。道が真っ直ぐなので、ぐんぐんスピードが出る。しかも、周りには遮るものが何もなく三百六十度景色が見渡せる。広々とした大地に山々やたくさんの畑。空はどす黒いとこもあれば、青空が見えて陽が射しているところもある。それが移動する度にどんどん変わっていく。なにかとっても心惹かれるというか神秘的な感じ。結局、羊蹄山は雲がかかっていて麓しか見えなかったが、それでもここに来る価値は十分にあります。
それにしてもこのダウンヒル、逆周りだったらとんでもない上り坂だったわけで。もし、反対側から来ていたら確実に役場のオヤジ、死んでいますね。
ニセコの道の駅から四十キロ弱。そこをおよそ二時間で走った。あんだけアップダウンがあったのにこれはちょっとすごいかも。しかも一生懸命走ったせいか、それほど長くは感じなかった。昨日も思ったけど、結局わたしは一生懸命走るのが好きなんだろうなあ。

喉が渇いたので、行きに寄ったマックスバリューで飲み物を買うことに。レジで会計を済ませようとすると、今朝も見かけたとても笑顔の可愛い娘がそこにはいた。別段、美人というわけではないが、とにかく笑顔が素晴らしくいい。こんな?わたしでもニコっと挨拶してくれます。
ちょっと恥ずかしかったが、思わず笑顔がいいですね、自慢した方がいいですよ、と言う。すると彼女は「ありがとうございます」と恥ずかしそうに、少し顔を赤らめた。
え?ということはあまり言われ慣れていないってこと?うそっ。こんなにいい笑顔なのに。
うーん、こんなことって言われないもんですかね。まあ、言われないか。
買い物を済ませ、駅へと向う。その途中、異常に鼓動が早くなっているのに気がつく。
ありゃ、これって恋?もしかして彼女に惚れたか?うわー、メアドでも渡しておけばよかったよ。激しく後悔。倶知安駅に着いたが、なんだかいてもたってもいられなくなり、気づいたらマックスバリューへ自転車を走らせていた。
この時のわたしの速いこと速いこと。店内に入り、一直線に先ほどのレジへ向かう。でも、いない。うわっ、マジ?
焦るわたし。諦めるか?いや、諦めきれない。見覚えのある店員がいたので訊いてみると、休憩中だという。お願いして呼んできてもらう。われながらすごい行動力。自分で自分を褒めてあげたくなる。しばらくして、さきほどと変わらない笑顔を携えて彼女がやってきた。
北海道一周中であることを告げ、手書きのメアドを渡す。「メールもらえると、残りもがんばれそうな気がします。もしよかったらメール下さい」と、取ってつけたような言葉も添えて。言いながら、断られるかも、と思ったが、予想に反して快く受け取ってもらうことができた。
おお、こりゃ、イケるか?しかも「あとでメールします」との答えが返ってきた。
ええ?マジ?ウソ?本当にしてくれるのか?ちょっと半信半疑。最後に写メを撮って握手してもらった。別れ際、もしよかったら仕事終わってからお話ししませんか、と誘ってみたが、そちらの方はあえなく断られた。これはちょっと欲出しすぎたよう。
駅の近くに電器屋があったので寄ることに。昨晩、単四電池がないことに気付いたので、どこかで買おうと思っていたのです。
さて、その単四電池、あるにはあったのだが、なぜかまったく同じ商品なのに四百八十円と六百八十円の二種類の値札が貼ってある。あれ?これってどっちが正しいのでしょう。というか、その前に間違いを発見したわたしにタダでくれるというのはどうでしょう。そんな図々しいことを思いながら、店員に訊く。しかし、訊かれた店員も理由が分からず、不思議そうな顔。当然、安い方がいいなあと思いながら確認してもらうと六百八十円でした。チェッ。残念。
当初は倶知安かニセコで一泊する予定でしたが、意外と早く目的が達せられたので今日中に余市に戻ることに。
というか、なんだかグズグズしてられないというか、先を急ぎたくなったんです。
輪行、思ったよりスムーズにできました。しかし、なんせ荷物が多い。ザック、フロントバック、寝袋、スポーツバック。これにもれなく自転車がついてきます。
車内でさかんにケータイをいじくるわたし。早く彼女からのメールが来ないかなあと思ってね(照)。ついでにいつもはオフにしてある着信音やバイブもオンにする。というか、どんだけ期待してるんだよっていう話ですが。いや、でも期待しますよね。

午後六時前、余市駅に到着。自転車を組み立て、昨日と同じ宿泊場所の公園へ行く。その後、銭湯へ。
ところで、七時をとうに過ぎているのだが、相変わらず彼女からのメールは来ない。おかしい。思わず首を捻る。たしか五時には仕事が終わると言っていたから、もうとっくに来てもいい頃なのだが。
一分ごとにケータイの液晶画面を見る。それに向かって、「来い!来い!」と念じる。でも、来なーい。
おかしい、おかしい、おかしいよ。なんで?なんでメール来ないの?メールするって言ったのに。なんで?
あーあ、こりゃ無理かもな。これは来ない方向かもな。自分でもはっきり分かるくらいテンションが下がってきた。
でも、冷静に考えてみれば、そうだよなあ。さっき会ったばかりの人、しかも素性も知れない相手にメールしてくるなんて、よっぽどわたしに惹かれたか、それともよっぽどの常識知らずか、そのどちらかでしょう。そして、彼女はそのどっちでもないという。
その後、公園に戻って、夜八時過ぎには寝ていました。そうそう、結局、メール来ませんでしたよ~(泣)。やっぱりな、と思いつつもショックは隠し切れず。がっくし。
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2010年7月21日(水) 神が威る岬 (岩内―余市 119km)
昨日はよく眠れなかった。もー、暑くて暑くて。
しかも虫も刺してきたし。もー、痒くて痒くて。
そういえば、松前で一緒になったおじさんが夏用のシュラフを使っていたけど、あれってけっこう涼しいのかな。というか、寝袋の形をした蚊帳があればいいのに。札幌行ったら探してみようと思います。
でもちょっと思った。眠れないのは暑いからとか痒いからとか、そういった理由ではないのではないだろうか。だって、暑かろうが痒かろうが、本当に疲れていれば眠れるはず。きっと眠れないのは疲れが足りないのだろう。というのは、少々暴論でしょうか。まあ、いいや。試しに今日はもっと一生懸命走ってみようと思います。
眠れなかった理由がもう一つ。
ヤンキーがなんだかわかんないけど、夜中、やたら大きな音を立てて車がやってきたのである。こんな寂しいところに人なんて来ないだろうと思っていただけに、その騒々しさにちょっと苛立った。
話し声を聞いていると、どうやら若いカップルらしい。これがまた女の方がキャッキャッ笑うので余計に耳につく。
チェッ、うるせなー。なんて最初は思っていたのだが、途中でピンときた。
わざわざこんな人気の無いところに来るってことは何かコトを始めようとしているのではないだろうか。
そうだ。きっとそうに違いない。頭の中ではいけない想像が広がっていく。心臓の高鳴りを胸に感じながらしばらく待ってみることに。
なにも始まりませんでしたな。
チェッ、期待させやがって。いや、なんでもありません。
今日は珍しくお日様が出ていた。朝、起きて太陽を見るなんて北海道に来て初めてじゃないかい。一週間目でやっとかよ、という思いもなくはなく。
ここにはトイレがないので、坂を下って道の駅へと向かう。
トイレの洗面台で歯磨きをし、ひげそりをしていると、一人の色黒のおじさんが現れた。その不自然な肌の色に、ホームレスなのかも、と思う。無言でいるのもなんだか居心地が悪かったので、わたし、これから積丹半島に行くんですよ、とそのおじさんに話しかけてみた。
「積丹行くんならウニだべさ。安いから食べていきなよ」洗面台で髭を剃りながら鏡に映ったわたしに向かって言う。
「へー、そうなんですか。ちなみにいくらなんですか?」
「千円で食べれるよ」
「なるほど」食べるとも食べないともどっちつかずの言葉を返す。すいません、それ、わたしにとっては全然安くないんですが。

道の駅を出発して二十キロを過ぎたところ、小さな港が見えてきた。ちょうどいいや、ここで朝メシを食べていこう。自転車を停め、少し歩くと、車でご旅行というご夫婦に出くわした。
おはうようございます、と挨拶をし、今日は余市まで行く予定だと旦那さんに言うと、
「気をつけなよ。トンネルが多いからね」とわたしを気遣ってくれる言葉を発してくれた。「とくに余市の手前のトンネルは道幅狭いから気をつけて。あそこは対向車すれ違うだけでもギリギリなんだから。自転車なんか通っているのを見ると、こっちがヒヤヒヤするよ」
なんだか自転車乗りを気にかけてくれる人。とても好感を持ちました。
が、なぜかここからヒートアップ。
「トラックの運転手なんてろくに前なんて見ちゃしないんだから!ケータイいじったりして。だいたい自転車通っているなんて、これぽっちも頭にありゃしない。ほんとやつらは危ないよ!」
どうかしたのでしょうか。トラックとなにかあったんでしょうか。言葉の端々から怨念の匂いが漂ってきます。
それにしても、そんなことを言われたらビビるじゃないの。せっかく北海道のトンネルにも慣れ、余裕も出てきたというのに。とはいえ、気にしても先に進むしかないのですが。
しばらく走ると神威岬が見えてきた。横から見ると、それはまるで獲物を狙っているトカゲのよう。別名、トカゲ岬というのはどうでしょう。え?いまいちですか。
国道を横に逸れて神威岬へ向かう。突如、九パーセントの上り坂が現れた。くそっー。絶対上ってやるー。気合じゃー。
なんとか上りきりました。
そこから少し走り、駐車場に到着。トイレから出てきたばかりのおじさんとちょっと話をする。
このおじさん、五十歳というがまったくそんな年齢には見えない。隆々とした筋肉がノースリーブのシャツからはちきれんばかり。なんでも趣味で山登りをしているとのこと。特に若々しさを感じたのが、その出で立ち。普通の旅行者とは違い、サングラスにハウンチング帽という、なんだかおしゃれな雰囲気を醸し出しているのです。
いいなあ、こんな年でも、旅に出てきて身だしなみに気をつけているというのは。わたしも年を取ったら見習おうと思います。
ところで、この方は車中泊しながら北海道を周っているのだが、気になったのはマナーの悪さだそうです。夜中でもかまわず酒飲んでのドンチャ騒ぎ、周りのことはおかまいなしに発電機をつけて騒音を撒き散らす、そんな輩たちがいるそうなのです。
うーん、驚いた。わたしは車中泊したことがないのでわからないのですが、こんな非常識なことをする人がいるんですね。ちょっと考えればどれだけ迷惑なことがわかりそうなものですが。
「それにしても、ここんとこ天気が悪くなて嫌になっちゃいますよねー」わたしが言う。
「え?そうですか。わたし、ほとんど晴れですよ。一日だけかなあ、曇りだったのは」雨って何?そんなことを言い出しそうな口ぶりでおじさんは言う。
え?ウソ?こっちはほとんど曇りか雨だったというのに。そっちは晴れだったのですか。あーあ、羨ましい。
おそらくこういう人を晴れ男というんでしょうね。
ん?するっていうと、なにかい?わたしは雨男かい?いや、でも、もしかしたらそうなのかも。さすがにこんだけ天気に恵まれないと、そんなことさえ思ってしまう。
駐車場を後にし、いよいよ神威岬へ向かう。坂を上りきると、目の前にはものすごい絶景が広がっていた。
うわー。すげー。まじー。なんだこりゃー。すげえなー。
すいません、言葉が出てこなくて。いやね、もう冷静ではいられないのですよ。
人間って本当にすごいものを目の前にすると、まともな言葉って出てこないもんなんですよね。美辞麗句、そんな言葉をいくら並べようとも陳腐なものにしか思えないという。今、この景色を見て改めてそう感じる。
それでも、一応、わたしの少ないボキャブラリーで説明しますと・・・・・・えーと、緑色の丸みを帯びた物体がうねうねうねっていて、それが先に長く伸びていっている・・・・・・うーん、伝わらないか。
気になった方は是非行ってみてください。決して期待は裏切りませんので。
岬の先端から戻ってくる途中、人とすれ違うたびに、「この先、風が強いから気をつけて下さい」「よかったら写真撮りましょうか」など、自然と口にしている自分に気がつく。
どうやら素晴らしい景色は、人を優しくさせる力があるみたいです。
いや、でもほんと素晴らしいわ、ここ。みなさん、少なくとも一時間はいましょう。
ところで神威岬は「カムイ岬」と読みます。
え?もしかして、カムイって白土三平のカムイと同じ?なるほど、ここからとっているのかも。それにしても神が威るとはよくつけたもんだ。ここには神様が宿っている。まさにそう感じざる負えない景色。名前をつけた人は天才でしょう。
実はわたくし、さっきまでカムイ岬をジンイ岬と読んでいました。そう、音読みそのままなんですね。で、なんで間違いに気づいたかというと、さっきのトンネル気をつけておじさんが、カムイ岬がどうたらこうたらって言っていたから。
あれ?ここから岬といえばジンイ岬しかないぞ。もしかしてそれのこと?で、ガイドブックをよく見てみると、そこにはしっかりと「カ・ム・イ」と書いてありました。「カ・ム・イ」と。
それまでジンイ岬、ジンイ岬って連呼していたわたし。あーあ、恥ずかしいったらありゃしない。
でも、ちょっと言い訳。
ここの近くに神恵内という村があるのですが、そこは「カモエナイ」と読むんですよ。
なんなんでしょう、これ。もー、神を「カム」と読んだり、はたまた「カモ」と読んだり。あーあ、ややこしいったらありゃしない。頼むから、どっちか一つに統一してくれぇ。

次は積丹岬へ向かう。
昨日、道の駅で会ったおじさんは、たいしたことないって言っていたが、果たして・・・・・・。
おじさんのうそつき。いいじゃねぇかよ。
遊歩道のトンネルを抜けるとそこには絶景が待っていた。目の前の海には大きな岩がデーンと鎮座しており、右手を見れば断崖が聳え立っている。
中でも目を引いたのが海の色。青は青なんだけどちょっと今まで見たことのないような青。青というより蒼の方が近いかも。そう、これがいわゆる積丹ブルー。と、ガイドブックに書いてありました。
細い遊歩道を下へと降りていく。海の方へ歩いていき、記念にとばかりに足をそのまま海に浸す。サンダル履きだからできる芸当です。
大きな岩の上からは若者たちがダイブしている。おお、ここは海水浴もできるのか。わたしもつられてダイブ。
なんてするわけないじゃないですか。案外常識的なんです、わたし。
その後、一旦、駐車場まで戻り、今度は灯台のある方へ行ってみる。
と思ったら、目の前の道を遮るように一枚の看板が立っていた。読んでみると、七月二十日に熊が出たので注意してください。みたいなことが書いてあった。
へー、やっぱり熊って出るんですね。というか、七月二十日って、昨日やないかーい。でも、本当に熊って出るんですか。正直、実感湧きません。あまり気にも留めずしばらく坂を歩き、上りきる。
おお、すげー。そこには蒼い海と緑の森が広がっていた。なんじゃ、こりゃ。内地では見たことない光景に思わずテンションが上がる。
しばらく行くと、役場の人が看板を立てていた。ちょっと話しかけてみることに。
「本当にこんなところに熊って出るんですかね?」
「出ますよ。ほら、ちょうど今あそこの木が禿げた場所に二頭いますよ。あっ、一頭いなくなった」
「本当だ。あっ、あそこに一頭いますね。って全然いないじゃないですか!」
そんなノリツッコミをするほど気分が高揚しているわたしなのであった。
さて、景色も堪能したし、そろそろ戻ろうか。来た道を引き返そうとすると、なぜか道の真ん中に人が集まっている。どうしたんですか?と一人の女性に訊くと、「いや、この先で熊が出たんですって」
え?ウソ!マジで?ありゃー、本当に熊って出るんだ。さすがにそうなるとちと怖い。
早速、さっきの役場の人に相談しに行く。下にいる別の役場の人と連絡をとった結果、軽トラで上に残った人たちを下の駐車場までピストン輸送することになった。
残った人は全部で十五人。一回五人ずつ運んだとしても三回あれば運び終える。
「じゃあ、急いでいる人を優先におねがいしまーす」役場の人が頬のあたりで両手を立て、大きな声でわたしたちに呼びかける。
どっと荷台に詰め掛ける観光客たち。荷台はあっという間にすし詰め状態。一、二、三、四・・…十人はいるでしょうか。
中には明らかに急いでいない人も混じっているようですが。
ちなみに軽トラには積載量三百五十キロと書いてある。とすると一人当たりの体重は三十五キロ・・・・・・ってことないですよね。大丈夫なんでしょうか。だいぶタイヤがへこんでいますけど。
え?わたしですか?もちろん乗りませんよ。だってわれ先に乗り込むなんてなんか見苦しいじゃないですか。それにそんなに急いで乗る必要なんてないでしょ。少し待てば乗れるんだし。さらにもっと言ってしまえば、これなら熊に襲われる確率よりもパンクする確率の方が高いのではないだろうか。しかもパンクして熊が出てきた日には・・・・・一応、そこまで計算した上での大人の判断なのです。
十分後、軽トラが戻ってきた。どうやらパンクしなかったよう。当たり前。したらわたしが困る。
残りの人も荷台に乗り込む。荷台に腰掛けるのは不安定でちょっと怖かったが、なかなかの眺め。それに本来だったらこんな車の上から見ることなんてできませんからね。そういった意味では貴重な体験をしたのかも。
駐車場に戻ってしばらくすると、パトカーやテレビ局の車がやってきた。わーお。もしかしてニュースで流れたのでしょうか?見た方がいらしたら是非ご一報を。
積丹岬から国道二百九十九号線へ合流する道はキツかった。そう、もう何度も経験しているダラダラした上り坂。これ、はじめはたいしたことないんだけど、後半になるとじわじわ脚にくるんだよなあ。しかもこんな時に限って快晴。日差しが肌に痛い。
うーん、晴れたら晴れたでこれは問題。もー、天気悪かったら悪かったで文句言うし。まったくわがままなわたしなのである。

とりあえず今日は余市に泊まることに。あっ、そうそう。トンネルは案外大丈夫でしたよ。
役場に行って、コインランドリーやお風呂、ついでに泊まれそうな公園の場所を訊く。するとここの人、奥から詳細な住宅地図を引っ張りだしてきて、丁寧にそれぞれの場所を教えてくれた。しかも、こちらが訊いてもいないのに安い弁当屋まで紹介してくれた。
うわー、なんて優しい人なんだ。ここまでしてもらうと感謝を通り越して感動。思わず胸が熱くなる。ついでにうっすら涙も滲む。
泣いてもいいですか。人にものを訊ねて泣きたくなったのは、これが初めてです。
早速、教えてもらったコインランドリーへ。洗濯しないと着替えがないのです。
待っている間、スポーツ新聞を読む。
ギョッ!目が点になった。いや、巨人のユニフォームがどえらいことになっているんですよ。イナズマやらたくさんの☆マークが。なんなんだ、これは。一瞬、マンガかと思いましたよ。これを見た巨人ファンは暴動を起こさないのでしょうか。人事ながらちょっと気になります。
夕方、銭湯に行く。四百二十円なり。どうやら北海道の銭湯はこの値段で落ち着いているようです。
湯船に浸かりながら、地元の人、二人と話す。そのうちの一人が、まだ二十代後半なのだが、肺ガンを患っている。それを聞いて驚く。とはいえ、言われなければガンだとは気づかないくらい表情は明るい。
話を聞いていくと、やはり初めはかなり落ち込んだそうです。でも、途中から落ち込んでいても仕方ない、明るく生きなきゃ、と思うようになり、一ヶ月くらいで気持ちを切り替えることができたそうです。
ううっ、早い。わたしなら・・・・・ダメだろうな。最低でも一年は落ち込んでいるだろう。いや、もしかしたら二、三年かも。うーん、強いですな、この人は。
風呂から上がり、今日の寝場所である港の公園に行く。
ところで明日はちょっと予定を変更して、ここから四十キロほど山の方にあるニセコに行ってこようと思います。
このままずっと海岸線を走っていてもつまらないし、ちょっと寄り道をするのも面白いかなあって。そんなことを、神威岬で地図を見ていたら、ふと思ったのです。
でも一番の理由は、天候。なんでもこれから数日は天気が悪く、このまま走ると、楽しみにしていた石狩からの海岸線を雨の中で走ることになりそうなのです。そんなわけでニセコあたりで時間をやり過ごそうと思った次第。
寝ながらラジオを聴く。おお!なんとわたしの好きなAORがかかっているではないか。たちまちテンションが上がる。ジム・フォトグロの「Fool in Love with You」、ドゥービー・ブラザーズの「ある愚か者の場合 (What A Fool Belives)」、ロビー・デュプリーの「ふたりだけの夜 (Steal Away)」という ベタな選曲でしたが(あー、フォトグロはそうでもないか)。
いや、でもそんなことは関係ない。自分の好きな曲がかかるだけで嬉しい。しかも、偶然つけたラジオから流れてきたので嬉しさ倍増。なんだか今日は幸せな気分で寝れそうだ。
結局、今日は一日中ずーっと晴れだった。これは今回の旅でははじめてのこと。
素晴らしい景色も見たし、いろんな人と話せたし、一生懸命走ったし。もう、言うことなしの一日。この旅一番の充実した日となった。
2010年7月20日(火) よってけ!&みなとま~れ (せたな―岩内 130km)
朝、起きたらものすごい霧が出ていたので驚いた。三十メートル先も見えないのである。でも、幸い雨は降っていないようなので、とりあえずは走れる感じではある。下に降りたら霧はなかったが、その代わり霧雨が降っていた。ちょっと怯むが、この程度の雨でいちいち停滞していたらちっとも前に進まないので走る。
二十キロほど過ぎたところでお腹が空いてきた。朝食を摂ることに。しかし、休んでいるところに蜂がまとわりついてきた。逃げても逃げても追ってくるので仕方なく移動することにした。
しばらく走り、トンネルを抜ける。すると青空が。
わーお。トンネル一つ抜けるだけでもこんなに違うのか。よっしゃー、と喜んだのもつかの間、次のトンネルを抜けると今度はくもり空。短時間で雨、晴れ、くもり。うーん、変わり過ぎ。
天気はいまいちパッとしないが、道はよかった。広いし、平坦なので実に走りやすい。これなら、百キロも余裕のペース。
島牧の道の駅まであと二キロの表示。ところで、ここの道の駅の名前が「よってけ!島牧」という、なんともフレンドリー極まりない名前。そこまで言われたら、これはもう寄っていくしかないでしょ。朝食もまだだしね。
サイコンを見ると、すでに四十キロ以上走っている。
余裕をかまして、ここでちょっとのんびりしてみる。
さて、そろそろ行こうかと地図を見ていると、一人のおじさんが声をかけてきた。
「今日はどこまで行くの?」
「あー、一応、できたら岩内まで行こうと思っています」
わたしに興味があるのかと思ったら、なんてことはない、単なる自慢話がしたかっただけでした。あそこに行ったとか、ここはよかったとか。次から次へとのべつまくなしに北海道の地名を挙げてくる。まあ、一応、後々役に立ちそうなので、話半分で聞いておく。
「この近くに賀老の滝っていうのがあるんだけど、行った?国道から外れて山の方にあるんだけどね」
「いや、行ってないですけど」
「北海道でもけっこう大きな滝の部類に入るから行ってみたら」
「へー、そうなんですか。だったら行ってみようかな。ちなみにここからどのくらいですか?」
「十六キロくらいかな」
「やめておきます」
雨はすっかり上がり、空は薄曇りに変わっていた。

ここまでは快調に走ってきたが、島牧の道の駅を出た途端、ペースが落ちる。なんか体重いし、眠たいし。というわけで、途中、道路脇にマットを敷いてしばらく横になる。しかし、起きても症状は変わらず。ここらへんから、余裕かましたことを後悔し出す。
弁慶岬に寄るも、たいしたことなかったので早々と去る。
さらに走ると灯台が見えてきた。ちょっと寄ってみるか、と思ったものの、登り口が見つからない。すぐそばに民家があったので、登れるかどうか、洗濯物を干していたおばさんに訊いてみた。
「登れることは登れるけど、道は草ボーボーよ」
そうですか…。なにもどうしても行ってみたいわけじゃないし・・・。有名じゃなさそうだし・・・。やっぱ、やめとこうか。われながら軟弱。
「ところで、おばさん、家族何人で住んでいるの?」「お子さんはどちらにいるの?」なぜかおばさんを質問攻めにするわたし。
さんざん粘ってみたが、お茶やらお菓子は出てきませんでした。
どうやら、昨日のお風呂で味をしめたようです。
ところで言い忘れていましたが、朝、走り出してすぐにフロントのシフトグリップが壊れました。わたしの自転車はグリップを回してギアチェンジする方式。しかし、グリップを回してもグリップのラバー部分が回るだけで、肝心のギアが変えられない。
ただ運がよかったのが、壊れたシフトグリップがフロントで、ギアがインナーで固定されたこと。これがアウター固定だったら大変なことになっていた。重いギアで走らなければならなかったのだ。当然、坂なんて上れやしない。まさに不幸中の幸い。
岩内がそこそここの町らしいので、そこで修理してもらうことにしよう。そう思ったが、岩内にまともな自転車屋があるのか(なんと失礼な)不安。結局、札幌まで延ばすことにした。フロントインナーでも、走る分にはなんら問題はないしね。ただ、スピードは出ませんが。
さて、次の道の駅は「みなとま~れ寿都」。見方によっては非常にふざけた名前とも言えなくもない。住民から抗議はこないのでしょうか。人事ながらちょっと気になります。とはいえ、個人的にこういうのは好き。もしかしたら、こういった名前の付け方も北海道民の大らかさが成せる業なのかもしれない。「よってけ!島牧」といい、なかなかファンキー。大変気に入りました。
ここの道の駅は黒塗りでシックな外観。しかもトイレではジャズがかかっていた。一口に道の駅と言っても、味も素っ気もないところもあれば、こんなおしゃれなところもある。ほんといろいろです。
ここではネットができたので、この先の天気をチェックをすることに。
あちゃー。なんだこりゃ。週末まで雲と傘マークしかないがやな。って、週末まで後四日もあるし。
思えば、北海道に来て早一週間。ここまで一日中晴れた日が一度もないという。しかも、この先もパッとしないときたもんだ。うーむ。どうやら完全に天気の神様に見放されたよう。アーメン。

後半はやけにトンネルが多かった。その最たるものが、長さ三・五キロにも及ぶ雷電トンネル。その名前からして威圧感たっぷり。さらに入り口の上にはいかにも堅そうな岩山がドーンと鎮座している。入る前からわたしをビビらせてくれます。
案の定、中に入ってみると長かった。そこそこ車が通るので緊張感を持って走行。幸い、路肩は狭っ!というほどのものでもないのでよかったですけど。できればあまり通りたくないトンネルではありますね。
今日の目的地である岩内に着いたのが、午後三時半過ぎ。今まで一番早い切り上げだ。まあ、いっか。たまにはのんびりしましょ。
さて、岩内の道の駅に泊まろうと思ったら、それは町のど真ん中にあった。なんだか夜も賑やかそう。
やっぱ、やめておこうかなあ。
そう思ったのは、たくさん人が来て寝れないのではないかという不安からなのか。それとも、こんな情けない?自分の姿を人前に晒すのが嫌だからなのか。うーん、どちらかというと後者でしょうか。
北海道にいる間に一度は道の駅には泊まってみたい。でも、今日はパス。また今度ということで。
今晩の寝床はけっこうな坂を上って見つけたパークゴルフ場の東屋。ここなら人も来なさそうだし、お風呂にも近い。しかも見晴らしもグンバツ。
今夜は綺麗な夜景を見ながら眠りにつくことになりました。
2010年7月19日(月) けっこう走りました!(松前―せたな 166km)
虫刺されがひどかったせいか、いつもより早い三時半過ぎに目が覚める。
寝袋から出て、まずは朝の恒例行事、空の観察タイム。
うわっ。今にも雨が降り出しそうじゃん。空には重いグレーの雲が低く垂れ込めていたのである。しかも風も出ている。あーあ。
後から起き出してきたおじさん曰く、「風が吹いているのは雨が降る証拠」だそうです。やっぱり今日は雨ですか。でも、時間が経つと空も少し明るくなって霧が出てきた。おじさん曰く、「朝霧は晴れの兆候」だそうです。
あれ?さっきと言っていること違っていません?そんなおじさんを置いて、一足早く出発。
松前を過ぎると、前から高校生らしき集団が歩いてきた。生意気盛りの高校生、挨拶するかなあと思って見ていたら、「こんにちは!」と予想外の言葉が返ってきた。おお、ちょっとびっくり。こちらもお返しにとばかりに思いっきり左右に大きく手を振ってあげる。すると、「おお、なんかこの人やるな」というちょっと驚いた顔でこっちを見ていた。そうなんです、意外とやるんです、わたし。
松前からの道は、そこそこ広く、しかもさほど車も多くないので走りやすい。ただ、海岸沿いだけあって、アップダウンがある。空身なら走りがいのあるステキな道だが、荷物のある身としては体にこたえる。でもやはり下りは気持ちいい。
それにしても、北海道のカモメって人馴れしているんでしょうか。近づいてもいっこうに避ける気配がない。許容範囲、内地のと比べると一メートルは違うのではないだろうか。あまりに近すぎて逆にこっちがヒヤヒヤする。
今日も走っていると、路肩にカモメが止まっていた。そのうち飛び立つだろうと思って、近づいていくが、なかなか飛び立たない。うわ、轢いちゃうよ、と思ったその瞬間、地面を離れて翼を広げた。でも、飛んでいく先が、わたしの進路方向だったので、自然と追いかける形に。いやー、後ろからカモメが飛んでいる姿を拝めるなんてありえない光景。しかも自分の目線とカモメの飛行高度が同じなんですよ。これはちょっとテンション上がりますよ。
上ノ国町手前の景色がまたすごかった。左手には青い海。右手には堂々とした一本の綺麗な海岸線が実に気持ちよくカーブしている。これがまた内地では見られないような実に北海道らしい景色。
こんな素晴らしい景色を見ながらのダウンヒル。爽快。最高。その上、長い下りのわりにブレーキをかけるようなカーブが一つもないなので、どんどんスピードが上がっていく。三十、四十、五十、おっと、ついに六十キロ!最高速度は六十三・五キロまで達しました。多分これ、わたしの自転車人生の中での最高速度だと思います。でも、けっこう横風があったので煽られました。かなりビビりましたよ。
上ノ国の道の駅で休憩をとることに。
なにげなく寄っただけなのだが、これが大当たり。
いやなにがって、もう景色が素晴らしいのですよ。茫洋とした日本海を横目に大きくカーブしている海外線。もう言葉が出ないです。案の定、売店のおばさんに訊いたら、「道内の道の駅の中で一番景色がいいと言われているところ」とのこと。そうでしょ、そうでしょ。そりゃ、そうでしょう。
それにしても、こんなに素晴らしい景色なのにガイドブックにも載っていないのってどういうわけ?まったく解せない。もしかしたら穴場なのか? 近くに寄られた方、是非寄ってください。誰もが感動すること間違いなしです。

江差の町に入る。戊辰戦争で活躍した開陽丸を見に行く。・・・・・・うーん、とくにコメントは・・・・・・。
さて、今日はどこまで行こうか。ここからはとくに見るべきものはないので、ちょっと走りに専念したいと思います。しかも若干追い風だし。
午後二時半、たいせいの道の駅に到着。すでにここまで百二十キロ走ってきている。距離だけ見れば、今日はここで泊まりだが、周りにはお店も何も無く寂しい。それにまだ夕方にもなっていない。次の大きな町、せたなまでは峠はあるが、三十キロほど。時速十五キロで走ったとしても五時前には着く計算。
まっ、することないし、走りますか。
北海道特有のだらだらした長い坂を上り、峠を越え、午後四時五十分、せたなに到着。しかし、思ったよりお店が少なく、ちょっとがっかり。
とりあえず、ツーリングマップルに載っている温泉に向う。が、行ってびっくり。なんと今日は休みでした!わーお。月曜日は店休日だそうです。
いやー、まったく休みってことは頭になかった。だって今日は祝日でしょ。休むわけないと勝手に決めつけていたのです。
あーあ。ツイていない。でも、今日は風呂に入ると決めちゃったので、なんとしても入りたい。ちょうどすぐそばに駐在所があったので、相談にいくことにした。
「すいません、あそこって今日休みなんですか?祝日なのに休みなんてあり得ないですよね、普通、祝日は営業してその代わりに次の日が休みになりますよね」悔しくて同意を求めるように、中にいたお巡りさんに愚痴る。でも、お巡りさん、「あそこは観光客というより、町民向けだから」わたしにそう言われてもどうしようもないよ、といった顔でしごく冷静に言葉を返す。
あー、そうなんですか。あくまでも町の人のためなんですか。観光客向けというわけではないのですね。うーん、でもそうは言われても今日は入ると決めたのでどうしても入りたい。
「代わりに、民宿とかってお風呂利用させてくれませんかね?」お巡りさんににじり寄って訊く。お金を払えば民宿のお風呂を借りられると思ったのです。
「それじゃあ、ちょっと訊いてみようか」なんと近くの民宿に問い合わせてくれるとのこと。
え?マジで?いやー、それは助かるわ。で、電話してもらった結果、なんとOKが出ました!おー、やったね。
早速紹介された民宿に行ってお風呂に入らせてもらう。帰り際に、代金いくらですか?と訊くと、「いいわよ。お風呂に入っただけだから」そんなことくらいでいちいちお金なんて取らないわよ、民宿のおばさんはわたしに言った。
ええ!マジ?なんとタダにしてもらいました。いやー、ラッキー。ツイているわー。よし、今度からこの手を使おうか。というのは、調子に乗りすぎですか。
さて、今日の寝床はどこにしましょうか。地図を見ると民宿から少し離れたところに公園があったので、とりあえずそこへ行ってみることに。
しかし、これがど失敗。なんとそこは十パーセント以上の坂を上っていかないといけない場所にあったのである。しかもそれが約一キロも続く。最初は上ってやるぞ、と思い必死に自転車を漕いでいたが、百メートルくらいでさすがにこれは無理だと悟り、素直に降りて押すことに。押しているだけなのにハァハァ息が上がる。
頂上(という表現がいかに高いところにあるかを表している)に着くと、ほんと見晴らしがいい。下に立っている風力発電所の風車がなんだか幻想的な雰囲気を醸し出している。
しかし、見晴らしがいいということは逆に言うと遮るものがない。
ということは、雨が降るともろにそれを受けることになる。
しかも悪いことに「明日の朝は雨だよ」とさっき買い物したお店の人が言っていた。
うへっ。マジかい。まあ、いいや。ここは一つ勝負でしょ。雨とか言って多分外れるだろう、とか、降っても小雨だよ、とか自分に言い聞かせる。
早い話、別の寝床を探すのが面倒くさかっただけなんですけどね。
2010年7月18日(日) 今日は峠を越える気分じゃないのに (函館―松前 109km)
ネットのやりすぎで、あまり眠れなかった。うーん、三時間くらいか。ちょっと頭がボーっとしている。
それにしてもちゃんとした建物の中で寝たのに普段より眠れていないってどういうわけ?まあ、自業自得なんですけど。
朝、カウンターで料金を支払っていると、同じく横で会計を済ましている人がいた。見ると自転車用のライトを持っている。もしやツーリスト?と思い、話しかけてみることに。
やはりそうでした。彼は二十四歳の青年、なんと日本一周中だそうです。でも、北海道は函館だけで今日には本州に戻るそうです。話してみるとなかなかの好青年。しかもイケメン。もてるんだろうなあ、とどうでもいいことを考える。ちょっとサッカーの日本代表の遠藤に似ていました。
さて、昨日、やる気をなくしたと言っていましたが、あれからどうなったかというと・・・。
まあ、仮にここで止めてもいいのだが、でも、その場合でもどっちみち自宅には帰らなければならない。そう考えると、ここで止めても、一周してから止めてもたいして変わらないような気がする。北海道だったらどこから帰ってもそれほど違いはないように思えたのである。
それだったらこのまま走った方がいいかな、そう思い続けることにした。まあ、途中で止めたくなったら止めればいいわけだし。とりあえずは一周じゃなく札幌まで行ってみようか。その先はまたその時考えればいいや。とりあえずそういう結論に至りました。
まあ、やる気がなくなったのは、結局ちょっと急ぎすぎなんだよなあ。なんでもそうだけど、なんかこう、コトを早く終わらせようとする癖があるんですよね、わたし。なんか焦ってやっちゃうというか。それで疲れちゃった部分もあるのかも。まあ、今日は洗濯もあるし、ちょっとのんびり行こうかと思います。
というわけで、まずはコインランドリーへ。えーと、まともに使うのは何年ぶりだ?二十年ぶりくらいか。
来てみて驚いた。昔は縦型式の洗濯機だったのが、今はすべてドラム式になっていたのだ。
うーん、いつの間にか進化していたのですね。それにしてもお金かかるなあ。洗濯で五百円、乾燥で百円の計六百円。もっと安いかと思っていたのだが。
さて、今日はどこまで行こうか。とりあえずは木古内を目指し、後は成り行きということにしようかね。まあ、あんまり肩に力入れて嫌になったら元も子もないしね。
天気は晴れ。この旅にしては珍しく晴れている海岸線をひた走る。しばらくすると、函館山が見えてきた。横から見ると実に綺麗だということに気づく。坂があんなに急だったのも横から見れば納得。それまで続いていた平地が突然ぐぃーんとせり上がっているのである。
木古内へと続く海がとても綺麗だった。燦燦と陽光を浴びて、海面がキラキラ光っている。透明度も申し分ない。手を伸ばせばすぐ海底につきそう。やっぱり晴れはいい。目に映るすべてのものが輝いて見える。

知内のローソンで昼食休憩をとることに。さて、行こうかと思って腰を上げると鍵がないことに気がついた。
ええ!マジかよ。昨日買ったばかりなのにもう失くしちゃったのかよ。えーと、どこで失くしたのか。思い当たる節は・・・・・・あっ、そっか。わかった。さっき休憩した場所に忘れたんだ。うーん、でもどうしよう・・・。だってあそこまで五キロはあるんだもん。ということは行って帰ってくれば十キロ。しかも戻ってくる時はまた向かい風だし。しばし思案する。
まっ、いっか。また買えばいいや。一瞬そうも思ったが、あんまりそれを続けているとまたすぐに失くしてしまいそうなので結局、戻ることに。人間、やはり痛い目しないと気をつけないのです。きっかり往復十キロ、余計に走りましたよー。あー、しんどい。
さあ、これから福島へと抜ける道だー。でも、地図を見ると、福島峠の文字が。
ええっ!今日は峠を越える気分じゃないのに。ローソンでガリガリ君を買ったついでに店員のおばさんに訊いてみた。福島峠ってキツいですか?自転車で上るの大変ですかね?
「ええ。けっこうキツいと思いますよ。だって車で通るのも嫌だもん」本当に自転車で通るの?という顔をしている。
ガックシ。なんかもう走る気しないなぁ。昨日あんまり寝てないし。今日はもうここらへんで泊まろうか。真剣に寝場所やお風呂を探し始めた。でも、そのうち疑問が沸いてきた。まだ十二時だよな。こんな早いうちからとどまって、それからわたしは何をすればいいわけ?何も思いつかない。そんなことを考えていたら、なんだか余計に疲れてきた。それなら走るか、そう思い再び走ることにした。
でも、知内の道の駅へ着く頃にはまた走りたくない病が発症。時計を見ると午後一時。
はい、はい。走りますよー。
福島峠はおばさんが言うほどの坂ではなかった。無駄に長いが、かといっていわゆる激坂!というほど勾配はキツくない。が、反対側に出てみてわかった。こっちはけっこうな勾配なのである。これ、反対側からだったら絶対、上ってこれなかっただろうなあ。
途中、青函トンネル記念館、横綱記念館といった興味をそそられる場所もあったが、お金がかかると知って気が萎えた。こんなの無料でいいでしょ。それより松前城に行きたい。先を急ごう。

しばらく走っていると、おじさんサイクリストと出くわした。今日は、わたしと同じく松前で泊まるそうです。途中まで一緒に走っていたが、どうやらわたしの方が速いみたいで「先、行ってください」と言われる。そうですか。そんじゃ、先、行きますか。
午後四時半松前城に到着。肝心の松前城は・・・・・・うーん、大したことなかったです。なんか広い公園におもちゃの天守閣をそっと置いた、そんな感じなのである。正直、これで三百五十円は高い。
しかし、松前公園はなかなかよかった。ここって桜の名所なんですってね。実に手入れが行き届いている。いかにも金がかかってそうな感じである。
松前城でおじさんと落ち合い、その後お風呂に入るために一緒に地元の温泉旅館へ。宿泊場所は松前公園の上にある駐車場わきの広い東屋。二つあったので、それぞれを寝場所にすることに。寝床の準備が終わり、おじさんに、「そっちに行ってもいい?」と訊く。
ん?なんか変な表現になってないか?一応言っておきますが、そんな趣味はありませんので。ただ話をしようと思っただけですよ。わたしが眠かったこともあって、午後八時すぎには就寝。
2010年7月17日(土) 函館の夜景 is Very Beautiful! (森―函館 151km)
午前四時起床。空を見ると雨は降っていない。ホッと胸を撫で下ろす。朝、目が覚めて、まずすることといえば降雨の確認。もはや習慣になりつつある。というのも北海道に入ってから一度も天気が安定しないのである。そう、常にいつ雨が降ってもおかしくない状態なんですよ。
はーっ。ちょっとため息。
たしか北海道って梅雨ってなかったんだよね?晴れ渡る青い空。なんていうのをイメージして来たのに。いったいそんな光景どこへいったのやら。あまりのギャップに朝からちょっと落胆気味なわたしなのである。
突然、便意を催す。慌しく出発の準備をして近くの道の駅へと向かう。
いやね、泊まった東屋の近くにもトイレがあったんですが、なんと八時から十八時までの間しか使えないという。おい、そんなトイレ意味ないじゃん。寝る前に行ったら、しっかり鍵がかかってやがる。これは何かの嫌がらせか。
とにかく道の駅へと急ぐ。着くなりザックを放り投げ、一目散にトイレへ駆け込んだ。
ぶりぶりぶりっー。はーっ。なんとか間に合いました。一応、便の状態を確認。すると、どこにこんなものが収まっていたかと思うくらい大量な便が。あまりの多さに感動すら覚えてしまいました。
トレイを出、駐車場に行ってみると驚いた。たくさんの車が停まっていたのである。まるで昼間のような盛況ぶり。あちらこちらでたくさんの人が散歩している。
えーと、まだ朝の四時半ですよね。なんでこんな朝っぱらから人がいるのだ?車のナンバーを見てみると、大阪、徳島、庄内、なにわ、鳥取など、全国各地から来ているよう。
「夏は北海道へ大移動」そんなのがキャッチフレーズになっているのか。みなさん考えることは一緒なのですね
水飲み場で顔を洗っていると、犬を連れた七十代くらいのおじさんに「おはようございます」と挨拶された。せっかくなのでちょっとお話してみることに。なんでもこの方、福岡からだそうで、毎年、夏になると北海道に来ているそうです。それにしても今年は異常気象。福岡、夜中の十二時を回ってもまだ三十二、三度あるそうで暑くて死にそうだとこぼしておりました。
ちょっと気になったので訊いてみる。いつまでいるんですか?
「九月の八日までの予定です」おじさんは当然でしょ、と言わんばかりに答えた。
ええ!そんなに長く?いやー、驚いた。まさに絵に描いたような悠々自適ライフですね。
持っていたゴミを捨てようと思い、ゴミ箱を探す。しかし、ここでもゴミ箱は見当たらない。まったく。北海道はほんとゴミ箱が少ない。
仕方ないので、そこらへんに置いて立ち去る。としようとしたが、昨日のことがあったのでやめておいた。こう見えても案外、学習能力あるのです。
とりあえず函館に向けて自転車を漕ぎ出す。それにしても今日も曇っていて、あまり景色が見えない。かろうじて函館方面が見えるくらい。と思っていたら急展開。途中から、霧が大発生してきたのです。もう周りの景色どころか、百メートル先も見えない。内地じゃあ霧ってあんまり見ないので(まあ、場所にもよるでしょうけど)、これを霧と認識するまで少し時間がかかった。
まったく景色の女神に見放されっぱなしなわたし。あーあ、なんてツイてないんだろう、と思ったが、すぐに思い直す。考え方を変えれば、霧の中を走るっていうのも、ある意味北海道を味わっていると言えなくもない。これはこれでいいのかも。
午前八時過ぎ。この頃になるとようやく霧も晴れてきた。それにしても恵山の峠を越えるのはキツかった。いや、峠というほどのものではないんですけどね。勾配だって三パーセントくらいだし。でも、この時は、やけに体が重かった。自転車におもりをつけているのではないかと思うくらい前に進まない。タイヤが地面に接着剤でくっついているのではないかと思うくらい前に進まない。もうバテバテでした。
恵山に着くとまたもや霧が出てきた。でも、湯の川あたりまでくると再び霧も消え、空を見ると気持ちのいいくらい晴れ渡っていた。おお!はじめてじゃないか、北海道来てこんな青空見るのは!なんだかまるで函館の街がわたしを歓迎してくれているかのよう。嬉しいなー。

時は夕方。函館の夜景を見るため函館山の山頂へと向かう。いやー、それにしても楽しみ。
ところで、最初は自転車で山頂まで上っていこうと思っていた。理由は二つ。一つは自分の体力の限界を知るため。もう一つはロープウェイ代節約のため。まあ、どちらかといえば後者の方が強いんだけど。
でも、麓まできたら、これは絶対無理!ということがわかった。だってありえないでしょ、あの坂。自転車を押して歩くのだけでも辛いのに、あれを自転車に乗って上るなんて自殺行為もいいところ。というわけで、ここはいさぎよく諦めてロープウェイで上がることにした。
でも、ロープウェイ代って往復で千百六十円もするんだよなあ。果たしてそこまでの価値はあるのか?
ありました。それも十分すぎるくらいに。もう明るいうちの景色だけでお腹一杯。それくらい素晴らしいのです。湾曲した函館の街を中心に両側に日本海と太平洋でしょ。こんな景色、他ではあり得ません。もう、何回「すごい!」を言ったかわかりません。感動ものです。まるで幼稚園児のようにキャッキャッはしゃいでしまいました。
驚きはまだまだ続きます。ロープウェイを降りると、まだ夕方だというのに、たくさんの人がいたのです。人、人、人の波。みなさん、カメラ片手にいい写真を撮ろうと柵の最前列にへばりついております。
すごーい。なんなんでしょう、これ。そんなにしてまで写真を撮りたいのか。もはやこれは執念と言うべき。
一番上の展望台に上がっても状況は変わらず。いや、もっとすごい人の数。うーん、これではよく見えないかも、と思い、よいポジションを探していると、わたしとまったく同じガイドブック(「るるぶ北海道ドライブ」と「ツールングマップル」のセット)を手にした青年を発見。驚きのあまり気づいたら声をかけていました。これ、まったくわたしと同じですよ。
なんでもこの彼、金曜の夜に東京を出発し、青森の大間まで車を走らせ、そこからフェリーで先ほど函館に着いたそうです。これから三連休、北海道を周るそうです。
そう、世間は三連休なんですよね。ようやくここにきて、この混雑の原因が分かる。今日は三連休の初日だったんです。どおりで混むわけだ。
長旅に出ると曜日の感覚がまったくなくなる。というか、今日は何日かすらよくわからないという。それにしても、よりによってそんな日に当たってしまうとは。ツイてねー。
彼といろいろ話しているうちに、次第に日も暮れていった。ちなみに彼情報によると、日の入りは十九時七分。
暗くなるにつれ、一つまた一つ、街の明かりがつき、最後は明かりの大洪水となった。まるで星のようにきらきら輝いている。至福のひと時。想像していた以上の素晴らしさに嬉しくなる。来て見て大正解。
でもね、一つ言いたいことが。人多すぎ。
なんなんでしょうか、この人の多さ。もう幾重にも人の壁ができていて押し合いへし合いに。前の人が邪魔なので後ろのみなさん、ケータイやらデジカメやらを上に上げて必死にシャッターを切っています。そんなにしてまで、撮りたいんでしょうか。じゃあ、わたしも試しに。画面の半分以上が人の頭でした。
帰り際、驚いたのが中国人の多さだった。ロープウェイ乗り場に並んでいると前から話し声が聞こえてくる。当然日本語だと思い聞いていたら、出てくるのは中国語ばっかり。あっちからも、こっちからも中国語。おいおい、ここって日本だよな?そう思ってしまうくらい中国人が多かったのである。日本なのになんでこんなに中国人が多いわけ?なんかちょっと嫌な気分。

それしても今日は散財デーだった。自分でも計算するのがちょっと怖いくらい。まずはチューブ三本でしょ(初日のパンクでビビッてしまったのでいっぱい買ったのだ)。自転車用の鍵(多分、きのうおじさんのところで忘れてきたんだと思う)。あとはスポーツサンダル(履いていたナイキの水中用のシューズが蒸れて仕方ないので替えることに。ちなみにグッドイヤー製のサンダル。というのも珍しいけど。まあ、アシックスと提携して作ったみたいなので品質的には大丈夫かと。グレー&オレンジというあり得ない配色でしたが、セールで半額だったのでお買い上げ)。それに函館山のロープウェイ代とネットカフェ代。ということは、まさか驚異の一万円越え?
えーと、ネットカフェに泊まったのは、ちょっと野宿が嫌になってきたからなんですよ。というか、この旅自体がなんだか嫌になってきたという。おい!早過ぎるじゃないか!というツッコミも当然あるとは思いますが。
実はここだけの話、このまま一日中ネットをやって、もう一泊しようかと思ったくらいなんです。
だって、結局は同じことの繰り返しでしょ。毎日走って寝て起きてまた走って。
でも、それを言ったら、人生も同じなんだよなあ。ある意味、同じことの繰り返し。そういった中で人は楽しみを見出し、喜びを見つけて生きていく。
などといつになく真面目に語ってしまうわたし。よっぽど疲れているのかも。
2010年7月16日(金) おじさん、ふたたび (洞爺湖―森 138km)
起きて空を見る。昨日心配していた天気だが、見てみると曇ってはいるが雨は降っていない。ほっと胸を撫で下ろす。
ところで北海道は陽が上るのが早い。まだ四時前だというのに、もう空は明るくなっている。そういえば夜も七時を回ってもまだ陽が残っているし。夏の北海道は日が長いと聞いていたが、まさかここまでとは。意外とやるんですね、北海道。それにしても北海道でこれなんだから、ヨーロッパの白夜はもっとすごいんだろうなあ。そんなことを思う。こっちも是非一度体験してみたいもんです。
昨日はあまり寝つきがよくなかった。多分、虫が刺していたからだと思う。腕や足がやたらかゆいのである。一応、電気式の蚊取り線香(電池式でファンが回るヤツね)をつけていたのだが、これって効果があるのかしらん。でも、痒いところにつけると虫が寄ってこなくなるような気もするし。うーん、どうなんでしょうか。よーわからん。
出発の準備をしていると、湖の方からバシャバシャと音がしてきた。おや、なんだろう?と思い音のする方に行ってみる。
わーお!すごーい!白鳥じゃん!白鳥!しかも三羽も。そのうち一羽は他の二羽より一回り小さい。ってことは親白鳥と子白鳥なのか?
昨日は馬、そして今日は白鳥。わずか二日でこんなに動物が見れるとは。さすが動物天国北海道。
それにしても白鳥をこんなに間近に見るのは生まれて初めてのこと。ただ見ているだけなのだが、これが実に面白い。長い首を実に器用に使って、くちばしで体のあちこちをこすったり、羽づくろいをしたりしている。見ていてまったく飽きることがない。
そのまましばらく白鳥を眺めていると、犬を連れたおばさんがやってきた。するとすぐに水際に近寄り、慣れた手つきで白鳥にエサをやり始めた。それはまるで近所の野良猫にエサをやるかのよう。ここの人にとって白鳥は猫と同じ扱いなのだろうか。一方、白鳥の方も人慣れしているせいか、まったくおばさんを恐れる気配がない。むしろ、親白鳥なんか子白鳥を守るため岸辺に近寄り、犬を威嚇する始末。それにビビったのか、ワンちゃん、すぐさまおばさんの後ろに逃げ込む。がんばれ!ワンちゃん!と声をかけるが、実はそのワンちゃんの後ろにいるのがわたし。そう、実はわたしが一番ビビッているんですね。情けなー。
しばしおばさんと話す。おばさん曰く、白鳥の体が汚れているのはおそらくジェットスキーから出る油が原因だろうとのこと。なんでも夏の週末、この辺りはたくさんのジェットスキーで溢れかえるそう。へー、そうなんですね。それは知りませんでした。
ところでどうなんでしょう。観光的にはたくさんお客を呼びたいとこなんだろうけど、でも、そのせいで白鳥の体が汚れているとしたらダメだと思うのですが。いっそうのことジェッスキーなんか禁止しちゃえばいいのに。なんて言えるのも、きっとわたしが通りすがりの旅人だからなんでしょうね。だって、たくさんジェットスキーをやる人がいるっていうことは、それだけたくさんのお金を地元に落としていくということでもあるのだし。観光業と自然保護。両立が難しいのはどこも一緒だ。
もう少しおばさんと話をしていたかったが、先を急ぎたいので話を切り上げ東屋に戻る。再び出発の準備にとりかかる。三十分後、準備完了。よし、出発。と、その前に一応タイヤの空気チェック。もし、十分に空気が入っていなかったら入れようと思ったのです。また昨日みたいパンクしたら嫌だしね。早速、指で押して確認。ん?おかしい。なんかやけに指が沈んでいくんですけど。気のせいか・・・・・・、っておい、またパンクしているやないかい!
ウッソー!マジ?なんで?ぐわーん。ぐわーん。とたんに頭がクラクラしてきた。
でも、なんで?おかしい、おかしいよ。だってあそこでパンク修理してから百キロ以上走ってきたんだよ。パンクしてればそんなに走れるわけないでしょ。こりゃきっと何かの間違いだ。そう思い、もう一度指で押してみる。今度はゆっくりと。
ダメでした。思いっきり抜けていました。そう、紛れもないパンクです。
えー!なんで?なんでなの?解せません。いやー、まったく解せません。
だってあそこでパンク修理してから百キロ以上走ってきたんだよ。パンクしてればそんなに走れるわけないでしょ。こりゃきっと何かの間違いだ…・・・って同じセリフいっているやないかい。どうやら頭が混乱しちゃっているみたいです。
あーあ、なんてこったい。でも、なんでなんだろう?まったくわからん。
まあ、でも空気が抜けているっていうことはパンクしているっていうことだし・・・。ということは夜のうちに抜けたっていうこと?でも、仮にそうだとしてもあんだけの距離を走ってこれるもんかね。うーん、まったくわからん。
しかし、ただ一つわかっていることがある。それはこの状況をなんとかしないと走れないということである。
うむ、そうなんだよなあ。原因を探るより、今この現実をなんとかしないといけないのである。
うーん、さてどうしよう。といっても直すしかないのですか。いや、待てよ。またパンクしているっていうことは昨日のパンク修理がちゃんとできていなかったってことでしょ。あー、無理。あれで直っていないとしたらわたしにはもうお手上げ。あれが精一杯。まったくもって直す自信ありません。
しゃーない、奥の手を出すか。実はわたし予備のチューブを持ってきているのです。その数、三本。そう、いつもやっているようにチューブごと交換しちゃおうという作戦なのです。
じゃあ、最初からそれをやっておけばよかったじゃん。なんて言わないで。ちょっとは頑張ったんだからさ。あはは。
というわけで、早速交換。せっかく積んだ荷物を降ろし、自転車をひっくり返してタイヤを外す。タイヤからチューブを引っ張り出し、新しいチューブと交換。よし、これで走れるぞ。
しかし、今回はこれでいいとしても問題はこの先。パンクするごとにチューブを換えるんだったら三本ではものすごく不安。とりあえず札幌あたりでチューブをごっそり買うことにしましょう。それにしてもパンク修理一つできないとは、なんて貧弱なサイクリストなんでしょう。われながら情けない。

時刻は午前六時半。五時には出発予定だったので、少し慌て気味に自転車にまたがる。
ところで、昨日走った洞爺湖一周線からは湖がよく見ることができなかった。畔に立っている木々が邪魔していたのである。というわけで、今日は朝一で洞爺湖の上を走っている国道二百三十号線まで上がり、そこから湖を見たいと思います。
が、いきなり三キロほど続く上り坂で早くも嫌になる。まだ体が目覚めていない中でこの上りはキツイ。七時前だというのにすでに背中は汗びっしょり。
さらに上がりきったところでまたショック。せっかく上ってきたというのに辺りは一面の霧だったのだ。当然湖は見えず。って、おい。この苦労はどうしてくれるのだ。
落ち込んでも仕方ないのでとりあえず走る。途中、洞爺湖から有珠山まで見渡せるというサイロ展望台にも寄ってみたが、霧のすき間からうっすらと湖に浮かぶ島が見えるだけ。くーっ。まったくツイてない。昨日の地球岬といい、この洞爺湖といい、今回の旅は景色の女神から見放されてしまったのか。
サイロ展望台を過ぎしばらく走ると、突如、気持ちのいいダウンヒルが始まった。自転車が路面に突き刺さるように下っていく。恐怖心がないこともないが、このスリルが堪らない。さっきまでの沈んだ気持ちもこれで一気に吹き飛んだ。長いトンネルを二つ抜けると、いよいよ今日一番の大仕事が待っている。長万部へと抜ける峠越えだ。
ちなみに長万部までの距離は四十キロほど。距離的には大したことはないが、問題なのは、その峠のきつさ。一応、地元の峠を走ってそれなりに自信をつけているが、なにせ初めてのところ。こればかりは走ってみなければわからない。地図で見ると、記載されている峠は礼文峠と静狩峠の二つだが、見るとトンネルが九つもある。ということは、それくらいの峠は覚悟していた方がいいだろう。
上り始めると予想していた通りの手応え、歯応え。なかなか一筋縄ではいかない。
一方、下りはいつものように気持ちよかった。しかし、何回も上り下りが続くと、だんだんそれもそう感じなくなってきた。「どうせ、次は上りなんだろう?」先が見えて逆に憂鬱なのだ。
上っては下り、下っては上り。永遠に続くとか思われるほどの繰り返し。「峠はいくつあるのだろう」最初はそう思い数えて走っていたが、あまりの多さとキツさに途中で数えるのをあきらめた。
最後の峠である静狩峠を越えると世界が一変した。眼下には洋々と青い海と緑の草地、それがどこまでも広がっていたのだ。その眺望は筆舌にしがたい。喜び勇んで下っていく。またそのスピード感と景色との素晴らしさとが相まってさらにわたしのアドレナリンの分泌を促していく。
ところでこの区間ではけっこうなサイクリストとすれ違った。中には自転車を押して上っていく人も。わたしは絶対に足をつきたくなかったので頑張って上る。というか半分意地。
長万部までは後十キロ。しかし、これがほんと嫌になるくらいの直線道路だった。走っても走ってもまったく進んでいる気がしないのである。しかも向かい風。あーあ、ツイてない。
長万部の町まであともう少しのところ、道の反対側に一人の自転車ツーリストが停まっているのが目に入った。あれ?この人?どこかで見たような・・・・・・しばし、じーっと目を凝らす。おお、昨日牧場の前で会ったあのおじさんではないか!いやー、びっくり。まさかまたお会いするとは。こんな偶然ってあるんですね。
驚きつつ、車の往来が途切れたところで反対側に渡る。早速声をかけてみる。ねぇねぇ、おじさん、どうしたの?
「いやー、パンクしちゃって」
うわ。マジで?というか、これまた偶然。実はわたしも昨日パンクしたのですよ。ほら、おじさんがわたしを追い抜いていったじゃないですか。ちょうどあの時、パンク修理をしていたのですよ。
しかし、そんなわたしの話もどこか上の空。訊くとおじさん、こんなに荷物を積んでのパンク修理は初めてのこと。やや緊張の面持ち。ちょっと動揺の色もちらほら。
おじさんはバックから替えのチューブを取り出し、空気を入れている。しかし、入れていくそばからその空気が抜けていく。
「もしかしたらパンク修理し終わっていないチューブを持ってきたかも・・・」不安げな顔でおじさんは言う。
修理し終わってないチューブって・・・・・・おい、大丈夫かいな。
「気にしないで先に行ってください」おじさんはわたしに気を遣ってくる。
いやいや、そんなことはできません。困っているおじさんを置いては先には行けません。なんていうのは半分ウソ。とりあえず誰でもいいから話をしたかったんです。やっぱり一人旅は寂しいのですよ。
結局、おじさんは持参したチューブを交換することをあきらめ、パンクしたチューブを修理することにした模様。横でそれを見ることに。パンクした箇所をパッチで塞ぐ。空気を入れる。しかし、なぜか抜けていく。どうやら他にも穴が開いている箇所があるよう。ありゃまー。大丈夫か?なんとかそれを直し、ふたたび空気を入れる。シュ、シュ、シュ、シュ。おじさん、力を入れる。顔は真っ赤。まさにゆでだこ。しかし、そんな頑張りに反して思いのほか空気は入っていかない。おじさん、思わず肩で息。ここでバトンタッチ。わたしが代わりに入れることに。ええ?なにこれ?いやー、入れにくいったらありゃしない。こりゃ、どおりで疲れるわけだ。
おじさんの空気入れ、先端にアダプターがついているのだが、それをバルブにつける際に手を押さえないととれてしまう。ということは、必然的に片手一本でポンプを押すことになってしまう。しかも、もう一つの手はアダプターとバルブをしっかり固定していないといけない。なんで今時こんな面倒くさいのを使っているんだ?なかなか入らないので、イライラしてきたわたしは、自分の空気入れを使うことに。シュッシュッシュッ。ほーら、簡単に入った。それを見ていたおじさん、呆気にとられる。しばらく経ってから、わたしの使っている空気入れの名前を聞いてきた。えーと、これは多くのサイクリストから支持されているトピークのロードモーフというものですよ。フロアポンプのように両手を使うことができるので入れやすいのですよ。ちょっと自慢気に言っておきました。
これで大丈夫。とりあえず入った感じではある。まだ穴が空いてなければね。
なんか微妙なんだよなー。「走り出したら空気が抜けました」なんて可能性もなきにしもあらず。
ここで知り合ったのも何かの縁。ということで、念のため、わたしの替えのチューブを差し上げました(もちろん新品)。
おじさん、えらく感激して、お礼?に自分のブログに載せると言って、わたしの写真を一枚撮っていきました。恥ずかしながらピースサインです。
結局、ここで一時間半も過ごしてしまった。さすがにこれ以上は休んでいられないので、先を急ぐことに。
ところで道すがら思うことが。うーん、どうなんでしょうね。自戒を込めて言いますが、おじさん、もっと装備の点検をしっかりやってから出てくるべきだったのでは。だって、替えのチューブに穴が空いていたとか、空気入れがうまく入れられないとか。そんな状態で遠出するなんてあり得ないでしょ。というか、わたしだったら怖くて来れないですよ。
結局、しっかりやっていないと、他人のお世話になってしまうじゃないですか。もちろん、どんだけ注意していても他人のお世話になることもあるけど、最低限のことはやっておこうよ、そういう話です。とはいえ、わたしだって不備な部分は多々あると思うので、えらそうなことは言えないですけどね。まあ、なんというか、いい勉強になったというか。

面白味のない道が延々と続く。途中、八雲のスーパーで買出し。飲み終わったペットボトルを捨てようと思ったら、ゴミ箱が見当たらなかった。
まっ、いっか。誰も見ていないし。それにここで買い物をしたんだ。これくらいはいいだろう。駐輪所の目立たない場所にそっとペットボトル置いて立ち去ることにした。
しかし、すぐに天罰が下る。走り出してすぐに荷物を縛っていたゴムひもが切れたのだ。あーあ、なんてこった。悪いことってできないもんですね。
百キロ過ぎた辺りから今日の寝床を探しながら走る。が、お風呂の近くに寝場所に使えるような公園ってないもん。結局、今日もお風呂をあきらめ、森の道の駅近くの親水公園の東屋に泊まることにした。しかしここ、どこをどう見ても泊まってはいけない場所。明らかに遊歩道を歩く人のための休憩所といった風情なんです。現に、寝ようとしているわたしのすぐ側をウォーキングしている親子が歩いているし。えーい、しらばっくれておけ。というか、ゴメンナサイ。一泊だけなので許してやってください。
昨日はわりと時間を持て余した感があったので、今日は遅目の出発でも大丈夫かなと思ったが、結局、おじさんパンク事件があったので後半は急ぎがちになった。というわけで、明日はまた早く出ようと思います。明日はいよいよ、函館。明日こそはちゃんとお風呂に入ろうと思います。まったくもって自信はありませんが。
2010年7月15日(木) 突然、後ろのタイヤがボコン、ボコンと音を立てて始めた (苫小牧―洞爺湖 144km)
朝、目を覚ましてまずしたことといえば降雨の確認だった。地面を見る。やはり濡れている。どうやら夜のうちに雨が降ったらしい。東屋を出て、上を見る。どんよりとした曇り空だったが幸いにも雨は降っていない。明け方には上がったようだ。
まだ起き抜けのせいか、頭がボーっとしている。出発の準備をしていればそのうち意識もはっきりしてくるだろう、そう思い荷物を片付け始める。三十分ほどしてスタート。時刻は午前四時四十分。
昨日、船の中で一日ゆっくりしたせいか、思っていたほど体は重くない。それよりも今一番の懸念事項は左足である。実はわたし、自宅から最寄りの港まで走ったのだが、どうもその時に左足の踵からふくらはぎにかけての筋を痛めてしまったらしいのだ。幾分、痛みが和らいだ気もするが、まだ普通に漕ぐと痛みが走る。さすがに百七十キロも走るのは無理があったか。いきなりリタイア?なんてシャレにならんぞ。
苫小牧の街をひた走る。それにしてもすこぶる気持ちがいい。
え?なんでかって?
まずはなんていったって道が広いのである。というか路肩が異常に広い。「おれは高速道路を走っているのか?」最初見た時は目を疑った。路肩だけでも車一台通れそうなのである。そのため内地では車を気にして縮こまっている自転車もここでは一変、「えっへん」威張って走れる。
それともう一つ。
定規を当てて引いたんじゃないかと思うくらい道がまっすぐなのである。小さいアップダウンはあるのだが、カーブがまったくない。前を見てもずーっとまっすぐ。どんだけ走ってもずーっとまっすぐ。「こんなにまっすぐでよく飽きないなあ」そう思うくらいずーっとまっすぐなのである。こんなところまず内地じゃお目にかかれない。走っていると実に爽快。ビューンとどこまでも走っていけそう。そのせいか自然とペダルを回す足も早くなる。
そんな気分のいいまま走っていると、突然、茶色い物体がわたしの目に飛び込んできた。
なんだ、これ?ん?もしや馬?おお、そうだよ、馬だよ!馬!道の脇には緑々とした草地が広がっており、そこでは三頭の馬が草を食んでいたのである。一気にわたしのテンション、急上昇。しかも草地の向こうには洋々と広がる海、すぐ横ではビュンビュン通るたくさんの車。
わーお。なに、これ。馬、海、車。こんなの一度に視界に収めたことがない。現実味のなさにしばし頭が混乱。
ありえない。まったくありえない。こんな光景見たことない。あまりの非日常感にさっきからテンション上がりまくりのわたし。うおーっ。これぞわたしが求めていた北海道だ!これぞわたしが見たかった北海道だ!
すいません、ちょっと興奮してしまいました。
そのまま馬を眺めながら走る。すると路肩に一台の自転車ツーリストが止まっているのが見えた。
おっ、第一ツーリスト発見。
通り過ぎる際、挨拶を交わす。見るとおじさん、というよりおじいちゃんツーリスト。もしや定年終えた自転車旅行ですかね。それにしてもこんな年でもがんばっているのですね。ちょっと尊敬します。

そこからまたしばらく走る。少し休憩しようと自転車を左に寄せた瞬間、突然、後ろのタイヤがボコン、ボコンと音を立てて始めた。
嫌な予感。一瞬にして背筋が寒くなる。心が凍る。すぐに路肩に自転車を停める。予感が当たっていませんようにと後ろタイヤを確認。
残念。予感的中。パンクでした。
うわっ、マジかよー。いきなりパンクかよー。なんだよー。さっきまで上がっていたテンションも一気に急降下。まあ、でも、起きてしまったものは仕方ないよね。ここは慌てず騒がず冷静に。
心を落ち着かせ、すぐに周りを見渡す。すると砂利敷きの広い場所が目に入った。よし、そこに行って修理することにしよう。
早速、移動。背負っていたザックを地面に降ろす。さあ、作業開始だ。まずは積んでいる荷物を降ろそう。
ところが、これがなかなか面倒くさかった。最初にハンドルに取り付けているフロントバックを外す。が、外し慣れていないせいか、それともアタッチメントの取り付け具合が悪いのか、すぐには外れてくれない。くー、なんだよー。上下左右無理矢理ひっぱりまわしなんとか外す。これだけで汗だく。はーっ、しんどい。
次にキャリアの荷物を留めていたゴムひもを外す。しかしこれが何重にも巻いていたため、外すだけで時間がかかる。はーっ、メンドクサイ。
荷物を降ろし、続いてブレーキワイヤーを外しにかかる。と思ったのだが、これがなかなか外れない。五分ほど格闘するが、ダメ。仕方ないのでワイヤーを留めてあるナットを緩めて外すという荒業にでてみた。これでようやくクリア。今度は自転車を逆立ちさせ、クイックレバーを回しタイヤを外す。ここまでですでに十五分経過。
もうやめてー。早くも嫌になった。しかしそうもいかない。直さなきゃ走れないのです。しゃーない。頑張りますか。気を取り直し、タイヤを手にし、パンクした箇所を調べにかかる。タイヤをグルグル回す。しかし穴は見つからない。
うー、なんだよー。もー、どこだよー。いったいどこがパンクしたんだよー。
冷静になり、今度はゆっくり回し丁寧に見ていく。空気の抜け具合からしてさほど大きなパンクではなかったようなのだが・・・・・・あー、あった、あった。これか。それにしてもなんともまあ、小さい針金が刺さっていたものだ。
次にタイヤからチューブを取り出し、開いた穴を探すことに。しかし、どこをどう見ても穴が見つからない。と思ったが、よーく目を凝らしてみるとわずからながらだが、小さな傷があった。すぐにチューブを押して空気の抜けをみる。しかしこれまた、空気の抜ける感じがまったくしない。うん?穴は本当にこれか?疑念が頭をよぎるが、他にそれらしき穴は見当らない。まあ、いいや。これ以上探すのも面倒くさいし。とりあえずこれということにしておこう(いいのか?そんなテキトーで)。
ところでこの期に及んで言うのもあれなのだが、実はわたし、ここ十年パンク修理をしたことがないのである。もっぱら最近はパンクしても直さずに新しいチューブに換えるだけだったのである。
おいおい、そんなんで北海道に来たのかよ。大丈夫かよ?いやー、でもパンクなんてめったにしないからね。いくら北海道とはいえ、同じ日本。そんなに簡単にパンクしないだろう。そう思っていたら、いきなり初日からパンクですか。もー、マジかよ。いったいこれから何回パンクするのやら。一気に不安が広がった。
で、肝心のパンク修理である。半年前、自転車屋でパンク修理をしてもらったことがあった。幸いなことにその時にパンク修理の仕方を教わっていた。というわけで、それを必死に頭の中に思い起こしてみる。しかしかなり時間が経っていたせいか、その光景はかなりおぼろげ。
えーと、あんな感じで、こんな感じで。いや、そうか?そうだったっけ?うーん、かなり危うい。
たしか最初は穴の開いた箇所を紙やすりでこすって、平らにするんだよなあ。というわけで早速こすってみる。が、全然削れない。おい、マジかよ。もしかしてペーパーの粗さが合っていないのかもしれない。とはいえ、あくまでもこれはわたしの推測。これ以上考えても答えが出ないのでとりあえず削れたことにする(またもやテキトー)。
次はっと。えーと、たしか接着剤を塗るんだったよな。容器から接着剤を押し出し、穴の箇所にポトリと落とす。指でそれを広げ、こする。よし、塗った。塗ったぞ。で、たしかこの上から穴をふさぐパッチを貼るんだよな。早速貼り、パッチの上から指で押し接着を強化。しかし、なぜかうまくくっつかない。え?なんで?
よく見てみるとパッチよりも塗った接着剤の範囲が狭く、パッチがチューブにくっついていないのである。なるほど、そういうことか。接着剤が足りていないのですね。すぐさまパッチの裏にねじ込むように今度はたっぷりと接着剤を塗る。再度パッチを指で押す。おお、貼れたじゃん。やればできるじゃん。ちょっと嬉しくなる。うーん、でもちょっと端がはがれているのは気のせいか。ま、いっか。そこは見なかったことにして、いよいよ最終段階。携帯ポンプを取り出し、空気を入れる。シュッ、シュッ。力を入れて三十回ほど押す。さっきまでしぼんでいたタイヤが一気に膨らむ。両親指で押して確認。よし、ビクともしない。抜けている感じはしない。これで大丈夫じゃないかい。というわけで、はい、パンク修理終了。ちなみにきっかり一時間かかりました。
隣にあったガソリンスタンドで手を洗わせてもらい、いざ出発。と思ったら、一人の自転車ツーリストが通り過ぎっていくのが目に入った。あっ、さっきのおじさんだ。こっちがパンク修理している間にいつのまにか追いつかれてしまったのだ。
悔しいー。いや、だってあのおじさんよりもわたしの方が若いんですよ。そんなのに(失礼)負けたらなんかカッコ悪いじゃないですか。というわけで急いで後を追いかけることに。おのれー、負けてたまるかー。
しばらく走ると先ほどと同じくおじさんが止まっていた。え?もう終わり?もしかしてわたしに恐れをなしたか。なわけないと思いますが。
ちょっと興味を持ったので話しかけてみることに。なんでもこのおじさん、ただ今求職中、せっかく時間があるということで、北海道に来たそうです。これからわたしと同じく函館方面に向かって走り、函館から船に乗って本州へ渡り、そのまま千葉の自宅へと走るというなんとも奇妙キテレツなルート(あくまでも個人的な感想)を行くそうです。
それにしても見かけからしてすっかり定年後の道楽かと思っていましたが、意外とまだ若かった。どうやらわたしの勘違いだったようですね。すいません、ご無礼いたしました。
その後、しばし談笑し別れる。当然わたしの方が先へ行く。ここだけは譲れません。

さて、これからは室蘭を目指します。室蘭は苫小牧から七十キロほどに行ったところにある工業都市。その先端には地球岬という岬があるのだが、そこから見える景色がとてもいいらしいのです。なんでも晴れた日には下北半島が見えるそうです。
へー、そうなんですか。それは楽しみ。いやー、胸躍るなあ、ワクワクするなあ。温泉で有名な登別を横目に通り過ぎ室蘭に入る。ここまでは順調。道も平坦で走りやすい。
よし、後もう少しだ、と思ったところで突如、壁のような坂が現れた。勾配およそ十パーセントはあろうかという急坂である。
おいおい、マジかよ。残りわずかってとこでなにしてくれるのよ。
しかし、これを乗り越えないと地球岬には行けない。素晴らしい景色は見えない。なので頑張る。とにかく漕ぐ。脚に力を入れて漕ぐ。が、ダメ。途中から太腿が硬化して筋肉痛が。
イテー、イテーよ。自転車を降りて押して上る。一瞬、そんな考えが頭をよぎる。でも、いきなり初日から降りていたら一周なんてできそうにもない。なので、ここでも頑張る。途中太腿が悲鳴を上げる。仕方ないので腰を浮かし、立ち漕ぎに変える。ペダルを踏むごとにガタン、ガタン音がする。痛みが走る。太腿に乳酸が溜まっていく感覚がある。それを感じながらも上る。頑張る。くーっ、もうダメ。と思った瞬間、頂上が見えた。おりゃー。後もう少しだ。声を出し、火事場のクソ力を発揮。一踏みごとに脚がつりそうになるが、なんとか上りきった。ハアハア。よし、頑張って上ってきたぞ。死ぬ思いして上ってきたぞ。さあ、素晴らしい景色を見せてくれ。というか見せてくれるんだろうな。自転車を降り、期待に胸膨らませて地球岬の看板が立っている場所まで行ってみた。
何も見えませんでした。びっくりするくらい何も見えませんでした。雲がかかっていて全然見えないのです。
おいおい、なんだよ。いきなりこれかよ。最初に行った観光スポットが見れないなんて。なんだよー。せっかく頑張って上ってきたのにー。あーあ、ガッカリ。仕方ないのでガイドブックの写真を見てガマンすることにした。
しかしそんな頑張りを神様はちゃんと見ていてくれた。ふと横を見ると、断崖絶壁があったのです。覗き込むとこれが実によい眺め。おお、まさかこんなところで絶景が見られるとは。いやはやツイている。いや、景色が見れなかったからって負け惜しみで言っているんじゃないですよ。
ところでここで余談。地球岬というたいそうな名前が付いていますが、実はそのつけ方ってけっこういい加減なんです。元々は「ホロ・チキップ(アイヌ語で「親である断崖」)」と呼ばれていて、そのチキップがチキュウ、そしてチキュウが地球になったんですって。つまりこれって当て字なんです。ね、けっこういい加減でしょ。いや、景色が見れなかったからってケチつけてるんじゃないですよ。
休憩がてら地図を眺めていると、ここから意外と洞爺湖が近いにことに気がついた。たしか昔、社員旅行で行った記憶がするが、よくは覚えていない。まったく予定にはなかったが、せっかくだから行ってみようか。
今回の北海道一周はできるだけ海岸沿いを時計回りに走ろうと思っている。ちなみに洞爺湖は山の中にあり、今回の主旨からは外れているのだが、地図をよく見てみると海岸から十キロほどしか離れていない。それなら遠くないし、せっかく近くを通るのだから行ってみようと思ったのだ。ちなみに時計回りを選んだのは、二つ理由がある。まず一つ目は時計回りだと道路の左、つまり海側を走るため海を近くに見て走ることができるから。もう一つは、道東(根室や釧路など)は夏でもストーブを焚く日があるというなんとも信じがたい話を聞いたからである。苫小牧から道東へは反時計回りで行けば一週間くらいで着いてしまう。しかし、今からだとまだ七月下旬になったばっかり。でも時計回りで行けば八月上旬から中旬に着く予定。同じ夏でも一般的には八月の方が暑い。だったらその頃に行った方が寒い思いをしなくて済むと思ったからだ。

室蘭の街を抜ける。が、これがすんなりとはいかなかった。幹線道路が何本も走っており、その上案内標識がなかなか見当たらず、どれを行っていいのかわからないのです。「はて、こっちか」と思い走っていくとまったく見当違いなところに出たり、「じゃあ、こっちか」と思って行ってみると、そこは自動車専用道路道だったり。さすがに苫小牧へ向かって走っていると気づいた時には慌てましたよ。
午後一時半、なんとか伊達に到着。サイコンを見ると走行距離はすでに百キロを越えていた。今回はとりあえず一日百キロを目安に走ろうかと思っている。もっと走ろうと思えば走れるけどね。でも、がんばりすぎてへばっても意味ないし。というわけで近くにあった道の駅で休憩してから洞爺湖に向かうことに。
国道三十七号線を離れ、道道四百五十三号線を行く。途中出会ったサイクリストさんは五パーセントくらいの上りだと言っていたが、全くそんなことはなくアップダウンが数箇所あるだけ。ん?なんで?もしや騙されたか。
午後三時半、洞爺湖に到着。さすがに寝るのにはまだ早いので、とりあえず湖の周りを走りながら野宿できそうなところを探す。それほどきつくはないが、いくつものアップダウンが続く。
十五キロほど走ると、広々とした東屋とトイレのついた公園が見えてきた。「夕日が見える公園」。人もあまり来なさそうだし、今日の宿はここにしようと思います。
お金の節約もあって、今日もお風呂には入らずじまい。濡れたタオルで体を拭いて終わり。それにしても明日の空模様が心配。ここらしばらくは天気が安定しないそうなのです。でも、ラジオではなぜか天気予報はやらず。明日の天気はどうなんだろう。うーん、ちょっと不安。
東屋のベンチの上に寝袋を広げてもぐりこむ。湖からは波の音がしてきて、とても気持ちよく眠りにつくことができた。
2010年7月14日(水) 北海道上陸 (苫小牧東港―苫小牧 18km)
苫小牧の港が見えてきた。空は曇り。残念ながら青空は見えていない。
「おい、大丈夫かー。港の周辺は何にもないぞ。こわいぞー」
フェリーの中で仲良くなったおじさんに冷やかされる。
うーん、たしかにちと怖い。
わたしはこれから北海道を自転車で一周しようと思っている。果たしてできるのか。まー、だめなら仕方ない、それまでのこと。
フェリー内の駐車場に降り、自転車にまたがる。たくさんの車やバイク、自転車が次々と吐き出されていく。遅れ気味なわたし、早くも焦る。大丈夫かいな、おれ。不安やなー。
とりあえず走り出す。記念すべき北海道での第一歩。
続々とフェリーから降りてきた車が軽快に走っていく。どんどん抜かれていくわたし。自転車の頼りなさを実感せざる負えない。まるで今のわたしの心境を表しているようだ。
道の両側は木に覆われている。たしかに何もない。富士の樹海に来たようだ。
果たして次ここに戻ってくるとき、わたしは何を思っているのか。楽しみでもあり不安でもある。
というか、その前に無事戻ってこられるのかという話もあるのだが。
緊張と不安のため自然とスピードが上がる。早くここから抜け出したいのだ。
十五キロくらい走っただろうか、ようやく建物やお店が見えてきた。ほっと胸を撫で下ろす。どうやらあそこで野垂れ死にしなくて済んだようだ。
道の左側にお弁当屋さんが見えてきた。その瞬間、今日はここでいいや、そう思った。すでに時刻は午後六時半。まだまだ先は長いことだし。今日はゆっくり寝て明日に備えよう。
ドラッグストアでこのへんに公園がないか訊く。するとすぐ裏にあるとのこと。
おお、ツイている。行ってみるとそこは小さな児童公園。その周りは一戸建てやアパートが並んでいる。正直微妙な感じもするが、夕暮れも近い、これから先探してもっといい寝床が見つかる保障はどこにもない。とりあえず北海道の第一夜はここに決定。先ほど見たお弁当屋でのり弁を購入。これを今日の夕食としよう。
古い東屋が今日の寝床。ラジオをBGMにして眠りにつく。心配なのは明日の天気。雨が降らなきゃいいけど。




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